ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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少年編・3

 

 

 

 ・"月и日

 

 ビスコッティ騎士団隠密部隊。

 サムライとニンジャと賢いワンちゃんで構成された、まぁなんていうか、どちらかといえば裏方仕事を担当する部署と言うか、隠密って書いてあるんだから読んで字の如くですね。

 先日の魔獣発生事件に対する対処に手間取っていた私達を救援してくださったのは、たまたま近隣を回遊していたこの部隊だった訳です。

 今は、お見舞いと言う事で金髪の巨乳さんが―――五年後の姐さんすら凌ぎそうな巨乳、巨乳万歳さんが、いらっしゃっています。

 

 て言うか、他国の隠密に国内に踏み込まれてるとかウチの国ヤバくねー?

 

 ……とか、挨拶の傍ら素で考えてしまって、そのあと私もその他国の人間だったって思い出して欝になった。

 そりゃ、三年も居ればいい加減間違えやすくもなるわ。

 ましてやつい先日までガレットのために命かけてたとあっちゃぁ。

 そろそろ転属願いとか出すタイミングだったりするのかね~って、え? ああ、そうね。そんなことしたらしょんぼりさんがしょんぼりするでしょうよねぇ。

 ははは、否定なんてしませんよ狐さん。所謂幼馴染的なアレですしね、しょんぼりさんと緑の人辺りは。

 

 え? 姐さんに請われたらどうするかって?

 

 それこそ無いですって、ホレ、あの人ツンデレだし―――って、なに!? 窓から石が!?

 そんなにカリカリしてても何もしませんってば!

 パツキンで歳に見合わぬ巨乳の狐耳が目の前で笑ってたって、流石に初対面で―――え? うん。紫の人のサインならちゃんと全部保存してあるよ? 悪い?

 あ、オイちょっと待て、人がベッドから動けない時に家捜しするなよ!? おいこら、待て、お願い待って!! ちゃんとガキの頃姐さんもらったミミズののたくった字で書かれたサインも持ってるから! ね!?

 って、余計に駄目だったかー!!

 

 ……ええとね、狐さん。

 そんな訳なんで、しょんぼりさん達には元気ですのであんまり心配しないようにお伝えください。

 

 うわぁ、年上の女の人に苦笑されるとすっごく恥ずかしいんですけどねー。

 ワンコの集団まで笑ってるし。

 まぁ、シリアスに命のやり取りしてるよりは、マシ……かな、うん。

 平和が一番。

 

 

 ・Γ月゜日

 

 不定期に開かれる戦争然り、先日の魔獣討伐―――じゃなくてアレ、本当は街道の安全確保のための害獣駆除だけの予定だったんだけどなぁ。

 まぁ、兎も角。

 銃火器に代表される近代的な兵器の無い世の中に於いて―――もっと言えば職業騎士なんてものが存在する世界であれば、当然冗談でもなんでもなくこんな存在も発生する。

 

 曰く、『大陸最強の剣士』。

 

 ハッハ、ワロス。

 とか言いたい場面ではあるんだけど、これが残念、マジなのである。

 具体的に言えば怪我の治った白髪王子が鎧袖一触って感じ。

 ヤベェ、チート臭い強さだ。一応白髪王子って強い方の人だった筈なんだけどなぁ。

 ぱっと見の印象としてはのんびりした空気を纏っている女性なんですけど、反りのある片刃の大剣を一度引き抜いたが最後、ぐわっときてど~ん。白髪は死んだ。……って感じ。

 因みにこの方、ビスコッティ騎士団隠密部隊の棟梁さんです。

 基本的に課せられたお役目にしたがってあっちゃこっちゃうろついている方らしくって、私も会うのが初めてだったりします。

 腰まで垂らした三つ編みに隠れた、騎士服の上に羽織った羽織の背中に堂々と刻まれたマークが、家紋みたいで―――なんつーか、武士の人って感じ。

 流浪人ってやつですかね、多分。

 いや、主武装が叩き潰す系の大剣ですけど。しかも輝力纏わせてるから岩とか白髪とか鉄球とか余裕で割るぜ?

 にしても、この流浪人さんも、金髪巨乳の巨乳狐さんも、隠密部隊の人は和装をしないといけないとか言う決まりでもあるんかねぇ。

 何か久しぶりに見たよ、和服。ミニスカっぽかったり袖が無かったりなんちゃって感が強いけど。

 どっかの国が召喚した当時の勇者とかが無理やり流行らせたとかだったりしてな。

 

 しかし、久しぶりに和服とか見てると、ついでに米とか味噌汁とか緑茶とかも食ったり飲んだりしたくなってくるというか……なんでしょうか、巨乳狐さん。

 

 え? あるの?

 

 わーい、行く行く。

 

 

 ・Ι月Ο日

 

 鹿威し……鹿威しの音が聞こえる!

 って言うか何故竹林!? 西洋風の大使館の脇に、何故和風庭園と草庵がある!?

 最近全く感じてなかったけど、今日は久しぶりに別の意味でファンタジーな気分を味わってるぜ……!

 うん、キミ達タイトのミニで座布団の上に正座するとか、チャレンジャーだよねーとか、突っ込まないのがマナーなんでしょうね。

 お茶が美味しいから、はしたないとかって他人の趣味に文句をつけるのは駄目だよね、うん。

 それにしてもお茶請けに煎餅とか、ヤベェ、涙が出てきそうだ。

 

 ん? ああ、いやいや全然。国境付近の田舎の牧場の生まれですよ僕は。

 へー、ほぉ。ああ、こういう和風っぽい地域もあるんですね。

 あー、いえ、その辺お察しくださいってことで。

 勉強熱心な私は、資料で異世界の情報を見たとか何とか多分そんな感じ。

 そうねー、ちょっとこののんびりした空気に、気が緩みすぎてたねー。

 いや別に、転生がどうのとか、ばれても『個性』の一言で済ませてくれそうなヌルい空気が蔓延してる世界だけどさ。

 でもサムライとかニンジャとかに下手に隙を見せると、いざって時に背中からズバーって行かれそうだしなぁ。

 

 え? 他国の王配にそんな真似しない?

 ……ごめん巨乳ニンジャ。誰が何だって?

 いや、婚約者とかでもないから。そういうボケとか要らないから!

 そうよねー。お宅ら冷静に考えれば、私がビスコッティの人間って事にも気付いてないもんねー。

 うわ、驚いてる。マジで驚いてるぞこの和風コンビ。

 お前ら一応定期的にフィアンノン城に顔出してるんだろ? しょんぼりさんとかから何も聞いてない訳?

 

 ―――はぁ、『新しい仲良しが出来ました。ヴァンネット城で暮らしてます』ですか。

 うん。どう考えてもガレットの人間だと思うわ、私ですら。

 いやでもホラ、違うから。私これでも、ビスコッティ騎士団の百人長待遇なんだけどなぁ、いつの間にか。

 何時見習いを卒業したんだとか、叙任式とか受けた覚えねーよとか、もう突っ込む気も起きないけど。

 多分、しょんぼりさんをいつもの調子であしらってるうちに叙任しちゃってたんでしょう。

 それとも、八歳の誕生日祝いだとかで白髪王子の爺さんがくれた勲章っぽいのとかがそれだったのかなー?

 

 そういえば、流浪人さんはウチのイケメン騎士団長とどっちが偉いの?

 ……はぁ、自由騎士でござるか。じゃビスコッティに籍だけ置いて、たまに剣術指南とかですかね。

 へぇ~、ああ、緑の人を鍛えてきた、と。止めようよ、私がボコられるケースが増えるから。

 え? 何よニンジャ。味方じゃないのかって?

 

 ハハハ、味方だからボコられるんじゃん!

 

 

 ・¨月‐日

 

 流浪人と巨乳ニンジャが去っていったのと入れ替わるタイミングで、三馬鹿の黒いちみっこが帰ってきました。

 ははは、やったね!

 これで書類仕事がちょっと楽になるわー。

 助かる、本当に助かるわー。帰ってきてくれて本当にマジで感謝。

 リコたん仕込みの事務仕事テクニックを、思う存分発揮してくれたまえ!

 

 ……と言う訳でちみっこ、ウサミミさんと虎縞はキサマの管轄だから、宜しく。

 文句言われても知らんわ! こっちは外で乱闘してる白髪と鉄球オヤジの代わりで手一杯なんだよ!

 あいつらホレ、この間の魔獣騒ぎであんまり活躍できなかったことに思うところがあったらしくて、最近は訓練訓練また訓練ってのばっかりだし。

 まぁ、周り皆頑張ってたのに、一人で伸びてお荷物でしたとかって結構プライドに関わるだろうから、仕方ないとは思うけどさぁ……って、意外な顔するなよ。

 私だってホレ、一応男の子ですから。

 勝ちたいとまでは思わないけど、せめて負けたくは無いんですよ。

 日頃の努力は何のためにって話になるし、それに白髪の立場だと、ねぇ。

 この国、偉い人まで強くないといけないとか、大変だよね。

 うん、お隣のしょんぼりさんとは偉い違いだ、ウチの国の王族。

 

 ……何、三馬鹿、その人を馬鹿にしたような目は。

 本当に何よ。ちょっと、おい……。

 あの、メイドさん? はぁ、気にしなくて良いですか。……じゃあ、良いのかなぁ?

 

 何か、重大な事実を忘れてるような気がするんだけど……。

 

 

 ・!月⊿日

 

 なんでちびっ子が帰ってきたのに、私はこっちに滞在したままなんだよ、なぁ上司ぃ!!

 しかも『帰ってくる』って言葉を当然に使っている自分に違和感がなくなってたじゃねぇか!

 その辺どうよ。直属の部下放置しすぎて隣の国に取られかかってる今の状況、なぁ、直属の上司さん―――痛い! ちょ、ゴメンやりすぎた! だからちょっと、その振り上げた拳を下ろせ、緑の人!

 久しぶりに会ったのに益々凶暴に―――馬鹿、電柱、じゃない殿中でござるぞ! 剣を抜くな!

 

 ―――ええと、しょんぼりさん達がヴァンネットまで遊びに来ました。

 

 つい半年前に街道に魔獣騒ぎが起こったばっかだってのに尻が軽いねぇとか思わんでも無いけど、何か話を聞いてみると、だからこそ、という事らしい。

 やっぱり巫女さんって事なんだろうね、領主様家の発端って。

 通り道すがら、家伝の宝剣片手に魔獣が発生したあたりでフロニャの加護に感謝感謝のお祈りだそうな。

 あれかね、地脈の流れが変わるとか、邪気を払うとかそんな感じなんでしょうか。

 まぁ、なんにせよ、しょんぼりさんが頑張ってくれてそれで魔獣の出現率が下がるって言うんなら、現実頭が下がる話ですよ、魔獣のせいで死に掛けた身の上としては。

 という訳で、ウチの白髪王子に代わって御礼申し上げ―――逆だよ、逆。

 私の上司のやったことなんだから、私が白髪にお礼言われる立場だわ。

 

 ―――は? 何よ緑の人。すっかり馴染んでるなって?

  ははは、もういい加減言われなれたから、それ。

 

 って言うか本当に、私は何時までこっちで生活するんでしょうか?

 もう六歳の頃から、かれこれ四年になるんですけど。

 いやまぁ、毎年毎年恒例の牧場でのバカンスやってるついでに実家には帰れてるから良いっちゃ良いんだけどさぁ。

 

 ―――へぇ、母上様から手紙預かってる?

 

 領主の娘に手紙預けるとか、あの人、我が親ながら相変わらずパネェな。

 そこの秘書さん、さすが貴方のご両親ですねって顔しないで!

 前世の記憶よりも引いてる血の方が意味合いが大きいとか、たまに私も無駄な考察をしたくなる時はあるけどさ~っと、へぇ、生まれたんだ。

 ああ、うん。しょんぼりさんもお楽しみにしていた妹五号が遂に生まれたってさ。

 四年の間に一号から五号が揃うとか、割りとちょっと母上、気合入れすぎじゃねーのとか思うんだけど、まぁ、多分家族が増えることは良いことだよね。

 親父殿は一家の大黒柱として仕事頑張ってくださいって話です。

 五人も子育ては大変だろうなぁ。

 

 ―――と言うか、前から疑問に思ってたんだけどさ。

 

 定期的に来る報告書で、何時の間にか、見習い⇒平の騎士⇒十人長⇒百人長、と自分が出世してることに気付いている私なんですが、これが一向に給料が上がったという話を聞かない……と言うか私、此処での生活費って某者の某親衛隊の運営予算の雑費から出してる気がするんだよね。

 滅多に自国の大使館に顔出してない私が悪いっちゃ悪いんだろうけど―――うん。

 ギャラ、一体何時振り込まれてるの?

 

 ……はぁ。まぁそうよねー。

 

 うん、兄としては、妹を山の手の学校に入れてやろうとか言っておけば良い場面なのかな。

 と言うか、母上様が自重しないのが自分のせいだったとか、ちょっと色々微妙な気分だなオイ。

 まぁ良いけどね、いざとなったら白髪王子にギャラ要求するから。

 うん、しょんぼりさん、キミも早く出世して、私を養ってくれ。

 そのかわり、いざって時の盾代わりにはなるから。

 

 ―――んで、今日の来訪ってひょっとして手紙私に来ただけ?

 何か領主様の姿も見えたような―――ああ、本当に居るんだ。

 一家揃って国空けて平気なの? あ、お呼ばれした……なんで?

 

 へぇ、戴冠式。

 

 ……誰の?

  

 

 ・_月★日

 

 ―――そうね、私が十歳になるってことは、そりゃ姐さんが十二歳になるって事よね。

 

 フロニャルドの常識で言えば、十と二つも歳を重ねれば、そろそろ仕事をしていておかしくないと言うのが当たり前の話だったから、翻って十二歳を迎えた姐さんは。

 ガレット領代表領主息女であるレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワさんは。

 

 ―――つまり。

 

 居並ぶ文武百官。

 祝詞を詠う聖職者達。

 祝辞を述べるために集った、友好国の使者達も。

 そして勿論、その式典の参列者の只中を、真っ直ぐに敷かれたカーペットの上を神妙な面で歩む姐さん自身だって。

 

 だからまぁ、祝福するべきことなのだろうと思う。

 ガレット領主家に伝わる宝具を、最早先代である筋骨逞しい彼女の祖父から受け取っているその姿。

 祝福するべき、事なのだろう。

 宝具を掲げる姐さんに向かい、拍手が。列席者達から、鳴り止まぬ拍手が。

 姐さん自身は、誇らしげな顔をしていたから。

 

 だからつまり、それは祝福するべき事実に違いない。

 

 ガレット獅子団領国代表領主、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワが誕生したことは。

 

 歓迎しよう、僕も。笑顔を向けられたのだから。

 そう、例え。

 

 ―――例え、当たり前のようにガレットの武官の列の先頭に並ばされてるという、どう考えてもちょっと本当にこれどうしてこうなったの、ねぇ、誰か教えて……。

 

 

 ・#月з日

 

 というわけで、姐さんが領主様にクラスチェンジしました。

 先代の爺様がそろそろ体力の限界だったらしいから―――って、先代様、つい先日も庭先で若い騎士をふっ飛ばしてましたよね……。

 体力の限界とか、そういう冗談は先ず、その上腕二等筋をやせ細らせてから言おうぜ。

 

 まぁ、先日姐さんも十二歳の誕生日を迎えた後だったから、丁度良かったって所なんでしょう。

 そもそもフロニャルドの社会が、往々にして女系女子の系譜を優先させる傾向があるから、やっぱ、優秀な女の子が居るなら早めに―――とか、考えちゃうんでしょうね。

 因みに、先だって民主主義に則り領主の選任のための選挙も行われてたみたいです。

 形式が米国の大統領選挙みたいなやり方だったんで、加えてこっそり行われてたみたいで気付きませんでしたけど。

 投票権を持つ各都市町村の長達の満場一致によって、姐さんは見事当確してたんだとか。

 まぁ普通に国民人気も高い人だし、日本式のやり方で選挙しても当選は確実でしょうけど。

 尤も人気は人気でも、今舞台を貸しきって詠って踊っているしょんぼりさんみたいなアイドル的な人気と違って、アトラクションヒーローのような……格好良い系の人ですよね、ええ。

 小さい男の子に大人気です。 

 

 ん? どうした白髪。

 ―――ああ、姐さんが領主じゃ不満かって?

 いやいやまさか。投票権があれば、私も普通に姐さんに信任投票してるわ。 

 

 ―――でもまぁ、、実際は日本の普通選挙みたいなやり方だったとしても、私、投票権無いんだけどね。

 

 ねぇ、無いですよね、領主様?

 我が親愛なるビスコッティ領主様? そこのところどうなの?

 ……はぁ、千人長ですか。気付かないうちにまた出世してたんですね、私。

 それは一応、ビスコッティに私の席が残っていると考えて宜しいんですよねー?

 それなら何で私は儀式の最中延々とガレット側に整列してたんでしょうねー……え? 

 

 ……ええ、ええ、そうですとも。素で自分で間違えてましたよ。

 三馬鹿引き連れて当たり前のように―――って言うか、だって気付いてたなら誰か止めてくれよ!

 会場の中整列順の指定図に、だって私の名前初めからあそこだったじゃん!

 皆も違和感持ってなかったし!

 あれか? 私はスパイの浸透作戦の役割でも任されてるのか!?

 

 このまま新領主に取り入って垂らしこんで―――…………えっと。

 

 あの、何で皆、そこで、黙るの?

 

 

 ・Κ月Μ日

 

 で、領主になった感想は如何? 

 ―――はぁ、うん。

 いえいえ。領主様と向かい合ってお酒を飲むことが出来て、私は実に幸せですとも。

 え? お前の図太さは変わらんなって? だってほら、もう気にしたら負けかなって。

 最初窓から侵入してたのに、最近廊下からフリーパスだもんねー。

 コレ絶対あれだよ。

 メイドさんたち私らの反応見て楽しもうって魂胆だから、適当に状況を受け入れてスルーが一番だって。

 今更今更。

 お互い飲酒年齢満たしてるんだし、もう堂々とアダルティな夜を楽しんでれば良いんだって、きっと。

 

 ―――え、何でそこで怒るの?

 いや怒ってないって、その拳の震えはどう考えても……って、あの、メイドさん?

 なしてテーブルの上を勝手に片付けるのかと……あ、ちょ、退出すんな、おい……げ。

 

 

 ―――暫らくお待ちください。

 

 

 じゃあ、気を取り直して乾杯と言うことで。

 全然懲りてないなって? ははは、何のことやら。

 私はもうキミ達姉弟のDVな日常に付き合い続けて早四年よ?

 たかが生傷一つ増えたところで、今更行動を改められたりしないっちゅーねん。

 どうせ今後もこんな感じの平穏かつ非平穏な日常が続くんだろうから、ま、健全な政治をよろしくお願いしますよ領主様って事で―――何よ?

 

 お前は手伝ってくれないのかって?

 

 ……いやいやいや、ちょっと待とうぜ。

 それはあれかね、領主閣下。

 ひょっとして私は、キミん所の白髪王子と同レベルの扱いされてるってことか?

 

 失敬な。

 

 あのね、近衛の運営予算が毎度毎度滞りなく運用されているのは一体誰のお陰だと。

 月末ごとに誰が徹夜してソロバン弾いてると思ってるのさ。

 それをキミはあれか? その恩人を全く書類仕事をしない白髪王子と同列に扱う気か?

 いやいやいや、下の者の仕事をちゃんと評価してくれないと困りますよ領主様。

 ホントそこのところご理解の程を頼みますよ―――いや、本音を言えば出来れば文官で優秀な人一人くらい回して欲しいんだけど。

 回ってきてもどうせ、『特訓だ! 』の鉄球おじさんの号令があった次の日には異動願いが机の上に置かれてるんだろうけどさ!

 

 ……って、あの、姐さん?

 なしてそこで笑う?

 

 

 ・η月ι日

 

 ウチの……うん、『ウチの国』の領主一家とかを初めとする諸外国のお客様も、各々ご帰国なされて、ついでに領主交替を祝う長い宴の日々も収束したとなれば、いよいよ新領主を旗頭に通常業務の再開と相成ります。

 まぁ、先代様の隠居にお供して、てっぺんに位置していた人たちも結構な数が舞台から降りてしまった訳で、ヴァンネット王城はしばらくは新人事に伴う混乱もあって、ドタバタと慌しい日々ってところでしょうか。

 

 我らが白髪王子も王孫から王弟扱いに格上げされたもんだから、まぁ科せられる役割も増える、仕事も増える、書類も増える―――逃げるなウサミミ!

 お前まで逃げたら今日中におわらねぇんだよ!

 ホレちみっこ、仮眠の時間は終わりだ! 手を動かせ!

 虎縞は罰ゲームとして全員分のコーヒーでも入れて来い! ブラックで! あ、ちみっこには砂糖四つな!

 

 ―――ぶっちゃけあんまり、近しいところだと何も変わってないよなぁ。

 姐さんが先代様に代行して仕事をこなしてたのって、もう一年以上前からだし、白髪王子が相変わらず字が汚い―――と言うかコイツ、つけペンの使い方下手過ぎるだろう……。

 コレだけ羊皮紙駄目にされると、羊が何匹犠牲になっても仕事が終わらんわ。

 つー訳で、白髪も何時もどおり窓の向こうで平和そうに鉄球おじさんと戯れている日常的な光景で、うん、ムカつくから後で久しぶりに必殺キック(名称募集中)の餌食にしてやろう。

 

 あ、そういえば変わったことが一つだけあった。

 ハンサムさんが遂に将軍閣下にならせられました。軍のトップですね。おめでとうございます。

 ウチのイケメンのほうが一歩早くてっぺんにたどり着いてたんですけど、まぁ、ウチの国と此処だとそもそも規模がなぁ……。

 そのうちイケメン一騎打ちとか興行したら面白そうだよねー。

 ハンサムさんって大抵解説役ばっかりで戦場で戦ってるイメージが希薄なんだけど。

 槍持ってるよりペン持ってる姿の方が思い浮かぶ……羨ましいなぁ、書類仕事が出来る上司……だから枠外に落書きするんじゃねぇって言ってるだろうが虎縞ぁ!!

 今度やったら、姐さんのところの遂に二十台半なのにそれでも堂々とフリフリミニスカメイド服着てるお姉さんと同じ格好させるぞ!

 

 ―――ほんっと、慌しくも平穏な日常だわ。

 

 そういえば、遂に城内に私個人の部屋が用意されたけど、もう今更だからどうでも良いよね。

 

 

 ・Θ月Λ日

 

 新しい王様が誕生したとして、その威を示すのに尤も有効な方法は何か。

 

 内に敵が居たのなら、それを圧倒的な力でもって鎮圧して見せればそれで済む話だ。

 しかし先代の磐石な体制を引き継いだだけの立場となると、事ある毎に比較論で語られてしまう、言ってみれば永遠に鎮火せぬ火種が残り続けるような、そんな政権運営を架せられてしまう。

 そこで無理に火種を燃え上がらせて利用しようなどと考えてみれば、逆に平時に乱を巻き起こすなどと後ろ指を差される始末。

 さりとて、先代と比較されるのを耐え続けるに甘んじていれば、それを弱腰と陰口を叩かれたりもするわけで―――ならば、その状況を脱するためには、やはり。

 

 内に敵を作れぬのならば、外にこそ、目を向けて―――目を向けさせて。

 ……と、言うことでお久しぶりの。

 

 突然ですが、戦争のお時間です。

 

 まぁなんつーか、脳筋国家のお約束と言うか、別に姐さんの政権移譲を出汁にしなくたってお前ら戦争してるだろって話なんですが、そこはそれ。

 今回は、何時もの―――最早定例行事とすら語られるような国境での小競り合い程度のレベルを超越した、かなり大スケールな外征でお送りします。

 徴兵を実施して軍団を編成しての大遠征ですよ。

 敵国要塞線を突破して、最終的には都市の一つでも攻め落とそうぜってレベルの、早い話が侵略戦争です。

 当然相手はお隣の―――ああ、ビスコッティではないんですが。

 王城ヴァンネッタのバルコニーからでも見渡せる、港の向こうに広がる内海を挟んでお隣にある都市国家連合がお相手なんですが―――そう、海戦なんですよね、コレ。

 

 ええと、まぁつまり、現在私、船に乗ってます。

 うん、甲板から周囲を見渡せば、大型の軍艦が、商用船を徴用して設えた輸送船が、まぁ大艦隊を編成していてなんつーか凄いスケール。

 そして振り返って見上げる三本マストに広がる帆には煌くデ・ロワ家の紋章―――御座艦じゃねーかと言うか、まぁいつものことですよね。

 いつものようにビスコッティからの観戦武官じゃなくて、戦力の一つとして重用されてるのも、うん、いつものこといつものこと。 

 だって、この外征の兵員輸送計画編成したの私とハンサムさんだもんねー。

 ハンサムさんは将来役に立つからとかハンサムに笑ってるんですけど、いやいや、現在進行形で必要とされるスキルを泥縄で仕込まれたのは気のせいでしょうか。

 そもそもビスコッティは侵略戦争とか仕掛けねーから!

 

 ―――あと気付いてると思いますが、今回の目的は一つの都市でも攻め落とそう、と言うものでして―――ええ、『都市国家』連合に所属する『都市』を、ね。

 

 ……それ、一つの国を攻め滅ぼすって言わない?

 

 

 ・Φ月Ε日

 

 拝啓母上様。

 不肖の息子たるこの私は、昨日姦計に騙されて、隣国の侵略計画の策定に手を貸してしまいました。

 これをもって一つの罪無き国家が歴史の中に葬られてしまうのであれば、それは我が身の不徳の致す所で―――愚かな息子の愚かな行動を、どうぞ、笑ってやってください。

 

 ……なんて、これが地球の戦争だったら本当にマジで洒落にならない話なんだけど、洒落で済むのがフロニャルドの良い所だよね。

 どうせ侵略達成しても、名誉以外は手に入らないし。

 と言うか、名誉以外手に入らないから広報部がよっぽど上手く版権ビジネスを進めないと、赤字です赤字。

 姐さんの就任最初の戦争ってことで、結構見栄を張って見てる訳だけど、ねぇ兄ちゃん、これ元取れるの?

 初期の持ち出しが多すぎて、ちょっと数字を見て眩暈がしそうだったんだけど……。

 これ、確実に四半期の決算で真っ赤に炎上しちゃうような。

 

 ―――はぁ。

 うっそ、放映権料ってそんなにするんだ?

 ああ、そうね、私は支出の計算しかしてないから、収入の方はノータッチだったわ。

 確かに映像ソフトの売り上げ見込みがこれなら……こんなに売れるの? 

 取らぬ狸の皮算用っぽいような……はぁ、大規模な外征なんて早々無いから、充分売り切れる見込みアリ、ですか。

 う~ん、アスレチック選手権とかなんて、番組改変期の特番でやってれば見るか、くらいだからわざわざビデオ買ってまで見ようとする人の神経は、良く解らんなぁ。

 それならまだ、しょんぼりさんのコンサート映像のソフトでも買った方がマシかなぁ……って、何?

 はぁ、是非売りたいって……そういうのは向こうの国の人と交渉して。

 私はその間に、姐さんのアイドル化計画でも考えておくから。

 多分、リコたんを引き抜いて歌って踊らせたほうがよっぽど安く済むだろうけどな!

 姐さんはどっちかといえば特撮ヒーローとかの類だから、ライバルキャラとか出すと視聴率稼げそうだよねー。

 お隣って、あんまり有名な騎士とかの名前知らないんだけど、誰か華のある人とか居たっけ?

 

 ―――は? 何よ兄ちゃん、その『知らないの?』って顔。

  ……はぁ、楽しみにしていろ、ですか。

 

 いや、人からそういう台詞を言われたときって、大抵ろくでもない状況が発生するフラグなんだよなぁ。

 

 

 ・ψ月‡日

 

 青い空に、青い海。

 集結した大艦隊の甲板には、すし詰めのように兵が立ち並び、海戦の音頭を今や遅しと待ちわびて―――無論それは、海に面した要塞の城壁の上で待ち構える敵兵達とて、変わらない。

 

 ……海沿いの国ってのはあれか、基本的に戦好きなのか。

 

 なんかさぁ、都市国家って聞くとこう、地中海に面した風光明媚な観光地みたいな感じをイメージしてたんだけど、そうよねぇ。

 戦争しに行くんだから、向かう先は軍事要塞ですよねー。

 ハハハ、姐さん筆頭に遠征軍首脳部全員まで含んで滾っちゃってるもんだから、ごめん、草食な国家出身の私としては、テンションに着いていけんわ。

 と言うか、幾ら大きな祭りだからって国家首脳部が丸ごと船の上ってどうなの?

 いや、お城の文官さん達にしてみれば、脳筋の人たちが纏めて外出しててくれた方が仕事しやすいのかもしれないけど。

 良いなぁ、きっと今頃静かなんだろうなぁヴァンネット。

 

 私も、そっちが良かった……。

 

 ―――って、何よ姐さん?

 はぁ、先陣を切るのにその景気の悪い―――って、何で他国の人間に先陣切らせるんだよ!

 そこで回りも『そういえば』って顔するな!

 せめて解っててネタでやってるんだって思わせる努力をしろよ!

 つーか、一応姐さんが主役のお祭りなんだから、姐さんが先陣切った方が良いんでね?

 

 ……ああ、切りますか。

 

 つまり私は確実に突出する姐さんのお守り役と言う事ですねハンサム将軍。

 そうねー。ブラック疾風号の駆け足についていけるの、私くらいだもんねー。

 と言うか、チョコボに頼らず自分の足で水上走り出来るのが私くらいですものねー。

 まさか、ネタで覚えた一発芸がこんなところで役に立つとは……。

 そこで、この水上アスレチックを攻略するために覚えた技じゃねーのって顔しないで、白髪。

 私はだから、専守防衛が国定のビスコッティの人間ですから。

 うん、その割りに攻撃的な紋章術に特化してるって自覚はしてるから、それ以上は言うな虎縞。

 どーせ私の必殺キック(名称選考中)なんて、攻城兵器扱いにしかならんよね。

 防衛戦で味方巻き込むような危険な技をどう使えと……やだなぁ姐さん、別にこの間の戦争で姐さんの隕石落としに巻き込まれたことなんて、何にも恨んで無いですってば。

 ははは、大丈夫だって、安心してあの城壁に突っ込んでくれれば良いから。

 ちゃんと後ろから援護するよ、援護をね?

 

 ははははははは……どうした回り、曖昧な顔で固まっているが。

 

 ほれほれ、戦争がそろそろ始まるんだから、テンション上げていこうぜ~|。

 何でそこで、おい、やってらんねーって顔して出てくのよ、ねぇ、皆?

 

 ……あ~、じゃ、開始の合図の花火も鳴ってるし、姐さん、行きましょうか?

 

 

 ・α月†日

 

 姐さんの後ろに引っ付きつつ、適当に義経の八艘とびゴッコしてたら、敵軍の被害は甚大です。

 そりゃ、飛ぶたびに丸太の足場ぶち抜いてれば、そうなるよね……。

 救助部隊の皆様、お疲れ様でした。

 

 あ、戦争ですが実に順調に、第一チェックポイントと言うか、海上アスレチックを踏破して海岸に橋頭堡を気付きました。

 要塞攻めは、明日かなぁ。

 味方も随分たまに変えられて海に流されちゃったし、海の戦は危険を伴うから日が沈む前に終わらせるってのが国際ルールの安全基準だし。

 

 と、言う訳で現在は明日以降も侵略予定の港湾都市の高台にある有名な温泉宿で一泊。

 戦争中の都市の温泉に金払って泊まりに行くというか、入り口の看板に『歓迎ガレット国遠征軍一行様』とか書いてあるのは久しぶりにカルチャーショックでした。

 まぁ今更、深く考えたら負けかも知らんけど。

 潮風で痛んだ髪を洗い流してるだろう女性陣が温泉から出てくるのもまだだし、オイ白髪、暇だからテレビつけて、テレビ。

 温泉地のテレビって、チャンネル数とか少ないし変な地方局とかやってたりするから、別の意味で楽しいんだよ。

 あ? 人を顎で使うなって?

 ハハ、何時からこの私に向かってそんな偉そうな口聞けるようになったのかな、白髪~?

 誰のお陰で仕事もせずに鉄球おじさんと戯れる毎日を過ごせていると思うと―――そう、解ればいいのよ解れば。

 ―――ところで、お前何時から私のことを『馬鹿兄貴』とか呼ぶようになったっけ?

 年齢一緒だよな? てか、白髪のが誕生日早くね?

 まぁ、あだ名なんてテキトーで良いんだけど……って、何コレ。

 うわ、もう昼間の戦争のダイジェストとかやってるんだ。

 兄ちゃんも元気だねー、あんだけ昼間も中継席で絶叫してたのに、夜はキャスターもやるのか。

 紫の人は温泉に浸かって姐さんの背中でも流してる筈なのに、何と言う格差社会……って、うわ、私映ってるじゃん。

 

 ……いや待て。

 何よこのテロップ!? 何この『天空の聖騎士』って中二ライクな二つ名!

 そりゃ確かに飛んでるけど聖騎士ってお前―――って、笑うんじゃねぇ白髪ぁ!

 そこの従騎士の子、ちょっと走って広報部のところへ―――……って、何ですかハンサムさん。

 今、私の今後の人生が懸かってる重大な局面なんですけど。

 

 ……はぁ?

 今後のためにも今のうちから箔付けしておいたほうが……スイマセン、ハンサムじゃない私には、そのハンサムな語り口は意味が解らないのですが。

 その内解る?

 いや、何か解った頃には手遅れになってるようなその口ぶりは、不安しか……ええい、いい加減笑い止め白髪!

 

 どーして普段からめ一杯貢献してる私に、この国の連中は何時まで経っても酷い扱いするかねぇ?

 

 

 ・λ月б日

 

 要塞攻めです。

 三重の城壁に、内部には高大な迷宮、ついでに出丸からはひっきりなしに矢でも土嚢でも飛んで来いってところで―――まぁ、皆様お疲れ様です。

 守りが守りなら攻めも攻め、丸太以って縄文に突撃したり櫓を組んで城壁に引っ掛けたり、怒声を上げながら突貫を繰り返し―――いやもう、コレで誰も死なないって言うんだから、まさにフロニャの加護の賜物といったところでしょうよ。

 

 因みに今回は先日とは打って変わって、大将各の連中は後方に下がらせて、兵隊さんたちが主役の集団戦です。

 輸送船に乗せて運んできた―――ついでに陸路で到着した連中も含めて、もうレミングスの如くワラワラワラワラと要塞を攻め立ててます。

 

 それにしても梃子摺るなぁ。

 これ、今日中に一つ目の城壁抜けないんじゃないの?

 まぁ、それならそれで私としては温泉宿にもう一泊できてありがたいんだけど……刺身に熱燗とか、久しぶりに味わったよ。

 ヴァンネットだと生魚食う風習が無いからなぁ。

 うん、この戦争が終わったら今度私費で遊びに来ようかな……って、紫の人は何をメモってるの?

 は、旅行の予定? ―――ごめん、良く聞こえなかったんだけど……何、ひょっとして一緒に泊まりで旅行に来てくれるんですか? 

 ……いやいやいや、冗談、ごめん、ちょっと調子に乗っちゃっただけだから落ち着け姐さん!

 というかアンタ、総大将なんだからちゃんと頑張ってる自国の軍隊を督戦してやろうぜ!

 うん、本陣の天幕の中でくっちゃべってる私らの言えた義理でもないんだけど!

 だってホラ、流石に状況に変化が無いまま四半時も過ぎてくれれば、退屈にもなるよー。

 戦管に提案して、奇襲戦ルールに変更して出直した方が良くね?

 ……はぁ、正面から打ち破りたいですか。

 いやまぁ、姐さんの戦争だから、姐さんの趣味に任すけどねー。

 作戦立案担当の私とハンサム将軍の……ハンサム将軍解説で居ねーわそう言えば。

 つーことはあれか、私が一人で苦労するだけか。

 何? ―――はぁ、観戦している民が退屈し出す前に早く何か考えろと……また無茶な。

 城攻めってのは基本的に守ってる方の五倍くらいの人数用意して強引に力押しってのが定番なんだからさぁ、特に紋章術使う騎士は投入しないまま進めるとなると、これ以上どうしろと。

 いや、本当に。

 騎士投入アリだったら、姐さんが隕石落とすなり白髪が無双するなり、或いは私が必殺キックすれば、そもそも第一城壁どころか中央司令部を一撃で破壊出来るから五分後にも戦争終わらせられるんだけどね。

 

 やっぱり空は卑怯だよねー。

 

 まぁ、無いものねだりは仕方ないから、とりあえず戦力の配置を切り替えて防御密度の低いところに集中投入してみようか。

 伝令の子、ちょっと来て~。

 

 

 ・τ月♪日

 

 結局、夜襲をかけて強引に城門を突破しました。

 フハハ、途中から夜襲に備えて部隊から少しずつ人を抽出しておいたのさー。

 攻城戦ルールから変えないまま兵隊さん達のみで要塞攻略。

 うん、私は頑張った。

 一体何度、鉄球おじさんの鉄球に頼りたい衝動に耐えたかと。

 まぁ、余り数も用意できなかったから内部の迷宮の踏破に朝まで懸かりましたが。

 姐さんから軍配と言うか領主剣押し付けられて、最後まで寝ずに指揮して要塞攻略に付き合ってたから、お陰で眠いのなんのって。

 こう言う時は責任者って辛いよねー。

 兵隊さんたちは戦いが終わった後はそのまま休めるだろうけど、責任取らなきゃいけない側は書類仕事が……後回しにすると二度手間になっちゃうから早めにやるしかないしなぁ。

 頑張った兵隊さんたちの査定もちゃんとしないと可哀想だしねー。

 その間に、戦勝者インタビューとかに顔出さなきゃいけないし、物的被害の計算も……ああもう、本当に電卓が欲しいなぁ。

 ホント、統治者ってのは見栄ばっかり張る必要がある儲からない職業だこと……。

 紫の人、お茶入れて……って、もう寝てるか。

 皆旅館に引き上げて大天幕誰も居ないし……って、年齢二十台半ばのフリフリミニスカメイド服の人、居たんですか。

 朝早くから二十台半ばなのにフリフリのミニスカメイド服で、お疲れ様です。

 

 ……うぇ?

 

 いえいえまさか。とてもよく似合ってますよ。疲れた身体に大変目の保養ですとも。 

 ただ、なんとなーくヤバいものを見てしまっているような気分になるだけで。

 フィアンノン城で働いてるメイドさん達みたいなロングスカートとか、或いは紫の人みたいにタイトのミニならまだ落ち着くんですけど、いえ、人のご趣味にケチをつけたりはしませんので。

 単純に私が元日本人だからかなぁ、ミニスカフリルメイド服なんていかにもなモノに過剰反応しちゃうのは……ああいえ、こちらの話です。

 それより、コーヒーありがとうございます。

 でもまだ早い時間ですし、休んでてくれても……ああ、もう直ぐ姐さん起きてくるんですか。

 あの人も夜遅くまで起きてたのに頑張りますねー。

 大将なんだから『後は任す~』とか偉そうに言って一番に寝ちゃっても構わんのに。

 そっちの方がキャラ的に不敵な感じがして似合うし、どうせ兄ちゃんがどうとでもして盛り上げてくれるだろうに……若いうちから女の子が夜更かしなんて、いかんと思うのですよ。

 え? あぁ~、そういえば私もまだ十歳でしたっけ。

 ……思い出させないで下さいよぉ、なんだか、急に疲れがどっと……いやいや、まだ全部集計し終わって……ぉ?

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

「……まぁ、内政に手を出して何も怒られなかった段階で、この状況は決まっていたような」

「あの頃から殆ど王族と変わらない扱いだった」

「マジで?」

「大マジ。そういう風に思っておけって、メイドたちから言い含められてたし」

  

 さらりと語られる、衝撃の事実であった。

 

「むしろ、何故気付かなかったと問うべき場面でござるなぁ」

「いやぁ、うん。生前は平社員で責任のある仕事をさせて貰えなかったからさ、大きな仕事を任せてもらえるのが楽しくって」

 

 ははは、と空笑いでユキカゼの言葉を避けようとするシガレット。

 

「政務にご興味を持っていただけたことは僥倖でした。ですが、それにのめり込んで体調を崩してしまわれましたのは、いただけません」

 

 しかし、別の方向からたしなめの言葉が入った。

 盆の上に人数分の急須と茶碗を乗せた、このジャパニーズスタイルな風月庵に相応しくないミニスカメイド服を―――といっても、家主の一人であるユキカゼも、たけの短いなんちゃって着物だったりするが―――身に纏った、ルージュである。

 

「ルージュさん?」

 何故ここに、と問う言葉に、

「さんは要りませよ」

 などと返す、シガレットにとっては、何気に極めて親しい関係の女性だった。

 

「オレ、公私は分ける性質なんで、私事のときは勘弁してください」

「仕方が無い方ですねぇ」

 

 恭しい態度を崩さぬまま、メイドは主の言葉に微苦笑を浮かべた。 

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

 


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