漢を目指して   作:2Pカラー

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20.いざ麻帆良へ

 

 ――メルディアナ魔法学校――

 

 歴史を感じさせる校内をしばらく歩き、途中で見かけたおそらく教師だろう女性に案内してもらうことでようやく俺たちは校長室とやらに到着した。

 出迎えたのは髭。うん。髭だった。ヘルマン以上の髭。

 麻帆良の学園長もそうだが、長生きした魔法使いにはルールでもあるんだろうか。後頭部なり髭なり、体の一部を異常に発達させないとならん、みたいな。

 

「初めましてじゃな。アイカ。もっともワシにとっては『久しぶり』なのじゃが、お前は覚えておらんじゃろうて」

 

 すすめられるままにソファーに座り、出された紅茶に口をつけたところでジイさんがそう切り出した。

 

「久しぶり……なのか? 会った記憶なんてないんだけど」

 

「ふむ。そうじゃろう。ナギがお前たちを村に預けた折に会ったくらいじゃし。ワシはあの村に住んでおらんからのう」

 

 ふーん。ホントに昔会ったことがあったのか。本当に記憶はないんだけど。

 まぁ別に何か思うところがあるというわけでもないし、こう言っておこう。 

 

「そっか。そういうことなら『久しぶり』」

 

 

 そこからはしばらく取り留めもない話が続いた。

 やれ魔法世界はどうだったかだの、やれどんな生活をしていたかだの。何を思って家出をしたのか訊かれた時こそ、その時何を考えていたのか思い出せないと誤魔化したが(さすがに『将来悪魔がやってくるのが確定しているから』とは言えないし)、信愛も情も無いジイさんだけど別に恨みがあるわけでもないんで普通に応対していたんだが、やがて冗長な会話に痺れを切らしたのか、隣のフィオが割り込んできた。

 

「少しいいですか? 私から質問したいことがあるのですけど。それさえすめば私とそちらのヘルマンは席を外しますし。」

 

「ふむ。これは失礼した。確かに君たちにとっては退屈な話だったやも知れん」

 

「いえ、お気になさらず。それで聞きたいことなのですが、アイカの今後についてです」

 

 ああ。それは俺も気になっていた。呼び戻されたってことは用があるってことなんだろう。まぁ用など無くただ家出したガキを連れ戻しただけという可能性もあるが。

 まさか今更魔法学校で学べとは言われないだろうけど、……そうだったらもう一度逃げるか。面倒だし。

 

「呼び戻したということはアイカにここで暮らさせるということでしょうか? それともまさか……」

 

 うん。まさか魔法学校に――

 

「まさかこのままメガロに引き渡すとか?」

 

 ……あっ! そうだよ、メルディアナもメガロの下部組織じゃん! すっかり抜けてたけど、ここに帰ってくるのってヤバかった?

 

「何の話か分からんのう」

 

「アイカの手前黙っていたいというのは理解も出来ますが、それは無用なことですよ。先ほどネギ・スプリングフィールドを見ましたが、アイカは彼とは違います。温室で『作られた』彼とは違い、アイカは世界というものに既に触れているのですから」

 

「……君は何を知っているというのかね?」

 

「MMの洗脳にかかっていない魔法世界人も珍しくないというだけです。そしてそういう人間は総じて世界というものを深く知っています。『英雄』に押し上げられた生贄や、『魔女』の枷をはめられた英雄のことも」

 

 そのフィオの言葉を切っ掛けに、部屋に静寂が満たされた。

 

 

 

 

 

 

 ――メルディアナ魔法学校 校長室――

 

 思えばアイカには何もしてやれなかった。魔法学校の校長である彼は、アイカの失踪以来常に後悔を胸に生きてきた。

 アイカの父である『サウザンドマスター』ナギは、彼の教え子でもあった。かつて魔法学校を中退し、魔法世界の大戦へと飛び込んでいったナギ。彼もナギのことはよく覚えている。

 そのナギが今より九年前、故郷でもある村へと帰還した折に預けられた二人の子。ネギとアイカ。

 彼としても二人の子供を気にかけているつもりではあった。というよりも『気に掛ける』つもりというべきだろうか。

 魔法学校には数えで四歳になった子供が入学してくる。ナギの二人の子が生徒になったとき何不自由なく暮らせるようにと寮の設備を充実させたりと、彼はいずれメルディアナへと二人がやって来るのを待っていたものだ。

 しかし彼の思いに反してメルディアナに入学したのはネギ一人。当然彼もその時が来るまでアイカの失踪を知らなかったというわけではないのだが……

 それ以来彼は後悔をし続けていた。何故自分は彼らを放っておいたのだろうと。スタンやネカネといった村人にすべてを任せてしまったのだろうと。アイカが『家出』したにせよ、『誘拐』されたにせよ、もし自分がネギやアイカと共に生活することを選んでいれば、アイカの失踪も防げたのではないかと。幼子が二人だけで暮らしている光景など、想像するだけで胸が締め付けられるというのに。

 それ故に彼は嬉しかった。アイカが発見され、メルディアナへと来てくれたことに、喜びを感じていた。

 アイカとの会話は彼にとって楽しい物だった。アイカの無茶を聞くたびに肝が冷え、アイカを手助けしてくれた者の名前が一つ上がるたびにその者に心の中で感謝した。

 

 しかし、ただ無事の帰還を喜ぶだけだった自分の思慮が浅かったことを彼も知る。

 

 アイカの連れた二人のうちの一人。ローブに身を包んだフィオレンティーナという少女の言葉によって。

 

(『英雄』に押し上げられた生贄と、『魔女』の枷をはめられた英雄)

 

 それが誰を指しての言葉なのか分からない彼ではない。かつてナギよりネギとアイカを預けられた時に聞いたことでもあるし、MM元老院の在り方を知らずにいられるような立場ではないのだから。

 

(アイカも表情を変えん所を見ると、本当に『世界』というものに触れてしまったんじゃのう)

 

 

 そう思うと同時に、彼は理解した。フィオレンティーナの言った、ネギが温室で『作られた』という意味を。

 彼は知ってほしくは無かった。ネギの理想でもある父親が『戦争の英雄』という血みどろの世界で名を上げた存在だということを。ネギの尊敬する父親の『英雄』の称号が、MMの元老院の思惑から押し付けられたものだということを。ネギの追い求める父親が、決して最善の結果を掴めたわけではないということを。

 ゆえに彼はネギに『ナギ』のことを話すことなどほとんどなかった。『サウザンドマスター』という英雄像のみを与え、真実を徹底して秘匿した。

 そしてもう一つ、情報の秘匿が行われたこともある。外の世界のことについてである。

 

 かつて彼の部下でもある一人の教師がこう言ったことがある。

 

『――彼はまだ子供です。友達を作り、外で遊び、時には宿題を忘れることもあるのが子供というものです。――』と。

 

 彼にとって、いや、多くの魔法使いにとってスプリングフィールドの名は非常に重い物だ。

 彼らにとってネギ・スプリングフィールドが魔法使いになることは『決定事項』だった。

 ゆえに彼らはネギの世界を閉ざした。魔法使いは素晴らしい物だと、洗脳するかのように同じ文言を繰り返すと同時に、子供ならば当然憧れる様々な未来の可能性を摘み取った。

 サッカー選手。警察官。医者。歌手。消防士。教師。俳優。パイロット。ネギの憧れかねない職業のすべての情報をシャットアウトし、『立派な魔法使いを目指すネギ・スプリングフィールド』を『作ってしまった』。

 

(それに比べアイカはどうじゃ。ワシらの手垢が欠片もつかずに育ったこの子は、まさにナギの奔放さと意思の強さを持ち合わせておる。こりゃ、ネギにも謝らねばならんやもしれん)

 

 いや、悔いるのは後にしよう。そう彼は考え、フィオレンティーナの問いに答えることに。

 

「隠していても仕方がないようじゃの。確かに、君の言う通りMMから要請があった。アイカを魔法使いとして修業させるために本国へと赴かせるように、とな。しかしワシの方で断っておる」

 

「へぇ。立場が危ぶまれるのでは?」

 

「なぁに。老い先短い身じゃしな。気にはせんわい」

 

 そうなればそうなった時のこと。それにあの元老院がアイカをまともに扱うとも思えなかった。このくらいのことで償いになるとは彼にも思えなかったが(もっとも実際にはアイカは彼に対して何かを思っているというわけでもないのだが)、それでもこれくらいはしてやりたいと彼は思ったのだ。

 

「じゃからといってアイカをここに置くというわけにもいくまい。今更魔法学校で一年生からとワシが言えば、すぐにでも逃げ出すつもりじゃろう?」

 

 その言葉にアイカは「うへぇ」と漏らす。

 こういう感情をストレートに表に出す様子も、ネギにはないナギの面影だった。

 

「魔法学校の卒業生にはな、卒業後の修行先が卒業証書に浮かび上がるのじゃ。そして奇遇なことに、先日卒業を迎えたアイカの兄であるネギの修行が日本で教師をやることでな。アイカにはそれについて行ってもらおうかと思っておる」

 

「ネギ・スプリングフィールドのお守りということかしら?」

 

「そうではない。あくまで一生徒として、じゃ。どうせ学業などなにもしていないのじゃろう?」

 

「まぁなぁ。今更オベンキョーってのもどうかと思うんだけど。魔法世界でなら食い扶持稼ぐのに困らない程度のスキルは身に着けてるつもりだし」

 

「そういうな。学校というのも楽しい物じゃぞ。あちらの校長はワシの友人でもあるからアイカのことも頼めるじゃろうし」

 

 彼にとって麻帆良にアイカを行かせることは最善の方策だった。ここは頷いてもらわなくてはならない。

 麻帆良には極東最高の使い手である近衛近衛門がいる。紅き翼の高畑・T・タカミチがいる。表には情報が流れていないがアルビレオ・イマや、かの『闇の福音』すらいる。派閥的には麻帆良と敵対姿勢にあるものの、麻帆良のある国には『サムライマスター』も健在である。さらに神木・蟠桃を有するため本国の下部組織でありながら一種の独立権限が認められている地。それが麻帆良なのだ。

 ゆえにアイカには麻帆良行きを了承してもらう必要がどうしてもあるのだが……

 

「んー。ま、いっか。メガロに行くより何倍もマシだし。フィオとヘルマンもそれでいいか?」

 

「アイカがそう言うなら私も構わないわ。アイカの入る学校とやらに私の籍も用意してもらえるというならね。学生というものはやったことが無かったし」

 

「私もかまわんよ。元よりこの身はアイカに使役されるもの。さすがに学生は無理だろうがね」

 

「そりゃそうだ。お前がガキに混じってオベンキョーしてたら笑い死ぬっての」

 

 アイカらの了承の言葉に彼はほっと胸をなで下ろす。

 何もしてやれなかったアイカではあるが、やっと一つアイカの力になることが出来たと。

 

 

 

 

 そして一月ほどの時が流れる。

 

 アイカの帰還に村人たちは喜び、スタン老はくどくどと苦言を呈するばかりの平和な毎日が過ぎ、

 

 束の間の休息を楽しんだアイカら三人は、ネギよりも一月早く、年明けとともにウェールズを発った。

 

 行先は旧世界は極東。日本最大の学園都市。麻帆良学園である。

 




なんというか・・・校長は祖父なのかどうかという点で二転三転しまして
結局ウィキを頼りに他人設定ということで書き上げてしまったんですが
祖父説濃厚っぽいですね
本作では他人設定を使わせてください。あまり展開に関わりませんし
校長が祖父Verだと彼の自責の念がもっとひどいことになるくらいですしw

ということで駆け足気味ですがやっと麻帆良です
ええ。やっとです。
ここからエヴァ編、修学旅行編、学園祭編、魔法世界編ですか(間にちまちまとしたイベントもありますが
今一番書きたいのが学園祭編なんですよねぇ
超をいかに出し抜くか、そんな陰謀ばっかり考えている2Pカラーです

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