本入部。全員で挨拶をするためにその日の部活の最初はスタートがずらされた、ようで。まあ挨拶は必要だし、先輩達の名前を全て覚えられたわけじゃないからすごく助かる。
因みに新入部員、結局3人。僕と、佐藤クンと、もう1人。やばいな、このままだと夏から5人…………漫画見て軽〜くバスケの試合を動画投稿サイトで見た俺でも、無理のあるような状況だということは余裕でわかる。
「では、最初に新入部員から挨拶を」
練習場所である体育館の端で、つるっ禿げの顧問の先生が言ったので、五十音順で僕らが…………ってか、僕からじゃん、マジですかそうですか。苦手だけど、我慢するしかないよねぇ。
「1-2の景山健太です。バスケは全く経験がないですが、貢献できるよう頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
パチパチと、拍手が鳴る…………未経験者でごめんなさい。ちゃんと練習するので!
「1-2の佐藤宗介です。小学校の頃に少しだけやっていました。まだ背は低いですが、センターで頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
へー、170センチでも低いんだ。まあ、漫画とかだと180オーバーの人が多いからそうなんだろうけど。でもセンターってかっこいいよね! なんというか…………派手なプレイでも地味なプレイでも、チームを支えている感じが! …………まあまだ160しかない僕じゃ夢物語なんだけど!
「……1-3、元部洋祐です。一応、経験者です。よろしくお願いします」
…………お、おう。3組からの人か。なんというか、物静かな人なのね。でもこう…………抱負とかないのかな? どこそこのポジションで頑張りたいとか! …………あ、なさそうですねごめんなさい。
佐藤クンからして一筋縄ではいかなさそうだし、僕この部活でやっていけんのかなぁ…………。
◇◇◇
あの後、先輩達と先生の挨拶が終わった後、2、3年生は体育館で練習で、1年生は外で走ってこいと言われ、メニューを口頭で確認したのですが。
マジさーせん部活動舐めてました。
「…………1.5㎞もある学校の外10周って何語ですか」
「え、こんなもんだろ?」
こ、こんなもの? 部活ってとにかく走らされるって聞いたけど、もしかしてこういうこと?
と、戦慄していると少し躊躇いがちに、元部サンが口を開いた。
「……試合に耐えうる体力作り。後、限界を超える練習。現状ですら大半の時間コートに立たなければならない以上、無駄とも思えるほどのハードワークは必須。バスケなんて、極端に言えば全速力で持久走をし続けながらするスポーツだから」
あ、分かりやすい解説ありがとうございます。まあ、理由が分かったところでなんとかなるかと言われたら、ならないんだけどね。この平均的ボデーではどうにもならん
「……つらくなったら休んでもいい。でも、5月後半の地区大会までに、先輩達のサブメンバーとして動ける程度には仕上げないと」
「まあ……そうだよなぁ。俺らいなかったら、先輩達だけだと5人だもんな」
「5人で最初から最後までプレイし続けるのは困難。だから景山にも頑張ってもらいたい。人数が少ないから負けたなんて言われたくないし、言われてほしくない」
「そ、そうっすね!」
なんだこの頼もしい人。とっつきにくいとか心の中でおもってごめんなさい。
「……走り終わったら筋トレ。その後は外用ボールでハンドリングの練習に、ドリブル練習。やることはたくさん」
「はんどりんぐ?」
「ボール操作ってイメージだな。相手に取られないように動かせるようにならないとって意識でいいと思うぞ」
ふぇぇ…………やることが多くてびっくりだよ。まあどの部活に入ってもそれは変わらんだろうしいいんだけどさ。
「……説明はここまで。とにかく、まずは走ろう」
「「おー」」
なお、3周目であまりのキツさに泣きが入ったのは自明の理であることをここに記しておこう。
◇◇◇
バスケ部活動初日から既に死にそうになってる自分が情けなく思いながらも、自宅リビングのソファにてゴロリとダウン。全身が痛いのらー。
とは言えこうやって仲間と一緒にスポーツで汗水流すってのは、青春臭くて癖になりそう。僕ってば、全然そんなことしてこなかったからなぁ。
「にーちゃんにーちゃん」
「なんだね弟よ」
そんな風に良い感じで青春してるこの状況に酔いしれてると、マイブラザーがちょっとゲッソリした顔で俺の顔を覗き込んできた。
「晩御飯はどうするん?」
ば、晩御飯、とな?
「えー、母さんまだなの?」
「あ、にーちゃん忘れたな? 今日からお父さんとお母さん、またしばらくかかりきりって」
……………………。
「ぬわぁぁぁぁああああああっ!? 忘れてたぁぁぁぁああああああっ!!」
何がやばいって、凄くやばい。
マイブラザーの台詞は今日の夜は、父さん母さんが遅いどころか、2週間ぐらいは帰ってこれない可能性をはらんでいる。
何せ2人とも同じ場所で働いているのだけど、日によって何日間も張り付いたりせねばならぬ過酷極まる職なのだ。代わりに給与はまぁまぁなんだけどさぁ。
さて、帰ってこれないとなると家を回すのは俺しかいない。弟はまだ小3、妹に至っては5歳である。
「…………冷蔵庫に食材はあったよな」
「うん」
「…………チャーハンとエビチリとかきたまスープな」
「やった!」
覚悟を決めて疲れた体に鞭打って、キッチンまで向かおうとすると…………
「そして完成した品は、こちらになりまぁす☆」
「すげー!?」
勝手知ったると言わんばかりに、エプロン姿でくるくるりと踊るように料理をしていたらしい光が、さっき口にしたメニューを完成させていた。色々とツッコミどころはあるが、なによりまず。
「……………………いやあの光? 何してるのさ」
「景山ご夫婦に健太達のことを任されたっ♪」
あ、そうですか…………いや、オトンにオカン? これでも家事なら完全にこなせるできた息子ですよ? アテになりませんか?
「正確には『泊まりに来ないか』って言われたんだけどね。ほら、こっちも保護者が仕事でいない
「ひっじょーに助かったよ親友。サンキューです」
「気にしない気にしない。ささ、熱々のうちに食べようぜ!」
なお、僕が作るよりも格段に美味いのは自明の理であるからして、『にーちゃんのより美味しい』だなんて言葉に傷ついたりはしない。しないったらしない。
◇◇◇
弟も妹も寝かしつけた夜の10時。身体の疲れもさることながら、そのあとの軽いドタバタによる精神的な疲れがドッと押し寄せてきた頃。
「というわけで健太、私はご褒美を所望します!」
「待てやド腐れ親友。何に対してのご褒美なんだよ」
「そりゃあ…………こんなかわいー幼馴染に作ってもらったご飯に対する?」
「自分で言うかよ全く…………」
しかも然程嫌味に聞こえないあたりが、流石だなぁと思うが。
「で、何すりゃいいのさ。ご覧の通り、凡人な僕は光と違ってもうヘトヘトで眠いんだけど」
「だいじょうぶだいじょーぶ☆ 健太にはソファで座って貰うだけだから♪」
座って貰うだけ? という疑問を置き去りにしながら、リビングに敷いたカーペットの上で寝そべっていた僕はぺいっと投げられ、丁度同じくリビングにあるソファに座る体勢で着地した。
「…………心臓に悪いから止めてって何回も何回も…………っておい」
「にゅふふー♪」
思わずジト目で見下ろす。だってこの女郎、僕の膝を枕にして横になってやがる。
「うんうん、やっぱり膝枕は程よく肉のついた健太のが1番だねぇ」
「…………何回も言うけど、これって親友の距離感じゃないと思うんだけど」
別に、実は恋心を抱いているということもなければ(多分)、その辺りのことに疎いというわけでもない僕たちだ。間違っても……という表現は少し不適当だけど、そういう関係ではないし、なりえないはずだ。
「いいんだよ〜細かいことは〜。他所は他所、ウチはウチ。そも、世間一般的には異性間での友情は成り立たないに等しいってなってるんだし、私たちの友情のカタチが、こんな風でもいいと思うんだけどな」
…………まあ、そうなのかもしれないけど。
そんな風に半ば丸め込まれながら、僕は彼女の頭を撫でる。こうすると機嫌良くなるし大人しくなるし。自由気ままだけど、膝の上では甘えてゴロニャンする猫みたいな? いや、僕は猫を飼ったことはないからイメージだけだけどさ。
「……ねぇ健太」
「なんだね光?」
他の誰でも…………ウチの家族でも分からないような、世界中で僕だけが気がつくであろうトーンの変化に、面倒くさく見せるフィルターを取り払って、素の調子で続きを促す。
「……他の誰が敵になっても、健太だけはずっと味方だよねぇ……そばをはなれたり、しないよねぇ…………」
…………そういえば、そろそろ周期のピークだったか。道理で最近必要以上にベタベタしていたと思った。
「だいじょうぶだよ光。他の誰が光から離れていっても、僕だけは光の味方だから」
いつかの、桜舞う夜の公園で寂しさに震えて泣いていたあのバケモノは、僕のその言葉に満足そうに微笑んでから、ゆっくり目を閉じるのだった。
……どーでもいいけど、すっげえ足痺れて寝れねー。
◇◇◇
そんなこんなでまたまた1週間が過ぎていく。
部活動を通して分かったこと。
僕にはやはりスポーツマン的な才能はからっきしであるが、身体能力が追いつく分に関しては、飲み込みは早いことだった。
例えば、NBAのプロの如くボールを自由自在に操ることはできないけど、基本的なドリブルやハンドリング、さらに人差し指でボールを回す程度のことなら既に出来るって感じだ。
まあそんなことはすこぶるどうでもいい…………いや、バスケ部員としては諸手を挙げて喜んだんだけどさ。
目下、僕が気になっているのは……
「……なに、景山?」
「あ、ああいえなんでもありませんですよ」
「……だったら練習に集中して。迷惑」
「サーセン…………」
今現在体育館でのパス練習の相手、元部サンのことである。
一緒に部活をして分かったことは、彼は自分にも他人にも厳しい、そこそこストイックな人であるということ。空気が多少読めてないところもあるけど、まあ変な人ではない。
…………と、思ってたんだけど、ねぇ?
思い出すのは昨日の光景、親睦を深めようと3組の教室に彼を呼びに行こうとした時の光景である。
『元部サー……』
『『『(ギロッ!!)』』』
『(…………え、なんぞこれ)』
すっごい睨まれたのである。ついでに、元部サン自身もそんな感じで睨まれてたりいないものとして扱われたりしてた。
…………イジメじゃあ、ないよね? イジメだったら軽〜く失神しちゃいそうだよ。僕ってばメンタル劇弱だし。
というわけで練習後。
「どう思うよ佐藤クン」
「どうもこうも、なぁ。まあ、ちょっとだけあいつの噂聞いたけどさ」
帰り道、途中まで方向が同じなのでちょっと佐藤クンに意見を仰いでみた。
「なんというか…………嫌なヤツらしい」
「え?」
「授業中、気がついたら寝てる上に、その流れで問題出したら完璧以上に答えるって」
「なにそれちょー嫌なヤツ」
アレか、『俺なら寝てても点数取れるし』ってか? ふざけんなよ僕なんか真剣に授業受けても平均点のオンパレードなのに…………とまあそれはともかく。
「ちょっと信じられないな…………少なくとも、授業中に寝るような人じゃないと思うんだけど。ほら、自分にも他人にも厳しいじゃん元部サン」
「俺もそう思った…………けど、現実にヤツは寝てるっぽいし、俺たちも元部のことを良く知ってるわけじゃないしなぁ」
マジでどういうことなんだろうねぇ…………。
「でも、もし元部が俺らの思った通りの性格で、授業中寝てしまうのが不本意だとすれば…………もしかしたら、お前らの出番じゃねーの?」
「僕らの出番?」
「惚けんなよ、この間俺のこと治したのお前だろ?」
あー…………。いやまぁ、そうかもだけどさ。
「そう頻繁に、ゴロゴロとあんな事案が転がってるわけがないでしょ? …………あと、人の多いところでそんな話しないで。あいつはともかく、僕は積極的にはバラさないスタンスだから」
「あ、ごめんごめん」
「…………ったく」
それに…………
「元部サンからそんな気配はなかったと思うんだよねぇ」
「あ、なんかそれっぽい台詞」
「台詞ゆーな!!」
本当にそういう能力なかったら痛々しい台詞なんだからなコレっ! というか僕的には痛々しく聞こえてくれた方がいくらか救われるんだけどね!!
…………それとさ。
「おいド腐れ親友。気配消して隙伺ってんじゃねーよ」
「うわっ!!?」
「あ、ばれた?」
いつの間にか背後にいたのは無駄に見目麗しゅうござっていやがる我が親友殿。部活やってないからか、既に帰宅した上で私服モードであった。
「し、心臓に悪いから止めてくれよなぁ! お前らと違って一般人なんだよこっちは!」
「おいコラ佐藤。僕も一般人だっつーの」
「「言ってろ異常」」
…………悲しいな。否定できない僕がいる。
「まあ冗談は置いといて。もしかして、急ぎの用なのか?」
「んーん。そういうわけでもないよ佐藤クン。単に晩御飯の買い出ししようとスーパーまで足を伸ばしたら、2人を見かけてって感じ」
「あー…………ごめん、ありがと」
「いいってことよ! あと、保育園にあーちゃんのお迎えも行ってるからご心配なくー」
「…………え、なにお前ら一緒に住んでんの?」
「「普段は違う」」
「…………今は住んでるってことかよ。いくら仕事の相棒だからって、進み過ぎじゃねーの?」
進み過ぎ、ねぇ?
「そこんとこ、どうなんだろね?」
「この歳のカップル的に考えると、まあ健全とは言い難いよね。ま、そんな関係じゃない私達が、特に気にする必要は」
「あるからね?」
「ちぇー」
「…………夫婦漫才はやめろ」
「夫婦じゃないっ!」
「そうだよ、年齢的にしてるわけないじゃないか!」
「「ツッコミどころそこかよ!!?」」
お、ナイスツッコミ佐藤クン。成る程、彼はツッコミ要員だったのか。
「…………はぁ、なんか練習より疲れんだけど。あ、俺こっちだから。また明日な、景山に堤」
「おーう。また明日ね佐藤クン」
「じゃねー☆」
ということで、またいつもの2人になってしまったわけですが。
「…………で、どう思う?」
「んー、私も元部クンからそんな気配は感じ取れなかったなぁ。でも、彼の性格らしくないというのは同感ね」
人間観察も中々ハイレベルな光のことだ、そこは間違いないのだろう。
「ならしばらくは様子見かなぁ」
「そーだね。…………悔しい?」
「いんや。そも、対異常でもこんな能力持ってる方がおかしいんだ、人間こんなもんでしょ」
まこと、人間とは不便なり。
でも、この不便さが人間らしさだというのなら…………甘んじて僕は受け入れるけどね。
「ねー健太。必死こいて難しい言い回ししようとしてるのは分かるんだけど、背伸びしてる子供にしか見えない」
「ちょっと待て、僕13の子供だから別にいいでしょ!?」
あと、背伸び感覚で言えばお前に言われたきゃねーよ。
◇◇◇
で、結論から言えば。元部サンの授業中に寝る原因は割とすぐに判明した。
だって、練習中に眠るようにぶっ倒れたもん。
倒れた痛みで目が覚めたのか、すぐに復活したけれどね。
「……練習中断させてすみません」
「いや、それは大丈夫だけど…………保健室行った方がいいんじゃないか?」
「……問題ありません」
介抱していた先輩が、心配そうに声をかけるが…………まるで意地を張った子供みたいに、元部サンは拒絶する。
「いや、だって急に眠るように倒れるって、ちょっと─────」
「問題ありません!!!」
またもかけられた声に、尋常じゃない様子で声を荒げた。
…………これはまさか?
◇◇◇
(暫定)
『
クラス:1-3
容姿:ぬぼっとしただるそうな感じ
好物:不明
備考:もしかして→睡眠障害?