漢を目指して   作:2Pカラー

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22.麻帆良での立ち位置 ~その2~

 

 ――麻帆良女子中等部 学園長室――

 

 緑茶がうめぇ。紅茶とどっちがいいか聞かれたけど緑茶で正解だったな。

 高畑が俺がメガロに狙われた云々の話に対して色々突っ込んでくるのに対し、俺はまともに取り合わずに茶請けの最中を頬張っていた。

 もっとも高畑に応対するのが面倒だったとか、そういう話ではない。

 ただ、現在俺たちは念話中であったから、とそれだけの話だ。

 

『ふぅ。これで一通りの説明は終わったかしら? ヘルマンの情報の危険性も伝えられたでしょう』

 

 そう念話越しに言ったのは俺の隣に座るフィオ。当然俺たちの会話は学園長や高畑には漏れない。

 この念話は元々打ち合わせていたものだ。麻帆良学園に向かわされることが決まり、メルディアナで情報を集めたフィオが決定したこと。どうもフィオは学園長を信用しているというわけではなく、むしろ警戒しているようで、俺が余計なことを口にしないよう学園長との対話時には念話で連絡を取り合うよう釘を刺してきていたのだ。

 

『ま、そうだな。メガロにヘルマンの情報が行って麻帆良が火の海になることも無いだろ』

 

 と俺はフィオに答える。

 が、一つだけ言わせてもらいたい。

 

『にしても掛け算からダメってのは言いすぎじゃね? 俺だってそんくらい出来るぜ? 七の段は怪しいけど』

 

 なにせこちらには『前世』があるのだ。日本史だの化学だのといった『勉強』と違って四則演算は実生活でも使うものだ。そうそう出来なくなるものではない。

 もっとも頭の中にスパコンが内蔵されてる疑惑が(俺の中でだけだが)近年叫ばれているフィオにしてみれば、一桁の掛け算なんて『出来る』範囲に入らないのかもしれないが。

 

『麻帆良については説明したでしょう? ここは魔法使いの生徒を『魔法生徒』として働かせているのよ』

 

『ああ。でもそれが関係あるか?』

 

『アイカが勉強ができないとなれば、仕事よりも学業を優先させてくれるでしょう? なにせネギ・スプリングフィールドの修行が教師なのよ? 生徒の成績が上がるともなればそれは『英雄の息子』の功績に数えられるわ。ネギの生徒としてアイカが登録されるというなら、学園側としてはアイカには勉強してもらいたいはず。特に掛け算すらダメ(・・・・・・・)ならね』

 

 はー。なんつうか、あくどいなぁ。

 つまりはアレか? 俺たちが魔法生徒としていいように扱われないように、『アイカには勉学を優先させるべき』という建前を用意したってことかよ。

 

『つまりアイカには勉強の出来ない子になって貰った方が都合がいいのよ。もっともアイカなら演技の必要なんてないでしょうけどね』

 

 それは言いすぎじゃね? つか、おい! ヘルマン! テメェ笑ってんじゃねぇぞコラ!

 

 俺はパーカーのフード越しに隣を睨む。念話を聞いて肩を震わせているエセ紳士を。

 ったく。ま、いいけどさ。元々オベンキョーに精を出すつもりもなかったし。成績を上げる努力をしなくてもいいってんなら都合がいいさ。

 と、七つ目の最中に手を伸ばしたところで、黙り込んでいた学園長が話を再開した。

 

「ふむ。ヘルマン殿のことに関しては分かった。ついてはヘルマン殿には広域指導員でもお願いしようかの。身分は、そうじゃな、魔法世界出身者ということで他の者には伝えよう」

 

「広域指導員? それはどのような仕事なのかね?」

 

「なに。麻帆良内での揉め事処理のようなものじゃよ。麻帆良の学生はやんちゃな者も多いからのう」

 

 ま、妥当なところだろう。悪魔に教員をやらせるわけにもいかないだろうし、だからってニートってのもあれだ。フィオも納得したようで念話にて了承をヘルマンに伝える。

 

 と、ヘルマンが学園長に広域指導員となることを了承し、高畑から仕事の説明を聞いてた頃だった。

 学園長室にノックの音が響いたのは。

 

「ふむ。来たようじゃな。入りなさい」

 

 学園長の言葉で入室してきたのは二人の少女。

 ともすれば睨みつけるかのような視線をこちらに向ける竹刀袋を背負ったサイドポニーの少女と、値踏みするかのように見てくる褐色の長身の少女だった。

 この二人は分かる。桜咲刹那と龍宮真名だ。

 俺は暢気に『やっぱ赤松ワールドの女の子は可愛いなぁ』なんて思っていたんだが、

 

「実はアイカ君らの住む場所が問題でのう。生徒になるのじゃから学生寮に入ってもらうんじゃが、空き部屋が無いんじゃ」

 

 あー。と俺は原作の流れを思い出していた。

 確かネギも同じようなことを言われて神楽坂明日菜の部屋に入れられたはず。ということは俺たちも同じような感じに扱われるわけか。

 ここで神楽坂・近衛の部屋に入らせない辺り、学園長はそちらにネギを入れるつもりらしい。ま、ネギの仮契約相手として期待してんのかね?

 

 しかし次の学園長の言葉は俺の予測を超えるものだった。いや、ある意味予想通りだったんだが。

 

「つまりこの二人の部屋にアイカ君に入ってもらおうと思っておるんじゃ。フランチェスカ君は、まだ来ていないが別の者の二人部屋に――」

 

「あ゛?」

 

 瞬間、世界が止まった。

 いや、フィオさん? いきなりブチ切れモードっすか? 数年ぶりっすねww

 

 

 

 

 ――空気の凍った一室で――

 

 龍宮真名は同室の住人であり、仕事の同僚でもある桜咲刹那とともに学園長室に呼ばれていた。

 新学期まであと数日。いまだ冬休みだというのに、わざわざ麻帆良の最高権力者に呼ばれた理由は真名を納得させるに十分なもの。麻帆良へとやってきた『サウザンドマスターの娘』との顔合わせだった。

 

 入室を許されると同時に真名は目を見張った。驚愕を表情に出さなかったのは、彼女のキャリアがあったからこそだろう。

 近右衛門、高畑の両名と相対してソファーに腰かけるのは初めて見る三人組。

 まず真名の視線を奪ったのは奥に座る黒いスーツに身を包んだ初老の男。隣の刹那は気づいていないようだが、魔眼持ちの真名は見抜いていた。彼は悪魔である、と。

 しかもその隠蔽能力はとても高い。退魔に従事する神鳴流の使い手である刹那に気取らせぬほどの隠蔽能力。それだけで目の前の男が高位の悪魔であると理解できる。

 次いで手前側に座る少女。戦場を渡り歩いてきた真名にはわかる。彼女は『出会ってはいけない類の存在』であると。戦場で出会ったのならば、『どう戦うか』ではなく『どう逃げるか』を考えなくてはならない存在だと。戦場で生き延びてきた者ならば一様に身に着く嗅覚によって、真名は正体不明の少女の強さを嗅ぎ取っていた。

 そしてそんな圧倒的存在に挟まれるように座った少女。

 室内だというのにフードを被ったままだったため、少女の容貌はわからない。真名の魔眼に暴かれるような本性があるわけでもなければ、背筋を凍らせるような圧迫感があるわけでもない。

 それでも中心の少女が最も目を引いた。おそらく彼女が、

 

(『英雄の娘』。長年行方不明だったアイカ・スプリングフィールド、か)

 

 ふと、真名と少女の視線が合った。

 ほんの一瞬。引き込まれるような深い色を讃えた瞳に、魔眼持ちであるはずの自分が覗き込まれたような気がして――

 

「実はアイカ君らの住む場所が問題でのう」

 

 と、近右衛門の言葉で真名は意識を引き戻される。

 そうだった。と真名は陥りかけた思考を切る。自分はアイカと同室になるという説明のために呼ばれたのだ。それは『女子生徒』としてではなく、『魔法生徒』としての仕事。仕事ならば手を抜くわけにはいかない。たとえ話に付き合うというただそれだけの仕事だとしても、だ。

 不可解極まりない異色な三人組。興味は惹かれるが、不要なことに首を突っ込むのは傭兵の領分を越えている。

 

(調子がおかしいのかもしれないな。年明けから神社の仕事が続いたし、昨日までクラスメート達のバカ騒ぎに巻き込まれていたんだ。この話が終わったらのんびり餡蜜でも食べに行くか)

 

 真名の思考をよそに近右衛門の話は続く。

 なんでもアイカらの部屋を用意できなかったのでそれぞれ二人部屋に三人目として入ってくれということらしい。

 白々しい、と真名は思う。彼女は隣の刹那と違い、近右衛門から事前に意図の説明を受けていたのだから。

 

(やがて来る『英雄の息子』をごく自然に孫娘の護衛としてルームメイトにするためだとか。仮にも麻帆良の最高権力者の策謀だ。他にも意図はあるんだろうが)

 

 ここでアイカらに部屋を与えれば、学園長側の意図を壊すイレギュラーが発生しかねない。『住む場所の用意が出来ていない』という理由でネギを女子寮に入れるとなれば、第一候補は肉親のいる部屋。つまりアイカの部屋ということになる。多分に独断行動をとる近右衛門ではあるが、何も下の者の意見を完全に無視しているというわけではない。可能ならば誰もが納得する采配をとりたいのだろう。特に木乃香のそばに西洋魔法使いを置くともなれば隣の少女が黙っているとも思えない。

 故にネギを神楽坂・近衛両名の部屋に入れるとなれば、『アイカの部屋にネギが入るのは無理』という理由を作るのが最も分かりやすい。なればこその『アイカ・フィオをそれぞれ三人目として別々の部屋に入れる』という近右衛門の案ではあったのだが、

 

「――。フランチェスカ君は、まだ来ていないが別の者の二人部屋に――」

 

「あ゛?」

 

 思わず、本当に反射的に、真名は隠し持っていた拳銃を抜いていた。

 隣に立つ刹那も竹刀袋から夕凪を取り出し、あの高畑・T・タカミチでさえポケットに両手を納めるという彼独特の臨戦態勢をとっていた。

 理解が出来ない。これまで友好的に(少なくとも敵対的ではなかった)会話していた少女から、強烈な殺気が立ち上ったのだ。息をするのさえ困難に思えるほどの魔力とともに。極東最高の使い手と評される近衛近右衛門でさえ冷や汗をかいているのだ。

 

 しかしそれでも取り乱さなかったのは、さすがは近衛近右衛門といったところか。

 

「その殺気を納めてくれんかのう。いったい何が気に障ったというんじゃね?」

 

「……簡単なことよ。私とアイカを別々にですって? 不快だわ」

 

 そんなことで? そう真名は言いたかった。おそらく刹那や高畑も同意見だろう。

 ともすれば麻帆良最強の二人を敵に回す可能性もあったというのに。

 しかし少女はそんなことはお構いなしに言葉を続ける。

 

「撤回しなさい。近衛近右衛門。私とアイカは同室。それが受け入れられないというのなら、私はアイカを連れて魔法世界へ帰るわ。この街を地図から消して、ね」

 

 結局、近右衛門はフィオの要求を呑むことになる。

 

 そしてそれが、フィオレンティーナ・フランチェスカが『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』に並ぶ暴君として麻帆良に認識された瞬間だった。

 




ぴこーん
フィオのヤンデレ度が3上がりました
真名さんに危険視されました
刹那さんの『このちゃんの安全のために斬る!』フラグが立ちました

正直やりすぎた感が否めないw 修正するかもしれませぬ
いや、やりたかったんです。ヤンデレ

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