ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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 お見合い続き。

 ある意味R-15くらいの話に当たるんだろうか……。
 しかし、結構はしょった筈なのに長くなったなぁ。




4-10

 

「で、え~っと……姉さん、何で俺と結婚しようとか考えたわけ?」

「あ、やっぱり気になる?」

「そりゃね。そっちのご実家に確認したけどさ、アンタこの話に相当乗り気だったみたいじゃないか」

 

 騎士、貴族階級の縁談である。個人同士の好いた惚れたで完結する問題ではないのだ。

 見合い話の発端は、ベール自身ではなく、彼女の生家から持ち上がったもの。

 その話に、ベールが飛びついた―――らしい。

 

「一応確認しておくけどさ、出会った頃から好きでした、とかそういう話とは違うんだろ」

「うん、違う」

 即答だった。ならば。

「……見合いの話が無ければ、結婚するつもりは……」

 無かったのか。

 恐る恐るとシガレットが尋ねると、今度は、返答に少し間があった。

「どうかなぁ……どうなんだろ」

「そこで曖昧になられるなら、あの、出来ればこんな話持ってこないで欲しいんだけど……」

「あ、ひっどい、そーいうこと言っちゃうんだ。シガレットのせいなのに」

「は?」

 俺は何かしたのかと、シガレットは目を瞬かせる。

「俺のせい?」

「うん、シガレットのせい。……あれだね、せきにんとって、ってヤツ」

 膨らませていた頬を朱色に染めながら、ベールは言う。

 混乱するシガレット。

 いったい何時、どうやってベールとの間にフラグを立ててしまったのか。

 少なくともシガレットにはその記憶は無かった。

「ゴメン、マジで記憶にないわ」

「だよねー。うん、記憶に無くって当たり前なんだけどさぁ……」

 若干退廃的な空気を漂わせながら、ベールは息を吐く。

 ツン、と顎を上に向けて、視線をシガレットからはずしながら。

「あのね、お勉強(・・・)

 さらりと、そんな事を口にした。

「勉強?」

「そ、勉強。したでしょ、シガレット」

 

 結婚前に(・・・・)

 

 ぞくりと背筋を震わせずには居られない、なんてことの無い響き。

 勉強。

 それが、何を指し示す言葉なのか、意味は明白だ。

 

 領主の義務とは、国を治めること。

 そして、次代に血をつなぐこと。つまりは、子を成すこと(・・・・・・)

 子を成すためには―――その方法を知らねばなるまい。

 万が一、最初の一回で失敗するようなことがあってはならないならば―――事前に、予習(べんきょう)をすることが、必要だろう。

 そして、子供を作るための予習には、教師(あいて)の存在が必須だった。

 

「あの、それ、お見合いの場で話す必要のあることなんでしょうか」

 奥歯をガタガタ言わせながら、シガレットは問う。

 やましいことではないはずなのだが、あまり、大っぴらにしたい話でも無いのである。

 特に、女性と一対一でなど、論外なシチュエーションだ。

 だが。

 ベールは震えるシガレットを見ようともせず。

 

「実は、私にも話がきてた」

 

 なんてことを。

「……は? え、いや、マジで?」

 言われればシガレットが戸惑うのは当然で、しかし、ベールは言ってしまえば、後はあっさりとしたもの。

「うん、まじで」

「初耳だぞ?」

「当たり前でしょ」

「そりゃ……そうかも、しれないけど」

 口ごもるしかないシガレット。

 

 『勉強』の相手に、ベールが、目の前の女性が、なる可能性が、あった。

 

 誤解しようの無い事実。

 場の空気が一気に生々しくなった。

 ただ親しいだけの―――それだけのはずの相手を見る目が、一気に変わりそうな。

 いやつまり、そういうことなのだろう。

 見る目が変わったのだ。

 そのとき、ベールは。シガレットを見る目が。

 

「……爺さんめ」

 罵るように呻くシガレット。

 ご隠居様から、アッシュ様に。夜の―――。

 三つ指を揃えて謳う女性を、少し前の夜に、シガレットは見た。

 爺さん、ご隠居と言うのはようするに、彼の妻の祖父、ガレット先々代領主にあたる老人のことだ。  

「うん。ルージュと一緒に、実は私も、ご隠居様に呼び出されたんだ」

 それで、話を振られた。

 微苦笑交じりにルージュは語る。

「ま、ご隠居様のお話が終わる前に、ルージュが返事をしちゃったからそれで私は回れ右、だったんだけど」

「……あんまり聞きたくなかったなぁ、そういう話」

「嬉しくない?」

「困るわ」

 次にルージュと会うときにどういう顔をすれば良いのか、確実に悩む話題である。

「それは兎も角、その時は私、なんだかなぁって感じで、終わったんだけど……あれ、終わってないのかな?」

「いや、俺に聞かれても」

 赤裸々な話に、シガレットもそろそろいっぱいいっぱいである。

 しかし、本番はこれからだった。

「その後しばらく、う~ん……そう、シガレットとレオ様の結婚式があって……その後、かな。次の日、ほら。レオ様、朝議にも出なかったでしょ?」

「……まぁ」

「シガレットも領主の席で眠たそうだったし」

「……」

 答える気力もなくなって、シガレットは視線を逸らした。

 クスリ、とベールが笑う音が聞こえた。

「それがどういう意味なのかなんて、お城のみーんな解ってた訳じゃない。とうぜん、わたしも……うん」

 

 それで、さ。

 気づいたんだと、ベールは言った。

 そして、何にとシガレットが尋ねる前に、彼女は言った。

 

  

「わたしって、シガレットのことを、自分がそういう事をする相手(・・・・・・・・・・・・・)に、見えるんだって」

 

 凄く驚いたんだよと、見知った顔で笑う女性。

 いや、今まさに凄く驚いているところだよと、言わずに頭を抱える男。

「それでね、うん。この前に実家に帰ったとき、お父様に聞かれたんだ」

「何を」

 聞いて、という態度に、疲れた顔で返す。

 よくぞ聞いてくれた、とベールは楽しげな顔で言う。

「ガウ様とシガレット。どっちが良い(・・・・・・)? ―――って」

 どちらが。何が。

 尋ねる必要もないほど明確だが―――シガレットはとにかく、確認はしておきたかった。

「縁談か。元々お前、ガウルのところへの押し込みだったろうに……」

「実家はそのつもりだったろうね。ガレット―――ご隠居様としては、元々あなたとガウ様と、どっちでも良かったみたいだけど」

「俺、姉さんと始めてあったとき、まだ田舎の牧童に過ぎなかったはずなんだけど」

「大陸協定締結以前の、古く濃いガレットの血だからね、シガレットは。内々の話だけど、私は初対面の頃から、予め貴方がガレットの王子様だって、聞いていたし」

 多分それは、ビスコッティの少女達も同様だろうと、幼馴染は言う。

 

 勇者アデライトの活躍の後、大陸を結ぶ街道は開かれ、国家間の交流は盛んとなった。

 それ以前の時代、その多くは国内の有力者同士の間でのみ行われていた婚姻政策も、国と国の間で結ばれるようになった。

 国家間の婚姻が盛んになるということは、それだけ、種族間の混血が進んだということでもある。

 各種族としての血統の維持は、大陸協定会議でも議題に上がり始めるような、国際問題になりつつあった。

 シガレットの母親は、大陸協定締結直後の、純血(・・)のガレットの姫である。

 その深く濃い血を領主家に戻し、そしてつなげて生きたいと考えるのは、為政者であれば当然だろう。

 

「まぁ、そんな俺の父親は、いきなりビスコッティ人だったりするんだけどな。大体、ガレットの血を残すことを期待されてるのに、宛がうのは特徴バリバリの縦耳の女とかどうなの……」

「どーせ建前ってことでしょ。ご隠居様も別に純血の維持とかあんまり考えてるわけじゃないし」

「あの爺さん、初恋の女性はウチの母親だからね」

 本人が駄目なら子が欲しい。

 欲しくて譲ってもらったからには可愛がりたい。

 夜の世話役をせっせと用意するのは、まぁ、そういう訳だ。

「俺の血筋なんて増やしても、ねぇ。レオの子供は欲しいけど、俺の、なぁ……」

「欲しいやつなんて居るか、とか言いたそうな顔してる」

「一応言わないように自重はしてるぞ」

 態度には出ていたが。

 仕方ないな、とベールは笑う。

 笑った後で、しかし、答えた(・・・)。聞かれても居ないのに。

 

「ガウ様とシガレット、ってお父様に尋ねられたときに、私は、シガレットだなって、思ったよ」

 

「……それは」

 光栄な話、なのだろう。

 義弟は、家族目線を抜きにしても、良い男になるだろう片鱗を見せていたのだから。

 形容しがたい気分を持て余すシガレットに、ベールは尋ねる。

 それで、と。

 シガレットは、それでとは、と尋ね返す。

 ベールは、そろそろ、答えが聞きたいと、言う。

 言われて、なるほど答えかと、シガレットは腕を組んで、天井を見上げて、唸る。

 答え。

 答えは。

 

「……考えるよ」

 

 これから。

「この期に及んで考えるだけ?」

 呆れの隠せぬベールに、だがしかし。

「これは、既婚者としての意見なんだけどさ」

「?」 

 瞬きするベールに、シガレットは、世の真理を悟った隠者の如き重々しい口調で、告げる。

 

「男って、こういうことは考えた段階で負けだと思うんだ」

 

「……そっか」

「……そうなの」

「そっか」

 それじゃあ。

 二人の視線が漸く絡む。

 

 ―――なるべく早く考え終わってね。

 ―――期待して待ってろってんだ、チクショウ。

 

 つまり、そういうことになった。

 

 





 因みに、ゴドウィンとかバナードとかのお陰で、そもそも勉強する必要が無かったという説。

 即答せずにキャットファイトが発生していた―――という没ネタもあったりなかったり。
 まとまりが悪くなりそうだったのでナシになりましたが。

 次回は軽く勇者王の……話にするか、嫁との反省会にするか。

 まぁ、ぼちぼち進めます。



 
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