漢を目指して   作:2Pカラー

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17.決着?

 

 ――雷鳴の後に――

 

 突然ヘルマンへと降り注いだ雷。それは正しく予想外の出来事だった。

 自然的な現象ではない。雲一つないというのに落雷だなんてありえない。

 ならばコレは人為的なもの。そう気づくのと自分に向けられた視線を感じ取るのはほとんど同時だった。

 

 そして、雷を放ったであろう下手人を目にした瞬間、俺は叫んでいた。

 

「なに人の喧嘩に邪魔してくれてんだテメエは!!!!」

 

 魔法はヘルマンを狙ったもの。十中八九、あいつは俺を助けるつもりで魔法を撃ったのだろう。

 いつから見ていたのかは知らないが、傍目には幼女相手に拳を構える老紳士という図だ。正義を盲信するこの世界の人間ならば、いや、ジョアンナ達のような『ロクデナシ』を自称する者でも介入していたかもしれない。

 しかし、それでもと思う。

 人の喧嘩に勝手に横やり入れてくれてんじゃねぇよ、と。

 

「俺の喧嘩に手ぇ出して、何満足げに笑ってやがるテメェ!!!!!」

 

 魔力はガス欠。オーラの方も限界近い。さらには奴の放った魔法の威力を見るに、俺とは実力差がかなりあるのだろう。

 しかし、それでも叫ばずにはいられなかった。

 このまま奴と戦闘になれば、間違いなく敗北するだろうと分かっているというのに、それでも激昂する感情は自分では抑えられなかった。

 

(一発ぶん殴る! 俺にケンカ売ったこと――)

 

 しかし、拳を握りしめて歩き出そうとしたその時、

 

「ぐぬっ」

 

 俺を止めたのは魔法の直撃を受けたヘルマンの苦悶の声だった。

 

「お、おい! ヘルマン! 生きてたのかテメエ! ハハッ、アレ喰らっても生きてるなんてバカじゃねえの!」

 

 思わずヘルマンに駆け寄る。

 さすがに消滅しているかと思ったが、これで、

 

「……ぐっ。何故、嬉しそうに、しているのか……わからないのだが」

 

「アホか。とっとと立て。まだケリがついてねぇだろうが。俺がぶっ殺す前に勝手にくたばるんじゃねぇっての」

 

 これで、続きがやれる!

 そうだ。火竜では『盗掘屋』に助太刀され、ヘルマン相手にまで決着が横やりで決まってしまうなんて勘弁してもらいたい。

 

「テメエには俺の初白星になってもらうんだからよ。オラ、立て! トドメ刺させろ!!」

 

 呆然としているヘルマンを他所に、俺は岩場の上で口をあんぐりさせている馬鹿にも叫ぶ。

 

「赤毛! テメェはそこで正座してろ!! 後でぶっ殺してやるからよ!!」

 

 

 

 ――沈みゆく太陽を背にして――

 

 男、雷を放った男は、目の前で繰り広げられる光景に呆然としていた。

 

 

 彼がアイカが預けられていた山間の村から消えたという事を知ったのは完全な偶然だった。

 MM上層部によるスプリングフィールドの二児殺害計画。多数の悪魔によって行われるはずだったその計画の一端を知り、山間の村へと急いだ彼は、しかし悪魔の脅威に晒されることなく平穏なままの村を目にする。

 見れば魔法世界の者らしき護衛の兵まで配備されているではないか。その兵達がクルト・ゲーデルの私兵だと知り、彼はほっと胸をなでおろした。

 おそらくクルトも計画の情報を掴んだのだろう。彼の場合、サウザンドマスターの子供というよりも、『彼女』の子供を守りたいという思いからの行動だろうが、それでも彼はクルトに感謝した。死んでいるはずの自分が表舞台で活躍しているクルトに直接礼を言いに現れるわけにもいかないが。

 

 しかし、彼は自分の認識が間違っていたことを知る。

 クルトの警戒しているのはスプリングフィールドの子供の殺害計画ではなく、ネギの誘拐に対してだとか。

 その発端となる事件は旧世界中に知られていたため、表舞台から姿を隠している彼にもすぐにつかむことが出来た。

 即ち、『アイカ・スプリングフィールドの失踪事件』である。

 現在では『あれは誘拐事件なのでは?』という考えが共通認識になっている事件。彼も当然そう考えた。アイカらの出自を知るが故に、他の者たちよりもより強く。

 そして探した。姿を偽り名前を隠し、かつて『立派な魔法使い』として世界を回った際に手に入れたあらゆる伝手を駆使して。

 

 アイカを発見した際、彼は安堵よりも先に激昂した。

 着ているローブは土に塗れ、口元には血が滲んでいる。

 見るからにボロボロな様子で、しかし毅然と拳を握り相対する男に立ち向かおうとする様は、世界を巻き込む不条理にたった一人で立ち向かおうとした『彼女』の面影を色濃く残し。

 ゆえに彼は即座に魔法を放った。アイカを傷つけ笑っていた男に対して。

 

 結果として救ったはずのアイカから放たれた言葉に呆然とする羽目になるのだが。

 

 

「テメエには俺の初白星になってもらうんだからよ。オラ、立て! トドメ刺させろ!!」

 

 嬉々としてそう言うアイカは実に楽しそうで、口にしている内容の滅茶苦茶さも相まって彼を呆然とさせるに十分なものだった。

 アイカを襲っていたはずの男までも、苦痛にあえぐことすら忘れ目を見開いていた。

 

「くっ、ハッハッハ。実に素晴らしい。闘争を愛するか。それでこそ才ある者というものだ」

 

「御託はいいんだよ。ほら、立てって。そのまま消えるんじゃねぇぞ」

 

 楽しそうに笑う男とは裏腹に、彼は止めるべきか迷っていた。

 そういう(・・・・)感情が理解できないわけではない。彼も過去に、自分と仲間に対して襲撃してきた男と一対一で戦うことを望んだことがある。他者と協力して得た安全な勝利などよりも、己の腕一つで掴む死線を潜った末の勝利にこそ価値があると、そんな子供じみた思想に囚われていた頃もあった。

 かつての自分ならば、一対一の勝負の邪魔をされれば、先ほどのアイカ同様怒ったのかもしれない。

 

(だが、アイツはまだ幼い。この俺でさえ、魔法世界の大戦に参加したのは十二、三くらいになってからだぞ)

 

 しばしの逡巡の後、彼は結局介入を決める。恨まれるかもしれない。拳の一つでも貰うかもしれない。しかしそれもいいだろう。結局のところ、彼は子供たちの安全のためという理由を言い訳にして、子供たちを捨てた形なのだから。

 

「テメェ、赤毛。正座して待ってろっつっただろうが!!」

 

 はためくフードから除いたアイカの瞳は燃えるような輝きを宿して彼を睨んでいた。

 その強い意志を感じさせる瞳は『彼女』を強く思わせるが、はてさて、いったいこの物言いの悪さは誰に似たことやら。

 

(アイツじゃねぇってことは、俺の血のせい、か)

 

 さて、なんと声をかけるべきか。味方であることを示す……のは意味が無いだろう。ならば正体でも明かすべきか。さすがに『赤毛』呼ばわりは彼としても傷ついた。

 そう(・・)呼ばれる資格など自分にはないのかもしれないが、叶うことならば……

 と、如何にして襲撃者からアイカを離すかを彼が考えていると、彼が口を開くよりも先に倒れ伏した男が口を開いた。

 

「いや、待たせる必要などないよ。私はもう消える」

 

「お、おい! 何言ってんだよ、ヘルマン!? まだケリがついてないじゃねぇか!」

 

 男、ヘルマンと呼ばれたその紳士然とした男は、力なく微笑み、

 

「受けたダメージが大きすぎてね。私が消滅の危機にあるということを召喚者側も感じ取ったのだろう。どうやら契約が外されたようだ」

 

 契約。その言葉を信じるならば、ヘルマンは悪魔ということになる。

 彼は知らず唇を噛みしめていた。

 

(これも、俺の責任か)

 

 自分の選んだ道に後悔などない。それが正しいのだと信じていたし、自分はそう在るべきだと信じているのだから。

 しかし、その結果がこれ。今や消滅の危機にあるヘルマンから強い力は感じないが、しかし単独にて行動していたということは、召喚者にとってそれなりにヘルマンが信頼に足る実力者だということ。『仕事』を任せられるほどの上級悪魔なのだろうこと。そんな強力な存在にアイカが狙われ、結果傷つけられてしまった。これは紛れもなく、己の責任なのだろう。

 

 彼は何も言わずアイカの肩へと手をかけ……ようとして振り払われた。

 

「……お前は、旧世界へと帰るんだ。俺がその迎えだ」

 

「うるせぇ!! 今それどころじゃねぇんだよ!! おい、ヘルマン!! 契約が外れたってなんだよ!? それがねぇと戦えないってのかよ!!」

 

「悪魔は契約によって力を与えられるものだ。召喚者による魔力の供給が無ければ、この世に留まることも出来なければ、わざわざ留まる理由もない。そいつ……ヘルマンはもう消える。お前は旧世界に――」

 

 しかし彼の言葉は遮られてしまう。振り向きざまに放たれたアイカの拳を受けたことで。

 

「だからうるせえっつってんだろうが!!」

 

 そういえば、と彼はふと思った。

 アイカは誘拐されたものだと決めつけて動いていたが、アイカの様子を見るにそれは間違いだったのではないだろうかと。

 なんでもアイカは書置きを残して消えたらしいが、それは偽装などではなく、本物のアイカの書置きだったのではないかと。

 だが、何故?

 あの村の連中は気のいい奴らばかりだった。スタン老も口こそ悪いが面倒見のいい人ではあったし、ネカネという姉代わりもいる。

 村に不満があって飛び出したようには彼には思えない。では、いったい……

 その逡巡が、彼にとっては致命的な隙だったのだろう。

 彼はアイカが何やら閃いたような表情を見せたのに気づかなかった。

 アイカが何やらヘルマンに近づいたのを止めることが出来なかった。

 

 そして、アイカの言葉をとめることもまた、彼にはできなかった。

 

「よし。ならヘルマン。俺と契約しろ」

 

「「は?」」

 

 奇しくも彼とヘルマンの驚きの声が重なった。

 それほどに、アイカの一言は予想外だったのだ。

 

「契約してればこの世に留まれるんだろう? なら簡単だ。俺が魔力をやる。でもってケリをつけなおすぞ」

 

「な!? 待て、アイ――」

 

 しかし彼の制止は間に合わない。

 アイカは勝手が分からないのか、ヘルマンの胸に手を置くと、そのままナケナシの魔力を注ぎ込み始めていた。

 

「……馬鹿な」

 

 ヘルマンの驚きも当然だろう。彼にしてもアイカの行動は理外のもの。

 まさか決着をつけるというただそれだけのために悪魔との契約を引き継ごうなどと、いったい誰が考えるのか。しかもその悪魔は自分を狙って放たれた刺客だというのに。

 

 光があふれる。契約のための力の奔流が、無駄だらけの力任せの契約がヘルマンを縛ろうと荒れ狂う。

 それはつい先ほどまで魔力切れに焦っていたなどとは信じられないほどの輝き。アイカ以外は与り知らぬことだが、アイカの持つ固有技法、念能力によって生命エネルギーたるオーラもがヘルマンへと流れ込んでいた。

 そして…………

 

 

 

 

 

「本当に契約しちまうとはな」

 

 彼は困惑した表情でアイカを見つめていた。アイカはと言えば、ヘルマンへと魔力を流し込み、ガス欠で今や眠りについている。その傍らに立つのは彼ともう一人。先ほどアイカによって契約を引き継がれた悪魔の姿。

 

「ふむ。君にしても予想外だったのか。父親ならばこういう行動に出ることも、そしてそれを成功させることも予測できたのでは?」

 

「……気づいてたのか」

 

「これでも伯爵などと名乗っていた頃があってね。人を見る目が確かでないのなら上に立つことなど出来んよ」

 

 爵位持ち。それほどの悪魔がアイカを狙っていたのかと、彼はさらなる自責の念に囚われるが。

 しかし今は、

 

「それが出来ねぇと親の資格がないってんなら、俺にそう呼ばれる資格もねぇってことだろうよ」

 

「ふむ。まぁ込み入った事情があるようだし、あえては聞かんがね」

 

 それよりも今は、現世に留まることに成功した悪魔のことを考えるべきだろう。

 

「一つ聞くが、まだアイカをどうこうするつもりか?」

 

 彼は愛用の長い杖を構えて問いかける。

 もしもここでヘルマンがイエスと答えるならば、たとえアイカにより一層恨まれることになろうとも、ここでヘルマンを討つ。そう覚悟を決めて。

 しかし、ヘルマンは肩をすくめて首を横に振った。

 

「彼女の契約はひどく荒く乱暴なものだったが、しかし弱り切った私を縛るには十分なものだったようでね。力づくで雁字搦めに縛られたようなものだ。契約主に対して攻撃など加えんよ。ここまで乱雑な契約だと、契約を破ろうとしてどんなしっぺ返しが来るか分かったものではない」

 

 それは安心だ、と彼は一つため息をつく。

 と、そこで彼は一つの疑念に気が付いた。(頭の片隅で『ひどく乱暴な』呪いで『力づくで雁字搦めに縛られた』幼女の影がなにやらわめいていたが、それに関しては意識が向けられなかった)

 

「契約……したということは、アイカから命令でもあったってことか? 悪魔は願いをかなえるだとか命令に従うだとかするんだろう?」

 

 彼の言葉に対して、ヘルマンはひどく楽しそうにくつくつと笑った。

 

「実に素晴らしい契約だよ。『ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンはアイカ・スプリングフィールドに殺されろ』という契約だ」

 

「……そいつぁ」

 

「それも正々堂々。一対一で全力同士。契約の縛りが異常である以上、私から契約を破棄することも出来なければ、契約者であるアイカ嬢を害することも出来ない。アイカ嬢が勝利するまで全力で迎え撃ちつつも、しかし殺すことはせず、ただ殺されることを待つのみ。はたしてこの世を去るのは何年後になることやら」

 

 実に悪魔らしい契約ではないかね? そうヘルマンは笑って言った。

 確かにどちらが悪魔かと考えてしまうような契約だ。そこまでいくと呪いに近い。(またもや彼の脳裏には呪いをかけられた幼女が現れ地団駄を踏んでいたが、またしても割愛しておく)

 

「ま、というわけだ。私がアイカ嬢をどうこうしようということはないよ。それどころか『アイカ嬢に殺される』という契約を果たす前に彼女が死なないよう、彼女を守ることさえしようとも」

 

「そうかい」

 

 そういうと、彼はおもむろにヘルマンに背を向けた。

 

「……アイカ嬢を連れ帰るんじゃなかったのか?」

 

「俺は……さんざん周りに迷惑をかけてきた。自分の我儘でな。そんな俺がアイカにだけ型にはまった生き方をしろとは言えねえよ。それに、アイカは誘拐されたわけじゃなく自発的に魔法世界に来たんだろう? ならその意思を尊重するさ」

 

「ふむ。……不器用なことだな」

 

 うるせえ。そう言って彼は飛び立とうとするが、しかし何を思ったのか、再びヘルマンへと向き直ると、彼の杖を差し出してきた。

 

「アイカが目を覚ましたら、コレを渡しておいてくれ。俺の形見だ。そいつには、なんにも残せちゃいなかったからな」

 

「ふむ」

 

 ヘルマンが頷き、彼から杖を受け取ると、今度こそ彼は飛び立った。

 

「まったく。人間とは不器用なものだな」

 

 そんなヘルマンの声に、しかし此度は誰も反応することは無かった。

 




だいぶ駆け足&無理矢理気味ですが、まぁ待たせすぎるのもあれでしたし、今回は勘弁してください。更新遅れて申し訳ありませんでした

さて、ネギの双子にオリ主を据える系のネギま二次では、村人の石化解呪を第一に考える主人公というのが王道展開ですが、本作では何故かヘルマンが仲間になることに
・・・なんでこうなった?
・・・・・・ま、いっか

さて、本作はこっから一気にキンクリさせていただきます
次回は魔法世界武者修行編最終回。キティやら夕映ちんやら千雨たんやらの待つ約束の地(笑)へ

はたして数年後のアイカは性別詐称薬を作ることが出来ているのか
・・・どう考えても彼女に新薬開発は無理っぽいですが

それと、ヘルマンのほかにもう一人オリキャラをアイカパーティーに加えることになるかもしれません
魔法という裏事情を知っているツッコミ役も欲しいですしね

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