ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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少年編・2

 

 

 ・ ̄月@日

 

 帰りの馬車の乗客が増えているであります。

 

 と言うか、私のひざの上に乗っけてあるんですけどねー。

 なにこの可愛い生き物。飴上げたら懐かれたんだけど。

 ははは、愛いやつ愛いやつ、ほれ、マシュマロもっと食べなさいであります。

 おぉおぉ、ほっぺたリスみたいになってるでありますよ。

 真似するなでありますか? ははは、嫌であります~。

 ほれほれ、空気でほっぺた膨らませるなら、マシュマロ詰めるのが良いでありますよ~。

 

 ……ああ、癒される。

 

 小さい子は無邪気で良いねー。

 そこに居て笑ってるだけで空気が明るくなるというか―――うん、微妙にしょんぼりさんと緑の人の視線が恐いんだ。

 別に私が望んで膝の上に抱えてる訳じゃねーっつぅの。

 コレでも精神年齢三十路過ぎの日本人だぞ? こちとら公園で子供に話しかけるのすら命がけの世界で暮らしてたんだよ!

 つーか人がのんびり昼飯食ってるだけなのに職質仕掛けてくるんじゃねーよチクショウ!

 

 ……はっ!?

 

 ええっと、現状ですが、もう実家から帰宅する途中です。

 およそ半月ほどの滞在、いやいや、久しぶりの故郷の空気も……。

 ごめん、嘘。実家への滞在時間合計二時間くらいしかなかったと思う。

 本当はチャンバラの訓練とかもお休みしてぐて~っとのんびりしながらチョコボと戯れるだけで半月潰すつもりだったんだけど、気付けば王都に居るときと全く変わらねーわ。

 つか、白髪王子に絡まれ続けてたぶん、王都の時より動き回ってた気もします。

 ほんっと、脳筋の国の人たちは最後まで脳筋で困るわ~。

 あいつら多分、『会話』って単語を辞書で引くと『殴り合い』とか説明書きに入ってるんだぜ。

 最終的に噂にたがわぬ姐さんの強さも体感することになったし。

 

 一体どうやったら輝力でリアル隕石を落とせるようになるんだ……。

 

 いや、お前も大概じゃねーかって言う緑の人の意見も尤もな気はするけど、そこはホラ、私の場合はただの人間ミサイルだから。

 姐さんみたいに打ち上げたマグマを空中で固めてメテオフォールとか無茶なことしてませんからー。

 え? 羽? 羽根くらい頑張れば緑の人も生えてくるって!

 緑の人だって剣ビームとか出来るじゃん! 原理はアレと大して変わらんよー。

 

 ……なに、しょんぼりさん?

 え? あのキックなんて名前かって? キミあれか、技名とか一々気にするタイプか。

 ははは、そんなのある訳ないじゃん。

 と言うか、攻撃に一々技名つけるとか、それはアレか、攻撃中に叫ぶのか。

 どんな無駄……って、姐さんも白髪王子も叫んでたねー。

 ―――ああ、そうね、そうよね。

 僕らやってるのって言ってみればヒーローショーみたいなものだから、見栄を切るのとか大切ですよね。

 騎士学校で習う立ち居振る舞いも、妙に芝居がかってたりするもんねー。

 この調子だと、そのうち登場シーンでポーズ付け始めたり……って、そこで『やらないの?』って方向から不思議な顔されると、奥ゆかしいことで有名な元ニッポンジンとしては辛いんだけどなー。うん、ただ自己主張に欠けてるだけとも言われる人種だけど。

 アレかな、やっぱり飛べる人としては、浮き島の淵から滑降とか決めると喜ばれるところなのかな?

 なんかこう、ド派手なマントとかつけて―――まて、目を輝かせるなしょんぼり!

 キサマは部下にどんな仮装をさせるつもりだ!

 恥かくのは上司のお前だぞ!

 

 

 ・+月&日

 

 リスさん……じゃないや、えっと、り……リコ……リコたん?

 違うでありますか? 

 いや、『たん』付けのほうが可愛いって。定着したまま大人になると、毎日羞恥プレイだけど。

 羞恥プレイが何かって……うん、秘書の人にでも聞いてらっしゃいな。きっと色んなプレイ知ってるから。

 

 と言うわけで、おやつの時間に新しいメンバーが加わりました。

 その名もリコたん、五歳です。

 王立学術院に研究員として在籍している、天才美幼女なんだってさ~……って、どうよしょんぼりさん、緑の人。

 未だに初等部一年生の我が身と比較して、年下に学歴ボロ負けしてる今の状況。

 ―――うん、私もですけどね。

 まぁ、それは兎も角天才幼女なんて存在がいたなら、とっくに気付いてた気がするんだけど、実家に戻った時まで、全く気付かなかったとはこれ如何に―――……へぇ、留学。

 脳筋の国へ、国費でねぇ。ふーん、優秀な人材だから、早めに外の世界も見せておこうと。

 そうね。ちっちゃい子供が学者先生ですとか言って、図書館の中だけで偉ぶってたりしても困るもんね。

 

 ……でも、天才幼女を脳筋の国に送りつけるとか、どんなイジメだよ。

 

 あそこの連中は右から左まで女子アナのお姉さんを除いて余すところなく脳筋しか存在しない修羅の国だぞ。

 そんな殺伐とした世界に幼女一人を送りつけて―――いやいや、そりゃ解ってるけどね。

 国土に海があるってことは船作ってるってことで、そういう繊細な道具を作ってるってことは、技術レベルとかもやっぱウチより上なんでしょうよねー。

 ついでにアレだけ年から年中戦争に明け暮れてるのに国庫破綻しないんだから、随分優秀な官僚団が組織されてるんでしょうよ。

 それに比べるとビスコッティは主要産業が農業って時点で、割りともう程度が知れてるというか……いや、身の丈にあってるとは思うんだけどさ~。

 いいよね、ビスコッティ。平和でのんびり、戦争とか殆どないし、あっても芋掘り大会くらいだし。

 ず~っとこうやって、のんびりお茶呑んでられる生活が続けば良いんだけどねぇ。

 

 ……なんすかメイド一号さん。

 え? 馴染んできてる? そうね。初めはお姫様と毎日お茶してるとかおかしいとか言ってたもんね。

 気付けば一年半、逆に新キャラを迎え入れる立場になってるしねー。

 まぁ、リコたんは癒されるから、アリだね。白髪王子とかは喧しいからマジ勘弁だけど。

 ん? 何よ緑の人~……え? 現実逃避するなって?

 

 ハハハ。何のことやら。

 

 

 ・Ц月Ψ日

 

 やせい の がうる が とびだしてきた !

 

 帰れ! 私の癒し空間に出現するな!

 

 ―――あ、ヤベ。謁見中に思いっきりとび蹴り食らわせちゃった。

 だってホラ、キャラに似合わぬ殊勝な態度とってるんだもん。背中見せたら蹴っておきたくなるじゃない。

 HAHAHA、スイマセン領主代理様。

 先を続けて……うわ、反撃してる場合じゃねぇだろ白髪!

  ちょ、カメラ入ってるんだから自重しろっての脳筋!

 ―――ん? 何よ緑の人、今ちょっと……うん、そうね。私が全面的に悪いですね。

 

 まことに申し訳ありませんでした。

 

 うん、本当にごめん。主にしょんぼりさん。初のご公務中に、部下が不始末を―――いや、私だけど。

 ……と言うか、ただの笑い話で済ませてくれる辺り、本当にこの国平和で結構と言うか。

 何? コレを理由に戦争しかけてやるって?

 黙れ白髪。お前の国そんな理由なくったって平気で侵略してくるだろうが。

 って、あ、ちょっと、秘書さんたら、目が恐いんですけど……。

 

 

 ―――暫らくお待ちください。

 

 

 ……と言う訳で、白髪王子君が我らがフィアンノン城に乗り込んできました。

 何しに来たのって話なんだけど、お預かりしていたウチの天才幼女さんをお送りするついでに、お世話になりましたってご挨拶だって―――お世話? ああ、そういえばウチの国内だったもんね、牧場。

 暇そうだから折角の機会だしお前行っておけってことか、子供のお使いだなぁ、おい。

 良く考えたら白髪王子とウチのしょんぼり姫って、同い年だもんね。

 こうやって遊び半分お仕事半分で、だんだん比重を仕事方面に傾けていくんだろうなぁ。

 しょっぱなから台無しにした私が何か言えた義理じゃないけど。

 って言うか白髪。アンタ仕事終わったんならとっとと帰ろうぜ。呑気にお茶なんか飲んでないで……は?

 

 迎えが来るまで泊まる、ですか。

 

 いや、今すぐ帰れ! そのフリだと嫌な予感しかしないわ!

 

 

 ・Χ月Ξ日

 

 逃げろ! 何か凄いのが来たぞ!

 

 何がどうとか説明仕様がないけど、なんていうか一目見て解る! 

 アレは駄目! 死ぬ! 撤収撤収、早く逃げようぜ!!

 

 具体的に言うとゴツいおっさんがフルプレートの黒い鎧着て棘付きの鉄球を振り回しながら満面の笑み浮かべてる感じ!

 つーか恐ぇよ! 何アレ!? 新手の化け物!? 人造人間か何か!?

 おい白髪、白髪! 寝てる場合じゃない、起きろ―――って、さっき私が乱闘の末物理的に寝かしつけたんだけどさ! 

 チクショウ、肝心な時に役立たずめ!

 

 って言うか本当になんなのあの巨人は!

 白髪の部下って萌え担当の三馬鹿だけじゃ無ぇのかよ!!

 

 ……はぁ、白髪の直属の部下でございましたか。

 いやハンサムさん、冷静に解説してないで、ごめん、助けて!

 ―――は? ああ、白髪の引きで叩き上げからの出世だから、忠誠心が凄い……うん、上司に恥を欠かせた私を無礼打ちしに来たとかならまだ理解出来るんだけどさ、この人明らかに笑いながら私を殺しに来てるよね?

 どっからどうみても修羅の国のバトルジャンキーじゃねぇか!

 お前らもうちょっと王族の周りに置く人材には気を配ろうぜ!

 お陰ですっかり白髪までバトルジャンキーじゃねえか……いや、元からか。

 

 って、うわ!? オッサンちょっと、マジ、一旦落ち着……あ、ヤバ。

 

 

 ・л月#日

 

 ―――久しぶりに日記を開いた訳だけど、全開の日付を見たら二年前になっていた件。

 

 日記を部屋に置き忘れていることに気付いたのがこの間だったって話なんですがね。

 この間向こうに戻った時に初めて気付きましたよ……と言うか、捨てられてなくて良かったというか、部屋が残っていてありがたかったと言うか。

 ―――まぁ、つまり。早い話が私の現在の状況ですが、城に住んでます。

 ああ、勿論フィアンノンじゃなくて、ヴァンネット城に……ええ、現在地はガレット獅子団領国。別名修羅の国です。

 

 どうしてこうなった……本当に、ど、う、し、て、こ、う、な、っ、た!!

 

 そりゃ日記がないことにも気付かないよねー。

 毎日毎日修羅の国の荒くれどもとガチンコやってりゃ、机に向かって書類整理とかしている文化的な行動がおかしいことに思えてくるもん。

 いや、うん。

 修羅の国にだってまともな人は居るらしいんだけど、ホレ、私の周りにいる連中って基本的に殴りあい上等の人たちばっかりだから……そこらを歩いているメイドさんですら格闘術を嗜んでるんだから、割りと救いようがないわ。

 此処、一応国政の中枢で、お前ら皆国の代表だよなぁ?

 特に白髪とか白髪とか白髪とかあと鉄球おじさんとか。

 三馬鹿は……うん、一番頭使って動いてくれそうな黒いちびっ子がフィアンノンにいっちゃってるから、ツマのない刺身みたいな状況だから仕方ないか。

 ハンサムさんとか人気女子アナのお姉さんとかは、やれやれって笑ってるだけで何もしてくれないしなぁ。

 

 と言うか、何で私は他国の人間なのに白髪王子と鉄球おじさんとあとついでに三馬鹿マイナス一の書類を替わりに整理してるんだろう。

 この判子俺が使って良いの? ド・ロワ家の紋章入ってるんだけど……。

 何すかメイドさん。あ? 良いんだ。と言うか次から次へと羊皮紙重ねてくの止めてくれない?

 え? 隊長だけが頼りですって?

 

 ……あのさぁ。

 

 ど う し て 私 が 白 髪 の 親 衛 隊 長 扱 い さ れ て る ん だ よ ! !

 

 そこで、『え? 違うの?』って顔するの止めてよ! 

 この間フィアンノン城に戻った時も私はガレットの人間って思われてたしさ!

 

 どうしてこうなったの。

 本当に、どうしてこうなったの……!?

 

 

 ・Θ月Λ日

 

 あの日のことは今でも忘れない。

 鉄球おじさんが鉄球を振り回して襲い掛かってきたのを、伸びた白髪を立てに防ぎきろうとして―――まぁ、一緒に壁に叩きつけられてノックアウトだったんですけどね。

 

 で、目を覚ましたら何故かガレット獅子団領国王都。

 領主閣下が住まうヴァンネット王城にございました。

 因みに領主様は白髪王子の祖父に当たる筋骨隆々の老師。身長二メートル超えてそう。

 まぁ、その辺は省略として何で私は隣の国の王様の前に簀巻きにして放り出されているんだといえばようするに物理的な意味では三馬鹿の悪乗り以外のなんでもないんだけど、諸般の事情的な意味でちゃんと説明してみると、アレだ。

 

 帰って来たリコたんの替わりにお前ちょっと留学してこいってさ。

 因みに、三馬鹿の黒いのとトレードで。

 

 きっとコレはあれだね。

 見聞を広めてくるようにとか言う上辺を並べて、実際は脳筋の国に対する生贄羊にされてるんだろうね私。

 おのれしょんぼり、今度帰ったらほっぺた思いっきり引っ張ってくれる―――いや、この間帰った時にやってきたけどさ。緑の人にもちゃんと蹴られたよ!

 リコたんに『いらっしゃいであります!』って素の笑顔で言われたのがリアルに悲しかったけど。

 あのねリコたん、私前に言った筈だよね? 私はビスコッティの人間だって。間違っても脳筋の国の脳筋じゃねーから。

 

 ―――って、ウサミミさん、ここの計算間違ってる。やり直し~。

 虎縞、テメェは枠外に落書きばっかしてるんじゃねぇ!!

 今日中にこの書類経理に通さないと、来期の運営予算通してもらえないんだぞ!

 そこのメイドさん、ちょっと三丁目の裏路地の酒場から鉄球おじさん連れ戻してきて! 

 一人で呑気に飲ませてなんてやらねーっつぅの!

 白髪? ああ、字汚いから清書で二度手間になるからそのまま寝かせといて!

 

 うん……ビスコッティ人……だよな?

 

 

 ・Σ月Π日

 

 まぁ年度末ってのは大変ですよね、会計処理が。

 通信設備とかライフラインとか微妙なところでハイテクが浸透してるのに、書類とかだと羊皮紙に羽ペンで手書きだったりするから侮れないんだよなぁ。

 木から紙作る技術も浸透してるのに、その辺時代がかってるっちゅーか無駄をする余裕があるのはいい事だというか。

 でも計算機とか誰か作ってもらえんかなぁ。

 流石にそろばんパチパチやるのは面倒くさくて適わんし……。

 原理だけ説明して、天才幼女の手腕に期待してみるか?

 あ、でも作ってもウチの国には売ってもらえないか……って、だから私はビスコッティ側の人間だっちゅうに。

 

 ええと、まぁ何ていうか、脳筋の国で生活を始めて早二年。

 私も気付けば八歳と……あ、もう直ぐ九歳になるのか。

 初めは国費留学生って立場だった気がするんですが、気付けば駐在武官みたいな扱いになって、そんでもって今ではガレットの身内みたいな扱いに……懐が広くてありがたいって喜ぶべき場面なのかなぁ?

 いや、堂々と白髪王子の部屋に間借りしてる人間が言えた口じゃない気はするんだけど。

 

 ただ飯食わせてもらう替わりに書類整理くらいなら手伝うぜーって言っちゃったのが最初の間違いだったんでしょうか。

 いつの間にか白髪王子の親衛隊の決済任せられる立場になってたぜ……!

 うん、虎縞とウサミミの駄目さ加減を知ってしまった手前、今更無責任に仕事を放り出せない自分の責任感が泣けてきます。

 白髪は字汚い計算遅いで書き物に向かん人間だし、鉄球おじさんはお察しくださいだし。

 つーか本当に、私がビスコッティに行った……帰ったら、帰ったらどうするつもりなのよ虎縞。

 もう『え? 帰るって何?』とかいう定番のネタは聞き飽きたからやるなよ!

 

 ―――ぁあ、黒いのに任すのね。

 

 そういえばあの娘、リコたんと会話のレベルが合う様な頭の良いおこちゃまの人だったねー。

 うん、ぶっちゃけこの脳筋の国で働くより、そのままビスコッティに就職した方が幸せになれるんでない?

 ……ん? 何だ虎縞、その目は。そのニヤっとした口は。

 

 ほぅ?

 私にはこの国が似合ってる、と……ほぉう? それはどういう意味で言ってるのかな、虎縞。

 その訳をじっくり……ふふふ、じゃあお望みどおり、身体に教え込んでやろうじゃねぇか、修羅の国の流儀で!

 ふはははは、今更謝っても無駄だ! こちとら三日徹夜で書類仕事でいい加減ハイテンションも極まってるからな! 少しは八つ当たりでもしないとやってられないっちゅーねん!

 さぁ虎縞、鉄球おじさんに吹っ飛ばされながら鍛え上げたこの私の足技の前にけものだまになるが良いわ!

 

 ―――って、こんな事やってるからこの国が相応しいとか言われるんだろうね……

 

 

 ・Ψ月Χ日

 

 私が八歳に成長したってことは、当然周りの連中も相応に成長してる訳で。

 最近は白髪王子の背がぐんぐん伸びてきて、人を見下ろすような視線が実に忌々しいです。

 ガキの頃から背が伸びすぎると成長期前に成長止まるぞとか笑って言ってやったら、真っ赤になって殴りかかってきたけど。

 と言うか白髪、まぁ私もだけど、二人して毎日毎日錬兵場で泥まみれになりながら乱闘してるんだから、筋肉も付いてきたよなぁ。

 そっち方面の意味で背が伸びなくなりそうで、最近恐いですよ私は。

 鉄球おじさんは相変わらず鉄球おじさんだし―――最近髪が伸びてきて迫力が増したけど。切ろうよって言うけど面倒って答えるんだよな、あのおじさん。

 ハンサムさんはそろそろ成人ってことで、なんだか声に無駄な色気が出てきましたよねー。

 お城のメイドさんたちにも大人気です。ハハハ、死ね。

 あ、戦場リポーターのアンちゃんは出世しました。

 スタジオ仕事が増えてきたねー。喧しいのは相変わらずですが。

 

 ―――まぁ、男のことなんてどうでも良いですね。

 

 女性陣は何と言うか成長早い……ってこともないかなぁ。

 良く解らん。良く解らんって言うとオトナなメイドさんたちに怒られるから自重してるんだけど、子供が子供に成長してるのを見ても、何の感慨もなぁ。

 せめて今の倍の年齢になってから―――ああ、一人だけ例外が。

 今私の目の前で紫の人にワイン注いでもらってる人なんですが、お前幾つだと全力で突っ込みたい人が居ました。

 

 え? 十歳? 

 

 ははは、嘘付け。十の位に二を付け足し忘れ……うぉ、フォーク投げるな!

 だってその片肘付いてグラス傾けてるふてぶてしい態度に、どっから十歳の少女を連想させる要素があるのさ!

 姐さんアンタ、頼むからもうちょっと歳相応のお姫様やろうよ!

 じゃないと将来女帝とか言われるタイプのキャラになるよ!?

 いやだから、そこで鼻を鳴らして足を組むとかしない!

 

 ―――うん、と言う訳で現在、いよいよ姐さんの呼び名が相応しくなってきたレオンミシェリ閣下のお部屋にお呼ばれしています。

 晩酌に付き合えってさぁ、でもね姐さん。

 アンタはもう十歳で飲酒適用年齢過ぎてますけど、私まだ八歳……うんごめん。

 こっそり買い込んでおいたワイン発見してくれたのは貴女でしたね。

 私も精神年齢三十過ぎですからたまには甘い果実絞り汁じゃなくて、辛口のお酒が懐かしくなるのさぁ。

 それでね、しょんぼりさんとか緑の人の目も無いし、悪い遊びも良いかなーと思って、ね?

 ―――うん、共犯者にするために酒の味を覚えさせたのは失敗だったかなと反省仕切りです。

 と言うか紫の人、気付いてたなら止めてくださいよぉ。

 貴女も話してみると案外アバウトですよねー。

 え? 酒のおつまみなら野菜食べてくれるからって? 子供にそんな理由で飲酒勧めるなよ!

 まぁ、姐さん最近はもう中学飛び越して高校生くらいの外見になってきたから―――腰のくびれの位置とか、普通に成人女性に近づいてきてるし。

 弟の方はあからさまにヤンチャボウズを地で言ってるのに、どうして此処まで差が付くのか……って、何?

 

 ―――普通、面と向かって我らの事をそこまであからさま言う人間は居ないって?

 

 そうねー。外交問題になりかねないですもんねー。

 でもまぁ今更だし、駄目って言われない限りはもうこのまま行こうかと。

 ポジション的には宮廷道化師的なモノを狙って。常在無礼講ってノリを大切に。

 ……はぁ、大道芸の一つでも覚えて見せれば死ぬまで侍らせてでもない、ですか。姐さん本当に女帝ポジが極まって来てるねぇ。

 ハハハ、気持ちはありがたいけど、でも死ぬまで芸人てのもなぁ―――って、あの、メイドさんたち?

 

 貴女方は何故そこでため息を吐いてるかー?

 

 

 ・Π月´日

 

 唐突ですが、命の危機のお時間です。

 

 馬鹿虎縞! 一人で突っ走るんじゃねぇ! 下がれ!

 ウサミミ弾幕足りてないよ!

 鉄球おじさんはとっととそこの白髪拾って撤収撤収! もうこっち放っておいて良いから―――いやもう、虎縞とウサミミも抱えていって良いわ!

 私一人の方が動きやすい!

 

 ……ああ、ごめん。今回は割りとマジなんで。

 普段の所謂『命の危機(笑)』じゃなくて、本気でマズイ状況です。

 具体的に言うと山の中で大雨で土砂崩れで部隊が分断されて挙句に狼の群れが襲い掛かってきております。

 いやもう、拙いわコレ。下手したら本気で死ぬかも。

 ただでさえ守護領域圏外の山中の街道―――街道()だね、もう―――で、紋章術に普段のキレが足りないってのに、相手が土砂崩れを誘引して部隊の分断を図ってくるような知恵とか持ってるとねぇ?

 

 全く以って、魔獣ってのは恐ろしい存在です。

 

 魔獣ってのは居る所にはそれは勿論居るもので、そしてその対処を任されるのは私のような騎士職に就いている者だと言うのは間違いないんだけど―――ちょっと今回は、荷が重いかなぁ。

 ただ一心不乱に獲物を追い求めてくる狂った獣であるなら、知恵を持った人間様として幾らでも対処可能なんだけど、野生の獣が人間に近い知恵を得てしまえば、これは始末が悪い。

 例えば群れを使役して大軍団を形成し、輝力を含んだ遠吠えで地盤の緩くなった傾斜に土砂崩れを誘発したり、あまつさえ引き連れた群れの中に身を隠して、姿を偽ってみたり―――って、コイツもはずれか!?

 現状私一人でも野生の狼十匹以上蹴り殺している計算なんですが、一向に群れが逃亡する気配がありません。

 これ、このまま一晩戦い続けたら、山の中の生態系が激変するんじゃねーの?

 

 ……その前にこっちの輝力切れが早いんでしょうが。

 

 まず、土砂崩れを利用されて本来主力であるベテランの騎士達と引き離されたのが最初の失敗。

 次に、その土砂崩れで白髪王子がヤバイ感じの怪我を負っちゃったのが―――ああ、ウサミミさんも足をやられて固定砲台以上の役割しか出来てないし。

 虎縞は状況の激変に気を囚われすぎていつもより動きが鈍いしい―――って言うかウサミミさんとあわせて、二人とも十歳行くか行かないかの華奢な女の子だもん、仕方ないよねー?

 私も間違いなくただの九歳児なんだけどさ!

 ―――あ、鉄球おじさんには白髪王子を守ってもらわないと色々問題があるので、攻勢に使えんのです。チクショウめ。

 

 にしても、これ本当にどうにかならんかね?

 一つの思考によって柔軟に運動して攻め立ててくる野生の狼の群れ―――攻めやすいところ見つけたと突っかかってみるとそれが罠だったりしてフクロになりそうで侮れないし。

 道から外れた山中の足場の悪い傾斜で、真っ暗闇の中で命のやり取りをするってのも、精神的にきつい。

 しかも何かこいつら、輝力が高い人間を優先的に襲ってきてるっぽいんだよなぁ。

 

 ……ええと、つまり現状、私なんですけど。

 ウサミミさんと虎縞は言うに及ばず、怪我して気を失ってる白髪と、戦闘力は別として輝力自体は実はそれほどって感じの鉄球おじさんが現存している味方だとすれば、うん、ビカビカ脚を光らせてる私を狙うよね、そりゃ。

 ホント勘弁、マジ勘弁。こんなの給料内の仕事じゃねーわ。

 って言うかそもそも私、脳筋の国から給料もらったことなんて無いっちゅーねん。

 ―――いやまぁ、だからって白髪達見捨てて逃げる訳も無いんだけどさ。

 うん、動物の首筋を蹴り上げる感触も気持ち悪いし、ちょっと愚痴りたくなるんです。

 ああ、もうヤダ。

 早く都市部の安全な場所へ引き上げて、姐さんとのんびり晩酌でもしたいわ。

 どうやら鉄球おじさんが白髪王子達を抱えて離脱することに成功したみたいだし、気付けば山の中に一人だし、狼の唸り声恐いし―――ああもう、誰か、ヘッルプ・ミー!!

 

 ―――ぉ?

 

 ……ぉお。

 

 ええと、突如として眼前でアニマル大合戦が始まりました。

 具体的には狼の群れ対犬の群れって感じ。

 つーか犬、めっちゃ強いな。狼の群れを叩きのめしてる―――っと、?

 頭上に薄っすら、金色の光。目を奪われた次の瞬間、眼前にボトリと―――何コレ、リス?

 掻っ捌かれた腹から、何か瘴気が出てるんですけど。

 

 ……ああ~、なるほどね。このリスが魔獣ですか。

 

 ああ、うん、なるほど。狼の群れを支配下に置いてるからって、魔獣まで狼とは限りませんよねー。

 つまり、やたら群れの動きが統率されてたのは木の上から状況を俯瞰してたから、ですか。

 うわぁ~、ひょっとしてこれ、何も考えずに必殺キック(名前未定)をぶっ放してれば速攻で終わってたんじゃねぇの?

 その場合は土砂崩れの二次災害が起きるような気がするんだけど。

 魔獣が死んだって解ったら、狼も撤収していくし……何か、知恵を働かす努力をせずに無駄な殺生をしちゃった気分だなぁ。

 

 ―――はぁ、元気を出すでござる、ですか。

 残念ですが私、気力だけで立っている状況なのでそろそろ限界なのです。

 大体ね、一人で劣りみたいな真似してましたけど、別に私も魔獣退治の経験とか殆ど無いですから。

 無理無理、もう無理、倒れていいですか? あ、良い?

 それじゃあ遠慮なく。おやすみなさ~い。

 

 ……ところでお宅は、どちらの巨乳さんでござる?

 

 

 ・Λ月Χ日

 

 目を覚ましたら姐さんにぶっ飛ばされました。

 そのまま何も言わずに部屋から出て行くもんだから、とりあえず言わなきゃいけないのかなぁと思って『ツンデレ乙』とか口走ってみたら、閉じられた扉の向こうで何かが粉砕される音が聞こえました。

 ……天井から埃が零れ落ちてきたのは、何も考えるなと言うことなんでしょうか。

 

 え、何よ虎縞?

 

 ツンデレがツンデレに向かってツンデレとか言ってて笑える?

 黙れ。お前は良いから、黙って白髪王子の病室でも見舞っておけや。

 お前居ると、私が休めないから! ホレ、そこで伏せてるウサミミさんも運んでいきなさい。

 

 あん? 『はいはいツンデレ乙』じゃねーよ、うるせーなチクショウ。

 もういいから、とっとと出てけ!

 

 ……ふぅ。

 ええと、ヴァンネット王城です。

 森の中で狼の群れと乱闘して気を失って、目を覚ましたらお城でしたとかどんなファンタジーと言うか、もう童話の世界じゃねーの。

 しかもスゲェ。この部屋多分、貴賓室だぜ?

 つまりコレは、ガレットは私のことをちゃんと『お客』だと認識しててくれたってことだよね!

 ―――え? 何でしょうかメイドさん。

 と言うか二十台半ばで堂々とミニスカフリフリのメイド服を着こなしている貴女は、本来姐さんの御付の方じゃ……はぁ、姐さんのご好意ですか。

 そうね、いつものように白髪王子の仕事部屋の脇の簡易ベッドとかに放り込まれてたら、流石に泣きたくなるもんね。

 あれだけ血を流したんだからたまには良いベッドで寝かしてもらうくらいの役得が無いとねー。

 ハハハ、役得役得……って、あの、メイドさん。

 

 だから変なタイミングでため息吐くのやめようぜー?

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

「いやぁ、拙者、あの頃は本気で、シガレットはガレットの人間だと信じて居たでござるよ」

「うん、今思い返すと、オレもあの辺りから本気でガレットに取り込まれかけていた気がする」

 ユキカゼの言葉に深々と頷くシガレット。

「レオ様とシガレットが、目に見えて仲良くなり始めたのは、あの頃」

 その横で、ノワールがボソリと付け加えた。

 

 風月庵。

 竹林に囲まれた藁葺き屋根の和風屋敷の縁側で、彼等はしみじみと懐かしい頃を語り合っていた。

 部屋の片付けはどうしたか、と言えば。

 

「修行でしばらくこっちに寝泊りするからって、何も、女の子が男の部屋をそのまま使わんでも」

「それを言ったらシガレット。何も無理して、部屋を片付ける必要もござらんよ」

「うん。今更レオ様もそんな事気にしない……しない、かな?」

「いや、アレでなかなか、そういうの気にする人なんだ、あの人」

 

 疑問符を浮かべるノワールに、シガレットは肩を竦める。

 しかも、シガレットに対する怒りと言う方向に感情ベクトルを向けるのではなく、自身の不甲斐なさ―――女性らしさ、と言う意味で、色々と思い悩んでいるらしい、当人的に―――にしょぼくれる方向に進むのだから、シガレットとしてはいたたまれないのだ。

 

「いらない負担を押しつけるのも、まぁ、なんだし。このくらいは自主的に」

「おお。男の甲斐性と言うヤツでござるな」

「というか、ノロケ話?」

 

 遠くで鹿威しの音が鳴る。

 夏も間近の、青い空。

 

 ―――風鈴の音が足りない。

 

 膝の上に乗っかってきた隠密犬の背を撫でながら、シガレットは残念に思った。

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

 


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