ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition 作:中西 矢塚
エラい久しぶりな理由はまぁ、仕事が忙しかったのとそれ以上に惑星ミラの探索が……。
七章終わってドールを手に入れて現在レベルが四十台。
ドールの柔らかさはもうちょっとどうにかならんかなぁ。強いは強いんだけど。
『おう、ちょっと見ない間に随分と色男になったじゃねーか、クソガキ』
「うっせーなぁ、チクショウ」
通信ウィンドウの向こうでニヤニヤと笑っているのは、伝説の魔王ヴァレリーその人である。
シガレットにとってみれば、母親の友人の近所のウザいおっさん程度の印象しかなかったが。
実際、いい感じにウザいのだ。
今日も今日とて、両頬を紅葉模様で飾っているシガレットを、実にいやみったらしくあざ笑っていた。
『嫁に寝室から蹴り飛ばされた挙句、逃げ込んだ愛人にはぶっ飛ばされる。いやぁ、モテる男はやることが違いますなぁ?』
「アンタに言われたくないぞスケベ親父。大体、逃げ込んだわけじゃない。……いや、だからひっぱたかれたのかもしらんけど」
『おーおー、お前そんなんでよく愛想つかされないな』
「うるっせ」
痛んだ頬を押さえながらシガレットは呻く。
―――尤も、頬の痛みよりも背後の視線のほうが、痛かったが。
彼女はプライベートを仕事に持ち込まない秘書官の鏡である。
当然のように、政務を執り行うシガレットの補佐を、この日も行っていた。
楚々とした態度で。
それは、実際はただ、意地を張っているだけだ。
嬉しいのを我慢して。
だからそう、強引に力押しで説き伏せてしまえば万事上手くいく話なのである。
傍から見ればそれは、簡単に解ることだ。
実際、ヴァレリーから見れば、一目瞭然だった。
『若いねぇ、全く』
「知った風な口きいてんじゃねーよ、エロジジイ」
『知らんでもない話だからな。おう、実際お前さんと似たような状況に嵌ってたヤツ、知ってたわ』
そいつは何とか上手くやったけど、と嘯くヴァレリー。
「是非ともその人を紹介してくれませんかね?」
後学のために、と前置きしながら尋ねるシガレットに、ヴァレリーはヘラっと笑いながら肩をすくめた。
『しても良いけど、ソイツもう死んでるぞ』
「あん?」
『ああ、顔がそっくりなヤツは丁度お前さんの傍にいたか』
「お前、それ……」
長寿な老人の物言いに、シガレットも見当が付いた。
何しろ丁度、半透明の空中モニターの向こう側の壁に、その肖像画が飾られている。
ガレット領主の執務室を囲うように配置された、歴代領主達の肖像画。
その中の、ひときわ大きな額に嵌められた一枚。
『おう。獅子王を自称するエラっそーなことこの上ない、マギーの兄貴、俺が現役だった頃のガレット領主だ』
「魔物が跳梁跋扈していた時代に、何故か領土拡張に成功していた伝説の領主ではあるんだけど……何度見ても女顔だよなぁ」
美男子と言うよりは、男装の令嬢と言われた方が信じられるような容姿である。
なにしろ、継承順に並んでいる歴代領主の肖像画の一番最後の、最も新しい一枚。
つまりはガレット前領主で現領主シガレットの妻である女性と、瓜二つなのである、この偉大なる獅子王は。
『アイツの時はどんなだったか。確か、隣の国の三番目の姫さんを二人目の嫁として迎え入れるって時に、幼馴染のメイドとの関係が嫁さんにばれて、その件で嫁さんが……』
「すいません、胸が痛くなりそうなのでそれ以上は聞きたくないです」
全く他人の気がしなかった。
『実際他人じゃなくてお前に取っちゃ叔父貴だからな』
「ウチの母親のお兄様でしたね、そーいえば」
『おう。顔はお前の嫁さんにそっくりだけど、性格はほんっとお前と似てるな。外面は豪快そうに見えて、意外と内面はみみっちくてなぁ。マギーの無茶に振り回されて、いつも頭を抱えていたっけか』
「そりゃ、気分で真竜に挑みに行くような妹が居たら、頭も抱えたくなるだろうよ……」
しかも一国の姫である。
戦乱の時代とは言え、やることがぶっ飛びすぎだ。
『私より強いやつに会いに行くってのが、マギーのレゾンデードルみたいなもんだからな。ありゃもう、ああいう生き物だから仕方ねーわ』
「おぅ、母親のことを酷く言われてるような気がするのに、全く酷いハナシな気がしねーわ」
むしろ、関係各所に血縁として謝罪行脚にでも行ったほうがいいような気がしてくるから不思議で―――もなんでもなかった。
『最終的に、地力で空を飛んで空巫女を殴りに行くとこまでいったからな、ヤツは。俺は今でも本当に殴りたかった対象は空巫女じゃなくて星鯨そのものだったと疑っているんだが……』
「疑うまでも無くそれ事実なんじゃねーの。答えなんか知りたくないから確認は絶対にしないけど」
『おう、そーしとけ。こんなくっだらねーこと考えてないで、お前は後ろのお嬢さんを納得させる方法でも考えとけや』
「余計なお世話だよ、クソジジイ。―――で、そろそろ何か見つかったかよ?」
『アー坊はほんと、魔王様に対する敬意ってもんが足りねーなぁ……いや、その辺マギーのガキらしくはあるんだが。……ふむ』
爺くさいため息を吐いた後、ヴァレリーは机に広げていた本から顔を上げて、一つ頷いた。
実はこれまで、会話中。
彼はずっと、机の上に積まれていた大量の古書と格闘していたのである。
何を調べていたか、と言えば。
『星鯨の内部に魔物、か……。そもそもこの地上では空海自体が空想上の産物みたいな扱われ方をしているからな』
「古い時代の本でも?」
『あの頃かそれ以前の時代の方がよっぽどだろ。今と違って、空の海にロマンを馳せるような余裕がある訳じゃなかったんだから』
「空を泳ぐ鯨より、地上を徘徊する魔物の対処の方がよっぽど切羽詰ってますか」
『俺たちも空の上に行ったときは、聖剣をパクって地上にとんぼ返りだったしな。上のことは正直よく解らん。後で好き勝手に出かけていってたらしいマギーが一番詳しいんじゃねーか?』
「母さんなぁ。今、竜の森に行っちゃってるから捕まらないんだよ」
先日、竜の森に行ってきたとシガレットが報告した折、何か琴線に触れるものがあったらしく。
マーガレット・ココットは夫と子供達とともに竜の森に旅行へと出かけてしまった。
『今度は新しい運河とか出来なきゃ良いけどな……』
「……俺は何も聞かなかった。いや、大丈夫だろ父さんがついてるし。多分、きっと」
『お前の叔父貴もたまーにそーいう顔してたな、そういや。まぁ、兎も角、アレだ』
気を取り直して、と一つ咳をする大魔王。
『アー坊も知っての通り、星鯨ってのは守護の力の流れに溜まった不浄を取り込み、浄化を行う存在だ。その存在ははるか太古の時代から語り継がれてきた訳だが……』
言いながら、ヴァレリーは、星鯨のえが描かれた年代物の巻物を指で叩く。
それは、彼がこの時代に目覚める前、パスティヤージュ王国の王子であった時代に収集したものであった。
その当時においてすら、『古書』というカテゴリーに分類されていたものだ。
『不浄とは形無き力の流れだけとは限らない。いやむしろ、俺様の推測が正しければ……』
何か、カタチのある悪い物を身の内に封じている可能性もあるだろう。
魔物学者ヴァレリーは、友人の息子の質問に、そう返した。
「そりゃ、竜の巫女が勇者を迎えに繰るような事態だから、厄介ごとだとは思ってたけど……よりによって超厄介な話かよ」
解っていたけどさ、とため息を吐くシガレット。
竜の巫女シャルが、管理地たる森を飛び出して勇者達に救援を求めて飛来した。
時を同じくして、渡りの巫子たるシガレットもまた、渡り神の宣告により空に異常を感知した。
シャルと勇者とその仲間たちが、現地である空海へと調査へ向かい、シガレットはこの手の問題の第一人者である魔王へと情報の提供を求めた。
その結果、解ったことは。
「俺も行くべきなんだろうな、上に」
ところで、先日のフロニャ祭りでは四期の発表は無かったらしいですね。
まぁ、現場的には何故か未だに三期の作業が続いて(ry
いやまったく、ドッグデイズは(何時までたっても作業が)終わらないコンテンツになりましたね。
あ、因みに後二回くらいでこのSSも終わりだと思います。