同日、午後3時、再度修正。SとCを打ち間違えるって……。
燃えている。
全てが火に包まれている。さっきまで隣を飛んでいた僚機が、幻想郷連合軍の象徴であった戦艦が、生き残った住人が逃げ込んだ防空壕が。
空は彼を含めて数人しか味方はいない。彼ら以外は全て叩き落された。
雲霞の如く押し寄せる幻想郷平和維持軍は戦場の主導権を欲しいままにしていた。
河童と鬼達が必死に築いた防壁を飛行戦艦の46センチ砲が、戦略爆撃機の800キロ爆弾が瓦礫に変える。
人里だった場所は幻想郷平和維持軍を迎撃するために高射砲などが設置された。誘導爆弾と誘導ロケットで一部を除いて撃破されたが。
今朝出撃した飛行場も滑走路は使い物にならないだろう。いやそもそも残っているだろうか?
何とかまだ無事な味方の飛行場に着陸しなければならない。彼はまだ終わるつもりはなかった。
たとえ自分以外誰も幻想郷平和維持軍に歯向かう者がいなくなっても、1人だけで戦い続けるつもりだった。
彼――汚い忍者は無事な飛行場を探すべく視線を巡らせた。
――2年前、幻想郷内戦勃発より1年経った頃の戦場。
ここでは激しい航空戦が繰り広げられていた。地上軍を撃破すべく急降下爆撃機が地上目掛けてダイブし、それを阻止しようと戦闘機が急降下爆撃機の背後に食いつき、その戦闘機をさらに別の戦闘機が追いかける。
そんな混戦状態の中で目を引く活躍をしている者達も居る。
光弾が周囲を覆う。敵機の12・7ミリ弾と20ミリ弾が掠めるように飛んでいく。
「いつももどおり弾がヒュンヒュンおtんで繰るな」
数で勝る敵は弾をばら撒きながら1機の連合軍機に対し2機以上でかかってくる。
速度を絞り、ラダーを蹴って敵機をオーバーシュートさせる。
「寝てろっ!」
トリガーが引かれるのに合わせて放たれた20ミリ弾が照準機に合わさった敵機――S3CF2を平和維持軍が誇る空冷複列星型14気筒エンジンもろとも爆散させる。
もう1機のS3CF2は機銃弾が尽きたのか、はたまた空戦で燃料が危なくなったのか、すでにいなくなっていた。
「追撃のグランドヴァイパーをくあrせてやりたいが、もう燃料がないな」
燃料計を見て彼は追撃は出来ないと判断する。彼が乗っている戦闘機は航続距離が短いという弱点があった。
「……HPに帰還すうrしあkないな」
周囲を見たが敵は逃げるか、味方が撃墜したようでいなかった。燃料が持つ範囲内に獲物がいない以上、基地に帰るしかない。
操縦者たるブロントさんの意思に従ってKHC-F4Aは液冷V型12気筒ガソリンエンジンを轟かせ、夕日に背を向けて飛んでいく。
生き残った者達は、彼の後ろに続くように戦場から去っていった。
「順調だな」
今日の航空戦の戦果を知った幻想郷連合軍総司令官上白沢慧音はそう呟く。
分かっているだけでも敵のS1CB1を24機、爆装したS2F1を12機、S3CF2を29機撃墜したのだから当然だろう。
「油断は禁物ですよ総司令官。彼らの重要拠点である妖怪の山、紅魔館、冥界、地底は落ちていないのですから」
慧音を幻想郷連合軍参謀長霍青娥は嗜める。古来より戦況が有利なときに油断して敗北した事例には事欠かない。
「そうだな、だが事実、我々は順調に反乱軍の防衛線を攻略している。紅魔館奪還も近いぞ。それを終わったら妖怪の山だ」
慧音の言う通り、幻想郷平和維持軍の防衛線は徐々に後退しており、幻想郷西端にある平和維持軍の本拠地を除けば、最大の航空基地である紅魔館飛行場も近づいていた。
その後ろには妖怪の山がある。地下壕が張り巡らされ、要塞化された山を攻略するのは簡単ではないが、紅魔館飛行場を攻略した後なら航空攻撃と飛行戦艦の砲撃である程度は楽になるだろう。
と、そこに連絡が入る。
「司令官、第1、第2、第3戦闘機隊、第3、第5軽爆撃機隊は帰還しました」
「ああ、分かった。搭乗員達にはしっかり休むよう伝えてくれ」
「はい。それと第2戦闘機隊隊長痛風は無事だそうです」
「……何故痛風のことをわざわざ伝える?」
「永江衣玖通信官が総司令に送るように、と命令したとのことです」
「あのドリル深海魚女……!」
怒った、だがどこか嬉しそうな顔をして陰口を言う。
周りがニヤニヤと笑っていることに気付いた慧音は咳払いをして、命令を下す。
「さ、さあ諸君。今回の作戦で我々は敵の防衛線を突破した。これで紅魔館飛行場が攻撃可能となった。次の攻撃で最後の防衛線を突破し、飛行場を奪取する」
「そうすれば、我々は妖怪の山攻略作戦で大量の航空戦力を送り込めるようになります」
慧音と青娥の言葉に司令部にいる者達は頷く。これは千載一遇のチャンスなのだ。
魔法の森の戦いで多くの陸上戦力を喪失した幻想郷平和維持軍を紅魔館、妖怪の山から追い出し、西端にある本拠地を潰せるのは今しかない。モタモタしていたら戦力を回復されてしまう。
そうなれば量に劣る連合軍は数に呑まれて負けるだろう。内戦緒戦のように。
慧音は司令部に居る全員をしっかりと目を合わせて、宣言する。
「作戦発動は2ヵ月後だ。1ヵ月後に我々は紅魔館飛行場、妖怪の山を奪還する」
幻想郷にヴァナ・ディールの住人が移民し始めて1年経ったころに1人の男が幻想郷の西端に住み着いた。
荒川日立丸。幾つもの世界を渡り、悠々自適な隠居生活を送るべく幻想郷に来た。
彼はゆっくり売り兼冒険者として幻想郷の原住民、ヴァナ・ディールの面々と良好な関係を結ぶ。
八雲紫は彼を幻想郷を乱す存在として排除しようとした。情報操作とでっち上げで彼の印象を最悪の状態にしたうえで最後の通告、八雲ノートを突きつけた。
この暴挙に対し彼は武力で応えた。
回答期限24時の直前に彼は幻想郷の全勢力に対し宣戦布告する。
それに合わせて奇襲攻撃を実行、魔法などのオカルトの力を弱体化させる衰魔弾(照明弾のように発光する。この光がオカルトの力を弱体化させる)と異世界から持ってきたグレムリン(技術を制限する微生物。もともとは機械を破壊する性質だったが、荒川日立丸が改良した)で無力化し、チート持ちだからこそ出来たアメリカとソ連に匹敵する圧倒的な爆撃と砲撃、兵員数で蹂躙した。
夜が明けたときには紅魔館、妖怪の山、冥界は陥落し、天界と地底は防衛戦を継続していたがいつ戦線が崩壊してもおかしくなかった。
この事態に八雲紫は幻想郷連合軍の結成を宣言、河童の協力の下、機械兵器を生産し、兵士の募集を始めた。この中にはヴァナ・ディールの人間もいた。
幻想郷平和維持軍(宣戦布告後、荒川日立丸は自身の軍をこう呼称した)は占領した各地に軍事基地を造りながら、魔法の森に侵攻した。
ナパーム弾と枯葉剤を多用して森を切り開きながら軽戦車と歩兵を中心に進撃したが、平和維持軍はここでつまずく事になる。
バカルテットゲリラ隊の抵抗で思わぬ損害を出してしまったのだ。森の合間から前触れも無く襲ってくるバズーカと無反動砲、さらに鈴仙・優曇華・イナバを中心とした因幡狙撃隊の狙撃は平和維持軍に足止めと消耗を余儀なくされた。
その間も飛行空母と飛行場から飛び立った航空機の爆撃、機甲師団の電撃戦が行われたが、あとのない連合軍は必死に抵抗し、地底と天界は陥落したが、何とか凌ぎきった。
そしてその間に用意した戦力で連合軍は反撃を開始した。
万全の体勢で挑んできた連合軍に対し、平和維持軍は魔法の森、紅魔館――人里間での戦闘で戦力を消耗していた。
それでも残っていた戦力は陸空合わせて80万、海軍は正規飛行空母2隻、飛行戦艦4隻にも及ぶ大戦力であり、陸空45万、海軍は軽空母3隻の連合軍は不利と言わざろう得なかった。
だが思わぬ事態が発生する。軽空母を発見できなかった平和維持軍空母はまず地上軍への攻撃を優先したのだ。
そして第1次攻撃隊が発艦し、第2次攻撃隊発艦準備が整ったときに連合軍の海空合同攻撃隊がレーダーに映った。
慌てて発艦させ、対空砲火を上げるが間に合わず、爆撃と雷撃が空母を襲った。
1隻は爆撃で甲板の艦攻の空雷(とある飛空士世界の兵器。要は高性能ロケット)が誘爆、あっけないほど爆沈した。
もう1隻は空雷を2発右舷に喰らったが、ダメージコントロールで傾斜13度に済ませた。
何とか対空射撃と回避運動を続けたが、エレベーターから入った空雷が内部で炸裂。船体がくの字に折れながら落下していった。
空母が全滅したことで平和維持軍艦隊は撤退。連合軍艦隊の援護を受けた連合軍陸空軍の勢いを平和維持軍は止められなかった。
平和維持軍。幻想郷西部、紅魔館、妖怪の山、冥界、地底、天界。
連合軍。人里、魔法の森、博霊神社、永遠亭、太陽の畑、無名の丘、無縁塚、マヨイガ。
この2つに幻想郷は分けられている。