普通な僕と異常な君   作:しにかけ/あかいひと

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よろしくお願いします。


その1-ハジマリの季節

 

「うぉう…………ちょっと感動だ」

 

洗面所の前の鏡に、真新しい制服に袖を通す幼いながらも何処か達観しつつ…………何よりモブみたいな見た目の人間が映る。まあ僕なんだけどね。

 

今日からピッカピカの中学1年生…………カッターシャツに簡易ネクタイにブレザー、下は黒のズボン。まるでスーツの様なこの制服は、僕の住むこの街にあるどの中学よりもカッコ良い。なんか気持ち大人になれた気分になるしね。

…………絶対、男の子ってどうのこうの言ったってスーツに憧れがあると思うんだ。小学生の友達で、中学が別々になった奴も、羨ましそうにしてたし。

 

…………そんなカッコ良い制服も、こんな見た目じゃ映えないんだけどねぇ。

 

「健太ー! いつまで鏡の前でニヤニヤしてるのっ!」

「あ、ごめん母さん」

 

算数が数学に変わる。

英語の授業が増える。

通知表が5段階評価になる。

部活動が始まる。

 

その他、色々な変化が僕を待っている。

 

「おまたせしましたー……」

「いやいや、俺は全然待ってないぞ健太。にしても感慨深いものがあるなぁ……」

「そうねぇ……私にも制服にはしゃいだ時期が…………」

「それが今じゃこんなになっちゃって痛い痛い痛い痛いっ!!?」

「悪かったですねぇこんなおばさんになっちゃってッ!!!」

「それよりもお腹空いたー」

「ごはんー」

 

リビングに行くと、父さんと母さんのいつものやり取りに、食いしん坊な弟とそれを真似する妹が。いつもの光景にくすりとしながら、席に着く。

 

「とにかく、今日は健太の晴れの日! 目立ってこいとは言わないが、胸張って行ってこいよ!」

「うん」

「じゃ、いただきます」

「「「「いただきます」」」」

「いっただっきまーす☆」

 

…………ちょっと待て、いつもの光景に異物が紛れ込んでるぞ。

 

「あ、みなさんお邪魔してまーす☆」

「おお、光ちゃんいらっしゃい」

「…………なんでお前がいんだよ」

「あらあら健太クーン、私がいたら嫌なのん?♡」

「たりめーだこのアマァッ!!」

「こらっ!」

「痛ーっ!?」

「そんな言葉遣いしたら拳骨落とすわよっ!」

「落としてから言わないでよ母さん!?」

「そんなことよりごめんねぇ光ちゃん。このバカ息子素直じゃないから…………誰に似たのかしらねぇ」

「いえいえー☆ そういうところも、私は可愛いと思いますよー☆」

「えー、お姉ちゃんの方が可愛い」

「きれー」

「あら嬉しい☆」

 

…………なーんでよりにもよって、この日にこいつが来るのかねぇ。神出鬼没に現れるのに慣れてるウチの家族は、まるで実の家族の様に迎え入れちゃう。なにせ、こいつ用の食器と布団と寝間着と歯ブラシがある時点でお察しだ。

 

「ちなみにお家の方は?」

「今日もいませーん……」

「あらあら…………じゃあ光ちゃんの分も写真に残しておくからねっ!」

(…………うそつきめ)

 

こいつの名前は(コウ)。基本的には面倒臭い……んだけど、どうしてかずっと連んでる女子。当人曰く、『健太の側は安心できる』とのことらしいけど。そんなことを恥ずかしがらずにどこでも言うから、小学校では無駄におちょくられたのは嫌な思い出だ。…………『しっと』も混じってるのがなんとも。

 

「…………? 健太、私の顔に何かついてる?」

「…………いや、今日も無駄に整った顔してるなって」

「むーっ! 無駄って言うなっ!」

 

中身さえまともなら、美少女なんだよなー。ま、12歳の語彙では表現できないけど、お人形の様な、とでも言えばいいのかな?

で、同じ中学に通うこいつの制服は近頃のアイドルみたいな格好……ブレザーとリボンととスカートのトリプルパンチで、下手な美人なら『負けた……』って思わせられるだろうことを想像して、落ち込む。

連む側としてはあんまり綺麗だと困るんだよなぁ…………別に双方ピンク色な想いはないわけだし。そもそも、光が僕にべっとりな理由だって、あまり僕にとっては好ましいものでもないし…………。

 

「とにかく、今日は一緒に行こうよ健太っ☆」

「…………電話で話してくれたらこっちから迎えに行ったんだけど」

「そこはほら、『いってらっしゃい』って言われたいし☆」

「…………そうですか」

 

白ごはんに納豆を掛けてかきこみながら、僕は心の中で長〜いため息をつくのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「それじゃあ、2人ともいってらっしゃい」

「入学式には母さんたちも行くからね!」

「うん、じゃあいってきます」

「いってきまーす☆」

 

家の玄関を出て、これからの通学路になる近所の細い川の近くを通る。

ガチガチに舗装されて、川というには自然っぽさはないけど、沿うように植えられた桜の花びらが、これでもかと春の自然を主張していたのでトントンである。

 

「集団登校がなくなったのは嬉しいな。めんどーだったし」

「そうだねぇ」

「…………いや、お前はしてないだろ。逃げ出してるし」

「てへっ」

 

ああもう様になるなぁ……不審者に捕まらないか心配だ。主に不審者の命的に。別の意味でこいつは集団登校しないとダメだったろうに…………周りの被害的に。

 

「うーん、それにしても懐かしいねぇ」

「なにが?」

「私が健太と会ったのも、桜が満開に咲いた公園だったもん」

「ああ…………」

 

そういえばそうだったね…………独りぼっちで泣いてる女の子を慰めようとしたのが、このダラダラ続いてる関係の始まりだったなぁって。

 

「だから私は春が好きっ。私の始まりで、トモダチ記念日っ! あ、あと健太の誕生日も春っ!」

「………。無駄にテンション高いのはそういうことか」

「むーっ! 無駄って言うなっ!」

 

照れ隠し交じりに、そんなことを言う。そんな気がなくたって、こいつのにぱっとした笑顔は直視すると恥ずかしくなってくる。

 

「…………まあ、泣き虫コウが笑ってくれて、僕としては嬉しいよ」

「あー、健太がデレた!」

「? なにその『デレた』って言うの」

「んーとね、普段むすっとしてる人が、急に優しくなったりするときに言うらしいよ? 古本屋のおにーさんが言ってた」

「へー」

 

…………むすっとしてる原因は光なんだけどな。という言葉を飲み込む。言ってることに間違いはないし。

 

「まあ、そういうことで…………中学校もよろしく、光」

「…………! こっちもよろしくーっ!!」

「あっ、こら抱き着くなっ!!」

 

 

◇◇◇

 

 

景山(かげやま) 健太(けんた)

職業:中学生

容姿:ふつう

好物:納豆ごはん

備考:???

 

(つつみ) (こう)

職業:中学生&???

容姿:美少女

好物:タマゴ焼き

備考:バケモノ

 

 

この物語は、どこか異常(おかし)な普通の少年と、間違いなく異常(おかし)な少女の、日常と非日常について語るものである。

 

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