漢を目指して   作:2Pカラー

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23.麻帆良での同居人

 

 ――寒風巻く桜並木道――

 

 いやぁ。焦ったね。俺は葉の落ちきった桜を見上げながら内心呟いた。

 

 今は麻帆良女子中から女子寮へと向かうところ。ヘルマンとは別行動をとっている。なんでも教員寮とは別の住居を用意するとかで、ヘルマンは高畑に連れられて行ったのだ。

 学園長室での様子から考えると、今頃ヘルマンは質問攻めになってることだろう。ま、隠すべき情報があるわけでもないし、存分に質問なり尋問なりしてくれと思う。ぶっちゃけヘルマンならどうでもいいし。俺との殺し合いに影響が残るような拷問は遠慮してもらいたいけどな。

 俺たちの方はと言えば、真名サンと刹那サンに案内されているところである。俺とフィオを同室にということになって、形式的に二人部屋となってはいるが、たまたま一人で部屋を使っているとかいう生徒のことを学園長は思い出したらしい。(ま、思い出したってのは十中八九嘘だろうけど)

 一応学園側から連絡は入れるらしいが、何分その生徒にとっては急なことである。クラスメートであり面識がある真名・刹那の二人も事情の説明を手伝ってくれるとか。

 

(どっちかってぇと監視のためって感じだけどなぁ)

 

 前を行く二人は視線さえ前に向けてはいるが、こちらを意識していることはバレバレだ。地球(こっち)に来てから無縁だったピリピリとくるプレッシャーに懐かしさを覚えるが、しかし嬉しいというわけではない。

 だって俺の精神は男だもの。女の子(それもとびきりの美少女)に敵意を向けられて喜んでいたら、それはただのどMだろう。

 

(といっても、警戒は当然か。ああ(・・)なったフィオを目の当たりにしてのほほんとしてられる訳もないしな)

 

 隣を歩くフィオへと視線を向ければプイッと目を逸らされる。あれは照れてんのかね?

 念話にて『なによ?』なんて訊いてきたけど『なんでも』とだけ答える。どうせ指摘したってはぐらかされるだけだし。

 

(にしても寒いな。……つか女性陣は寒くないんだろうか)

 

 前を行く二人は学園長室に呼ばれたということもあるのだろう制服姿。原作通りのミニスカートだ。ジーパン装備の俺でさえ風の冷たさが肌にチクチク刺さるというのに。いや、まぁ『纏』のお蔭で寒さもかなり軽減されて、ブルブル震えるなんて無様は晒さないけど。

 

「……って。あれ? まさか……」

 

 思わず立ち止まって呟く。隣を歩いていたフィオはもちろん、俺たちを警戒していた二人も足を止めてこちらを振り返るが、正直そんなことにかかずらってるってる場合じゃない。それほどに気づいてしまったソレ(・・)は俺にとって容認できないものだった。

 ゆっくりと首をフィオへと向ける。これが漫画ならば『ギギギ』と擬音が描かれていることだろう。目線のあったフィオへと、どうか否定してくれと願いながらも、俺は尋ねた。

 

麻帆良(ここ)の生徒になるってことは、さ。……俺もアレ穿かなきゃならないわけ?」

 

 指をさすのはこちらを訝しげに見ている二人……のミニスカート。

 再度言おうか。俺の精神は男なんだ。ミニスカート姿の女子生徒を眼福だと思うことはあっても、同じような格好をしたいだなんて思わない。俺はどMでないと同時に、女装趣味だってないんだから。いやまぁ厳密には女装という言葉は誤りなんだけど、精神的にはさ。

 だからどうか否定してくれと願いながらフィオに尋ねる。『アイカはそのままの格好でいいのよ』なんて甘い言葉を期待して。

 

 しかし、現実は無情である。

 

「当然じゃない。それが日本の常識らしいわよ。制服が指定されてる学校で自分だけ私服を認めてくれとでも言うつもりなの? わがままね」

 

「……ガハァ!」

 

「な!? スプリングフィールド!?」

 

 こ……この声は真名サンだね? 随分あわてた様子だけど、まぁ当然か。

 それまで普通に歩いていた人間がいきなり吐血して倒れこんだら俺だって慌てるさ。

 ってかさ、

 

(俺と同室になるっていう『我儘』のためにココの最高権力者を脅したフィオが、俺を我儘とか言うなよな)

 

 つかどうしよ。『ネギま』ワールドの女の子に囲まれてラッキーくらいにしか思ってなかったけど、まさかスカート着用とか。俺の漢回路が拒否反応を起こすっての。

 無理無理。スカートとか絶対無理。恥ずかしくて余裕で死ねる。もういっそのこと桜並木に埋めてくれ。俺の血を吸って真っ赤な桜が咲くように。

 

 しかしそんな切なる願いをもフィオは一蹴。俺の足をむんずと掴むと、そのままズルズルと引きずり出した。

 

「アイカの奇行は無視して頂戴。いつものことだから。女子寮とやらへの案内、よろしくね」

 

 ああ、いつも(と言うにはよくブチギレるけど)冷静なフィオが恨めしい。スカートとか。

 嗚呼、『前世』の『故郷』とか浮かれてた自分が恥ずかしいぜ。スカートとかさぁ。ちくせう。

 

 

 

 

 

 

 ――麻帆良女子寮――

 

 その日、麻帆良学園にとってVIPクラスの客人である『英雄の娘』との顔合わせのために、桜咲刹那は麻帆良女子中等部へと足を運んだ。

『英雄の娘』。それは西洋魔法使いたちの事情に疎い刹那にとっては馴染の薄い言葉であり、同時に身近にある言葉でもあった。

 彼女の護衛する近衛木乃香。彼女もまた『サムライマスター』と呼ばれた『英雄』の娘にあたるのだから。

 とはいえ『アイカ・スプリングフィールド』と『近衛木乃香』の境遇はまるで異なるものらしい。学園長室へ向かう道すがら、ルームメイトであり仕事仲間でもある真名からアイカについて聞くたびに刹那はその確信を強めた。

 父親である『英雄』は十年前に亡くなっており、彼女と双子の兄は父親の故郷に預けられていたとか。その時点で優しい両親の元、何不自由なく育った木乃香とはまるで境遇が異なるというのに、さらに彼女は二歳のころに失踪したとか。

 彼女にいったい何があったのか。彼女を『失踪事件』に巻き込んだ何かは、木乃香に降りかかることはないのか。そんな疑問を声高に真名にぶつけたい衝動に駆られるが、学生であふれる冬休みの街中ということで、刹那はそれを飲み込んだ。

 どのような事情があろうと、相手は刹那の尊敬する師、近衛詠春の戦友の娘なのだ。木乃香を守る助けになることはあれど、敵に回ることなどないだろう。そう思って。

 

 しかし刹那は自分の認識が甘かったことを知る。英雄の娘の『連れ』が見せた、『交渉』と言うにはあまりに一方的な『脅迫』を目にして。

 

 それは刹那の認識を塗り替えるほどの圧力だった。

 ただ一言を口から発するたびに放たれる魔力の圧力。呼吸すら彼女の許可なしでは自由に出来ないと思えるほどのプレッシャー。

 神鳴流を学び、木乃香の護衛として、そして麻帆良の魔法生徒として侵入者と戦い続け、そして積み上げてきた自信を粉々に打ち砕くほどの強者の気配。

 もしも彼女が木乃香を狙う刺客だったのならば、自分には何ができただろう。いや、何も出来ないに違いない。彼女は言った。『この街を地図から消す』と。それはおそらく本気。一片の虚勢も無く、ただ淡々と告げた彼女の様子を見れば、彼女にソレを可能とするだけの力があることなど疑うことも出来ない。

 

(もし彼女がそれを実行に移していたら、私はお嬢様を守れただろうか。守れないなどとは絶対に思いたくはないが、しかし、……クッ!!)

 

 刹那は唇を強く噛む。自分が最強だなどと思ったことはなかった。まだまだこの身は修行不足。第一線から退いた師にすら程遠い。だが、目指す場所は届くと思っていた場所だった。いつかたどり着けると思っていた場所だった。だというのに……

 

 と、出口の見えない思考の迷宮から刹那は引き上げられる。ポンっと肩を叩かれて。

 

「まさか今の今まで悩み事だったかい? それは君の仕事を考えると褒められたものじゃないな、刹那」

 

 肩を叩いたのは真名の手のひら。気づけば目に映る光景は学園長室から女子寮の入口へと変わっていた。

 そして大きく変化した光景がもう一つ。

 

「え? スプリングフィールドさん!?」

 

 倒れふし、その足を持たれて引きずられていたアイカの姿だった。

 

「今まで無言だったかと思えば、考え事とはね。面白い子ね。アイカが気に入りそうだわ」

 

「だろ? 堅物そうに見えて面白い奴なんだ。とはいえあまりからかってくれるなよ? 刹那は無意識の時が一番怖い。刃圏に入ってきた異物を問答無用で切り捨てるからな」

 

「お、おい龍宮! それじゃあ私が危ない奴みたいじゃないか!」

 

「あら、この国で刃物を所持しているのだから元々危ない娘なんだと思っていたわ」

 

 クスクスと笑うフィオに、つられて笑う真名。刹那は顔が熱くなるのを感じていた。きっと耳まで真っ赤になっていることだろう。

 

「くっ。女子寮に着いたのなら私はもう行くぞ。あとは寮母さんにでも聞いてくれ」

 

「そう。そういうことなら案内ありがとう。助かったと言っておくわ。アイカの分も含めてね。ただ一つだけ教えてちょうだい?」

 

「なんだ?」

 

「大したことじゃないわよ。私たちが同室になる子の名前を教えてもらいたいってだけ。それが分からないんじゃ部屋の場所を尋ねることも出来ないでしょう?」

 

 それなら学園長から連絡のいっているはずの寮母ならば把握しているのではないか? そう刹那は思ったが、しかし知りたがっていることをわざわざ教えないなんて稚拙な意地悪をするのもあれだろうと、素直に答える。

 

 アイカ・スプリングフィールド。フィオレンティーナ・フランチェスカ。二人の異分子(イレギュラー)がこれからともに住むことになる同居人の名は、

 

「出席番号二十五番。長谷川千雨さんです」

 




絶賛スランプ中ゆえ、こんな感じに
アイカ喋ってねぇなぁ orz

さて、一話かけて女子寮の入口までやっとこさ着きました
こんなペースでどうすんねんという感じですが

同居人はみんな大好きちうたんです。貴重なツッコミキャラですし、なんとしてもネギきゅんの毒牙から守らねば
とはいえ魔法関係に彼女が足を突っ込むのはまだまだ先になりそうですが(というか魔法バレどうしよう・・・

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