ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition 作:中西 矢塚
人魚が嫁ってどうなんだろうな。
まぁ、人間の腹からリスが生まれてくる世界なんだから、気にするだけ負けなんだろうけど。
さらっと精霊術とかいう訳の解らん新要素が出てきてたりするんだよなぁ、過去編で。
つーか、過去の過去に一体何があったの、あの世界。
あと、英雄王はグランマルスを借りパクしたまま眠りに付くのはどうかと思います。
「で、話ってなんだよ兄貴」
ヴァンネット城、『領主執務室』。
つい最近まで『宰相(相当)執務室』という訳の解らない名札が張られていたその部屋に、ガウルは共を連れて訪れていた。
部屋の主、つまり義理の兄に呼び出されたからだ。
書類棚で壁が埋められた、そう広くはない部屋である。
奥にあるテーブルで書類をチェックしていた家主は、ドアを開けてやいなやのガウルの言葉に、直ぐに反応した。
「ああ、お前に……って、三馬鹿だけじゃなくてタカツキさんまで来たのか」
「レオ様お昼寝に入っちゃったし、暇だったから……不味かった?」
「不味いってことは無いけどね」
面白くも無いぞ、と断るシガレットに、別に構わないよ、とナナミは頷く。
さいですか、とシガレットは応じて、ガウルを手で呼び寄せた。
「これだ」
テーブルの脇に積んであった書類の塔を弟の前に押しやる。
「何だよこれ。仕事を手伝えってのか?」
「戦中じゃあるまいし、お前まで巻き込むほどの仕事なんてねーよ。これはだな」
そこで一つ言葉を区切ったあと、重々しい口調で、シガレットは言った。
「お前宛のお見合い写真だ」
「お」
「み」
「あい?」
お見合いである。
ドア前に立っていたナナミたちが目を丸くして驚く。
正確に言えば驚いているのはジョーヌとナナミだけで、ノワールは普段どおりの無表情、ベールは……あら、と口元に手を当てて読みづらい表情だ。
「げ」
そしてガウルは顔を顰めた。
心底嫌そうに―――というか実際、嫌だった。
書類の塔の天辺に触れそうだった手を慌てて引っ込めて、兄の前から回れ右。
「わりぃ、俺ちょっと用事……」
「三馬鹿、ドアを塞げ!」
脱兎と駆け出すタイミングと、命令を下すタイミングはほぼ同時だった。
「あ、お前ら兄貴の命令に従うつもりか! どっちの親衛隊だよ!?」
ジェノワーズは直属の主の行動を妨げることを優先した。
彼女達も乙女であるから、なのだろうか。
王子と親衛隊の間で、内輪揉めが始まる。
「……お見合いとか、するんだ」
「アレでアイツも王子様だからな。ある意味公務の一環かな」
「はぇ~~~、せいりゃくけっこんってヤツだ」
解らない世界だなぁ、と呆ける勇者だった。
「レオ様とか、シガレットもやったの?」
「田舎の牧場主の息子が誰と政略結婚しろってのさ。まぁ、レオは……」
「何度かお見合いの話が出てきたけど、ぜ~んぶ優秀な宰相様が阻止したんだよね」
「……む」
いつの間にかナナミの隣に来ていたベールがふふふと哂いながら言う。
「宰相様って……」
「この人」
首を捻るナナミに、あっさりとネタ晴らしである。
ああ、とナナミは生暖かい顔で笑顔を浮かべた。
「一応言っておくが、俺が止めたのは一回だけだからな。理由もお見合いという名の天下一武道会を始めそうだったから、企画書で焼き芋を作っただけだからな」
「ああ……」
往時のレオンミシェリならいかにも言い出しそうな話である。
シガレットの弁明に、ナナミは乾いた笑いを浮かべた。
「まぁレオ様がお見合いに乗り気だったのはその年だけで、次の年からはお見合いの話が出るだけで、今のガウ様みたいになっちゃったんだけどねー」
なんででしょうねーと嘯くベール。
シガレットは耳を伏せて何も聞いていない態度を取った。
ナナミはその時のレオンミシェリの心情を理解できたが、あえて発言するのは止めた。
因みに、ガウルは簀巻きにされている。閉所で二対一はきつかったらしい。
「つーかさぁ、見合いなんて兄貴がやりゃ良いじゃねぇか。なんで俺が」
一旦仕切りなおして。
渋々と見合い写真の束を確認しながら―――一応全部に確り目を通そうとするあたり、育ちのよさが伺える―――ガウルはぼやいた。
「俺がやってどうすんだよ。既婚者だぞ、俺は」
「良いじゃねぇか別に。爺様みたいに五人でも十人でも囲えば良いだろ、領主なんだし」
「あ、そういうのアリなんだ」
あっけらかんとしたガウルの発言に、ナナミが目を丸くした。
「アリなんです。ガレットは大きな国だしね」
「大陸随一の国の領主様なら、沢山お嫁さんが居るのも、普通」
「うわぁ~、カルチャーショックだなぁ」
ノワールの解説に、顔を赤くするナナミ。現代地球の少女にとっては、理解の追いつかない世界だった。
「血を多く残さなきゃお家断絶待ったなし、なんてウチの母親や英雄王が現役だった時代でもないし、今は俺らみたいな立場の人間でも、無理くり嫁さんを増やさないと駄目って訳でもないけどな」
少なくとも俺は勘弁だ、とため息を吐く、縁談を弟に押し付けようとしている兄。
「あれ? でもアニキって、ルージュをおめか……むごぉっ!」
ジョーヌの言葉は最後まで続けられることは無かった。
「公然の秘密がなぜ公然とは言え秘密を保っていられるか知っているかな、ジョーヌ君」
「ふ、ふごっ、ふごごっ……」
生まれたての子じかのように首を縦に振るジョーヌ。
シガレットはにっこりと哂って、彼女の口から手を離した。
「あの、今ルージュさんって……」
「タカツキさん、公然の秘密というのはだね?」
「あ、はい、良いです。私は何も聞いていません」
勇者ナナミは勇気はあっても、蛮勇は持ち合わせていなかった。
「宜しい。……一応誤解が無い様に言っておくけど、結婚する前に必要な
断じて浮気とかではない、と強調するシガレット。
結婚後もその勉強とやらが続いているのは何故か、と尋ねる蛮勇の持ち主は、どうやら居ないようである。
お見合い編、つづく。
あんまり時間が取れなくて進まないなぁ。
放送終了前に完結まで持っていけるのかなコレ。