漢を目指して   作:2Pカラー

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37.一時間目 ~その1~

 

 ――始業時間前――

 

 今日も今日とて男らしさの欠片もない制服に身を包む。(未だに学園長はパーカー着用を認めてくれないのだ。何度も直談判に行っているというのに。眉毛がパーマになる呪いをかけたり頭が伸び続ける悪夢を見る呪いをかけたりと、一生懸命脅はk……お願いしているというのに)

 そして登校。いつも通りあくび混じりに超から肉まんを五つほど買って、

 

 そして気づいた。

 

「……今日だったか」

 

 ん? と俺の呟きに反応したのは隣でPSPをカチャカチャやってたエヴァ。それに促すように黒板を示せば、そこにはデカデカと新任の先生が来る云々と書かれていた。

 つまりは今日が『原作』開始日。ネギが来日するその日ということか。

 

「なんだ? 知らなかったのか?」

 

「いや、忘れてた」

 

 そういえば高畑が話していたのは先週だったか。

 最近さよちゃんと普通に接することが出来るようにと、そればかり考えていたからな。おかげで今はなんとか顔を引き攣らせずに話すことが出来ている……と思う。

 

「本当に興味が無いんだな」

 

「別にそんなことはないと思うけどなぁ」

 

 眼中にないとか嫌いとか、そういうネガティブな感情はない。なんせ漫画の主人公だ。それなりに興味だってある。

 だが、やはり第三者には俺のネギに対する興味というものは薄く映ってしまうのだろう。

 サウザンドマスターの息子。次代の英雄候補。それに加えて俺の場合は自分の兄でもあるわけで。

 他人にしてみれば何故もっと注目しないのか、といったところだろうか。ムービースターが目の前を歩いているのに欠片も騒がない人間を不思議に思うのと似ているのかもしれない。

 

(もっとも他人から変だと思われるくらいで自分を変えるつもりもないんだけどな)

 

 俺は出した結論を咀嚼していた肉まんとともに腹に落とす。あっさりとネギ以外のことに意識を切り替えられる辺り、やはり興味が薄いのかも知れないなと思いながら。

 

 

 

「で、エヴァは何やってんの?」

 

「……貴様には関係ないだろ」

 

「んなこと言うなって。モンハンなら一緒にやろうぜ? 俺ハンマーだからさ、尻尾切ってくれよ」

 

 千雨は弓だしな。フィオも誘ったんだけど結局笛使いになっちまったし。

 しかしエヴァは俺から見えないようPSPを傾け、

 

「モンハンではない。それと私はヘヴィメインだから尻尾は無理だ。一人でブーメランでも投げてろ」

 

 などと言ってくる始末。

 

「つれないなぁ。ってかブーメラン投げるくらいなら大剣に持ちかえるっつうの」

 

 仕方がないから放っておくかと、左隣のフィオへと向き直ろうとすれば、それまで黙っていた茶々丸が、

 

「アイカさん」

 

「ん?」

 

「マスターのやっているのは麻雀のゲームです」

 

「なっ!?」

 

 と驚きの声を上げたのは当のエヴァ。俺はと言えば頬がにやけるのを感じていた。

 

「どうやら先日アイカさんがいらして下さったのがよっぽど嬉しかったようで」

 

「ほぅ。そうかそうか。そんなに楽しかったか」

 

「そそそんなわけあるか! コレはたまたまだ! というかこのポンコツめ! 勝手なことを――」

 

「そんな照れんなよ。次の機会があればいいなぁとか思ってたんだろ? いいじゃねぇか。またやろうぜ」

 

 うんうんと頷きながら俺は真っ赤になったエヴァの頭を撫でる。

 次はフィオに千雨、クラスメートなんかも呼んでパーッとやろうなぁなんて言いながら。

 

 

 

 ――一時間目――

 

 神楽坂明日菜は憤慨していた。

 きっかけは登校時に無遠慮な一言をかけてきた少年、ネギ・スプリングフィールド。

 初対面だというのに失恋の相が出ていると言い放ってくれたのだ。

 その上ネギが担任になることで高畑が2-Aの担任から外れるとか。ネギに怒りを向けることは八つ当たりなのだろうが、しかしそれでもネギがやってきたせいで高畑との距離が開いてしまったように思えてしまう。

 加えて言えばネギを締め上げていた時に吹いた突風で制服が飛び、高畑に毛糸のクマパンを見られる始末。

 さらにさらに、ネギの住居が決まっていないとかで同室に泊めるようにとまで。

 これだけ畳み掛けられて、果たして不機嫌にならない人間がいるだろうか。

 結果、怒りの矛先は全て纏めてネギへと向かっていた。

 それはもう、親友の近衛木乃香も隣に座る柿崎美砂も話しかけるのをためらうほどに、怒りを表情に出していた。

 

 しかし無謀というべきか恐れ知らずというべきか、そんな明日菜に話しかけてくる者が一人いた。

 麻帆良のパパラッチこと朝倉和美である。

 

「やあやあ明日菜。聞いたよー? 新任の先生と早速会ったんだって? ちょっと話聞かせてよ」

 

「……わざわざ私に聞かなくてもすぐに来るわよ」

 

「それはそうなんだけどさぁ。本人に取材する前に周りの意見も聞いておきたいじゃん? 報道記者を目指すなら現場取材だけじゃなく下調べもしないとね」

 

「アンタが目指してるのはパパラッチだと思ってたわ」

 

 もしくはゴシップ記者かだ。少なくともまっとうな報道記者なら『バレンタインデー特別企画・男性教師チョコ獲得数レース』なんて記事は作らないだろう。

 しかし明日菜の棘のある言葉もものともせずに朝倉は続ける。

 

「で? どんな感じの先生だった? やっぱり美形? アイカちゃんのお兄さんだし」

 

 

 アイカの兄。その言葉に明日菜は一瞬どきりとした。

 2-Aの面々は既に新任の教師がアイカの兄であることを知っていた。それはアイカの転入歓迎会の時に高畑から聞かされていたことでもある。

 イギリスの大学を飛び級で卒業した天才。彼が教師を志し、麻帆良へとやって来る。それに伴い唯一の肉親であるアイカも麻帆良に転入することになった。と、そういう風に聞かされていたのだ。

 その話が高畑から出た時は、雪広あやかや那波千鶴を始め何人かの生徒が涙ぐむほどだった。親を失いそれでも人を導く教師という職業を目指す兄と、不遇(?)な過去もかけらも感じさせずに健気(?)に笑う妹。きっとそういうシチュエーションを想像したのだろう。

 だが、

 

「朝倉の想像とはかなり違うと思うわよ。私もアイツがアイカちゃんの兄だとは思わなかったし」

 

「へ? 金髪碧眼の超美形じゃないの? 将来性確実な長身イケメンは?」

 

「ぷっ。なによそれ?」

 

 気づけば苛立ちはどこへやら。明日菜は朝倉の言葉に吹き出ししていた。

 

「だってアイカちゃん、九歳であの背よ? しかも美少女。双子だっていうならお兄さんの方は中性的でスラッとして」

 

「なにそれ? 朝倉って王子様に憧れてるとかそういうタイプだったっけ?」

 

 確かにアイカの背は高い。五歳という歳の差(実際は二歳差なのだがフィオと千雨以外は知らないことである)があるためさすがに明日菜ほどではないが、それでも木乃香と同じくらいの背丈はあるのだ。しかも手足がスラリと長いため見た目よりも高身長に見える。きっと将来は長身モデルのようになるのではないかと話が出るほど。そのアイカの双子の兄というならばきっととんでもない美形なのだろうと、オジコンと揶揄される明日菜でさえ想像していたほどなのだから、まぁ朝倉の勘違いも理解はできるが。

 

「ハッキリ言って全然似てなかったわよ? 髪も赤かったし、背も低かったわ。私も木乃香も中等部に紛れ込んだ小学生だと思ったくらいだし」

 

「えー。マジで?」

 

「マジ。ついでに言えばガキって感じね。デリカシーっていう言葉すら知らないんじゃないの」

 

「うわー。新人美形教師現るって見出しで下書きまでしたってのに」

 

「ちょっとちょっと。報道はどこ行っちゃったのよ? 妄想で記事作っちゃってるじゃない」

 

 そう言うと朝倉はエグエグと泣き真似を始めてしまう。明日菜の機嫌が治ったからだろう自分の席まで戻ってきた柿崎に慰めてーなんて言いながら。

 

 

 

(でも、そうか)

 

 頭に上った血が下りたからだろうか、明日菜は今朝見たネギについて冷静に考えられるようになっていた。

 そして冷静になってまず最初に思い浮かんだこと。それは、

 

(アイツが、アイカちゃんの兄)

 

 ちらりと、明日菜には似合わない態度であったが、気づかれないようにアイカの方へと視線を向ける。

 視界に飛び込んできたのは両手に持った肉まんを頬張りながら笑うアイカ。クラスから半ば孤立していたエヴァと話すアイカ。グリグリと真っ赤になったエヴァの頭を撫でるアイカだった。

 

 それは一月前から明日菜の身にたびたび起こっていた現象だった。

 アイカの顔を見ていると何故か泣きたくなる。

 アイカの笑う声を聴くと何かがこみ上げてくる。

 アイカの堂々とした言動を聞くと何故か胸が締め付けられる。

 アイカの不敵な笑顔を見ると何か温かいものが自分の中心で広がるを感じる。

 

(なんなんだろうな。コレ)

 

 懐かしい感覚のようにも思える。

 以前、高畑と同居していた際に彼が煙草を吸ってくれると自然と頬が緩んだものだ。それと似たような感覚が、何倍にもなって心の奥から湧いてくるような……

 

(どうしちゃったんだろ。ホント)

 

 アイカがクラスに編入してから早一月。だというのに明日菜はアイカに話しかけられないでいた。

 挨拶をされれば返すことは出来る。話しかけられれば答えることも出来る。

 でもそれだけ。それだけなのだ。

 木乃香に何の遠慮もなく愚痴をこぼすようにアイカと話すことは出来ない。柿崎とテレビドラマの話をするようにアイカと雑談をすることも出来ない。

 何も考えられなくなって抱きついてしまいそうな気がするから。訳も分からず泣き出してしまいそうな予感がするから。

 だから何故か、明日菜はアイカを避けてしまっていた。

 

(ダメよね。こんなの。アイカちゃんはクラスメートで、これから一年以上も一緒だっていうのに)

 

 今日は思い切って話しかけてみようか。そう明日菜は考えていた。

 きっとネギがやってきたことで歓迎会でも開かれるのだろう。2-Aはそういうクラスだ。だからその時にでも頑張ってみよう。

 

(うん。そうしよう。こんなの全然私らしくないしね)

 

 

 

 と、人知れず明日菜が決意を決めたその時だ。

 

 ガラリと教室の扉が開かれる音がして、

 

 ふわりと、扉に仕掛けられていた黒板消しが落ち、

 

 ネギの頭上で、ほんの一瞬停止した。

 




暑くて寝れねぇ! そんなわけで徹夜で書き上げこんな時間に投稿です


わざわざ出すほどのものでもないのかもしれませんが一応席順は下図のようになってます

夕映 千雨  明石  茶々丸 |廊
   フィオ アイカ エヴァ |下


以下おまけ
なんとなく考えたモンハン設定
アイカ:ハンマーは漢の浪漫。溜め3ヒャッハー
フィオ:淡々と笛サポート。装備はアイカのリクでウルク
千雨 :モンハンも出来るネットアイドル。終焉TAとか動画であげちゃう人。メインは弓
ヘルマン:ガンスは紳士の浪漫。竜撃砲ヒャッハー

エヴァ:大火力は悪の浪漫。ヘヴィボウガンヒャッハー
チャチャゼロ:変形は人形の浪漫。スラアクヒャッハー
茶々丸:……マスター、拡散弾痛いです。姉さん、打ち上げないで。にゃんにゃんぼう萌え

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