ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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 王子はアレだね。
 追加キャラで主要キャラの相手役な上にチート染みた強さとか、メアリースー待ったなしのキャラ過ぎて、見ててハラハラするわ。
 六話は可愛い部分だけを上手く見せられてたけど、七話は割りとキツかったねー。
 八話は……まぁ、過去編だろうし、平気か。
 何時もどおりなら九話辺りから最終三部が始まる筈だけど、竜の巫女は無事に再登場するんですかねぇ……?


4-6

 

「赤ちゃん、赤ちゃんか~」

「さっきからそればっかりだねキミ」

「だって赤ちゃんだよ?」

 

 森からの帰路の途上。セルクルの引いた騎車の中にいたっても、ナナミの驚きは収まらなかった。

 シガレットとレオンミシェリの間に子供が出来た。

 文面にすれば一行で住む単純な事実。

 しかし、親しいものが初めて聞くとなれば、驚きも大きいと言うものだろう。

 ましてや、ナナミは現代地球の女子高校生に過ぎない。

 彼女ぐらいの年齢で、同年代の友人に子供が出来たと聞けば―――その驚きと戸惑いは、想像に難くない。

 

「レオ様が十~~~~~うわぁ、うっわぁ~~~~~。シガレットって、いくつだったっけ?」

「江戸時代なら元服を迎えて成人扱いされる年齢だね」

「今なら義務教育の真っ最中じゃんそれ!」

「いや、俺は早生まれだから」

 義務教育は終わってるよと、シガレットは肩をすくめる。 

「高校生でも出来ちゃったってやつなんじゃぁ……」

「いや、プロポーズは妊娠と関係無く普通にしたから」

「プロポっ!? ……って、そうだよね、結婚したんだし。ぅぅ、フロニャルドは進んでるなぁ」

「いや、どっちかと言うと文明的に進んでないから結婚とかが早いんだと思うけど」

 顔を真っ赤にしているナナミに、シガレットは苦笑するしかない。

「兎も角、レオンミシェリに関してはそんな訳なんでね。危ないところに首を突っ込んで欲しくないんだよ、今は」

 だから、ここには呼んでいないとシガレット。

「う~ん、まぁ、そうだよね。それなら仕方ないよね。お腹に赤ちゃんの居るお母さんを戦わせたりとか、しちゃ駄目だもんね」

「駄目なんだよねー。いや、誰だって普通は駄目だって言うんだけどさぁ。あの人結構、その辺……」

「ああ、なんかレオ様なら普通に前に出てきそう」

「きそう、って言うか来るんだよ、実際に。三ヶ月でまだまだ不安定な時期だってのにさぁ」 

 シガレットは沈痛な面持ちで呻く。

 どうやら碌でもない思い出があるらしいと、ナナミは察した。

 

「……って、うん? 三ヶ月?」

 

 そしてふと、ナナミは気づいた。

 妊娠三ヶ月。

 つまり、子供を仕込んだのは今から約三ヶ月前、と言うことである。

 現在、地球時間で十月一週目。

 シガレットとレオンミシェリのそれはそれはド派手な結婚式があったのは、八月の終わりの頃である。

 ガレットの勇者として、ナナミも勿論、二次会、三次会に至るまで含めて出席していた。

 

 あの大騒ぎから、もう―――二ヶ月(・・・)

 

「あのさぁ、やっぱり出来―――」

「いいかね、お嬢さん」

 頬を引きつらせるナナミの言を、シガレットは断固とした口調で遮った。

「結婚式って言うのは世間様に対して互いの関係の変化を公表する式典のことであって、別に式を挙げなくても両者の同意があれば、結婚している、つまり、結婚後にするような行為をしていても問題は無いんだ」

「凄い強弁を張られてる気がする……。っていうか、只計画性が無いだけだよね、それ」

「若かったんだよ、俺もレオも、さぁ。子供が出来たのに気づいたのも君らが帰った後だったからなー。何か、調子崩す日が多くなって……」

「うわぁ」

「レオ本人は気づいてたっぽいけど、ちょっと流石に、アレ気づいたときは心臓が止まるかと思った」

「あ、うん。なんていうか、お疲れ様……」

 本気でげんなりしているシガレットに、それ以上掛ける言葉が見つからなかった。

 魔戦斧グランヴェールを片手に大立ち周りをしていた『結婚式』が一ヶ月と少し前。

 つまり既に、その時にはレオンミシェリのお腹の中には。

「……ビオレさんとかすっごい怒ったんだろうね」

「思い出させないでくれ、頼むから」

 その言葉で、ああ、一緒に起こられたんだろうなと、ナナミは悟った。

 

「ところで話は変わるけどさ、シガレット、エクレと喧嘩でもしてるの?」

「うん?」

 無理やりに切り替えた感がバリバリ出ているその内容に、シガレットは首を捻った。

 何でそう思ったんだ、と言う顔だ。

「だって、なーんか森でのエクレの態度が、いつにもましてつっけんどんな感じだったし」

「あの子がデレの無いツンを続けてるのは何時ものことだと思うけど」

「いやーでもホラ、そういう時でも普段ならこう、尻尾が」

 ぱたぱたと、と手芝居をつけながら語るナナミ。

 尾は口ほどに物を言う、と言う呼んで字のごとくな諺がフロニャルドにはあったが、エクレールはその典型といえた。 

「シンク相手には何時もどおりだったのに」

「あぁ……まぁ、解りやすいよね。今頃きっとイチャついて……無いか」

 あの子の性格だと、と苦笑するシガレット。

 如何ともしがたい、形容に困る顔をしていることに、ナナミは気づいた。

「……ホントに何かあったの?」

「いや、そういうのじゃ無いけどね」

 本気で心配そうな顔をするナナミに、シガレットは観念した顔を浮かべる。

 

 どう話せば良いか。

 そんな前置きを一つおいて。

 

「俺って、ガキの頃に騎士になるために実家をでてフィリアンノンに移ったんだけどさ、向こうでは、マルティノッジ家の屋敷に住んでたんだわ」

「あ、そうなんだ」

 今もガキって言っても問題ない年齢だよね、とは突っ込まずに、素直に驚くナナミだった。

「使ってた部屋も、使用人用のじゃなくて、本宅にあるエクレの部屋の隣でね。ロラン兄さんと合わせて、まぁ、兄妹って感じで育っったんだ」

「いや、兄妹っていうか、シガレットとエクレって、血が繋がってるわけでもないんでしょ? なのに、その、それって……」

「その辺はご想像にお任せするけどね。兎も角、俺とエクレは家族で兄妹って感じの間柄な訳で……うん」 

 言葉を濁すシガレット。

 ナナミはなんとなく、エクレールの気持ちが理解できた気がした。

 

 シガレットとエクレールは、仲が良い。

 表面上は喧嘩ばかりしているように―――エクレールが突っかかり、シガレットがとぼけている―――見えるが、その実、馬が合う、といって語弊が無いくらいに、噛み合っている。

 ナナミには、そう見えた。

 仲が良いのだ、二人は。

 兄妹であり、そして、男女である。

 が、兄/男は別の女性―――しかも、妹にとっても親しい!―――と、結婚をして家を出てしまった。

 

「複雑なんだねぇ」

「恋愛感情とか抜きにしてもね、この辺は結構難しい話でね」

 余り突っ込んでくれるな、とシガレットは首を横に振った。

 ナナミは、彼が漏らした恋愛感情『とか(・・)』の部分にある、察するに余りある内面に深く突っ込んでみたい衝動に駆られたが、碌なことではない未来が見えたため、我慢した。

「意外とブラコンさんだね、エクレってば」

「そう言ってやるなって」

 わざと崩したナナミの態度に、こちらも崩した言葉で返した後、シガレットは一息吐いたあとで、言った。

「あの子の名誉のために言っておくとね、俺だって、色々思うところはある」

「んん?」

「だからさ、あの子やミルヒがイズミ君に向ける視線とかね、ああいうの、応援したい気持ちは勿論あるんだけど、まーそれ以外にも、色々と、ね」

「お兄ちゃんは複雑だぁ」

 そして、妹がブラコンであるのと同様に、兄も中々にシスコンであることを、ナナミは理解した。

 わざわざ妹のために自分から恥をかきに行くのだから、大概だ。

「兄妹ってのは、そういうものだよ」

「なるほどねー」

 やれやれと首を振るシガレットに、ナナミも一つ頷く。

 

 時間が解決する以外に無い問題である、と理解した。

 これ以上藪をつつくのは品が無いだろうと、そう思った。

 と、同時に、彼女にも思うところが色々と生まれてしまう。

 たとえば。

 

わたしたち(・・・・・)も……」

 言葉にならない、いや、したくはない疑問。

 窓の向こうの景色を眺めて、ぼう、と呟くナナミに、シガレットもまた、遠い顔を浮かべて言った。

 

「君らの場合は、変わっても変わらないまま、って気がするけどね」

「なに、それ?」

「なんだろうね」

 

 何れ解るさと、シガレットは口に出さずに言葉を浮かべた。

 

 

  





 アンニュイ気味な話。
 方向性を決めずに書いてるんでバラ巻いた伏線がそのまま放置されてるから、たまに拾ってみようとすると、こうなる。

 因みにこのSSでも、王子は出るしお見合いもする予定。
 予定なだけだけど。


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