漢を目指して   作:2Pカラー

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16.魔法戦

 

 ――砂塵を巻き上げ――

 

 この世界には魔力と気が存在する。

 あまねく世界に存在し、呪文という鍵を用いることで使われる魔力。

 生命エネルギーとして肉体の内に存在し、それを燃焼させることで力を生み出す気。

 では、俺の扱う『念』とはいったいなんなのか。

 はじめ、俺はそれを気の扱い方の一つだと考えていた。

 肉体から漏れ出る生命エネルギーを、念能力という一種の法則によって様々な形で利用する技術体系だと。

 しかし、それは正確ではなかった。

 

『ネギま』原作においては、咸卦法という技法がある。

 これは、本来反発する魔力と気とを一つに合わせ、その反発によって発生する巨大なエネルギーを自在に扱う究極技法。

 そう。魔力と気とは反発するのだ。

 しかし、俺の『念』と魔力は反発なんてしない。

 もし念能力によって扱っているオーラが気の一種ならば、魔法行使の際にかき集められる魔力の素と、俺が常に展開している『纏』とが反発し、小規模な爆発が起こっても不思議ではないのだ。

 それに、俺は『纏』を使っている間も、問題なく魔法が使えている。このこともまた、オーラは魔力や気とはまったく別種の『力』であることが推察される。

 

 よって作り上げることが出来た。俺だけの第二の『発』を。

 

 

 以前、ビョルンに尋ねたことがある。魔法の射手は同数の魔法の射手で相殺できると聞かされた時だった。

 

『練度次第で相殺できない場合なんかはないのか?』

 

 それは原作知識があるゆえの疑問。『闇の福音編』にて、ネギとエヴァの魔法の射手が相殺し合っていたのを見たときから気になっていたのだ。

 どう考えてもエヴァの魔法の練度のほうがネギのそれよりも高い。にもかかわらず、同じ魔法であるというだけで、同じ威力とされていた。

 

『不可能ではないが、効率は良くないな。魔法というのは術式だ。術式を一定の形に当てはめ構築し、一定の魔力を流すことで発動させるもの。練度が高ければより正確な術式を構築出来る、と思うかもしれないが、魔法ってのは二千年以上の歴史をかけて洗練されてるものだしな。魔法の射手一つとってみても、より強い術式を作り上げるのは容易じゃない』

 

 ならば既存の術式により強い魔力を込めれば?

 

『そうすれば術の方が発動しないだろう。ゴム動力の飛行機模型に過剰な動力でも載せてみろ。飛ぶ前に四散するぞ? 術式自体がしっかりしている魔法なら過剰な魔力にも耐えられるんだが、そりゃ上位魔法や古代魔法になる。さっきの例でいうなら本物の飛行船やら戦艦やらになるんだろうが、それならエンジンを一つ二つ増設しても空中分解はしそうに思わないだろ? まぁ倍の動力付けたからって速度は倍にはならねぇが』

 

 なるほど。つまりエヴァに掛けられた呪いは、子供に掛けるおまじないという紙飛行機にナギのバカ魔力という巨大エンジンを無理やり乗せたみたいなもんか? そりゃバグるわな。

 

『だ・か・ら。魔法の射手を強くするなんてこと考えずに、素直に中級魔法を覚えろって言ってんだよ!』

 

 まぁスパルタされたわけだが。

 その時俺は知った。魔法そのものを強化する方法は、この世界には存在しないと。

 ならば『別の世界』の方法を持って、この世の理を乗り越えればいいだけのこと。

 

 

「見さらせオッサン! こいつが俺の」

 

 発動。『そして誰もいなくなるか?(アルテマアーツ)

 

 

 

 ――そして誰もいなくなるか?――

 

 アイカは懐から一冊の本を取り出していた。

『グリモワール』と名付けたそれは、アイカだけの魔法の書。

 ペン先に『周』を行い、『念』を込めて一月に渡り書き続けたそれを片手に、アイカは朗々と謳い上げる。

 

「レリック・ク・リック・クレリック! 風の精霊37柱 集い来たりて敵を射て! 魔法の射手・連弾・雷の37矢!!」

 

 疾走する弾丸をその身に受け、ヘルマンの顔が歪む。

 

(ハッ。舐めてかかるからそうなんだよ!)

 

 本来魔法の射手はそれほど威力の高い魔法ではない。犬上小太郎も言っていた。精々魔力を込めたストレートパンチと同じ威力だと。一般人相手ならともかく、障壁を展開することが基本の魔法使い同士の戦いならば、時に牽制程度にしか使えない魔法とされるほどだ。

 しかし、アイカの『念』は常識を覆す。

 強化系という強化することにこそ真価を発揮するアイカにとって、魔法そのものを強化することはそれほど難しいことではなかった。

 

(『アルテマアーツ』には制約も掛けてある。『グリモワール』を手にしている時のみ発動可能って制約は、片手を塞ぐという特性上、リスクの方は段違いだ)

 

「次行くぞ! 魔法の射手・連弾・雷の199矢!!」

 

 矢は大地をえぐり、地形そのものを変えるほど。

 その、本来の魔法の射手の性能ではありえない破壊力にヘルマンは全力で障壁を展開するが、

 

「何!? 何故障壁で止まらない!?」

 

 障壁で止められるのは魔法のみ。魔法を強化している『オーラ』は、魔法の運動が停止した瞬間『鏃』となって射出される。

『鏃』そのものに速度を生み出す機構はない。アイカは放出系にもそれなりの才能があったが、元が強化系であるが故、そして未だ修行不足であるが故に、体から離れた魔法にオーラを留めることで精いっぱいだった。

 しかし、魔法の射手が作り出した速度だけで十分。障壁を無視した不可視の『鏃』は、ヘルマンの体力を削り続ける。

 

(偉大なるクソオヤジ同様、アンチョコ片手にってスタイルには嫌悪を覚えるが、まぁそいつも誓約を担ってるからな)

 

「足を止めんな! さぁ! 耐えて見せろ! 魔法の射手・連弾・雷の1001矢!!」

 

 正に弾幕。

 オーラを視認できるアイカにとって、それは極彩色に彩られた美しい光景だった。

 大地に突き刺さり、砂塵を上げ、砂煙を貫いてヘルマンへと疾走するパターン化された弾幕。

 

 そう、アイカの弾幕はパターン化されていた。

 そして製作者(アイカ)にとって、パターンの欠陥(安置)を突くことなど容易。

 弾幕に晒され纏った服こそボロボロにしながらも、尚も魔法の射手を拳で迎撃するヘルマンへと疾走。

 ヘルマンはそれを視界の端でとらえ目を見開くが、最早打つ手などない。

 

「言ったろ? 耐えて見せろってよォォォ!!」

 

 左手に『グリモワール』を手にしたまま、アイカが右手で拳を作る。

 

「きゅっとして」

 

 それは最強の一撃。魔法の射手に込められたオーラとは一線を画す『硬』によってため込まれたオーラが、

 

「ルォアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 砲弾となってヘルマンへと突き刺さった。

 

 

 

 

 ヘルマンが飛ぶ。ほぼ背後からのアイカの一撃を身に受け、未だ着弾前だったアイカに追い抜かれた弾幕をその身に受けながら。

 しかし、それでも、

 

「ぐぬっ。見事な攻撃だった」

 

 それでも未だ、ヘルマンは膝すらついていなかった。

 

「ハァ。だからよ、平然と耐えんなって言っただろうが。泣けてくるぜ」

 

 先ほどのコンボはアイカにとって最も自信のあったものだ。

『グリモワール』には中級魔法も載せてはいたが、しかし避けられる可能性を考えれば、高威力回避不可能な弾幕を選んだのは正解だと今でも疑っていない。

 にもかかわらず、まだ足りないとは。

 

(原作じゃそこまで強敵って印象は無かったんだけどな。っつかヤベェ。1001矢なんて使うんじゃなかった)

 

 ガス欠。生まれながらにして『サウザンドマスター』に匹敵する魔力を持つアイカとて、それは免れなかった。

 

(オーラの方はまだ行けそうだが……『硬』は無理だな。『マバリア』の発動には維持とは別にオーラが要るし、もう一度『硬』を使えば『マバリア』は発動できなくなる)

 

 頭に上げたフードで冷や汗を隠しながら、アイカは次の一手を模索していた。

 

 対してヘルマンは、

 

「いや、同じ言葉を繰り返すようだが、自信を失うことはない」

 

 ボロボロになったコートをはためかせながら、口元の血を拭う。

 

「君が使えるだろうとは思っていたが、まさかここまでとは。喜ぶといい。私はもう限界だ」

 

「はっ。だったらもう少し堪えた顔をしろよ。信じられる要素がどこにもねえっての」

 

「いやいや。本当に限界なのだよ。だがね」

 

 そう言ってヘルマンは再び構える。

 両の拳を握るその姿は、宣言通り永久石化を封じた戦いを望んでいることを証明しており、

 

「ここで倒れてしまうのは惜しくてね。久しぶりの現世なのだ。体の方は限界ではあるのだが、まだまだ楽しみたいのだよ」

 

 そしてヘルマンはニイっと笑って、

 

「戦いはやはり楽しい。才ある者との戦いは歓喜するに相応しい。さあ、構えてくれ、アイカ・スプリングフィールド。私が消滅するまで、もう一ラウンド、お願いしたい」

 

 それはアイカにとって予想外の言葉。

 しかし、何故か理解できるものだった。

 

(ハッ。なるほど、分かるぜオッサン。痛ぇし苦しいし怖ぇし逃げたくなるけどよ。でも、楽しいってのはよーく分かるぜ)

 

「クッ。ハハハッ。オーライ、ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン」

 

 アイカも笑う。ヘルマンの紳士的な笑顔とは対照的に、どことなく狂気に歪んだような笑みを浮かべる。

 構える。『グリモワール』を懐にしまい、両の拳を握りしめる。

 

「さぁ! コンティニュー出来なくなるまで遊ぼうぜ!!」

 

 

 

 

 

 ヘルマンは悪魔などとは程遠い笑顔を浮かべると、

 

 しかし、突如降ってきた雷にその身を焼かれた。

 

「……はぁ!?」

 

 アイカは一瞬体をすくませ、しかし何者かの気配を感じ取る。

 視線を向ければ、そこに雷を放ったソレはいた。

 

「な、な、な」

 

 聳え立つ岩山に立ったそれは、長い杖を構えた男。

 アイカのようにローブで身を包むその男は、自分に気づいたアイカへと笑みを見せ、

 

「なに人の喧嘩に邪魔してくれてんだテメエは!!!!」

 

 しかし、アイカの言葉で呆然としていた。

 

 信じられない言葉を聞いたという風に呆然とするその男は、

 赤い髪を風に揺らせながら、太陽を背に立っていた。

 




空気読め、赤毛 そんな16話 如何だったでしょうか

始動キーに関しては「アルマ」を名乗っていた間に「盗掘屋」と考えたのでこんな感じに
クレリックとは程遠いバトルスタイルですがw

さて、後で説明するとは思いますが、一応の念の説明
「そして誰もいなくなるか?」の引用元は東方。妹様の技ですね
まぁ「マバリア」ほどゲーム内の能力とは似てません(というか名前だけ借りたようなもので)
基本は魔法の強化とオーラによる障壁突破
フランクリンクラスになれば「魔法の射手? ハハッ、ワロス」と得意顔で障壁張った魔法使い(ex.白いの)を瞬殺できそうですな。(まぁフランクリンなら魔法に纏わせて~とか考えず念弾撃てば終わりでしょうが)

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