ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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 放送終わっちゃったよ!
 ある意味、二期以上に何も起こらなかったなぁ、三期。
 全体的に高水準なアクションシーンは見ごたえがあったので良かったですけど、しかしどーにも極端から極端に走りすぎっつーか。
 後半も前半三話くらいにシリアスとコメディとエロをバランスよく配分できなかったものなんですかねー。




4-9

 

 ししおどしの音が響く。

 ここはヴァンネット城下、ワ国人街、その外れにある領主家が保有する別荘の一つ。

 ワ風の屋敷の、庭に面した畳敷きの一室で、再ガレットはワ国の着物に身を包んだ女性と向き合っていた。

 向かい合って―――無言の空間。

 痛いくらいの空気の中で、シガレットは発言を求められていた。

 主に隣の維持の悪そうな視線から。或いは斜め向いの純真なまなざしから。

 

 一拍の間。

 ええい、ままよと、シガレットは漸くの口を開く。

 

「……弊社を志望した動機は?」

「……ええっと、御社の明るい空気に共感を持ちまして?」

「……ああ、そう」

「……うん、そう」

「……」

「……」

 

 会話が止まる。

 気まずい空気が、部屋に満ちる。

「あの」

 それを破ったのは、シガレットでも、彼の目の前の女性でもなかった。

 朗らかな声。素朴な疑問。

 少女のような―――見た目は実際、少女のままである。だが、実際には少年である。

 飾り紐の付いた豪華な貴族服は、その幼い少年が相応の身分であることを証明していた。

「何かな、リーフ王子」

 返答はシガレットの隣に座っていた女性のものだ。

 レオンミシェリである。普段の彼女を知るものは驚くであろうほどに、女性的な、ゆったりとした装いをしている。

「はい、レオ様」

 尋ね返された少年は、まず行儀よく頷いて姿勢を正した。

 リーフ王子。その敬称の通り、シガレットとも親しい女性の故郷でもある国の、八番目の王子に当たる人物だ。

 耳と尻尾はうさぎのものと言えば、どの人物の関係者かを想像するのは簡単である。

「ベールとシガレット―――ああいえ、アッシュ閣下は、とても仲が良いと聞いていたんですが、なぜ二人はこんなに―――」

「固まったまま、目も合わせずに会話をしているか、疑問かな?」

「はい」

「ふむ。さて、なんと説明したものか……」

 男女の機微など欠片も理解しておらぬであろう童子の疑問に、レオンミシェリは悩む―――フリをする。楽しそうに。 

 実際彼女は楽しんでいた。夫の苦境と、それから、古くからの友人であるベールの―――。

「ふむ」

 夫の面前に座る、着物姿のベール。

 耳を伏せ、気まずそうにうつむき、頬はうっすらと朱色に染まっている。

「ふむ、まぁ―――そうじゃの。普段から気安い仲の良い男女とは言え、しかし見合いとあらば多少の緊張もしよう、と言ってしまえば単純じゃが……」

「あの、お見合いというのは、緊張するものなのですか? 仲良しの二人が、静かな場所でもっと仲を深める催しだ、と聞いていたのですが」

「そこじゃよ。元々良い仲であれば、さらに深い仲になろうと思えば、踏み越えるべき壁の前で、足踏みをしてしまうものなのじゃ」

「そう、なのですか?」

「そうなのじゃよ。王子ももうしばらくすれば解るようになる」

 したり顔で頷きながら、レオンミシェリは立ち上がる。

「では王子、二人のために静かな場所を用意してやろう。庭の散策に付き合っておくれ」

「あ、はい!」

 頷き、嬉しそうにレオンミシェリの手を取るリーフ。

 

「ではな、シガレット。わが夫らしく、甲斐性を見せいよ」

「それじゃあ閣下、ベール。ごゆっくり仲良くしてください」

 

 すっと襖が開き、パタンと閉じられた。

 部屋に残されたのは、シガレットと、ベール。

 嫁を連れた男と子連れの女が見合いをするという、奇妙な状況が解消されただけマシなのかなと、シガレットはあさっての方向に現実逃避を決めた。

「……すっごいくだらないこと考えてない?」

「気のせいだろ」

 無論、バレバレであった。

 

 ししおどしが音を響かせること、一つ、二つ。

 

「で、何で後見人がリーフ王子なんだ?」

 漸く。ものは試しとばかりに、シガレットは見合い相手に尋ねた。

「あー、うん。あの子、ガレットに遊びに行きたいって、前から言ってたみたいで、それでほら、ウチの親戚で家格が一番高いのってあの子だし、丁度良いんじゃないかって」

「丁度……良いのか? 見合いの後見を子供に任すって、それ、下手すりゃ喧嘩を売ってるって思われるような……」

「それは、ほら」

 言いづらそうに、ベールは応じた。

「その、ウチの実家にとってはもう、とっくに纏まってるつもりのお話みたいだし」

 ただ、世間様へ向けた建前として、見合いをしました、という既成事実を作ろうとしているだけのこと。

「……纏まってるつもり、なのか」

「……うん」

「俺的には、寝耳に水、って感じなんだけど……」

「うん……」

 

 それは、私もだけど。

 

 そんな言葉が返ってくることを、シガレットは期待していた。

 淡い期待なんだろうなと、薄々感づいても、いたが。

 期待は外れ、目の前に現実がある。

 べール・ファーブルトン。 

 幼馴染、友人、身内(・・)。色々と呼び方はあるが、兎も角、気安い関係の女性である。

 だが少なくとも、誓って、シガレットは。

 

「ベル(ねえ)と結婚するとは、正直、微塵も考えたこと無いなぁ」

 

 嘆息交じりに言った。諦念をこめて。

「ふーん」

 あっさりと袖にするかのような言葉に、ベールはしかし、なるほどといった風な態度で頷く。

「それじゃあやっぱり、エクレちゃんとかミルヒオーレ姫様との結婚は考えたことあったんだ」

「おまっ……それこういう時にする話か!?」

「結婚するつもりは無かった、から入るシガレットよりマシだと思うけど」

「いや、まぁ……ごめん?」

「別に、良いけどね」

 

 言質とったし。

 ―――そんな言葉は、シガレットには聞こえなかった。

 

 

 





 Q・なんで唐突にベール

 A・リーフ王子を出すためだよ! 

 一回でまとめ切れなかったので次回に続きます。

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