漢を目指して   作:2Pカラー

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14.まだまだ少女修行中

 

 ――オスティアから東 岩石地帯――

 

 強化系の念能力者にとって、攻撃の切り札と呼べる能力として、まず思い浮かぶのはなんだろうか。

 言うまでもなく、強化系能力者とは『何か』を『強化する』ことを得意とする者である。

 となれば攻撃を『強化』することが、第一に考えられるのではないだろうか。

 ゴンの『ジャジャン拳』。ウボォーギンの『超破壊拳(ビッグバンインパクト)』。フィンクスの『廻天(リッパー・サイクロトロン)』。いずれも攻撃力を純粋に高める技である。

 では俺も、と、当然俺も考えた。

 

 しかしすぐにその考えは破棄されることになる。

 

     『硬』

 

 念能力の応用技にして、基本の四大行『纏』『絶』『練』『発』に加え、『凝』を用いることで発動させる高等技法。『練』で生み出したオーラを一点に集中させる『硬』は、強化系能力者にとっては最適の技だろう。

 しかし、ここにきて『硬』の存在が、俺に純粋攻撃力の強化を断念させた。

 使えないのだ。『硬』が。

 いや、正確には使うことはできる。『流』の積み重ねは『凝』の精度を上げ、『硬』もさほど苦労することなく成功させることが出来た。

 では、何故『使えない』と言ったか。

 答えは簡単。

 

「これが、『制約』か」

 

 俺は右手を見つめながら呟いた。

 

 制約。それは『念』の威力を押し上げるもの。

 リスクはバネ。『念』発動までのハードルが多ければ多いほど、『念』の威力は跳ね上がる。

 ここで問題になってくるのは、『念能力者が制約として意識していなかったモノがリスクとなっていた場合』のことである。

 イメージしやすいのはゴンのジャジャン拳だろう。あれは『拳を構え』『オーラを集中し』『必殺技の名前を叫ぶ』という三段階の過程を踏んでいる。

 これに関して、ゴンは制約だとすら思っていないだろう。しかし、攻撃の発動を読まれやすく、拳以外のオーラが減少し、技名を叫ぶため数秒かかるというのは、紛れもなくリスクである。

 だからこそジャジャン拳は、通常では考えられない威力となっているのだろう。

 俺の結論を言おうか。『念能力そのもの』が制約を認識しているのではないか。俺はそう考える。

 

 さて、それじゃあ俺の話に戻ろうか。

 俺は『マバリア』に制約らしい制約をつけてはいなかった。

 それは性能を信頼しているという意味ではない。瞬時に展開できなくては意味のない『防の切り札』に、発動までの制約などもってのほかだと考えていたからだ。

 だが、どうやら『マバリア』自身はそうは捉えていなかったらしい。

 

「発動。『神のご加護がありますように(マバリア)』」

 

 肉体に力が漲っていくのを感じ取る。

 そして、右手で作った拳を見つめ、

 

「『硬』」

 

 瞬間、俺の『マバリア』は霧散していた。

 

 

 俺の『マバリア』に付加されていた制約。それは『堅の状態を維持すること』らしい。

 確かに『マバリア』を作る訓練時、俺は気合を込める意味もかねて常に『練』の状態だったが、

 

「『堅』が解ければオートで『マバリア』も外れるってことか」

 

 リスクとしてはそう大きなものではないようにも思える。『防の切り札』としては。

 しかし、これでは『硬』は使えない。

 肉体の一部にオーラを集中させ、他の部分は『絶』で精孔を閉じる『硬』。当然『堅』との併用はできない。

 まぁいい。元々戦闘中の『硬』はリスクが高く、使用するつもりはなかったのだから。

 もっとも、となれば『パンチ力の強化』のような切り札を作ることも止めた方がいいだろう。いかに威力の高い技を作ろうとも、『硬』に及ばないのでは『切り札』とは呼べない。『マバリア』さえ解除すれば『硬』は使えるのだから。だからと言って制約で縛ってまで『硬』を越えようとするのもおかしな話だ。

 

「それに、既に『発』の方も形になってきているしな」

 

 胸ポケットのソレを確かめながら呟いた。

 第二の『発』。それに関してはアッサリと成功している。

『マバリア』以上にソレに対して適性があったというのは、ある意味複雑な心境にもなったが、しかしまぁ、嘆くほどのものでもない。

 

 

 さて、それじゃあ気を取り直して練度を上げるため頑張ろうかね。

 

 

 

 

 ――オスティア北東部 乱立する岩山にて――

 

 岩と大地が延々広がる土色の世界。そこに一人の男が佇んでいた。

 つば広の帽子。足元まであるコート。黒一色に身を染めた男の名は、ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン。MM元老院によって召喚された悪魔である。

 

 ヘルマンはMMより出ると、即座に魔力で編んだ使い魔を方々に放った。

 元より悪魔とは人間よりも高度な魔法体系を操る者である。没落したなどとは嘯いてみても、人には解呪不可能なほどの永久石化を操るヘルマン。己の『目』を増やす程度、造作もなかった。

 そして先日、見つけたのである。標的とされた少女。アイカ・スプリングフィールドを。

 

(だが、ここで手を出してしまうのはどうなのであろうな)

 

 ヘルマンがそのために召喚された以上、速やかにアイカを暗殺してしまうべきなのだろう。

 しかし、とヘルマンは思う。今も殺風景な岩石地帯で杖を振っている少女には、ここで生を終わらせてしまうには惜しすぎるほどの才能があった。

 

(将来が楽しみだ。将来有望な才能が潰えるのを見るのも私の楽しみではあるが、しかし彼女の場合、将来を見てみたいという思いの方が強いな)

 

 

 悪魔。それは恐れられるべき存在。人に恐怖を振りまく存在。

 しかし、現代の、それも魔法使いの社会においてはその在り方は少し違う。

 魔法使いたちにとって悪魔とは、召喚し、使役する存在となっている。爵位持ちであるヘルマンでさえ、現在人間に使役されているのだ。

 

(用が済めば還される。戦い敗れれば還される。この世は泡沫の夢のようなもの)

 

 そこにヘルマンの意思は無い。誇り高き伯爵だったのは遥かな過去のこと。人間ごときに使役され使い捨てにされる己など、『没落貴族』が相応しい。

 そして、『没落貴族』には人間ごときの命令に唯々諾々と従うのがお似合いだろう。

 

(そう、思っていたんだがね)

 

 視線の先には教本を片手に魔法の練習に励む少女の姿。

 

 

 使い魔がアイカを見つけ、ヘルマンがこの場に到着するまで、ゆうに二週間は経過している。

 その間、アイカは黙々と修行をしていた。(まぁ時たま石で石を割ってみたり、指先を立ててうんうん唸ってたりと、奇妙な行動を繰り返すこともあったが)

 二週間以上、ヘルマンは『目』を通してアイカを見ていた。前だけを見つめている少女を。

 

(魔法の修行か。懐かしいものだな。私が魔法に打ち込んだのはもう何百年前になることか)

 

 不思議な気持ちにさせる少女だ。そうヘルマンは思った。

 

 

 アイカ・スプリングフィールドは『サウザンドマスター』とかいう英雄の娘らしい。

 ヘルマンにとってそれはさほど重要ではない。

 山を崩すほどの雷を放つ魔法使いだとも聞き、多少は興味をひかれたが、しかし既に死亡しているというではないか。

 所詮短き生にしがみつく人間の『英雄』だ。『七つの大罪』や『ソロモン72柱』といった『伝説』すら現存する悪魔の世界にとって、『英雄』のなんと小さなことか。

 そんな矮小な英雄の娘。実に張り合いがいのない相手だ。そんなつまらない相手の暗殺という些事のために、悪魔以上に醜悪な人間どもに縛り付けられているのも癇に障った。

 速やかに仕事をこなして、還らせて貰うこととしよう。

 そう、思っていた。

 

 だというのに、アイカ・スプリングフィールドを見てきた二週間が、悪魔であるヘルマンにとってはほんのわずかな時間にもかかわらず、ヘルマンの心を大いに揺さぶっていた。

 

(この世は泡沫の夢、か。だからこそ己の欲求には従いたいが)

 

 所詮、召喚されて人間界に留まる時間など夢のようなもの。しかし、いや、だからこそ楽しみたいと思う。アイカの将来を見てみたいという欲求に従いたいとも思う。

 しかし、ヘルマンは悪魔。その本能は闘争を求め、その在り方は契約に縛られる。

 

(まったく。ままならないものだな)

 

 結局、ヘルマンは契約に従うことにする。

 音もなく岩山から飛び降りると、気配を隠そうともせずアイカへと歩み寄る。

 

 

 やがて、ヘルマンの気配に気づいたアイカが顔を向けると、ヘルマンは帽子をとってにっこりとほほ笑んだ。

 

「はじめまして、お嬢さん。突然ですまないが、私と一勝負してはいただけないだろうか?」

 




まとまってるのか、これ? 勢いだけで書けている間は不安に思ったりしないんですが、いろいろ考えながら書くとちょいと不安になったり

さて、多分に独自解釈・独自設定を使うことになりましたが、それもすべて『硬』のハードルを高くするためだったり
攻撃=『硬』ではゴンの劣化版になってしまいそうですしねぇ
そのため急遽制約まで付けることになりまして(まぁ元々なにかしら付けるかとも考えていたのではあるんですが)
それに関してはステータス説明ページのようなものを作ることとしましょう
念能力に関する説明もその時にでも

にしてもヘルマン。私はこいつをどうしたいんだろうか?
「今日の私は紳士的だ!」とでも叫ばせてみます?

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