「うぉう…………ちょっと感動だ」
洗面所の前の鏡に、真新しい制服に袖を通す幼いながらも何処か達観しつつ…………何よりモブみたいな見た目の人間が映る。まあ僕なんだけどね。
今日からピッカピカの中学1年生…………カッターシャツに簡易ネクタイにブレザー、下は黒のズボン。まるでスーツの様なこの制服は、僕の住むこの街にあるどの中学よりもカッコ良い。なんか気持ち大人になれた気分になるしね。
…………絶対、男の子ってどうのこうの言ったってスーツに憧れがあると思うんだ。小学生の友達で、中学が別々になった奴も、羨ましそうにしてたし。
…………そんなカッコ良い制服も、こんな見た目じゃ映えないんだけどねぇ。
「健太ー! いつまで鏡の前でニヤニヤしてるのっ!」
「あ、ごめん母さん」
算数が数学に変わる。
英語の授業が増える。
通知表が5段階評価になる。
部活動が始まる。
その他、色々な変化が僕を待っている。
「おまたせしましたー……」
「いやいや、俺は全然待ってないぞ健太。にしても感慨深いものがあるなぁ……」
「そうねぇ……私にも制服にはしゃいだ時期が…………」
「それが今じゃこんなになっちゃって痛い痛い痛い痛いっ!!?」
「悪かったですねぇこんなおばさんになっちゃってッ!!!」
「それよりもお腹空いたー」
「ごはんー」
リビングに行くと、父さんと母さんのいつものやり取りに、食いしん坊な弟とそれを真似する妹が。いつもの光景にくすりとしながら、席に着く。
「とにかく、今日は健太の晴れの日! 目立ってこいとは言わないが、胸張って行ってこいよ!」
「うん」
「じゃ、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
「いっただっきまーす☆」
…………ちょっと待て、いつもの光景に異物が紛れ込んでるぞ。
「あ、みなさんお邪魔してまーす☆」
「おお、光ちゃんいらっしゃい」
「…………なんでお前がいんだよ」
「あらあら健太クーン、私がいたら嫌なのん?♡」
「たりめーだこのアマァッ!!」
「こらっ!」
「痛ーっ!?」
「そんな言葉遣いしたら拳骨落とすわよっ!」
「落としてから言わないでよ母さん!?」
「そんなことよりごめんねぇ光ちゃん。このバカ息子素直じゃないから…………誰に似たのかしらねぇ」
「いえいえー☆ そういうところも、私は可愛いと思いますよー☆」
「えー、お姉ちゃんの方が可愛い」
「きれー」
「あら嬉しい☆」
…………なーんでよりにもよって、この日にこいつが来るのかねぇ。神出鬼没に現れるのに慣れてるウチの家族は、まるで実の家族の様に迎え入れちゃう。なにせ、こいつ用の食器と布団と寝間着と歯ブラシがある時点でお察しだ。
「ちなみにお家の方は?」
「今日もいませーん……」
「あらあら…………じゃあ光ちゃんの分も写真に残しておくからねっ!」
「
こいつの名前は
「…………? 健太、私の顔に何かついてる?」
「…………いや、今日も無駄に整った顔してるなって」
「むーっ! 無駄って言うなっ!」
中身さえまともなら、美少女なんだよなー。ま、12歳の語彙では表現できないけど、お人形の様な、とでも言えばいいのかな?
で、同じ中学に通うこいつの制服は近頃のアイドルみたいな格好……ブレザーとリボンととスカートのトリプルパンチで、下手な美人なら『負けた……』って思わせられるだろうことを想像して、落ち込む。
連む側としてはあんまり綺麗だと困るんだよなぁ…………別に双方ピンク色な想いはないわけだし。そもそも、光が僕にべっとりな理由だって、あまり僕にとっては好ましいものでもないし…………。
「とにかく、今日は一緒に行こうよ健太っ☆」
「…………電話で話してくれたらこっちから迎えに行ったんだけど」
「そこはほら、『いってらっしゃい』って言われたいし☆」
「…………そうですか」
白ごはんに納豆を掛けてかきこみながら、僕は心の中で長〜いため息をつくのだった。
◇◇◇
「それじゃあ、2人ともいってらっしゃい」
「入学式には母さんたちも行くからね!」
「うん、じゃあいってきます」
「いってきまーす☆」
家の玄関を出て、これからの通学路になる近所の細い川の近くを通る。
ガチガチに舗装されて、川というには自然っぽさはないけど、沿うように植えられた桜の花びらが、これでもかと春の自然を主張していたのでトントンである。
「集団登校がなくなったのは嬉しいな。めんどーだったし」
「そうだねぇ」
「…………いや、お前はしてないだろ。逃げ出してるし」
「てへっ」
ああもう様になるなぁ……不審者に捕まらないか心配だ。主に不審者の命的に。別の意味でこいつは集団登校しないとダメだったろうに…………周りの被害的に。
「うーん、それにしても懐かしいねぇ」
「なにが?」
「私が健太と会ったのも、桜が満開に咲いた公園だったもん」
「ああ…………」
そういえばそうだったね…………独りぼっちで泣いてる女の子を慰めようとしたのが、このダラダラ続いてる関係の始まりだったなぁって。
「だから私は春が好きっ。私の始まりで、トモダチ記念日っ! あ、あと健太の誕生日も春っ!」
「………。無駄にテンション高いのはそういうことか」
「むーっ! 無駄って言うなっ!」
照れ隠し交じりに、そんなことを言う。そんな気がなくたって、こいつのにぱっとした笑顔は直視すると恥ずかしくなってくる。
「…………まあ、泣き虫コウが笑ってくれて、僕としては嬉しいよ」
「あー、健太がデレた!」
「? なにその『デレた』って言うの」
「んーとね、普段むすっとしてる人が、急に優しくなったりするときに言うらしいよ? 古本屋のおにーさんが言ってた」
「へー」
…………むすっとしてる原因は光なんだけどな。という言葉を飲み込む。言ってることに間違いはないし。
「まあ、そういうことで…………中学校もよろしく、光」
「…………! こっちもよろしくーっ!!」
「あっ、こら抱き着くなっ!!」
◇◇◇
『
職業:中学生
容姿:ふつう
好物:納豆ごはん
備考:???
『
職業:中学生&???
容姿:美少女
好物:タマゴ焼き
備考:バケモノ
この物語は、どこか