ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition 作:中西 矢塚
・Э月℃日
初心忘れるべからず。
いやいや、なんていうか最近華やかな王都の暮らしに舞い上がって、ちょっと自分が何者であるか忘れてる気がしてたんですよ。
所詮私は只の田舎者の牧童に過ぎないのだから、此処は一つ、生家に顔を出して改めて初心に帰ろうと……ええ、王家の紋付馬車に相乗りさせてもらってる段階で、説得力無いよねー。
面子も何時もどおり、しょんぼりさん、緑の人、イケメン、秘書の人、メイドさんズ。んで、私。
……イケメンの人ですらチョコボで馬車―――いや、正確にはチョコボ車―――の脇を併走してる立場なのに、何で私は当たり前のように馬車の中でお茶してるんだろうね。
秘書さんとかも全く文句言わんし。
不貞腐れてるのは緑の人くらいだよね、うん、これは何時もどおりだけど。
只の田舎者にはもう戻れないってことかなー……え?
何よ緑の人。たそがれてるのがキモイとか言わない!
定期的に自分に突っ込みを入れないと状況を当然と受け入れちゃいそうで恐いんだよ!
……いや、眼鏡の秘書さん。そこで冷静に『今更でしょう』とか言われると辛いんですが。
薄々私もそう思ってたけどさー。
因みに私個人としては学校が長期休みに入ったので生まれたらしい妹の顔を拝みに帰郷、と言うつもりなんですが、現実を見ろという話になると、チョコボ牧場にご静養に出かけるお姫様の護衛って役割らしいです。
騎士見習いにそんな重大な仕事回すのやめようぜー。
いや、実質はイケメン千人長の仕事なんでしょうけど。
帰郷に友達が着いて来たって言うか、姫のお忍び旅行に直属家臣団が引っ付いてきたってノリだわなぁ。
―――まぁ、嫌な現実を思い返すのは……ああ、嫌とかってのは言葉の綾だから、しょんぼりしない。
メイドさんたちもツンデレ乙とか言わない!
……ふぅ。
窓の向こうの景色も、なんだか見覚えのある感じになってきたし。
到着までもう少しって所でしょうか。
にしても、平原の向こうに、良く見ると戦場用のアスレチックが見えたりするのが嫌な記憶を思い起こさせるなぁ。
国境近くのこの辺から、延々王都の辺りまでアスレチックが点在してるんだよね。
で、侵略国とかがあったら、付き合い良くアスレチックに突っ込んできてくれる、と……今更ながら突込みどころ満載だな、おい。
そういえば、戦場で白髪王子に絡まれたのが丁度一年前くらいなんだっけ。
私の今の状況って、良く考えたらあの白髪王子に半分以上原因があるような……今頃何してるのかね、あの脳筋も。
いや、たまにテレビの戦争中継とかで楽しそうに暴れてるのは知ってるんだけど。
―――なに、しょんぼりさん。
え? なによ。
何でそんなにニコニコしてるの、アンタ。
直ぐにわかりますとか、そういう前振り染みた台詞は不安を誘うからやめて!
・◎月=日
やせい の がうる が とびだしてきた !
つーかテメェいきなり蹴りかかって来るんじゃねぇよマジで!
全力で蹴り返したろか!
……はっ!?
ああ、すいません。
実家のあるチョコボ牧場の事務所のほうに付いたんですよね、無事に。
で、しょんぼりさん達はそういえば何処泊まるの、へぇ、敷地内に別荘なんてあったんだー、ああ、がきんちょの頃近づくなって言われてた辺りね~、とか馬車を降りつつ話してたら、殺気が。
すっげぇ良い笑顔でとび蹴りしてきやがった、あの白髪王子。
あれか、貴様は私の幼馴染の田舎のガキどもレベルの民度か?
避けたら後ろにいるしょんぼりさん達に直撃するっちゅーねんって訳で、気合ガード発動……と言うかこう、タイミング合わせて打ち上げから空中コンボに繋いで見ることに。
……結果的に言えば、失敗してクロスカウンターっぽくダブルノックアウトでしたが。
やっぱ蹴り技系が無いと駄目だわ、私の場合。
そもそもドロップキックを拳で打ち上げようとしたのが失敗だったかも。
って言うかイケメン隊長、あんた面子の中で一番装甲値高いんだから、助けてくれよなー。
にこやかに笑ってれば良いってもんじゃないぞ!
……てか、あれ?
イケメンが二人に増えてる!
何時もの白鎧のイケメンの隣に、黒系の服のハンサムが居るぞ!!
なんぞこれ……と言うか、そういえば何で白髪王子も此処に居るんでしょーねー。
うん、後ろで引きつった笑いを浮かべているしょんぼりさんや、ちょっとそこのところ、詳しくOHANASIしないかね?
メイドさん、この子借りてくから、後の収集つけといてねー?
・ι月Å日
白髪の人も二人に増えました。
……まぁ、もう一人の人は女の子だから良いかな~、年上で、やっぱり脳筋なのが玉に瑕だけど。
因みにそちらの方のお名前は、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワさん。
ガレットという名前からお察しいただける通り、お隣のお姫様でいらっしゃると。
お話してみると随分気風の良い姉御肌な人らしくって、今も呵呵大笑しながら弟の王子の頭踏んづけてます。
良いぞ、もっとやれ。
いや、私もしょんぼりさんを苛めすぎたせいで緑の人のお尻の下敷きにされてるんですけど。
で、だ。
自国のお姫様に隣国のお姫様……と後、王子様も居たのか。
どー言うことよといえば、子供同士避暑地で仲良く泊まりであそぼーぜーって事らしい。
しょんぼりさん家の別荘に、皆で集まってるんだけど、うん。立ち入るなって言われてる柵で覆われた一帯の向こうに、こんなデケェ城があるとか、知らんかった。
牧場と反対方面に丘を下っていくと、観光地もあるんだってさ。
全く知らなかった。―――て言うか、地元民の私が一番地元のこと知らなくないか、この状況。
あ、因みに黒い方のハンサムの方は、どうやらレオンミシェリ姐さん達の護衛の人らしいです。
なんだろう、脳筋の国の人とは思えない爽やかなオーラを感じる。
伊達にウチのイケメンと古馴染みじゃないって事か……!?
にしても、これだけ偉い人たちが集まってる割りに、警備の人員が片手で数えられる人数しか居ない辺り、実に平和で宜しいというか……。
まぁ、脳筋の国の人たちは基本、自分の身は自分で守れる脳筋の人たちだから良いのかも知れないけど。
にしても、お供がハンサムさんだけってのはどうなんですか姐さん。
―――は? 他にも居る……え、買出し中……丁度帰って……っ!!
その癒し系スマイル、新人女子アナの紫の人じゃないっすか! なんで!?
あの、サイン……じゃない!
え? 本業は姐さんの側役? マジで!? ひゃっほぅ! 姐さん、脳筋の国の国籍を取得するためには一体どうすれば……?
……はっ!?
待て、落ち着け二人とも。
ちょっとテレビの向こうの憧れの人に会ってはしゃいじゃっただけじゃないか。
私だって男の子だし、そういうこともある……から、ちょ、ジリジリ近づかないで、恐い!
落ち着け、マジで落ち着け!
緑の人は特に落ち着け! 紋章、紋章レベル3になってるぞ!!
・√月Π日
朝目が覚めたら、蓑虫のようにベランダから吊るされてました。
白髪王子も隣で同様に簀巻きになってますね。
まぁ、こやつの場合は時と場所を弁えず喧嘩しかけてくるから姐さんからお仕置きされてるっぽいんですが。
私の方は……うん、サインと握手の代価と思えば、安い安いと言うことにしておこう。
にしても、何で私は実家に帰ってきたのに両親に挨拶もせずに蓑虫になって吊るされてるんでしょうね。
日付指定して帰るよって伝えておいたのに、全く心配もしてないっぽいウチの母上様たちも大概ですが。
私ってばひょっとして、もうひとり立ちしたことになってるのかなぁ。
年齢一桁でひとり立ちとか、そんなのリリカルでマジ狩るな世界じゃないんだし、そういうのはやっぱり漫画アニメの中だけにしてもらいたいものである。
まだまだ親の脛齧ってのんびりしてたいじゃない、やっぱ。
他所様の家の食客やってる身分で、言えた口じゃないとは思うけど。
……にしても、この簀巻き状態で良くイビキかいて寝てられるね、白髪王子も。
頭に血が上って目が覚めるだろうに、普通……ん?
じ~~~~~~~~~~~。
とか、多分そんな擬音が聞こえてきそうな空気。
何か居る。
近くの木の陰から、誰かが見てる。
誰でしょうか―――って、さすがにモノホンの不審者だったらイケメンたちも仕事するだろうから、見覚えは無くても誰かの知り合いなんだろうけど。
―――っと、おぅ、起きたのね白髪王子。
ほぅ、知ってるやつの匂いが……獣かキサマは。
多分キミが言ってるのはアレだと思う……って、アレ? 逃げた?
―――はぁ、はぁ、知り合い。直属の部下ですか。遅れて到着する予定だった?
そりゃ、到着してみて上司が簀巻きだったら遠巻きに見るしか無いよねぇ……って、元々そういうタイプの子?
さすが脳筋の国。変な子が居るなぁ―――なによ白髪王子、その『お前が言うな』って目。
にしてもキミ、私と同い年なのにもう部下を抱えて……そういえば王子だったっけね、白髪王子って。
うちのしょんぼりさんもだけど、若い頃から人を使わなきゃいけないって大変だよねー。
まぁ、将来領地を継ぐ為にも、脳筋な行動はそこそこにして、しっかり今のうちから……って、え?
―――あ、そうなの?
ほぉ、日本的な含みは含めずに、本当の意味で長子相続なんですか。
あの姐さんが、ねぇ。
ウチのしょんぼりさんは一人っ子だから仕方ないけど、脳筋の国を女の細腕で支えるとかどんな無理ゲー……って、何よその呆れた様な顔。
……へぇ、あの姐さん、キミより余程強い、と。
姐さん将来有望な美少女さんなのに、そっかぁ、緑の人と同じ方向性か……。
うん、でもキミと違って所構わず喧嘩吹っかけてきたりは……って、しまった。
おい、縄を引きちぎるな、パンパン腕を叩いて鳴らすな!
朝飯前から人に無駄な運動させるんじゃない!!
・χ月Φ日
因みに、フロニャルドの一般的な王室などでは、長子ではなくても基本的に女子優先で相続が行われるそうな。
女性の方が守護のフロニャ力の高い恩恵を受けるケースが多いからなんだってさ。
なんつーかやっぱアレだね。
王家ってのは大地の恵みに感謝を捧げる巫女の役目とかが第一にあるんだろうね。
あ、因みに守護のフロニャ力はあくまで『守護』のフロニャ力であり、周りに脳筋な戦闘要員ばかり居る職場だと忘れがちになるけど、戦うために特化した力ではありません。
本来はこのフロニャルドに暮らす人々を守ることが第一の力だから、そう、慈母の精神で女性の方が強い力を発揮できるのはおかしくないのです。
……ただ、姐さんとか緑の人とかが、バトル要素にばっかり特化してるだけさー。
うん、しょんぼりさんには今後も変わらずしょんぼりしていて欲しい。
何か今はプンスカしてますけど。
良いじゃないか、折角テレビに出てる美人のお姉さんが目の前に居るんだから、一緒に写真取るくらい。
ほれほれ、怒ってないで妹見に行くぞ~。
私も見るの初めてだけど、母上様に似てさえいれば美人さんに違いないから、ほれ、機嫌直せ。
うん、親父殿に似ちゃった場合はお察しくださいだけど。
―――って、白髪王子と姐さんまで来るんですか?
いや、良いけどさ。
うん、庶民の家に王族がわらわら顔を出すとか、これはしょんぼりさんとはじめて合ったとき以上にカオスだね。
下手すりゃ母上殿も卒倒する―――訳無いかぁ。
あの人、しょんぼりさんの頭とか、余裕で撫でることが出来るぶっ飛んだ人だもんねー。
……って、なんですか緑の人。
さすがお前の親だなって顔はやめようよ。私はあの人と違って、臆病者の常識人デスヨ?
うわ、白髪王子にため息吐かれた。スゲーむかつくんだけど。
と言うわけで、一年半くらい振りに大草原の小さな家こと我が家に戻ってきたわけですが……。
ええ、お久しぶりです母上殿。親父殿は仕事ですね。
それで、このまるまるしたほっぺが妹と……え? 妹一号?
一号……じゃあ、二号は?
―――はぁ、母上殿のお腹の中ですか。
あの、私本当に、邪魔だから追い出されたとかじゃないですよね?
ええ、違うってことは解ってはいるんですが……それにしても、ねぇ。
いや、良いんだけどね、両親の仲が宜しいのは、ええ。
子供だからって何も知らんと思うなよーってのは、無茶な話かぁ。
楽しそうに母上殿のお腹を触ってるしょんぼりさんの姿が、あー癒される。
・γ月ъ日
実家に帰ってきたはずなのに、何時もどおり上司の家に寝泊りして、上司の家で上司とメシ食ってます。
あ、普段は緑の人の家に寝泊りしてるから、一応いつもとは違うかー……ふぅ。
まぁね、実家へ戻ったところで、冷静に考えると私の寝床とか有りませんしね。
うん、本来私の部屋になる予定だったらしい空き部屋も、覗いてみたら倉庫代わりに使われてたし。
精々妹一号がおっきくなるまでに整理してやれって話ですよ。
―――で、まぁガレットの人たちも併せて皆でお城でご飯なんですが……すげぇ、ウサミミが居る!
やっべ、何、この世界ってウサミミの人まで居るの!?
しかも白髪王子の部下!?
何でライオンがウサギ従えてるのとか突っ込む場面なのかな!?
しかもウサミミの人、何かぽやぽやした感じでスゲー癒されるんだけど!
白髪王子には勿体無いな、チクショウ!
やばいなぁ、益々脳筋の国の国籍を取得したく……ぉおっと、落ち着け緑の人。
それから捨てられてウサギみたいな目で見るんじゃない上司!
ちょっとした冗談じゃないか!
……なに? 本気の目をしてたって?
いやいや、そこで余計な口挟むのやめよう、虎っぽい耳の人。
そのエセっぽい関西弁は、トラブルの予感しかしないぞ!
あと、黒いちみっこは全カット止め一枚だけじゃなくて、たまには瞬きくらいはしてください。
そんなに無表情でじ~っと見つめられ続けられると……って、朝簀巻き状態だった私と白髪王子を観察してたのキミだね、ちみっこ。
なに? 下でスモーク炊こうと思って落ち葉を捜しに行ってる間に逃げられた?
どんなデンジャラスガールだよ、キミは!
全く、どうしてこう、脳筋の国にはとっぴなキャラしか居ないのか……ちょっと、止めてよ緑の人。
そうやってお前も同類だろ、見たいな目で見るのは。
この中で常識人って私くらいじゃないか……何、何さその目。
・↑月Ы日
一人一人は喧しいだけだけど、三人寄れば姦しい―――で済むかボケェ!
ことある毎に人を罠に嵌めようとするんじゃねぇよ!
何? 捕まえて白髪王子に献上する?
献上品をパンジステークで穴だらけにする馬鹿何処に居るんじゃ!
アレか!? やっぱりお前らアレなのか!?
皆可愛いから薄々気付いてたけどあえて考えないようにしてたのに、やっぱりお前らアレか!
あとちみっこ、わざとらしくそこで頬を赤く染めるな! 私はどっちかといえばウサミミの人のほうが好みだから!
……そこで笑って流されると悲しいんですけどね。
ウサミミの人、可愛いのに虎縞の人の無茶を全然止めてくれないし。
やっぱり脳筋の国にある癒しは、女子アナのお姉さんだけかー。
よし、もう良い。
今日からお前らのことは三馬鹿で統一する。
白髪王子親衛隊の三馬鹿と、フハハハ、ブーイングしても無駄だ!
貴様らが戦場で活躍する頃までに、そこかしこで言いふらして定着させてやる!
坊ちゃんヤンキーの白髪王子の手下の三馬鹿トリオとして、末代まで語り継がれるが良いわ!
あん?
誰よ、後ろから肩叩いて……あ、白髪王子。
しまった、逃げてる途中だったー!!
・㊥月ж日
突然ですが戦争のお時間です。
子供の喧嘩じゃないの? って言いたそうなそこのアナタ、残念、本当に戦争なのですよ。
なにしろ本職の女子アナの人が実況してくれるかと思ったら、戦場リポーターで有名なあの喧しい兄ちゃんまでいつの間にかカメラ持参で颯爽登場してるしな! さっきまで気配もなかったのに。
国境警備仕事しろよ! 他国のカメラが入場フリーじゃねぇか!
オマケに安全柵で区切った向こうにはビニールシート敷いた見物人たちが……全員見知った牧場の従業員ばっかりじゃねぇかチクショウ! あと、わざとらしく売りこの真似事してるんじゃねぇよ三馬鹿!
母上様もインタビュー受けないで! 親父殿にはこの際何も期待しないけど!
って言うか、何これ?
カメラ入ってるってことはマジでテレビに流すの?
白髪王子ってば、無茶苦茶気合入ってるっぽいんだけど。
え~、何すか、姐さん。
……あ、両国間で許可は取った。何時? ……一週間前。
しょんぼりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
てめぇ、自分の部下を簡単に脳筋に売り渡すんじゃねぇよ!
あん? 普段苛めてくるふくしゅぅ? そんなものは毎度毎度の緑の人からの折檻で相殺されてるわ!
というかイケメンコンビ! 解説席とかで勝手にプロフィール紹介とか始めないで! 恥ずかしい!!
ああもう、何か気付かない間に嵌められて身動きできない……っ!
本当にやめましょうよぉ、私、殴り合いとか苦手な人なんですから……ああ、蹴るのは得意ですけど―――え?
あ、殴り合いじゃないの?
ああ、そう。アスレチックコースで競争ですか。
なら安心―――だけど良いの? 私めっちゃ足速いよ? 白髪王子ほえ面かくよ?
……ああ、そうですか。
そうよね、フロニャルドの戦争だもんねー。
妨害行為も、普通にありだよねー。
……うん、駆け抜けよう。鳥のように。
・е月Ё日
鳥になりました。
アイキャンフライ! アイキャンフラァアアイィ!
ぇえっと、ですね。
順を追って説明しますと、まぁ、要するに戦争開始って言うことでスターと地点に並べられたんですよね、白髪王子の隣に。
あの脳筋、開始の合図の前からあからさまに手をワキワキさせながらこっち向いてやがるから、それなら私だって自重なんてしてられない。
さしあたって、ロケットスタートを決めるために足に輝力充填していた訳なんですが……こう、いざスタートの合図がなった瞬間に、紋章発動してブースト掛けてみたら、ね?
足 か ら 翼 が 生 え た ! !
飛んでる! 私は今空を飛んでいるー!!
アスレチックとか意味ねぇよコレ! 障害物丸ごと全部飛び越えるとか、我ながらどんな反則だよ!
いやしかし、ビックリだね。
紋章術ってのはホラ、前に書いたと思うけど輝力を顕現させるための『型紙』みたいなものじゃないですか。
んで、私は猛ダッシュしてトラップに突っかかってるあの脳筋白髪王子から『飛んで』逃げよう、とか考えちゃってた訳でね、それがどうも、輝力で固めた翼として反映されちゃったらしくって。
本当にフロニャ力の恩恵は何でもアリやで~。
案外、貰った紋章が鳥に関係してるのも有るかもしれませんけど。
びゅんびゅん超加速で、ごめん、なんだか楽しくなってきた。
輝力篭めれば加速してくってことは、コレはつまり、アレよね。
アレをやれってことよね。
1・上空高くまで飛び上がる。
2・片足を突き出すポーズで、落下開始。
3・紋章でっかく背中に出す勢いで落下速度に加速を加えて加えてもう一つ加えて―――思い知れ白髪ァァッ!!
…………。
凄く、怒られました。
いやー参った参った。
まさか戦場のアスレチック全損どころか、観客席の地元のご近所さんたちも纏めてけものだまに変えちゃうとかねー。
ははは、うん。
何処のフレデフォート・ドームだよって話です。
何この隕石落下痕。そりゃ緑の人に頭叩かれて絶賛正座中にもなりますよ。
うぅむ、我が行為の結末ながら、恐ろしい威力だわ。
コレで死人が一人も出てないことが、また別の意味で恐ろしくもあるんだけど。
本当に、少し自重しよう……。
あ、ところで。
私ってば前世の時の苗字は『鈴木』って言うんですけど、深く考えない方が良いのかなやっぱ。
幾ら踵の辺りから羽根が生えたからって、うん。
とりあえず領主様の声がジャック・バウアーに似てなくて良かったと思うべきなのかなー。
・ξ月ж日
突然ですが戦争のお時間です。
……二日続けてかよ!
いや、うん。今回は私は見学なんだけどさ。
見学……いや、見学だから! やらねーっての、昨日の戦争のやり直しなんて!
また夕ごはん抜かれるちゃうでしょ!
全くコレだから脳筋は……って、あ。
ええっとね、今回の戦争はうちのしょんぼり姫と、ガレットの姉御姫の直接対決です。
両者共に部下がまだ残ってるのにいきなり大将決戦とか、ちょっと展開巻きすぎじゃねーのー?
……え? ぁあ~うん、そうね。ゴメン。
バトルフィールド壊したの、私ですよね~……って、そういえば、しょんぼりさんと姐さんはどうやって勝負するのさ。
殴り合っても駆けっこしてみてもスタイルでもしょんぼりさんの負け……いや、おこちゃまにスタイル期待するのは間違いか?
二人ともドラマの子役とか並みの美少女さんではありますが、子供体形はまだまだ抜けきらんよねぇ。
いや、姐さんは割りとそろそろ……そういえば解説のハンサムさん、姐さんってお幾つなの?
八歳。へぇ~、下手すりゃ中学一年生くらい名乗っても平気そうなのに。
いやいや、老けてない老けてない。只の美人さんですよ~って、何でしょうか憧れの紫のお姉さま。
は? いや、口説いてないから! 六歳のガキが女の子に色目使うとか、無いから!
何よハンサムさん。
……そうね、説得力の欠片も無いよね、日頃の自分の言動を鑑みるに。
そこで、ただ『おませさんですねぇ』って顔されるのが悔しいなぁちくしょー。
やっぱせめて、後倍以上年取らないと駄目かぁ。ハンサムさんは恋人とか沢山いそうですよねー、はぁ、お友達だけですか。
ハハハ、死ね。
ウチのイケメンと同じこといってるんじゃねーよ。
……どうした白髪王子、疑問符浮かべて。
ああ、何が駄目かって話ね。
安心しろ、キミはこのまま素直に三馬鹿を光源氏計画すれば将来安泰だから。
ホラ、ハンサムさんとウチのイケメンも頷いてるし。
そう言う訳なんで、ウチの緑の人とか秘書さん辺りの視線が厳しくなってきたから、そろそろ逃げるぞ野郎衆!
・Э月+日
え~、当初の予定ではお姫様同士による『花冠早作り対決』をお送りする予定だったのですが、プログラムを変更して、男チーム二名、女チーム五名によるバトルロイヤル形式に変更されました。
因みにウチのしょんぼりさんは戦えない人なので、替わりに緑の人が入ってます。
バトルフィールド壊れてるから乱闘形式はナシになったんじゃねーのって突っ込みたいんだけど、何か、そのままスクラップなアスレチックで乱闘する予定らしいです。
……どうしてこうなった。
いやいやいや、原因は男連中の馬鹿話だってことは解ってるんだけどさ、この組み合わせってもう国対国の戦争って図式から外れてますよね?
白髪王子と私の男子チームと、緑の人と姐さんと三馬鹿のチームの対決……って、ちょっと待とうぜ。
二対五って流石にハンデつき過ぎでしょー。せめてイケメンとハンサムも参加しようよ。
そしたら今度は絶対こっちが勝つんだけどさ!
大人ってズルいよね、特にやっかましい実況アナの兄ちゃん! アンタ一番楽しそうに話題に乗っかってたじゃん! アンタ充分若手っぽいんだから一緒に戦ってくれよ!
白髪王子は状況解ってないっぽくて只暴れられるからってハイテンションだし。
一方女の子達は気合充分でございます。おもに緑の人が、ですけど。
姐さんは只サディスティックな笑みを浮かべてるだけだし、三馬鹿は三馬鹿だなぁ。
たぶんちみっこが一番状況を理解してるっぽいけど、虎縞とウサギさんは基本、ノリだけで動いてるよね。
なんだろうねーこの状況。
王都でのチャンバライクな日常から遠ざかって、牧歌的な実家の風景でも眺めて心癒そうとか思ってたはずなのに、結局何時もどおりですよねー。
兎も角、この公開リンチ状態を白髪王子を盾にして上手く切り抜けねば。
と言うわけで、頑張れ白髪王子。好きに暴れてくれて良いぞ。
僕は飛んで逃げ……え? 何ですか解説の人。あ、そう。飛ぶの無し。ですよねー。
……そういえば、しょんぼりさんと姐さんは結局なんで戦争やることになったんだっけ?
・£月☆日
しょんぼりさんが超しょんぼりさんにクラスチェンジしました。
―――いや、なんだか昨日子供連中皆で乱闘していた時に、一人だけ見学状態だったんで拗ねちゃったんだって。
いや待て上司。
そもそもキミが額に青筋浮かべてたからバトルロイヤルな……うん、ごめん。
私たちが無駄話していたせいでございますね、はい。
でもさぁ秘書さん、速やかに状況を改善するよーにと言われましても、私女の子の扱いは苦手で……何故そこで笑うね、キミ。
え? 女の子扱いしてるって?
そりゃするでしょうよ、どう間違ってもしょんぼりさんも女の子ですし……って、ああ。
私らくらいの年齢で性差を考えるようなヤツは、まだ珍しい方ですか。
そこでやっぱりおませさんですねって顔されるのが、悔しいなぁ。
まぁ秘書の人、この旅行―――旅行? ―――で一人だけ二十台の大台で、最年長……スイマセン、目が恐いんですが。
ええっと、秘書の方は一番女盛りの時期が訪れて良かったですねと言う事で……いえ、ため息吐かれると無理やりフォローしてるこっちも辛いんですけど。
兎も角、しょんぼりさんのご機嫌取りをしろと私に仰ってるわけですよね。
でも、私はご存知の通りの精神年齢三十路な六歳児なんで、穢れを知らない美少女の機嫌を回復するとか、何て無茶振り……ううむ。
そもそも、しょんぼりさんの様子見に意向にも緑の人が部屋の前で張ってるから、部屋に入れてもらえんしなぁ。
むしろ緑の人のほうが怒ってますよねー、姫様を泣かせた~って、ああ、つまり可及的速やかに緑の人の機嫌をとれと。
そうね、部屋に閉じ込められっぱなしだと、しょんぼりさんさらにしょんぼりですもんね。
いやでもさ、姐さん達ガレットの皆さんが興味心身で見張ってるこの状況でですか?
ああ、そうですか。
つべこべ言わずにさっさと行けと……宮仕えって本当に辛いなぁ。
とはいえ本当にどうしたものか。
天岩戸じゃあるまいし、しょんぼりさんの場合、扉の向こうで歌でも歌って宴会始めたら先ず緑の人に蹴り飛ばされるしなぁ……って、うん。
―――歌でも歌えば?
・¢月¨日
得意な事をやって一番になってもらって喜んでもらえば良い……なんて簡単に思ってた私が馬鹿だったよ。
つーか何で皆こんなに歌上手いの!?
緑の人ですらガチガチに固まってマイク握ってる割りに、結構上手いし!
姐さんは何か本当に何でも出来そうな気がしてたから、今更かも知らんけど。ハンサムとイケメンも無駄に良い声してるしなぁ。
メイドさんズとか三馬鹿とか、ノリノリだなぁチクショウ……秘書の人、すっごい集中して曲目見てらっしゃるし。
いつの間にかノリがカラオケ合戦の様相を呈しているけど、お前らアレか、揃ってCDでも出すつもりか!?
あ、撮影班の兄ちゃん、女子アナさんの歌ってるとこだけDVDに焼いておくのって出来る?
OK? マジで? いやーノリが良くて助かるわ兄ちゃん。後でサインも入れてもらおーっと。
ひゃっふぅコイツは設けたぜぇ! ……って喜んでる場面じゃねぇよ!
皆、マイクの取り合いで楽しそうなのは結構だけど、そこは空気を呼んでしょんぼりさんに花を持たせてやろうぜ!
一応そういう企画意図なんだからさ!
……いやでも、割りと機嫌直ってるっぽいから良いのかなぁ。
うん、姐さんがデュエットとかしててくれてるお陰なんでしょうけど。
そういえば、そもそもなんでしょんぼりさんと姐さんって勝負しそうになってたんだっけ?
へぇ、白チョコボ。あ、孔雀尾のレアなヤツね―――はいはい、取り合いになったと。
つーか姐さん、足の速い黒いの持ってるって言ってませんでしたっけ。私が紋章貰ったときの戦争の褒章で手に入れたとかなんとか。
ああ……ああ、はいはい。何処の軍馬好きの戦国武将ですか、姐さん。
年下相手に大人気ないなぁ。
いや、うん。あの子輝力入れると空飛べて役に立つんでしょうけど。
でも確か、結構おとなしい性格の子なんで、戦場とか無理だと思いますよ?
詳しいでありますね……って、あのね、ここ私の実家の牧場なの。
牧場のチョコボとはゼロ歳の頃からの長い付き合いなんだから、古馴染みなんですよ。
うん、全く実家に帰って来たっぽい気分になれてないけど。
元気を出すでありますって?
ははは、ありがとー。いやいや、私のことなんて放っておいてお嬢さんも一曲どうよ。
しょんぼりさんも楽しそうだし、何かもうこのまま今日はカラオケ大会ってノリで最後まで行く予定だから、ホレ、遠慮せずに曲入れちまえ。
どうせ秘書さんは当分悩みっぱなしだから。
早くしないとまた三馬鹿のターンになるぞー……っていうかテメェら、三人トリオで歌った後に一人づつ変わりばん子に曲入れてるんじゃねぇよ! 自重しろ!
あと白髪! お前はシャウトしすぎだ! マイクがぶっ壊れるだろうが! ちょっとは司会の兄ちゃんのマイク捌きを見習え!
まったくもう、コレだから脳筋の国の人たちは……と言うわけで幼女さん、どうぞ。
感謝であります? やっべ、久しぶりに人から素直なお礼とか言われた。超癒される。
……。
……にしても、見たまんま幼女の割に、意外とかっこいい系の歌が似合うなぁ。
ピコピコ耳を揺らして、リスみたいなのに……と言うか。
あの幼女は誰でありますか?
◆◆◇◇◆◆
「おや、シガレット、こんなところまで、どうしたでありますか?」
リコッタの発言は、何も、シガレットのような見た目の―――いかにもアウトドアな武闘派な―――人間が、このフィリアンノン城内に存在する大書庫に居る事が似つかわしくない、と言っている訳ではない。
そも、生前はどちらかと言えばインドアな趣味を持っていたシガレットは、現世に於いても読書が趣味であり、よく―――余り暇はないのだが―――書庫から本を借り出していた。
故に、リコッタの疑問は、こうだ。
書庫内の尤も奥まった位置にある、自身の研究室にまで来るなどと、一体、何の用事なのか、と。
「今日は一日中、お片づけの予定だったのではないでありますか?」
「うん、マルティノッジのお屋敷の私室の整理は終わったけど、次は王宮内の部屋をね。―――その前に、リコたんに借りてた本を見つけたからさ」
返しに着た、と。
シガレットは片付けの途中で見つけた革表紙の本をリコッタに差し出す。
本を受け取ったリコッタは、うん、と小首を傾げる。
「これ、いつのでありますか?」
「―――多分、オレが鉄球親父にぶっ飛ばされてガレットに連行される前に、リコたんと会ったばかりの頃の僅かな時間当たりだと思うけど」
「……ああ、思い出したでありますよ! 晶術関係の本が欲しいと、シガレットに貸してあげた記憶があるであります! ……そういえばその後、返してもらった記憶が無いと思ったら……」
持ってたでありますね、と口を尖らせるリコッタに、シガレットは苦笑しながら謝罪の意を表する。
「借りて、読もうと思ってたら、後で直ぐにガレットに運ばれちゃったからね。机の上におきっ放しにしてたら、片付けてくれたマルティノッジのお屋敷の人が、オレの私物だと思っちゃったみたいで」
棚に置きっぱなしに成っていたのを、漸く今日、発見したと。
「うう、私もう、これと同じ本を買っちゃったでありますよ」
「うん、マジでゴメン」
革張りの専門書ともなれば、それ相応に値段も張る。
ましてや、パスティヤージュの外にはめったに流出しない―――と言うか、かの公国以外で専門的に研究している国は殆ど無い晶術関係の本とも成れば、尚更。
今度何かで弁償すると、涙目のリコッタの頭を、シガレットは謝罪の意を込めながらポンポンと撫でた。
そろそろお気づきかと思いますが、毎度新規書き下ろし分を入れ込もうとしている関係で、各話の長さはてんでバラバラです。
まぁ、元々の公開時も、行き当たりばったり度が高かったから長さがまちまちだったし、うん。
仕様です仕様。