ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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少年編・4

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

 

 ・ルージュの手記(メイド隊内部資料より抜粋)

 

 いやいや、まだぜん……ぶ……ぉ?

 

 その一言を漸くに、彼は机に突っ伏した。

 傍により机の上を覗き込んでみれば、文字とは到底思えないミミズのようなうねうねとした線が何本も引かれているのみで、小さな子供が精一杯背伸びをして頑張った結果と思えば、微笑ましくも思えてしまう。

 それらを手早くまとめ、エプロン下の小物入れに隠した後、そっと、紋章術すら使って揺らさないように椅子から持ち上げて、天幕の脇にある簡易ベッドに寝かせる。

 このベッドを用意していた私の存在にすら気付いていなかったのだから、疲労も極限といった所だったのだろう。

 

 頭が下がる思いだ。

 

 無論、戦場指揮と戦後処理を頑張ってくれた事に―――ではない。

 彼を寝かせたベッドの脇に立てかけておいたフォルダーを開けば、既に領主補佐官部隊―――彼の言葉を借りれば、『ガレット・デ・ロワ・メイド隊』が万端抜かりなく作成した完成済み書類も既にあるのだから。

 では何が、といえば―――。

 

 なんじゃ、寝てしまったのか。

 

 そんな言葉と共に天幕の間仕切りを潜り抜けてくる我が主の姿があった。

 ベッドに寝ている少年の姿を、つまらなそうに、拗ねた態度で見下ろす。

 私はそんな主に対して、こちらの書類を用意している間に寝てしまったようだと―――勿論、彼の面子を保つために、完成済みの書類を手渡す。

 

 わしの仕事を勝手に横取りしおってからに……全くこやつは。

 

 ぱらぱらとめくられていく書類は、私たち主の傍就きのメイド達が丹精を込めて彼の筆致をコピーしたものだったから、主は勿論、彼がそれを作り上げたと信じて疑わず。

 だから鼻を鳴らして詰まらなそうな口調にも、甘えたような声が滲むことに、私はかすかな楽しみを覚えるのだった。

 

 頭が下がる思いだ。

 

 意地を張り、背伸びをして良き領主足らんと必死になっているこの愛すべき主が、彼が関わることにだけは、幼き頃より変わらぬ素直な少女らしさを見せてくれるから。

 立場も変わり、歳を重ねても、変わることなく主を親しい少女として扱ってくれているから。

 主従の誓いで結ばれているが故に、主を上に仰がざるをえない私たちにとっては、真実、彼に頭が下がるのだった。

 その光景の、なんと微笑ましき事。

 彼がおどけて、彼女が笑い、そして彼も笑えば、彼女も笑う―――その繰り返し、幸福な光景。

 私は―――彼女を主と誓いを立てた私たちは、その光景が何時までも続けばいいと思うから、その存続のために労を惜しむことはない。

 

 起こしても喧しいだけだから、そのまま寝かせておけ。

 

 主は一言そう告げて、それから、幾度かその場で逡巡染みた態度を示す。

 書類を私に押し返したあとに、開いた掌を不自然な高さで惑わせたまま。

 震える仕草で、少し、ほんの少しずつ、手が、指が、彼の―――顔、頬だろうか、それとも、額の辺り?

 なんにせよ、私たちにとっては念願叶った光景であるには違いなく―――でも。

 

 ……ぇ、ぉ。

 

 形にならない吐息を漏らし寝返りを打つ彼に、大慌てで主は跳びずさった。

 そしてそのまま、幾度紙を振るわせたあとで、いかにも大げさな態度で天幕を後にする。

 薄暗い天幕の中で、きっとその頬が朱色に染まっているように見えたのは気のせいではなかっただろう。

 天幕の中に忍ばせておいた撮影班も頷いているし、うん。

 傍にあった毛布ほ、寝息を立てる少年に被せて―――主の替わりに、頬にかかった髪を払う。

 

 世は全て、こともなし。

 

 千里の道も、象の歩みも。

 なんの、順調にゴールに向かって歩いている。

 

 その日が来るのが楽しみだなと微笑んで、私は天幕を後にした。

 

 

 ・Ξ月Ю日

 

 目を覚ましたら第二城壁が突破されてた件。

 

 いやいやいや、ちょっと待とうぜ、そもそも何時眠ったかも覚えてないんだけど、まだ昼前よね?

 少なくとも夜明けの時刻までは起きてた記憶があったのに、何コレ、私が寝てる数時間の間に一体なにがあったの?

 って言うか半日も掛からずに城壁を抜けられるなんて、それ、私の昨日の苦労は一体……。

 

 で、どうやったのって姐さんに尋ねてみたら、すっごい目で睨まれた。

 

 ―――何ごと?

 首を捻っていると、こう、本陣に居る重鎮達も苦笑気味に視線をさ迷わせた感じで、なんだかそれが姐さんにはいたたまれない気分を押し付けてしまったらしい。

 姐さんは不貞腐れたように本陣を後にしてしまった。

 で、どう言う事なのか誰か三行で宜しく。

 

 攻略には

 丸一日

 掛かりました。

 

 ……ぁあ。

 え? 私って丸一日以上も爆睡してたの!?

 ちょっと待て、ホント? うわ、マジか~、ってか、起こしてよ誰か。

 どーりで腹の中が妙に空っぽと言うか―――あ、ドリンクの方ありがとうございます紫の人。

 そりゃ喉も渇きますよね、一日寝っぱなしだと。心なしか体が軋んでるし……うぅむ、戦争中になんて不覚。

 丸一日って流石に……いや、確かに最近出征準備で睡眠時間は減ってたけど。

 若いんだから全然無理が利く範疇だと―――えっと、何でしょうかメイドさんズ。ちょっと皆さん、顔が恐いのですが。

 

 ―――はぁ、ああ、いえ、その通りかと。

 いやいやいや、マジでマジで、解ってます、いえ、身に染みましたから!

 

 そうよねー、うん。

 確かに若いは若いけど、若すぎたかー。まだ十歳半程度だもんねぇ、私も。

 成長に体力奪われてる分、限界活動時間はまだまだ発展途上でした。成長期ってそういうもんだって忘れてましたよ、はい。ああいや、成長期にすら入ってないのか、まだ。

 精神年齢は働き盛りの三十代だったから、普通に二十台前半の『若い頃』を想定して48時間フル稼働とか余裕だと思ってたわー。

 若いって言うか、良く考えたらただの子供だもんね。

 いっそ幼な過ぎるわ。幼い割りに普通に戦争指揮とかしてる不思議もあるけどさ。

 徹夜なんてするには、せめて成長期過ぎてからだなぁ。

 文化祭の準備で一週間くらい馬鹿やってー、そんで前夜祭から後夜祭までハイテンションで遊びまわってー、ハハハ、若いって良いなぁ。

 それで一晩寝れば余裕で次の日から無茶できるんだから。

 はやくおとなになりたーい……って、あ痛っ!?

 ちょ、いやいやメイドさん方、ちゃんと反省してますから、そんなに怒らんでも……は? 何よ?

 

 『もっと御身を大切にしてください』。

 

 ……。

 いやあの、えっと、いや確かに私が居なくなると書類一枚提出できなくなるどっかの親衛隊なる部署があるのは確かですが、私は別にそこまで身を惜しむような立場でも……と言うか、あなた方の主様のために、むしろ身を削って見せる必要が。

 ほら、下の人間は上に無茶させないために必死になるのが、封建社会の定番じゃ。

 

 え? だからこそ?

 

 

 ・φ月"日

 

 ―――と、言うような話を起き抜けにされた訳ですよ。

 

 いや、姐さん。

 そこで紫の人とにらみ合いを始められると私もどうすれば良いのか困るんだけど……はい?

 なんですか二十台半ばでも堂々とフリフリミニスカメイド服を着てらっしゃるお姉さん。

 ……いえ、その『何も気にしなくて良いですよ~』とか笑顔でお酒注がれちゃうと、雰囲気的な意味でも更にヤバイ状況に嵌められてる気分が大幅アップしてしまうのですが。

 主に夜の歓楽街的な意味で。黒い鎧来た鉄球おじさんも、呼べば出てくるしねー。

 

 まぁ兎も角。

 姐さんも紫の人と戯れるのはそれくらいに―――え? 何でそこで今度は私を睨むかねキミは。

 いやいやいや、結構背中に気をつけて生きてる方だと思うんだけど。

 お前が迂闊すぎるからだなんて、そんな人を何も考えずに杜撰に生きてるみたいに―――……はい、そうですね。

 迂闊じゃない人間は、国主に向かってぞんざいな語り口調で向き合ったりしませんよねー。

 うん、そりゃ王子殿下を親衛隊の前で容赦なく足蹴してるようなヤツは、迂闊って言われて仕方ないわ。

 

 ……って言うかそう、それだよ。

 昼間の話の続きでも有るんだけどさ、私の立場ってどうなってるの?

 何か最近、当たり前のようにこの国の公文書どころか機密文書指定されるレベルのものまで閲覧つーか記述してる記憶があるんだけど。

 ってか、堂々と戦陣に参列してあまつさえ他国との紛争に介入とかして良い立場なのかな?

 今日まで誰にも怒られた試しがないから、自分が過ごしやすくするために結構色々好き勝手やっちゃってたけど……いや、あの。

 

 そこで皆様に目を逸らされると実に不安なんだけどな、私。

 

 こう、さ。

 何も考えずに状況に流されるままに迂闊なことを繰り返していると、そのうち本国から粛清のための刺客とか送られてきたり―――ハハハ、流石にそれは無いですか。

 いやでもさ、留学生って名目で送り出されたまま、就学期間満了したってのに本国から何のアプローチも無いってのは、考えてみると色々とアバウトに過ぎるよねー……え? ああ、まぁね。

 今まで特に気にしてなかった私も大概ですけどね、そりゃ。

 もうこの際ですから、このまましょんぼりさんが即位する頃までこっちでテキトーに白髪王子を蹴り飛ばしながら姐さんの下男でもして過ごすしか無いかー。

 ―――ん?

 うん、そりゃ、ね。

 いやだって、その時になったら、むしろ姐さんの方が言うだろ?

 

 『ミルヒを助けてやってくれ』って、さ。

 

 姐さんも、実の弟は放置プレイなのに、しょんぼりさんには大概過保護だよねぇ。

 いやいや、良いんだけどね。女の子同士、仲が宜しくて大変微笑ましいですから。

 ハハハ、ツンデレ乙―――っと、そこでフォーク投げるな、危ないな!

 あと、メイドさんたちもヒソヒソと『類は友』とか言わない! 別に私はツンデレとかと違うから!

 

 全くもう……。

 そういえば、紫の人は相変わらず夜は居ますけど、キャスターの仕事は良いんですか?

 ……ああ、アレ兄ちゃんが趣味でやってるの。サービス残業ですか。そうね、あの兄ちゃんひたすら喋り続けるの好きだもんねー。

 一応文官なんだから喋ってないで手を動かせよとか、たま……いや、何時も思うけど。

 ひょっとして今日も―――あ、テレビ有るなら付けてもらえる?

 ―――って何よ姐さん、そのジト目?

 はぁ。―――ああ……うん、そうね。

 さっきまで自分の立場がどうのとか言ってた割りに、確かに私、今お宅のメイドさん顎で使ってましたね。

 と言うか、当たり前のように給仕されてることに、何も疑問も浮かばなかったよ。

 いやだから、ミニスカフリフリメイド服を二十台半ばで颯爽と着こなすお姉さん、そこで『気にしない気にしない』って言うのやめましょうよ、不安になるから。

 何か最近、自分が予期せぬ方向へ躾けられてるような気がするんだよなぁ……って、緊急情報?

 

 ―――ぎゆうぐんの派遣。義勇軍、ねぇ。

 

 義勇軍ってアレだよね。他国から騎士格の人を借りてくるルールの。

 ゲストユニット的な意味合いなら、勇者の次辺りに大胆な作戦だろうに無茶するなぁ。

 いや、単純にビスコッティみたいに人材不足なだけか?

 確かに残る城壁はあと一つだし、抜けちゃえばもうアスレチックエリアの無いバトルフィールドでガチンコだもんね。

 ……にしても、はは。

 第二城壁で時間が稼げたから援軍間に合ったってさー。そりゃ、丸一日もあれば他国から人を引っ張ってこれるよねー。

 おやおや、どうしました姐さん、頬が膨れていらっしゃいますが。拗ねるな拗ねるな。勝負は水物、次は上手く行くってばさ。って、うぉ、だから手元にあるもの直ぐに人にぶつけるのやめようぜ!

 ホレホレ、あんまり怒ってないで明日の戦のためにも情報収集しておけってば。

 多分、兄ちゃんが船の上で言ってた、姐さんのライバルキャラってヤツがコレだろうからさ。

 

 ……今気付いたけど、最初から戦争スケジュール通りの援軍だったなら全然緊急情報じゃないよなコレ。

 恐いなぁ、マスコミの演出って。現実を疑いたくなっちゃうじゃないか。

 あれ、でも私、こんな援軍が来るなんてスケジュール聞いてなかったけど……いやまぁ、外様の人間に全部話せるって話でも無いかぁ?

 あ~うん、いやいや、別に拗ねてなんか無いけどさ。

 うん、もう姐さんの身内みたいなモノだもんね私。 

 ハハハ、だってホラ、しょんぼりさんと白髪を妹弟コンビって考えれば、私ら兄姉の年長者コンビじゃないか―――って、ちょ、ここ怒る場面じゃないよね!?

 ぁあ、もう。ワインが服に掛かったじゃないか。

 姐さん、お酒飲むと手が出やすくなるよね……いえ、何でもありませんとも。

 さ~って、義勇軍って何処の何方が来るのかな~……………………………………………………。

 

 ……………………………………………………へぇ。

 

 へぇ、ビスコッティ共和国騎士団所属。

 ビスコッティ共和国かぁ、何か聞き覚えのある名前だね~。

 ふ~ん、期待の新鋭。騎士団長の妹で千人長の、なんと御年まだ十歳。

 十歳。うわ、私と同い年で千人長とか、滅茶苦茶エリートさんじゃないですか。

 ―――で、ほぉ、侵略に加担してる自国の人間を捕縛に着ました、と。

 何処の不届きものだろうねぇ、侵略国家に混じって勝手気ままに侵略に加担してるような阿呆は。

 

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。

 

 …………。

 

 ちょっと待てーい!!

 

 

 ・γ月л日

 

 あなた は しにました 。

 

 ……と言う状況まで一直線って感じです。

 何ゆえ―――ほら、何ゆえ他国同士の戦で我々ビスコッティ人が切りあっているのか、ね?

 ちゃんとホラ、義勇軍の役目果たそうぜ皆!

 そこら中にお前らの獲物居るから! ほれ、そこの鉄球おじさんとか、三馬鹿とか白髪とか!

 誰でもいいからガレットの連中狙えよ!

 お前ら一個小隊纏めて私に向かってきたら何の意味も無いじゃないか!

 

 つーか死ぬ、マジ死ぬ。

 強さ的には十把一絡げだけど、数が居るから地味にチクチク痛ぇ。

 オマケに緑の人が指揮してるから、私の嫌がるやり方を巧妙に仕掛けてきやがる。

 酷い話だよ全く。城門を突破していざ最終バトルフィールドへなだれ込んだ途端、やつら一直線に私だけを狙ってきやがった。

 先頭に姐さんとか居たのにねー。

 

 ……にしても、知らないうちに見ない顔が増えたなぁ、ビスコッティ騎士団。

 キミ、名前なんていうの? エミリオ君か。

 へぇ、勤続三年……あ、でも年齢的には私らとトントンなのね。

 何かイケメン騎士団長と同じ苦労人の相が出てるけど、まぁ、緑の人のストッパー役を是非頑張って……は?

 あ、ごめん、それは無理。

 私にできることはしょんぼりさんをイジめるのと白髪王子を伸す事くらいだから、緑の人の手綱を握るのは難易度高すぎ―――うぉい! 味方巻き込むところだったぞ今の紋章剣!

 エミリオ君気をつけろ! ヤツはキミごと私を斬る気だ!

 だからキミは、安心して私の盾になってくれーい、とう、必殺キック!

 お~お~、まるでボーリングのピンのようだね小隊諸君。

  

 じゃ、そんな感じでさらばだビスコッティの皆さん!

 義勇軍に来たくせに、精々同士討ちを繰り返して全国のお茶の間に無様をさらすが良いさ~ハハハハハ!

 

 

 ・ヾ月'日

 

 正座中。

 

 ―――ごめん、ちょっと調子に乗りすぎたね。

 いやね、最近自分、一対一なら無双状態の白髪の攻撃すら割りと高確率で避けられるようになってきたからさ、うん。

 何ていうかこう、命の危機を久しぶりに感じて、ちょっと過剰反応しちゃいましたというか……。

 冷静に考えたら、私もビスコッティの人間だよね。

 ははは、他所様の戦争に敵味方で乱入して、何をうちゲバしているんだって話ですよねー。

 だってさー、何か身内が総出で学校の授業参観に来た時並みの羞恥プレイを感じちゃってさー。

 

 ―――っていうか、何でしょんぼりさんとイケメン騎士団長が解説やってるんだよ!

 

 お前らこの戦争と全然関係ないじゃん!

 特にイケメン騎士団長は私らみたいな次世代組じゃなくて、リアルタイムで国家の重鎮なんだから、こんなところで暇してる場合じゃ……って、あ、流浪人さんが国に居るんですか。

 あの人達も風来坊で滅多に一つのところに留まりませんけど―――まぁ、私はあんまり話したこと無いなぁそういえば。変な誤解されてたよな、前。と言うか、連中が義勇軍で来なくて助かったんじゃね、ウチ。

 流浪人さんが一人居るだけで、多分こっちの首脳部全滅で戦局ひっくり返ってたべさ。

 

 ……って、そうですね、私はビスコッティの人間ですよね、だから。

 だってホラ、キミらひたすら私のこと放置しっ放しだしさぁ。うん、だからって勝手に戦争に参加してんじゃねーよって話なんですが。

 でもこれ、普通に演出に組み込まれてましたよね。

 いえ、見事に台無しにしちゃいましたけど。怒った緑の人の相手なんて恐くてやってられないっちゅーねん。

 あ、エミリオ君たちは輝力の集中が甘いってお伝えください―――つか、せっかく風来坊一味が居るんだから鍛えてもらえば良いじゃないですか……あ、まだ鍛えてもらうに足らない状況、と。

 そうね、剣打ち合っても一合持たないかもですものね。私でも無理だし。一撃目で掠って二撃目で死ぬ。

 てことは今回はつまり、ゲスト扱いでガレット軍を相手に体よく若手の連中の実践訓練って所ですか。

 ウチの国はそんなに戦争やってませんけど、まぁ、山林地帯が多いから、魔獣の発生率は高めなんでした……よね?

 いや、自分の国だろって、緑の人、貴女ねぇ。

 私は騎士に昇格してから一度もビスコッティ国内でまともに活動したことなんて無いわ!

 むしろガレットの山の中の地理の方が詳しいんじゃないかなー。うん、ロハで協力してるからね、何時も。

 ハハハハハハハハハ……ええ、それが講じて、今回の粛清騒動ってことなんでしょうけど。

 

 ……と言うか、こんなグダグダで戦争終了で良いんですかね?

 緑の人がしっちゃかめっちゃか当り散らして戦列がぐずぐず、ついでに全国のお茶の間にビスコッティの醜態が……ええ、私の責任も有るんでしょうけど。

 ハハ、何か向こうで姐さんもちょっと顔が引きつってるんだよなー。

 そりゃそうだよねー。

 思いっきり戦闘邪魔しちゃってたもんね、私ら。

 あの戦争大好きな脳筋国家の女帝が怒らない訳無いわ。

 うん、恐いからこのまま皆と一緒にビスコッティに帰っちゃ駄目かな―――駄目ですか。ええ、肩を叩かないでくれますか、イケメン。

 いやでも、マジでスラップスティックコメディー路線を気取るならこれで楽しかったで良いんだろうけど、一応姐さんの初陣ってお題目の戦争だからなぁ、どうしたものか。

 このままスケジュールどおり地酒祭りとか始めても、ただの自棄酒大会みたいな気分にしかならないだろうし……。

 

 つー訳で、此処は一つ。

 

 しょんぼりさん、一曲盛り上がるヤツで、場の空気を換えて頂戴。

 

 

 ・м月〇日

 

 ちょっと聴かないうちに、またしょんぼりさんも随分上手くなったねぇ。

 あれなら歌手で食ってけるんじゃない?

 ―――って、何かなリコたん。飴欲しいの? あ、違う。……へぇ、あ、最近良く領主様と新聞に載ってるのはそれが理由か。

 外国で公演ねぇ。ははは、出世したね、我が妹分も。

 いやいや、私、経済部とか政治部とかしか読まないんで。

 娯楽芸能関係の情報には疎いのよ。脳筋国家に居る手前、そもそも娯楽情報持ってても生かしようが無いし。

 ウチはホラ、娯楽っつーたら殴り合いだからね。

 ビスコッティみたいに城の隣にコンサートホールがあるような……懐かしいなぁ。

 向こうでしょんぼりさんのお守りをしてた頃は、クラシックのコンサートとかにもお供してたんだけど。

 上階にある貴賓席の個室でさ、ちっちゃい頃の緑の人も一緒だったんだけど。

 緑の人が格好つけすぎちゃって、『ひめしゃまのごえいだから~』とかそんな感じで一人だけ休めの姿勢で立ち続けてたんだけど……ほら、クラシックコンサートだと、遠奏時間が、ね。

 休憩中まで立ちっぱなしだったから、最終的に……って、うぉ、ちょ、昼間の二の舞になるから、落ち着け! しょんぼりさんの晴れの舞台を台無しにするつもりか!

 いやまぁ、周りのハイテンション的に喧嘩の一つくらいは笑い話なんだろうけど―――いやいや、やっぱ止め。

 撮影班がカメラ向けてるから!

 あいつら最近、良く解らんけど私の周りを常に付きまとってるから気をつけたほうが良いぞ!

 

 ―――いや、別に何か悪い事をして見張られてるとかじゃない筈なんだけどね?

 うん、むしろ私はガレットに無償奉仕の丁稚奉公の毎日だよ。

 や、良く解らんけど確か記録だとか記念だとか何とか。

 しかもアレ管轄が報道部じゃなくてメイドさん達なんだよな……不思議だ。

 

 まぁ良いや。

 リコたんは最近は相変わらず天才幼女でありますか?

 ありますかー。そうだよねぇ、情報通信革命を五歳のときに既に実現していた天才さんだもんね。

 うん、いつの間にか学術院の主席さんでありますか。

 そいつはまた、パネェ天才っぷりでありますな。私なんてそもそも何時初等部を卒業したかもわからんのに……何よ、緑の人。

 は? へ~、あ、そうなの。アレ、一種の天才時早期育成課程だったんだ。

 はは、知らないうちに高等教育課程まで終了してましたか。たまにそういう話を聞くと、自分がエリートコース歩んでるって思い出せるよね。

 やー、普段ヴァンネットで書類に埋もれてるとねー。どう考えても四十八時間戦えますかを地で行くヒラのサラリーマンとしか思えなくて……。

 あ、でも職場は白髪王子の部屋だから、職業は秘書とかって扱いなのかな、ははは……って、何、その『馬鹿じゃんお前』って顔は。

 や、私のことはどうでも良いのさ。

 私はたまにはビスコッティの話が聞きたい。

 そうしないと自分がビスコッティ人だと忘れがちに……うん、取り込まれかけてると言う自覚が、実は無きにしも……。

 

 と言う訳で、リコたん、話題。

 ははは、急ぐでありますよ。さ~ん、に~、い~~~~~、お、何か見つけた?

 タツマキ……って、あのしょんぼりさんのペットだっけ?

 あ、あの仔も賢いワンちゃん部隊の隊員だったんだ。

 で、それが……ああ、そういえば紋章術使うね、あの犬。空間操作系だっけ?

 ―――ほぉ、それを応用して、遂に次元の穴を越えましたか。

 ハハハ、リコたん脅威の技術力。マジパネェっすな。

 あ、違うの? へぇ、あのワンコ、初めっからそんな力あったんだ。何か、いかにもファンタジーな話を久しぶりに聞いたなぁ。

 ―――って、それじゃあ一体何処にリコたんテクノロジーが関係していると……ふ~ん、ああ、カメラ持たせていけば確かに異世界の様子とかが―――へぇ。

 そうね、地球はフロニャルドと違って、なんつーか街が灰色って感じだろうね。

 ……え? ああいや、あ~~~うん、姐さんに教えてもらったって事にしておいて。うん、教えてもらった、教えてもらっただけ。

 それより、リコたんが今後の参考に出来そうな、何か面白いものでも見れた?

 あ、見れた。

 

 ……へぇ。

 

 ビスコッティの勇者様、ねぇ?

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

 楽しい時間があれば、そうではない時間も、当然。

 いや、一生消えぬ事のない寂寥感は、きっと、ずっと楽しい時間が続いているからこそに違いない。

 そう、信じたい。

 

 ―――そう、報告してあげたい。

 

 私は、貴方の娘は、貴方を慕った人たちは、皆、楽しく日々を生きています、と。

 もう一度胸の中で繰り返して、漸く、目蓋を開く。

 

 目の前には、少しずつ時の流れを感じさせるようになってきた、石碑。

 墓、だ。

 そこには、かつて―――きっと今も、シガレットが世話をかけた人間が、眠っている。

 

 では、と。

 最後に一声挨拶をして、立ち上がり、振り返る。

 行こう、と声をかけると、メイドはゆっくりと一礼を返した。

 

 そしてシガレットは、墓地を後にした。

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

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