漢を目指して   作:2Pカラー

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33.四人目の仲間

 

 ――一夜明けて――

 

 日本への到着。麻帆良入り。エヴァンジェリンとの戦闘。そして学園側への事情説明。昨日は怒涛のイベント尽くしだった。

 そこから寮へと帰り、早速千雨の回答を聞こうかと思ったが、気持ちを整理する時間を置いた方が良いだろうということで昨晩はあえて魔法関連の話題は避けた。まぁ千雨から尋ねられたことにはその都度答えたが。

 そして日が変わり、今は昼食時。フィオの手料理を三人で食べ終わったところである。

 

 さて、そろそろ

 

「答えを聞こうか、千雨。俺たちから話を聞いて、実際に魔法って奴を目にして、これからどうするか、どうするべきか、どうしたいかは決まったか?」

 

 俺の言葉に千雨はゴクリと息をのんだ。

 昨日俺たちが帰ってきてから千雨はずっと悩んでいるようだった。おそらくこちら側に踏み込むか否かは決まっているのだろう。とはいえ思うことと実行に移すことは違う。今の緊張はおそらくそういうこと。

 

「その前に……、最後にもう一つだけ聞かせてくれ。昨日のアレは、そっち(・・・)じゃ日常茶飯事だったりするのか?」

 

「エヴァとの戦闘のことを言うならノーだな。あれだけの戦闘は滅多にお目にはかかれない。エヴァは一応史上最高額の賞金首だし、俺もそれなりにやれる自信はある。あれだけ派手な戦闘はこっちの世界でもレアだよ」

 

 しかしもう一つの方。

 

「エヴァによる吸血行為に関してはイエスだ。俺たちが調べた所、アイツはこれまで十五年間麻帆良に封じられていたらしい。力を奪われた上でな」

 

「……つまり」

 

「吸血鬼が力を取り戻すにはまず何をするか。そりゃやっぱり吸血だろう。おそらく今までも生徒から血を吸ってるはずだぜ? そしてこれもおそらくだけど、麻帆良はそういうことを黙認してきたってことだ。アイツが滅ぼされることも無く今でも生きてるってことはそう言うことだろう」

 

「……はぁ。麻帆良のスタンスはよーく分かったよ。つまりマクダウェルが私を襲ったとしても麻帆良は私を守ってくれないってことか」

 

「正確にはある程度までならエヴァンジェリンの好きにさせるということでしょうね。彼女は強制されているとはいえ麻帆良の戦力だもの」

 

 実際にはエヴァンジェリンが学園内で吸血行為に及ぶことはもうないだろうとは思う。俺の血で呪いは外れたのだし。しかし『原作』を見る限り、麻帆良が守ってくれるわけではないという千雨の認識は正しいのだろう。むしろそんな事件が発生すれば、これ幸いという感じでネギとくっ付けようとするかもしれない。教師側が生徒が事件に巻き込まれるのを望んでいるなんて、考えたくもないことだがね。

 

「そしてこれからもイベントは起こっていくはずだぜ? なんたって『英雄の息子』の来日だ。エヴァレベルの危険は稀だろうけどな」

 

「……はぁ。つまりここでそっち側(・・・・)に行くことを拒否すれば、昨日みたいに自分も守れず震えるしかできないことになるってわけか。昨日みたいに守ってくれるってわけでもねぇんだろ?」

 

「むしろ私たちは離れると思うわよ? アイカが付きっ切りになってたりすれば、アナタのことを重要人物だと勘違いして襲ってくる馬鹿も出かねないしね」

 

 そのフィオの言葉で千雨は何度目かになるかもわからないため息をついた。

 

 そして、

 

「オーケー。決めたよ。踏み込んでやろうじゃねぇか。魔法の世界って奴によ」

 

 にやりと笑う千雨に、俺たちも笑って見せる。ようこそ、そう声にしない言葉に乗せて。

 

「マクダウェルに襲われても逃げ切れる、それ位にはなっとかないとヤバそうだしな」

 

 そいつは……、結構きついぜ?

 

 

 

 

 ――女子中等部学園長室――

 

「入るぞジジイ」

 

 言うや否や学園長室に入ってきたのはエヴァンジェリン。諸々の理由から昨日の時点では近右衛門の呼び出しを拒否したのだが、それは近右衛門にとっても僥倖だったのか。護衛のつもりだろう高畑を傍に控えさせて出迎えた。

 

「ようやっと来てくれたのう。昨日断られたときはここから出て行ってしまうのではないかと心配したんじゃが」

 

「ふん。今更私が貴様らに従う理由もないだろうが。そもそも本来なら貴様の方から来るのが礼儀だろう?」

 

「それはまぁ、そうなんじゃがのう」

 

 ちなみにエヴァンジェリンが呼び出しを断ったのはチャチャゼロのことがあったためだ。

 アイカとフィオによって破壊されたチャチャゼロは卓越した人形遣いであるエヴァンジェリンをしても深刻な状態であり、しばらく使っていなかった『別荘』を久しぶりに持ち出す羽目になった。

 現実世界で十数時間、『別荘』内で一週間以上の作業を終え、出てきたところで近右衛門の電話に応対した茶々丸から呼び出しの件を聞いたのである。

 

「で? わざわざ私を呼んだ理由はなんだ? タカミチまで用意しているところを見るに、封印の外れた私を潰すつもりか?」

 

「ひょ!? そ、そうじゃないわい。少しばかり聞きたいことがあっただけじゃ。じゃから魔力で威嚇するのはやめてくれい。こっちは年寄じゃぞ?」

 

「ふん。聞きたいこと、か。あの小娘に関することか?」

 

 エヴァンジェリンの脳裏に浮かんだのは昨日戦ったアイカ・スプリングフィールド。真祖たる自分と最強の従者であるチャチャゼロに対し伍して戦い、アーティファクトによって呪いを外すための力を貸した張本人のことだ。

 

「それもあるがの。……ふむ。見たところ本当に呪いは解けておるようじゃな」

 

 近右衛門から見てもエヴァンジェリンの魔力は戻っていた。もっとも学園結界によってかなり魔力を抑えられているようだが、しかし登校地獄がかかっていたころと比べれば、それは雲泥の差である。

 

 

 学園結界。麻帆良全体を覆うそれは、魔を封じる力を持つ。

 しかし如何に神木・蟠桃を擁する麻帆良の結界といえど、魔に属する者の力を全て封じるなど不可能。それは『原作』にて伯爵級悪魔であるヘルマンが力を有したまま戦闘行為を行えたことからも明らかだろう。

 また本来妖に近いはずの烏族の血を持つ彼女や、半魔、純魔である彼女たち(・・・・)が結界の力で消滅していないことからもその事は伺える。

 にもかかわらず最強種であるはずの真祖・エヴァンジェリンが魔法薬の補助が無ければ初級魔法も使えない状態にあったのは、ひとえにサウザンドマスターの呪いがあったからだ。

 登校地獄という学校に行きたがらない子供にかけるおまじないレベルのものは、サウザンドマスターの膨大な魔力に耐えられず歪み、変質してしまっていた。そのためエヴァンジェリンは学校の規則に逆らえなくなっていたのである。

 麻帆良は外部からの侵入者を防ぐためにも結界を用いている。つまり学園の上位陣、魔法関係者たちの認識の上では、学園の生徒は総じて結界によって守られるべきであると、そう考えられている。

 ゆえにエヴァンジェリンは結界の力を無抵抗に受け入れざるを得なかったのだ。『結界の保護』を受けるべきとの規則に抵抗できず、結果、『結界の圧力』をもろに受ける形になってしまっていたのである。

 しかし昨日、登校地獄の方は消滅した。アイカの変化したナギ・スプリングフィールドの血によって。

 

 そして現在、エヴァンジェリンは学園結界に抑えられながらも、しかしその力に抵抗出来ている。悪魔であるヘルマンが活動出来ていたのと同様、エヴァンジェリンも己の魔力を使える状態にあるのだ。

 

「ああ。私を縛っていた呪いは消えた。だが、何か問題があるか? もともとあのバカ(・・・・)は三年経ったら呪いを解きに来ると言っていた。もう十五年だ。自力で解いても文句は言わせんぞ。アイツが死んだというのならなおさらな」

 

 暗に呪いが外れたことを不服だと言うのなら力で相手になるぞとエヴァンジェリンは示すが、しかし近右衛門の反応は予想外の物だった。

 

「ひょ? もしかしてアイカ君から聞いておらんのか?」

 

「ん? なにがだ?」

 

「ナギの奴は生きとるそう――」

 

 思わず言葉に詰まった近右衛門だが、それも当然か。力を取り戻したエヴァンジェリンがくわっと目を見開いて詰め寄ってきたのだから。護衛のはずの高畑も一歩後ずさってしまっている。

 

「それは本当なんだろうな、ジジイ!」

 

「く、詳しいことは知らんぞい。アイカ君らが話してくれただけじゃし」

 

「そうか。あの小娘がな。クッ、ククク」

 

 近右衛門と高畑、二人の頬に冷や汗が流れる。先日のフィオとは違った圧力が放たれていた。

 とはいえ臆したままでも仕方がないと思ったのだろう。

 

「できればしばらくの間、アイカ君にはちょっかいかけては貰いたくないんじゃがのう。魔法先生たちが騒ぐじゃろうし」

 

「知らんな。そいつらを抑えるのは貴様の仕事だろう、ジジイ」

 

「いや、あのね? わし、結構大変なのよ? これ以上仕事するとか、泣いちゃうぞい?」

 

 しかしエヴァンジェリンは知るかと鼻で笑うのみ。なんなら楽にしてやろうか、永遠に仕事をしなくてもよくなるぞ? と爪を見せるほどだった。

 

「話は終わりか? だったら私は帰るぞ?」

 

「いや、待ってくれい。わしが聞きたかったのはな、これからどうするつもりかということなんじゃよ」

 

「これからか」

 

 一瞬エヴァンジェリンは言い淀んだ。

 呪いを解くことはエヴァンジェリンにとって長く夢見たことだった。呪いを解き、麻帆良を出られるというのなら、やりたいことなど山ほどあった。

 それにナギも生きているという。ならば今すぐ外に飛び出してもいいはずなのだが、

 

「今しばらくはここにいてやる。貴様らにとってはむしろ出て行ってほしいのかもしれんがな」

 

 エヴァンジェリンの脳裏に真っ先に浮かんだのは思い続けていたあの男ではなく、不敵な笑みを浮かべた先日殺し合ったばかりの少女。

 

「いや、わしらとしてはお主にはまだここにいてもらいたいと思っておったんじゃが。……理由を聞いてもいいかの?」

 

 とはいえ真っ正直にそれを明かすことなどないが。

 

「……茶々丸がいるからな。アレは科学から生まれ、今すぐここから出て行くともなればメンテナンスも受けられなくなるだろう。アレが安定するまでは麻帆良を離れるわけにはいかん」

 

 ならば茶々丸を置いて行くか。その答えは問うまでもない。ノーだ。

 まだ日が浅いとはいえ茶々丸もエヴァンジェリンの従者。足枷となるからと言って従者を置いて行くなど、人形遣いのプライドが許さない。

 近右衛門もタカミチもそれで納得するだろう。

 

「チャチャゼロも小娘を気に入っている。貴様らの子飼いになるつもりはないが、しばらくは居座らせてもらうぞ?」

 

「うむ。こちらとしても有難い。じゃが少しくらい力を貸してくれてもいいんじゃないかのう?」

 

「黙れ。殺すぞ」

 

 そこで話は終わりとばかりにエヴァンジェリンは足元の影を用いて転移(ゲート)を開く。

 しかしいざ帰ろうとしたその時、近右衛門がもう一つだけ聞かせてくれと言ってきた。

 

「お主自身はどうなんじゃ? チャチャゼロ君がアイカ君を気に入っていると言ったが、お主自身は」

 

「ふん」

 

 エヴァンジェリンは鼻で笑うと、ズブズブと影に沈みながら、しかし獰猛に笑って見せた。

 

「気に入っているさ。奴の血は美味かったからな。浴びるほど飲んでやりたいと思うくらいには、気に入っているとも」

 

 とぷん。音にならない音を立ててエヴァンジェリンは影に消えた。

 残された二人の網膜に、闇の福音の姿を焼き付けて

 




というわけで千雨ちゃんが仲間になりました ワーパチパチ
とはいえ千雨にとってはこれからが本番です。修学旅行編までにはそれなりの戦力になって貰うつもりですしね

後編はエヴァのこれからについて
まぁ悩んだのは学園結界に関してなんですが
登校地獄自体はエヴァの力を封じることまではしないらしい(学園祭編で学園の結界落とされたところエヴァの力も戻ってますしね)。でも学園結界のみでエヴァの力全てを封じられるとも思えない(それでヘルマンが動けてエヴァは無理となると、エヴァ<ヘルマンになってしまいますし)
なので結局こんな感じに。まぁ独自解釈ということでご了承を

次回は転入初日かなぁ。ネギ赴任まで加速したいところ
後は指導員verヘルマンについてもやりますか
今回の騒動での影響も書きたいんですけどね。超とか魔法先生とか。久しぶりに名無しモブとかも出して

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