「うふふー♪」
「…………(イラッ)」
この僕、景山健太という人間は、目立つのが嫌いだ。目立つと、良い視線も悪い視線もごっちゃになって突き刺さるし。そういうのがいいって人は中には居るんだろうけど、人間の中でも少数派だろう。そも、ごく普通の人間が目立つのは何かが間違っている。
…………で、そんな目立つ原因になってる奴が、今隣で給食を食べてやがる。
そも、入学式当日からこいつがべったりだったせいで悪目立ちしたし、そのあともだいたい隣に光がいてニコニコしてる。
小学校が同じだった人達は『ああ…………いつもの2人か』で済むのに対して、別の小学校から上がってきた人からの視線は…………考えたくない。
というかこいつ、今はまだ教室内での班決めが決まってなくて、給食を食べる時の席は自由だけど、決まったらどうすんだろ。
授業よりも悩ましい、今の僕のこれ以上ない悩みである。
「そういえば、健太。あれ、どうすんの?」
急にニコニコ顏から一転して真面目顏になる光。なんだよ、怖いな。
「あれ?」
「部活動。確か来週から仮入部が始まるよね?」
「あー…………」
僕らの通う中学校は、1週間仮入部期間が設けられている。新1年生には、仮入部届けなる紙を配られるのだが、月から金曜日まで、それぞれに仮入部したい部活を書き込むらんがある。この仮入部期間においては、最大5つの部活動を体験できるというわけだ。
「ちなみにだけど、光は決まってるの?」
「うん、私は入んない。だって私が入るとズルでしょ?」
「うん、まぁ…………」
光は、表向きは何やらせても完璧にこなす天才だ。本当はそんな枠に収まらないんだけど、こいつ1人いるだけで運動部は全国優勝狙えちゃうだろうし、文化部に入っても、コンクール的なので金賞を取るに違いない。
「でも、健太が運動部に入るならマネージャーはありかなって」
「残念だったな、ウチの中学の部活に、マネージャー制度はない」
「ルール如きじゃ、縛られないわよ私♪」
「ですよねー…………」
もし法律で縛れるのなら、こいつは今よりもっと大人しいはずだ。ナンテコッタイ。
「いくらなんでもそこまでいくと過干渉だよ……そも、友達の距離感じゃないし」
「友達じゃないっ、親友!」
「…………へいへい」
いや、親友にしたっておかしいですからね光サン。
「で、どうすんの?」
「んー、とりあえず運動部入ろうかなって」
「そっかー。じゃあ卓球?」
「道具使って球ど突く球技、苦手なんだよなぁ」
遊ぶ場所を無料で開放してくれてる小学校近くの児童館で卓球やったとき、壊滅的だったんだよなぁ。多分練習したら、普通レベルにはなるんだけど、楽しみを見出せないから、卓球は特にやる意味を見つけられない。
「じゃあバスケかな?」
「正解」
結構漫画に影響されるタイプの僕。スリーポイントシュートに魅せられて打ちたくなっただけ。なけなしの小遣いで買ったボールを持って、隣町にある大きな緑地公園のハーフコートで練習しまくったけど。
「でも、バスケェ? 健太には悪いけど、健太ってど平凡だし、激しいスポーツとか向いてないんじゃないかなぁ」
「うぐっ」
確かに、バスケットボールは運動量が多いから、スポーツテストの結果が毎回全国の平均値な僕では中々に厳しいだろう。…………一時期体を鍛えようとランニングと筋トレをしたのに、全く効果が出なくって密かに枕を濡らしたのは秘密である。
「でも、とりあえず仮入部で様子見てからにするよ。他の部活も、興味はあるし」
「そっか。じゃあ私と一緒に─────」
「断る」
「まだ途中ーっ!!」
プンスカしてる親友はスルーすることにした。
◇◇◇
「はてさて、どうしたものか」
金曜日、帰宅後の自分の部屋にて。冷や汗を流しながら、ちょっとカッコつけた…………のだが、目の前の問題はとてもまずい。
1週間の仮入部期間、僕はいろんな運動部の体験をやってきたが…………なんというか、どれもこれもイマイチパッとしないのだ。
どのスポーツも、卒なくこなすことはできるだろう…………でも、活躍できる図が思い浮かばない。万年補欠ルート直行である。
そして、肝心のバスケ部は…………
「部員数5人て、どうなん?」
どうもこの中学ではバスケットボールは不人気のようだ。3年生3人、2年生2人、1年生も入ることを完全に決めているのは3人のみ。夏で部活動が終わる3年生がいなくなれば、俺が入っても6人だけの部活である。いくらやるからにはレギュラーで試合に出たいとは言え………普通に死ねるよね。いや、死なないけどキツイのは間違いない。そもそも、学年の人数が1、2、3年それぞれ100を超えてないのが異常なのだ。この街都会の方だぞ?
と、そんな感じでうんうん唸っていると…………
『Prrrrrrrr!!』
勉強机の上に置かれたガラケーが、着信音を鳴らした。これはウチの親が買ってくれたもの…………ではなく、光が無理矢理俺に押し付けやがった緊急連絡用の携帯電話だった。…………コレが鳴ったということは。
「はいもしもし」
『ハァイ健太。部活決めで悩んでいるところちょっと悪いけど、ちょーっと力を貸してくれないかな?』
「…………何があったの?」
『それなりに面白いもの見つけたの。同じ学校の、同級の子に、オバケが』
通話を切る。
ふぅ、非日常的な単語が聞こえてきた気がするが、気のせい気のせい。それにしても本当に部活どうしようかなー?
「そうやって『異常』をあからさまにスルーするその姿勢はどうかと思うよ?」
「…………いつも思うけど、プライバシーもへったくれも無いよな。どんな手品だよ?」
嫌だ嫌だ認めない。僕はごく普通の男の子。下手したら平均のサンプルとして見本になるレベルの凡人ぐあいだ。そんな僕がファンタジーな出来事に巻き込まれるなんてそんなオカルトありえないから。
「もー、健太は普通じゃないもん! だって、私が壊しにかかっても何にもなかったじゃん!」
「ただ肩を掴むだけで壊されてたまるかっ!」
「本当なら壊れてるハズだもんっ!」
なんでもできる優等生の光は…………その、なんていうか、現実と虚構の判断がつかない人間…………
本当は分かっているのだ。触った物を壊したり、超能力みたいな…………魔法みたいな、不思議現象を使っちゃう女の子なんだって。
でも、だからと言って認めるわけにはいかない。
「僕が、そんなファンタジーパゥワーを受け付けない能力を持ってるなんて、ぜぇったいありえないっ!!」
なんだその主人公が持ってそうなアンチ能力。ふざけんなよ僕は何やっても普通の子供だ。
「5歳のとき、私の攻撃が無意味だった。6歳のときに消したユーレーさんは数知れず。私が習得した魔法も効かなかったね…………11歳のときには大妖怪みたいなのも殴っただけで消したし」
「あーあーあー!!! きーこーえーなーいッッッ!!!!」
霊感なんてなかったはずなのに、指摘されて『あ、そこなんかおかしい』みたいな感じで理解できるようになっちゃった自分が悔しいっ! どうして理解しちゃったんだ僕!!?
「……でも健太は、なんだかんだ言ってオバケ退治するんでしょ?」
「…………いや、まあ」
仮に…………仮に! そういう存在がいたとして、そういうのを倒せる力があると言うのなら…………まあ素振りパンチっぽい労力しかないのだから、騙されてやるのもやぶさかではないというかなんというか…………。
「まったく、健太は『ツンデレ』だねー」
「何そのツンデレって」
「素直じゃない人に対して使う言葉らしいよー?」
…………天邪鬼でよくね? まあいいけど。
「とにかく健太、急ごう。勘だけど、あと1時間も放置したら男の子死んじゃう」
「それを早く言えよ!!?」
◇◇◇
自転車の二人乗りは本当はダメなんだけど、やらざるをえないこの状況。なお、光が漕いで僕が乗るのはいつものことである。その方が速いしね。
「まったく、瞬間移動で健太も連れていけたら楽なのにっ!」
「その瞬間移動させられない人間に救われてるのはどこの誰!?」
「わーたーしーでーすーッ!!」
そんな喧嘩紛いのやり取りを繰り広げながらも、僕も光も、周りを見ながらその、オバケに取り憑かれてるらしい同級生を探す。
「というか名前は!?」
「知らないっ! 男の子の名前は健太以外ほとんどうろ覚えっ!」
「そりゃ光栄ですね畜生っ!!」
同じクラスだったら、名前で顔は分かるのにっ!
とりあえず、光には運転を頑張ってもらおう…………僕は、そうだな。
「……………………見つけた」
「えっ、嘘でしょ健太!?」
「気持ち悪いものがありそうな場所を見つけただけっ! 多分らんぷ公園の隣を歩いてるっ!」
「分かったッ!!」
らんぷ公園…………校区で1番広く、何もない公園…………というのは今は置いといて。
場所が分かればこっちのもの。光は思いっきりペダルを漕いで加速する…………普通に制限速度を超えてるのはつっこまない様にしよう。
「あっ、いたァァァアアアアアッッッ!!!!」
「…………ああ、彼か」
同じクラスの佐藤クン。中1なのに老けたその顔と、170cmもあるその身長から、既に『おっさん』というあだ名を付けられた、ちょっと可哀想な奴だったなぁ。
その彼の隣をビュンと走り抜け、ギュルギュルとドリフトの様に方向を変えながら停止。
「う、うわっ!?」
「佐藤クンですね!! 同じクラスの景山です!!」
「いまちょっと大丈夫!?」
「あ、うんいいけど。でも、夫婦揃って俺に…………今病院向かう最中なんだけど」
「付き合ってもおらんわこのアホーッ! というかそれよりもッ!!」
眼を凝らして佐藤クンを観る。確かに調子が悪そうだ…………肌の色が白い。
…………なんか、もやもやしたのが全身を包んでるなぁ。
「ちょっと失礼」
「え、ちょ!?」
背後に回って肩を掴み…………そのもやもやの存在を『否定』するイメージを送り込む。
10秒もしたら、そのもやもやしたものは消えて、心なしか佐藤クンの肌の色も戻った気がする。
「…………光、どうだろ?」
「うん、流石って感じ」
「な、何の話だよ? わけわかんねー」
「気にしなくていいよ。それより佐藤クン、体調の方は?」
「…………なんか、軽くなってる?」
よ、よかった〜…………こういうのって病院じゃどうにかなんないし、基本的に現代人は前までの僕と同じで、悪霊とか妖怪なんて信じないし、専門の人なんて呼べないしねぇ…………。
「とにかく、今日は帰ってちゃんとご飯を食べて寝ること! 原因はなくなったけど、身体はまだ弱ってるんだからね!」
「あっ、はい」
「よろしい! じゃ、またね! 帰るよ健太っ!」
「あいよー。じゃ、佐藤クン。また月曜日に?」
あー、精神的に疲れたー。帰ったら寝よ。
「いや、健太は寝かさない」
さらっと心を読まないでよ…………。
◇◇◇
「…………結局、なんだったんだ?」
嵐の様に現れて、嵐の様に去っていく彼らの背中を見ながら、彼らと同じ中学の1年生、
彼の中での2人の印象は、凸凹な恋人同士という認識だった。良くも悪くも普通な健太に、誰もが眼を奪われてしまう様な光。そんな2人が基本的にセットで動いているのだ。接点がなさそうな2人が仲良さそうにしているのだから、それはもうそれ以外考えられない…………と思っていた。
「確かに、身体は軽くなったけど」
下校時から、急に体調が悪くなった彼。原因は分からなかったし、熱もなかったため、彼の母親は大したことはないと思って、行くなら1人で行ってきなさいと送り出されて、結構参っていた。
その時にあの2人が現れた。かなり焦っていたから、2人は彼の体調の悪くなった原因が分かっていたのだろう。…………仲の良さはともかく、接点はそういうところにあったのかもしれない、と彼は結論付けた。
「うーん、お礼した方がいいよな」
しかし、彼は2人の家は知らない上に、今日は帰って養生しろと言われた。実際に体調を戻してもらった彼に、光の言った言葉を疑う余地はなかった。
「『また月曜日に?』って言ってたし、その時かな」
自分の母親に、なんて説明したものかと悩みながら、軽くなった足取りで彼は家に帰り始めるのだった。
◇◇◇
月曜日。ちょっとしんどく感じながら、いつものよーに光と登校。職員室で鍵をもらって、教室の鍵を開けた。
自分の席に着く前に、教壇の上に眼を引くものが置いてあった。本入部届の、回収ボックスである。
…………結局、入る部活は男子バスケットボール部にした僕。少し躊躇いながら、入部届を回収ボックスに入れた。
「本当に大丈夫なのー健太?」
「さあね。まあ、バスケはやったことないけど好きだし、最後まで続けられるでしょ」
「好きこそ物の上手なれ…………は、健太には当てはまらないけど、まあ楽しかったらそれでいいんじゃないかな」
悲しい事実である。
と、そんな感じで現実を突きつけられていると、後ろから声をかけられた。
「お、やっぱり来てたなお前ら」
「ああ、佐藤クンか。おはよー」
「おはよー佐藤クン☆」
「おう、おはよう」
そう言って、彼も回収ボックスに入部届を入れた。ちらりと見えたが、まさかの男子バスケットボール部か…………というか、今思い出したら彼はバスケ部に入るって決めてた組だったね。
「金曜日は助かった。サンキューな」
「僕はキミの肩を掴んだだけ。それっぽっちでお礼を言われてもねぇ?」
「いいんだよ、実際すごく楽になったんだからよ。…………で、」
「?」
「結局、アレの原因はなんだったんだ?」
「…………アレって言われても、僕わかんなーい!」
嫌だ嫌だ、普通の人(僕も普通の人だけど!)を巻き込むのは嫌だ。下手に首を突っ込まれても困る!
「まあいいけどさ。とにかく…………世界は意外と、愉快なこともあるもんだな?」
「……………………」
「ま、お前もバスケ部に入るっぽいし、これからよろしくな景山!」
「う、うん。よろしくね佐藤クン」
こ、これってバレてると考えた方が良いのかな?
「ふふっ、新しい友達ゲットって感じ〜?」
「…………うるせぇベタベタすんな腐れ親友」
「なにさ親友って!! 照れるじゃん!!」
都合の良いことしか聴こえない耳を羨ましく思いながらは、疲れたように僕は自分の席に座り込むのだった。
◇◇◇
『
クラス:1-2
容姿:おっさん
好物:鯖缶
備考:真実に近いてる人&男子バスケ部