「なぁ景山ー……あれは流石にそういうことなんじゃないのかー……?」
「佐藤クンはファンタジーに夢持ちすぎ。なんでもかんでもそーゆーのが原因じゃないから」
いや、ある意味で『そういう思い込み』がそーゆーのが原因になってしまうとは光から聞いたことがあるけど、僕はそういうのは嫌いである。
自分のやってしまった良いことも悪いことも、自分のせいにしたい。生きるって、そういうことだと思うのだ。まだ中学一年生だけどね。
というわけで、先程の元部サンの反応を訝しく思った佐藤クンが話をしたいと言うので、ちょっと佐藤クン家から遠いけど僕の家に案内したのだ。…………あっ、これ中学で初めて友達を我が家に案内したかも?
んで、はしゃぐ弟妹をスルーして自分の部屋に案内し、お茶とお菓子を用意してテーブルに着き、どうにかできないか? と聞かれたわけだが、現実は非情である。
「まあ、うん。確かに元部サンのあの反応は、本意じゃなさそうだったよね」
「お前にはどうにかできないのか? 知り合ってばかりだけど、チームメイトが苦しんでるの知らんぷりはちょっと…………」
「なんとかしたいのは山々なんだけどサ…………僕、そういう人間らしい悩みの解決はできないの。良くも悪くも、佐藤クンが言ってるような、そーゆーことにしか対応できない」
「こういうこと言うのあれだけど、その力つかえねーな…………」
全くその通りである。
「でも、逆に言うと普通に対処可能だってことだよ。多分あれ、病気だと思うし」
「それって、どんな?」
どんな、と言われると困る。なんか、唐突に眠ってしまう病気? としか言えないというか。
『睡眠障害。その中でも過眠症ってやつに分類されるやつだろーね』
と、悩んでると虚空から声がしてきた。誰なのかが分かるだけに頭が痛くなる。
「ひっ!? い、今堤の声がした!?」
『驚くとはひどいなー。私がそういうのだって知って────』
「ないから。くわしく説明してないから。いきなりそういうことしたら、そりゃビビるから。佐藤クン安心して、単純にあのおバカはその場に居なくても声だけ届かせるとか余裕みたいだから」
「そ、そうなのか…………」
しかし、それにしても佐藤クンの反応は思ったより薄いなぁ。正直、こういうバケモノ染みたことすると避けたり仲間外れにしたりするようなものだと思うんだけどね。実際これまでそういうこと多かったし、『だから』光は今此処にいるんだけど。
「だって、悪いやつじゃないじゃんお前ら。まあビビったりはするけど、怖がるのはなんか違うと思うんだよ」
「顔に出てた?」
「うん、思いっきり。『なんで避けないんだろう』って」
『うぅん、できた人間だねー佐藤クン。私は嬉しいよとても!』
うん、僕もなんか嬉しい。
「それで、そのかみんしょー? って言うのはなんなんだ?」
『ざっくり言うと、寝たくないのに寝ちゃう病気かなー』
本当にざっくりしてるけど、それだけ分かれば十分である。
「なぁ光、それお前のコネでなんとかならない?」
『ならない。多分、治せない類いの過眠症だし、実は病気が問題じゃないっぽいしね』
「え、病気が問題じゃないって…………どういうことだ?」
こっち見られても分からないよ佐藤クン。
『今、その裏付け取るために元部クン家に忍び込んでるから、ちょっと待ってて』
「……えっと、これってふほうしんにゅーとかいうヤツじゃないのか?」
「…………黙っててくれると嬉しいなぁ」
色々と手を尽くしてくれるのは嬉しい反面、堂々と犯罪をする親友に頭がさらに痛くなった。
◇◇◇
とりあえずある程度原因は知れたことで納得、続報を待つってことで佐藤クンは帰った。
そしてその3時間後位に、光が帰って来た。いろんなことを飲み込みつつ、暖かく出迎えてあげようと思ったが、表情が硬い…………というか、眉間にしわ寄せて怒っていた。どうしたんだろう…………?
「ったく、そりゃあーも頑なになるわ…………だからあーゆー押し付けがましいの嫌いなんだよ私は…………」
「ど、どうした?」
「どうしたもこうしたもあるかっ!」
そう言って光はリビングのソファにダイブして寝転がり、ムシャクシャしてるのか頭をかきむしった。
「……………………ハァ」
余程、彼女的にも辛いものを見たらしい。僕もソファに座り、無理矢理ヤツの頭を太腿に乗っける。所謂、膝枕の体勢だ。
「何を見たのか、気になるけどいいや。とりあえず気がすむまで甘えていーよ、光ちゃん」
「うぅ…………健ちゃんはいっつもやさしーから、たすかる」
ポンポンと、頭を撫でながら少し予想をして…………まあ細かいところはともかく、どんなことなのかは予想するまでもないことに思い至る。そして頼りきりにしてしまった僕自身と、光のトラウマを刺激した元部サンところの家に、イラだった。まあ、不法侵入とかは棚に上げてるけどね。
「…………がんばってるのに、みとめてもらえないって、つらいの」
「うん」
「…………がんばっても、そのうえをもとめられるの」
「うん」
「…………さいごに、おかしいっていわれるの」
「……うん」
「がんばってる、だけなのに…………」
「うん、光ちゃんは頑張ってきた、えらいえらい。でも、僕といるときは無理して頑張らなくてもいいからね。僕が光ちゃんにして欲しいことは、普通に、仲良くして欲しいだけだから。光ちゃんがしたいように、ね」
「健ちゃん……………………」
「ごめんね光ちゃん、つらいことさせた。無理させた。だから、今ならなにやっても許してあげる」
そういうと、おずおずしながら抱きついてくる。つい昨日気持ちがしずんでいたのが、更に落ち込んでるみたいで、罪悪感も合わさって、暫くはこいつのいいなりになってやろうと決めた。
(それはそうと、どうしてやろうか…………)
元々スルーするつもりも無かったけど、このせいで途中で投げ出す選択肢も消えた。今はへこんでる光が復活したら間違いなく彼のために頑張るだろうし、自分と重ねて。
まあ、今はお姫さまの成すがままにされることに集中するか…………。
◇◇◇
「と、いうわけで手伝って貰いたいのよ佐藤クン」
「や、手伝うのは問題ないんだけどさ。結局あのあとどうなったん?」
「聞けてない、光がダウンしたからね。流石にグロッキーの人間をどつきまわす様なことはしないもん」
「ああ、いないのはそういうことなのか。てっきりまだ潜入してるものかと」
「流石のあのバカも、他人のためにそこまで頑張って学校はサボらないよ、うん」
日が替わり翌日。今日はいつもより早く、一人で学校に来た。そして予想通り、教室には佐藤クンも来ていた。察しのいい人は助かるよね、察しが良すぎとも思うけれど。
「でも、光がグロッキーになったから大体の原因は分かった。家の問題だよ、うん」
「それはあれか? いわゆる、家庭内暴力とか、ディーブイとか、そういうヤツ? でも、元部にアザとかなかったぞ?」
「別に、叩いたり殴ったりするだけが暴力じゃないでしょ。言葉でいじめるのだって、立派なこころの『暴力』だよ。まあ多分、いじめてるとか、そういう話じゃないんだろうけどねー」
「いじめてるんじゃなければ、なんだよ?」
「佐藤クンは経験ないかな、『早く宿題しなさい!』って怒られたこと」
「ある、小学校低学年のときはしょっちゅう言われた」
「それの、むちゃくちゃひどいの、だと思うんだよ、うん。教育ママっているじゃん? あれのめっちゃ酷いのが、元部サンの親なんじゃないかなー」
「あー…………それで元部がグレて、授業中寝たりして…………ってことじゃないよな? だって、本意じゃなさそうだし」
そう。だから、
「今から言うのは単なる想像なんだけど…………本人的には色々と辛いんだけど、親の言うことは正しいと思ってるし、正しくありたいと思うから、授業中寝るなんてことはあってはならないと思ってる。でも寝てしまう。多分、小学校のときもそうだったんだと思うんだ。その事は元部サンの親も知っていて、こっぴどく叱ってるんだと思う。たるんでるとかなんとか言ってさ。自分が悪い、だからなんとかしたい。病気だなんて思わない、あってはならない。悪いのは自分だ、正しいのは親だ、親がたるんでると、お前が情けないのが原因だと言うから、その通りなんだ。…………とか、そんなところじゃないかな?」
ちょっと熱く語ってみると、佐藤クンが目をパチパチさせていた。なんか驚いてるみたいだ。
「…………うん、お前のもーそー、だと思って聞いても、多分そうなんだろうって思った。お前話作るのうまいなー」
「や、確かに作り話だけどさぁ…………」
いや、妄想とか、絶対そうだろうって思い込みがないとは言い切れないけど、まるきり作り話にしたつもりはないよ。
「てことは、直接元部の家に行くのか?」
「ううん、さっきも言ったけど、単なる想像だよ? だから、本当にそうなのか、確認しなくちゃ」
そう言って、僕はニコリと笑う。多分、戦隊ヒーローの悪の組織の幹部みたいに、凄く悪い顔をしているはずだ。実際、佐藤クンは何かを察してたじろいだし。
「佐藤クン、チームメイトのお悩み解決のために、悪い子になっちゃわない?」