ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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 ガチムチ猫耳野郎とヤンデレ少年のガチンコの殴り合いをラストバトルに持ってくるとか、この話を考えたヤツはアタマおかしい(褒め言葉)。
 なんで主役を差し置いて変身バンクが二パターンあるんですかね、殿下……。


4-8

 

 

「それにしても……」

 いつの間にかお見合い写真品評会染みた会合になってきたところで、ノワールがふと漏らした。

「どうした?」

「去年より、数、増えてない?」

「あ、去年もあったんだ」

 シガレットより先にナナミが反応した。

 因みに当事者であるガウルは反応できない状態である。簀巻きにされて部屋の墨に転がされたいた。

「そりゃま、あんなでも大陸中央筆頭格の大ガレットプリンスだからな。縁談も引く手数多さ」

「ガウ様、人気あるからなー」

「特にお姉さま方に」

 ぽわぽわと笑ってジョーヌに続くベール。

 その手は周りが若干引くレベルの速度でお見合い写真を取替え引っ変えしていた。

「毎年毎年コレ系の話が来ると逃げるんだよ、コイツ。まぁ、ウチの嫁さんみたいに変な方向で乗り気にならないだけマシな気もするけど……それはともかく」

 去年までは大変だったと頭を振った後で、シガレットはノワールの質問に答えた。

 

「増えるのも当然なんだよ。今年からは条件がゆるくなったから」

 

「条件が緩くって……そっか、お婿さんでも良いんだ」

「そういうこと」

「どういうこと?」

 頷くシガレットに、ナナミは訳がわからないと首を捻る。

「単純な話なんだけどさ」

 シガレットはため息混じりに話し始めた。

 

 ―――ガウル・ガレット・デ・ロワはガレット獅子団領国領主家の嫡男である。

 つまり、次期ガレット領主となるべく生まれづいた、と言える。

 何れ姉の後をついで―――やはり、武断的な国家であれば、領主は男性であることが好まれる―――領主として国を背負って立つ、と国の内外から思われていた。

 思われていた(・・)。過去形である。

 つまり今は、そう思われていない。

 むしろ、ガウルが領主になる確率は、限りなく低いだろうとすら、今はそんな風に、思われている。

 何故か。

 

「あかちゃん?」

「そ、これから生まれる俺の子供。正確に言うと現領主の子供だな」

 いつぞやと同じ単語を呆けて顔で言うナナミに、シガレットは頷く。

現領主の(・・・・)シガレットとロワ家直系のお姫様のレオ様との間に出来る子供だから」

「ガウ様じゃなくて、その子が次の領主になる可能性の方が高い」

「アニキとガウ様、いっこしか歳違わんからなー。アニキも領主としてあと二十年は現役だろーって、おっちゃん達も太鼓判だったし」

「そっか、その頃にはあかちゃんも立派な大人だもんね」

 なるほどーと、ジェノワーズたちの解説にナナミは納得の表情を浮かべた。

「……って、あれ? シガレットって領主様なんだ。代理じゃなくて?」

「代理だよ」

「代理じゃないよ」

「ちゃんと公式に禅譲受けてるからね」

「アニキ、いい加減あきらめようぜー往生際がわりーよー」

「うるせぇ! 俺はトップに立つより影とか横とかでグチグチ口出ししてるほうが好きなんだよ!」

 誰が領主の座など受け取るか、と領主の証である宝剣の指輪を嵌めた手を振り回しながら入り婿の領主は喚いた。

「あ、あのさ、話を戻すけど、なんでガウルが領主様になれなくなるとお見合いの申し込みが増えるの?」

 ナナミが若干頬を引きつらせながら尋ねる。

 内心で、私は今回はコイツに召喚されたのか、とかげんなりしていたりもした。

「勝手なイメージだけど、領主様のお嫁さんになりたい人の方が多いんじゃないの?」

「……まぁ、うん」

 ナナミの疑問に、シガレットは嫌な話を聞いたとばかりに少し顔をしかめる。

「領主に嫁入りしたいって人は、多いな、確かに」

「最近そういう話(・・・・・)も聞こえてくるようになったものねー」

「しらねーよ。俺は何も知らねー。つーか、どっからそういう話を聞いて来るんだよ……」

「さて何処でしょうね~」

 語尾に音符マークでもつけそうな態度でしらばっくれるベール。

 ああ、ようするにそういうことか、とナナミは納得した。

「レオ様を泣かせるような真似だけはしちゃ駄目だよ」

「しないよ。―――と言うか、あの人は牧童の俺と違って生粋の領主家の姫君だぞ。あれで、第二第三夫人くらい居るのが当たり前って考えてるわ」

 むしろ、居ない方がおかしいとすら思っている雰囲気なのが、最近のシガレットの頭痛の種であった。

「子供と嫁さんと三人で田舎に引っ込んでチョコボを放牧して過ごすのが俺の将来設計だったのに……」

「わたしが突っ込むことじゃないけど、ルージュさんに手を出してるっぽい時点で、その計画破綻してると思うよ」

「デスヨネー」

 女子高生の指摘に、シガレットはがっくりとうな垂れる。

 

「まぁ、そー言うわけで。領主にならないで良いなら、『ウチの婿にならない?』なんて話も出て来るんだよ」

 

 やる気無さそうに、当初の疑問に応じるシガレット。

 ようするに、今回のお見合い書類は、嫁入り志願だけでなく、婿入り希望も含まれているから、去年のものより数が多いのだ、ということである。

「ほぁ、偉い人の結婚事情とかも大変なんだね」

「地球よりは楽だけどな、多分。兎も角、あれだ。いきなり誰か選んで見合いをしろ、とまでは言わんけど、コレ送ってきた連中とその取り巻きを呼べるだけ呼んで社交界でも開くから、覚悟しておけよ愚弟。勿論、お前が主役のな」

「ふぐっ!」

 猿轡をはめられたガウルが引きつった音を漏らす。

 全身で嫌だ面倒だというオーラを放つ様は、まさしく能天気な次男坊らしい態度といえた。

「おまえなぁ、これ以上逃げたらリーフきゅんあたりとお見合いさせるぞ」

「あの、ウチの従兄弟、一応男の子なんだけど……」

「男児にスカート履かせるお国柄の国に言われても説得力が無いんだよなぁ……ところでベール」

「なに?」

 いつの間にか隣の席をキープしていたベールに、シガレットは訪ねる。

「その、突き出している見合い写真の束はなんぞやねん」

「うん、これ。間違ってたから」

「間違って?」

 何が、と尋ねるシガレット。

 ベールはにっこりと笑って続ける。

 

「あて先。これ、シガレット宛の分だよ」

 

 逃げちゃ駄目だからね、と念押しながら、お見合い写真を押し付けた。

 

 

     





 と、言うわけで次回はお見合い。
 放送終了までに終わらないことだけは確実ですけど、このままダラダラ続きます。

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