漢を目指して   作:2Pカラー

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13.またまた少女修行中

 

 ――オスティアより東に約百九十キロ――

 

「四千六百七十七! ええいっ、石が足りねぇ!!」

 

 オスティア郊外の村を発って早二十日。現在俺は、海岸線近くの岩場で『念』の系統別修行をしていた。

 強化系修行Lv.1 石割

 手に持った石を『周』で強化し、他の石を割るというものだ。

 火竜との実戦を経験したことでレベルアップしてたのか、石割を初めて数日で目標だった千個割りを早くも達成。と、そこで気づいた。

 H×H原作にはLv.2以降の系統別修行が描かれてなかったことに。まぁ放出系だけはLv.5の浮き手が載ってたが。

 つまり修行のランクを上げられない。となればもう自分で考えて鍛えていくしかないのだが、どうすりゃいいのかさっぱり思い浮かばなかった。

 なので未だに石割を続けているわけだが。

 

「チッ。やめだ。もう岩場ってより砂場って感じになっちまってるし」

 

 ネテロ会長の如く一万回の感謝の石割を! とか思ってたが、達成するよりも先に石のほうが品切れになってしまうとはね。

 

 

 俺はその場でごろりと寝転がると、ローブの懐を探ってソレを取り出す。

 懐中時計。これはビョルンから貰ったものだ。時間を知る術が太陽の位置を見るくらいしか無かった俺にはとても重宝している。

 他にもジョアンナからは地図をもらい(その時アリアドネーが西ではなく東にあることも知った)、イゾーリナからは髪留めをもらった。

 ……伸びてたからねぇ。髪。

 面倒だから切ってしまおうかと思ったところ、イゾーリナに止められて髪留めをプレゼントされることに。なので今の俺はポニーテールです。元男としては複雑な感じだが、まぁチョンマゲとでも思って割り切ろう。

 

「世話になりまくっちまったからなぁ」

 

 髪を切らない程度のことで恩返しできるとは思わないけどさ。

 

 

 さて、時間はまだ午後の二時を過ぎたくらい。食糧は豊富にあるし、まだまだ修行もしたい。

 となればどうするか。変化系や放出系の系統修行? いや、一日一系統が基本だとビスケも言っていたし、なによりどちらもLv.1はクリアしてしまっている。

 ならば『流』の訓練がてら先に進むか? しかし、俺はあの火竜との戦いで痛感しているのだ。

 

「俺は……まだまだ弱い」

 

 ポツリと呟く。そう。俺は弱い。

 切り札として作った『発』、『マバリア』に関してはミスをしたとは思っていない。アレはまだまだ発展の余地があるし、強化系能力者としての俺のレベルアップがそのまま『マバリア』の強化に繋がるあたり、理にかなった能力選択だとは思っている。

 しかし、火竜には通用しなかった。

 この先アリアドネーに到着するまでに、再び竜種と戦闘になるとは限らない。限らない、が、それでも、と思う。

 

「次はタイマンでぶっ潰す」

 

 強くなりたい。そう思う。

 オスティアからエルファンハフトまでは比較的安全な道のりだとジョアンナは言っていた。危険な魔獣と遭遇する可能性の低い今のうちに、もう一段上に登りたいと思う。

 ならば必要とされるのは、

 

「攻の切り札」

 

『マバリア』は言うまでもなく防の切り札だ。ヘイストは(見方によってはプロテスも)攻撃用の補助ととれるかもしれないが、それでもアレは防の切り札である。

 倒される可能性を下げるだけでは、敵は倒せない。無論防御力の強化は勝率に強く響くだろうし、敗北=死となる実戦で防御を鍛えないつもりなど毛頭ない。

 しかし、やはり倒せなくては意味が無い。たとえ敵の攻撃を全て無効化できるようになろうとも、こちらからの攻め手がないならば千日手。相手が諦めて退くまで耐え続けるなんて考えただけでもゾッとする。

 

「やっぱ、アレを試してみるしかない、か」

 

 俺は跳ね起きると、傍に放っておいたバッグへと近づく。

 そして、ソレを取り出した。

 

 

 

 ――メルディアナ魔法学校――

 

 旧世界英国、メルディアナ魔法学校。魔法使いを教育し、『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』候補生を世に送り出すための教育機関。

 そこに今年、次代の英雄候補と誰もが期待する少年、ネギ・スプリングフィールドが入学した。

 魔法使いの世界において、スプリングフィールドの名は非常に重い物である。

 かつての大戦。魔法世界において発生した連合と帝国との大戦において多大な戦績を残し、さらには戦争を裏から操っていた黒幕を暴き出し打倒した英雄、ナギ・スプリングフィールド。彼の息子こそが、ネギ・スプリングフィールドである。

 世界は彼に期待し、そして注目していた。

 ウェールズ山間にある魔法使いたちの住む隠れ里で、半ば隠されたように育てられてきたネギが目を集めたきっかけは、アイカ・スプリングフィールドという一人の少女だった。

 

 アイカ・スプリングフィールド失踪事件。発生から一年以上たち、あの高畑・T・タカミチをも動員しての捜索がなされたにもかかわらず、未だ一向に手がかりの掴めないこの事件は、今では『誘拐事件』ではないかとの見方が強くなっていた。

 子供一人での家出。それも小学校に入るのもまだのような年齢の子供の家出が、果たしてこうもうまく成功するのだろうか。そもそも『家出』と判断されている材料が、アイカの残した書置きだけなのだ。あれは偽装されたもので、実は誘拐されたのではないか。そんな疑念が膨れ上がり、やがて第三者の介入が疑われるようになった。

 疑念を持つ者らは次にこう思う。ネギ・スプリングフィールドもまた、狙われているのではないか、と。

 世界はアイカを中心に捩れ、人々はネギを中心に回りだしていた。

 

 

 メルディアナ魔法学校で教職に就く女性。オリーヴ・マクラフリン。彼女もまた、ネギを中心に回される舞台に立つ一人である。

 オリーヴは現在頭を悩ませていた。

 悩みの種はネギ・スプリングフィールド。彼の教育に関してである。

 問題児というわけではない。成績が悪いというわけでもない。

 そもそもの話、ネギ自身にさしたる問題はないのだ。あえて問題点を探すとすれば、優秀すぎることくらいしか挙げるものが無い。優秀すぎるがゆえに、周囲の者と足並みが揃わず、また本人も足並みを揃えるつもりがなく、結果、個人での予習のみでカリキュラムを独自に進めてしまい孤立していることくらい。

 とはいえこれに関しては実力主義の魔法使い社会においては問題と呼べるかどうか。

 

 ではオリーヴは何に対して悩んでいるのか。

 それは、

 

「ですから! ネギ君は既に一年次で習う魔法に関しては修得しているのですよ! ならばより高度な教育をですね!」

 

「仰られていることはもっともです。しかし、ネギ君は魔力の制御が甘いところがあります。魔力の暴走によって武装解除が暴発することもしばしば。今は基礎を固めるべきでしょう」

 

「ネギ君はサウザンドマスターの息子なのですよ!? 将来は『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』になるだろう天才です! ネギ君にはネギ君に相応しい教育が必要なのです!」

 

 言い争っているのは同僚たち。今はネギ・スプリングフィールドを如何にして育てるかを決める会議だった。

 

(確かにネギ君は天才だと思うわ。でも、『英雄』にさせるにはどうするか、なんて馬鹿げた話し合いだとは思わないのかしら?)

 

立派な魔法使い(マギステル・マギ)』とは目指すものであり成るもの。決して他者に用意できる椅子などではないというのに。

 

 しかし、オリーヴも同僚たちの思いは理解できる。彼らは焦っているのだ。

 もともとサウザンドマスターの子供は二人だった。それは、極端な言い方を許すならば、『代わりがいる』ということ。片方の子供が英雄に相応しく成長できなかったとしても、もう片方の子供に期待できるということだ。

 しかしアイカ・スプリングフィールドの消失は劇的に状況を変化させた。最早『失敗は許されない』と。

 すべての魔法使いが尊敬する大英雄、サウザンドマスター。彼の子供の教育に失敗すれば、それは魔法使いの社会全体の損失となるのだ。そのことを、アイカを失うという追い込まれた状況になって、彼らは強く認識することとなった。

 ゆえに教師陣は二つに割れていた。より強い魔法を学ばせより速くネギを英雄に近づけようとする派閥と、ミスを犯さず堅実に立派な魔法使いへの道を歩むよう導こうとする派閥に。

 

(どちらもネギ君のことを思っているのは分かるわ。どちらの意見を取り入れるにしても、きっとネギ君の成長の糧になるでしょうし)

 

 

 ネギ・スプリングフィールドは紛れもなく天才である。それはオリーヴも確信していた。

 ネギは、メルディアナ魔法学校に入学した時点で、すでに初歩の魔法を習得していた。『火よ灯れ』『小物を動かす魔法』『占いの魔法』エトセトラエトセトラ。

 教師陣はそれを知り歓喜した。英雄の子は天才だと。

 しかし、オリーヴには疑問だった。そして尋ねたことがある。サウザンドマスターの知人でもある魔法学校の校長に。

 

『ネギ君は何故あれほど魔法の学習に力を入れるのでしょうか? いえ、それは私どもとしては感心すべきことなのでしょうが、しかし彼はまだ子供です。友達を作り、外で遊び、時には宿題を忘れることもあるのが子供というものです。なのに、ネギ君はどこか……』

 

 執念のようなものを感じさせます。

 そう言ったオリーヴを、校長はどこか感心したような目で見つめると、重々しく口を開いた。

 あの子はきっと寂しいんじゃよ、と。

 

『あの子は父親を知らん。物心つくころには既にあの村に預けられておったしのう。そして、あの事件じゃ』

 

『アイカさんが行方不明になった……』

 

『うむ。あの件をきっかけにしてネギの環境は変わった。それまでナギの子供にはナギのように奔放な性格になって貰いたいと思っておった村の者たちは、ネギを放任することをやめた。逆に常日頃から構うようになったのじゃ。しかし、それでもネギの寂しさは紛れなかったんじゃろうのう。村の者たちはナギを慕って集まってきた者ばかり。どうしてもネギを『ナギの息子』と見てしまっていたのじゃろう』

 

 そして、それにネギは気づいていた。

 

『賢すぎるが故、ですか』

 

『うむ。ゆえにネギは追っているのじゃろうなぁ。父親の影を、それこそ必死に』

 

 ナギが生きてさえいれば違ったのかもしれない。

 しかし既にナギは死亡している。ネギが父親の影を追うには、周囲の者が語る『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』ナギ・スプリングフィールドを追う他ない。

 

『ネギはそれだけが自分とナギを繋ぐ絆だと考えているのやもしれん。自分も『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』になれば、父親の近くに行くことが出来ると。ワシとしてもネギをこのままにしておいていいとは思えんが、しかしネギの目指しているものを間違っておると言うわけにもいかんのじゃよ』

 

 だから、おぬしもそれとなく気にかけてやってはくれまいか。そう校長は締めくくった。

 確かに校長の言うとおり、魔法使いは『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』を目指すものだ。そのために魔法に打ち込むというのなら、それはとても正しいこと。魔法の勉強をするななど、魔法使いとしては口が裂けても言えないだろう。

 

(でも、ネギ君はまだ子供なのよ? 友達も作らずに魔法の勉強にばかり打ち込むのを危ういと感じているのは、心配しているのは私だけなのかしら)

 

 

 オリーヴはそれ以降も頭を悩ませ続けることになる。

 彼女は理解しているのだから。魔法使いが魔法を学ぶことは正しいということを。

 しかし同時に信念として持っているのだから。教師とは生徒が幸せを掴むことを願わなくてはならないという思いを。決して英雄を育てたという功績を望むべきではないということを。

 

 

 やがて、ネギが禁書庫に無断で入り込むようになる。

 再び意見は割れる。ネギの向上心を称賛する声と、禁書庫への無断侵入というキャリアを傷つけかねない行動には釘を刺すべきだという声に。

 メルディアナはネギを中心に回りだす。中心たるネギには何も知らせぬままに。

 オリーヴの苦悩の日々は、未だ終わりを見せることはない。

 




というわけでアイカ第二の『発』開発フラグとネギ君の現状説明でした

ネギは村の襲撃こそなくなりましたが、あまり弱体化はさせません
悪魔への復讐心なんかと比べたら動機が弱い気もしますが・・・いいのが思いつかなかったものでw
ただ、そういうわけですので「悪魔を消滅させる九番目の呪文」とやらは覚えないかも(というか原作での出番あるんでしょうか?)

さて、次回あたり、奴がやって来るような気が
ええ。角が二本ある黒くてしぶとい悪魔が

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