漢を目指して   作:2Pカラー

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39.一時間目 ~その3~

 ――放課後――

 

 ネギが赴任してきての初日の授業は、まぁ色々と騒がしかったが一応は大きな問題もなく終わって放課後となった。

 おそらく『原作』との差異は少なかったはずだ。ネギがトラップに魔法障壁で反応してしまったり、明日菜に怪しまれて消しゴムを投げられまくっていたりといったシーンはなんとなくデジャブを感じたし。さすがに『原作』を読んだのが十年以上も前ということもあって、かなーりうろ覚えなんだけれども。

 で、そんなこんなで授業が終わり、俺が今何をしているのかというと、だ。

 

「アイカさんアイカさん、ネギ先生はどんなお菓子がお好きなんでしょうか? 超さん達が点心を用意してくださいましたが、ですがやはり洋菓子も用意しておくべきだったかとも思うのですが。というか今からでもするべきですよね! ええ、今すぐにでもするべきでしょうとも!! 今すぐ雪広財閥の力で最高のパティシエを――」

 

「いや、ちょっと落ち着けよ、いいんちょ」

 

 現在ネギの歓迎パーティーのための準備中。机を並べたりクラスの面々が思い思いの菓子を買い込んできたり超包子組が料理を運び込んだり。

 俺とフィオが転入してきた時もそうだけど、相変わらずというかバイタリティーがとんでもないな、このクラスは。楽しいからいいけど。そんなことを考えていた時だ。ショタ長もといクラス委員長の雪広あやかが暴走し出したのは。

 ……うん。ちょっとひいた。

 

「菓子もジュースもこんだけあるんだから別にいいだろ。そもそもネギの好みとか言われてもよくわかんねぇぞ、俺」

 

「え? そうなの? お兄さんのことなのに?」

 

 そう横から疑問の声を挟んだのは千鶴さん。見た目はアイカちゃんがお姉さんだけどねーと後の小太郎嫁・村上さんちの夏美ちゃんが苦笑しているが、

 

「あー……。ほら、アイツってオックスフォード? に飛び級してるからさ。ここ数年会ってなくて」

 

「そういえば高畑先生がそう仰ってましたね。ならしょうがない、のかしら?」

 

「しょうがないんじゃね? ま、そういうことで納得しといてよ」

 

 うんうんと頷いてそう言う。

 まぁ実際はネギのオックスフォード大学(だったよな?)飛び級卒業ってのは出鱈目だし、俺がネギのことを知らないのもネギではなく俺が家を出ていたせいなんだけども。

 

「まぁイギリス人のご多分に漏れずネギも紅茶党だったはず。クッキーとかスコーンとか持っていけば喜ぶんじゃね?」

 

「なるほど! それはいいことを聞きましたわ! パティシエだけでなく今すぐダージリンやアッサムの農園を買い取って――うっ!」

 

 見れば気絶したいいんちょとそれを抱きかかえる千鶴さんの姿。ヒートアップするいいんちょに当身でも食らわせたのか?

 そのまま何処かへと引っ張って行ってしまった。

 

「手馴れてんなぁ。いいんちょって雪広流とかなんとかいう武道やってなかったっけ? それを一瞬でとは」

 

「あはは。まぁちづ姉だから」

 

「あー。まぁ千鶴さんだしなぁ」

 

 取り残された夏美と一緒に苦笑する。

 千鶴さんだから。その一言で納得出来てしまうのは、まぁ仕方がないのだろう。

 何故かさん付けしないといけない威厳みたいなのがあるもんな。ぶっちゃけ中学生にはとても見えげふんげふん。

 やべえやべえ。こんなこと考えてたなんて知られたらどんな目に合うか。一瞬悪寒が走ったぞ。

 

 

 

 ――主人公とメインヒロイン――

 

 階段から落ちた宮崎のどかを杖を振って助ける。その決定的瞬間を目撃した神楽坂明日菜は、自分に見られたからだろう顔色を悪くしたネギを抱えるとダッシュで人気のない場所まで連れ去った(拉致った)

 抱えられているネギはほとんどパニック状態だったが、実は明日菜の方も似たようなものだった。自分自身それほど良くはないと思っていた頭が猛スピードで回転し、数々のピースを拾い上げていく。

 朝の登校時に出会った直後、吹いた突風で自分が下着姿にまで剥かれた時、確かネギはくしゃみをしていなかっただろうか?

 HR時、頭上に降ってきた黒板消しトラップがネギの頭上で一瞬止まったのはやはり見間違いではなかったのではないか?

 結果、胸倉を掴みあげたネギに向けた言葉は確信に満ちていた。

 

「やっぱりあんた、超能力者だったのねーーー!!」

 

「い、いや、違、ボ、ボクは魔法使いで――」

 

 ……まぁ微妙に外れていたが。

 

「ど、どっちだって同じよ!!」

 

 あううーと涙目になるネギに言い放つ。

 そしてそうと分かってしまえば朝の怒りの感情が蘇ってきた。そう、失恋の相が出ているだの毛糸のクマパンを密かに思いを寄せる高畑に見られただのその高畑が担任から外れるだの。

 だから、

 

「あ、あの、ほかの人には内緒にしておいてください。バレると僕、大変なことに」

 

 そんなネギの言葉など条件反射的に断って当然のはずだった。

 

「そんなん私の知ったこっちゃ――」

 

 ないわよ。そう続けるはずだった。

 しかしふと思い出したのは目の前で涙目になっている少年の妹。大胆不敵、傍若無人が服を着て歩いているかのような、しかし何故か憎めない少女の姿。

 自分が何故か距離を置いてしまっているアイカのことだった。

 

「ちょっと待って。アンタが魔法使いってことはさ、アイカちゃんもそうなの?」

 

「え? アイカですか? ええっと……」

 

「どうなのよ!?」

 

「そ、そうです! アイカも魔法使いです!」

 

 一瞬ネギは不自然に言い淀むも、明日菜が一喝すればそれを認めた。

 

「じゃ、じゃあさ、もしアンタが魔法使いだってことがバレたらアイカちゃんも――」

 

 しかしそこから先は言葉にならなかった。

 明日菜が何かを言うより先に、ガサリと周囲の茂みが揺れて、

 

「おーい、そこで何やってるんだ?」

 

 高畑が顔を見せたが故に。

 明日菜が本来ならば高畑にノーパン姿、さらにはパ○パン姿を見せる羽目になる運命が、かろうじて回避された瞬間だった。

 もっともアイカ以外にそのことを知るすべなどなく、当然明日菜も胸を撫で下ろすことなどなかったが。

 

 

 

 

 

「で? なんでアンタは魔法使いのくせしてイギリスから日本まで来て、しかも先生なんてやることになってるわけ?」

 

 なにやら言い争っているような声が聞こえたから様子を見に来たんだけど、なにをしていたんだい。そう尋ねた高畑を微妙にごまかし、しばらく歩いたところで明日菜はネギへと尋ねた。

 ネギは少し言いづらそうにしていたが、魔法使いであるということを黙っていてもらうには正直に自分の事情を話すべきだとも考えた。

 

「えっと、修行のためです。立派な魔法使い(マギステル・マギ)になるための」

 

「マギス……何?」

 

「マギステル・マギです。ええっと、世のため人のために陰ながらその力を使う魔法使いで、魔法使いたちにとって最も尊敬される立派な仕事の一つなんです」

 

 世のため人のために魔法を使うと言われても、明日菜にはいまいちピンとこなかった。そもそも魔法使い言われても杖の先から火の玉を飛ばすようなお爺さんをイメージしてしまう。そんな攻撃的な力でどうやって人助けをするのだろうか。街から一歩出ればモンスターとエンカウントするというわけでもあるまいし。

 

「それで魔法使いが教師なんかやるわけ? 悪者を退治したりするんじゃなくて?」

 

「悪者って、まぁそういう犯罪者を相手する人たちもいるみたいですけど、僕はまだ仮免期間のようなものでして」

 

「仮免ねえ。もしその間に魔法使いだってことがばれちゃったら?」

 

「か、仮免没収で連れ戻されちゃいます。ひどい時はオコジョにされちゃったり……」

 

 だから秘密にしておいてほしいんですけど。そうネギは続けた。

 

 明日菜としては別に秘密にしておくぐらい構わなかった。さすがに年下の子供に目の前でここまでヘコまれると少しくらいの情は湧いてくるし、赴任後一日で仕事を辞めさせられて帰国ともなればあやか辺りが黙っていないだろう。ショタコン熱をフィーバーさせていたし。

 というかそもそも魔法使いがいるなんて言ったりしたら痛い子扱いされるんじゃなかろうか?

 

「ま、いいわよ。秘密にしておくくらい」

 

「ホントですか!? ありがとうござ――」

 

「ただし! 次に朝の時みたいに服を脱がせたりしたら、……分かっているわね?」

 

「は、はいぃ! 肝に銘じておきます」

 

 しかしまぁ、釘を刺すことは忘れなかったが。

 

 

 

 そういえば、と明日菜はネギと共に教室へと戻る道すがら、気になっていたことを尋ねた。

 

「アンタがマギスなんちゃらの修行のために先生やるってことは、アイカちゃんの修行って生徒をやることなわけ?」

 

「え? なんでアイカが修行するんですか?」

 

「『えっ』て……、だってアイカちゃんも魔法使いなんでしょ? ならアンタと同じように一人前になるための仮免中なんじゃないの?」

 

「いえ、修行は魔法学校の卒業生に与えられるものなので、アイカは関係ないですよ?」

 

「んん?」

 

 ネギの言葉に明日菜は少し混乱する。とてもそうは見えないがネギとアイカは双子だったはずだし(もちろんアイカが年上に見えるという意味で)、ネギが魔法学校とやらを卒業したというのならアイカも同様なのではないのか?

 それとも現実の学校と同じように魔法使いの学校でも飛び級制度があって、ネギの年齢で卒業するということは普通ではないのだろうか。

 

「アイカちゃんはまだ卒業してないってこと? 麻帆良には留学みたいな形で来てるとか?」

 

 しかしネギの回答は明日菜の考えを上回るもの。

 

「そもそもアイカは魔法学校に入学してないですから」

 

「はあ? でも魔法使いなんでしょ? アンタが特別早く入学したとか、それとも女の子は入学できないとか?」

 

「確かに僕は普通より少し早く入学しましたけど、それでも半年ほどですよ。それと女の子でも普通に入れます」

 

「ならなんでよ?」

 

「アイカは魔法学校に入るより前に家出したんですよ。見つかって連れ戻されたのも最近です」

 

「い、家出……」

 

 なんと言っていいか分からなかった。

 

 だが、不思議とアイカならばと納得できてしまった。たしかにあのアイカなら家出の一回や二回やらかしそうではあるし、周りに自分を知るものが誰もいなくともなんだかんだで生きていけてしまいそうだ、と。

 しかし不思議と納得できてしまうことそのこと自体に、明日菜は不自然さを感じた。

 

(あれ? 私ってアイカちゃんのこと、そこまで良くは知らないはずなのに)

 

 実際明日菜がアイカについて知っていることはそれほど多くはない。これまで微妙に避けてしまっていたのだ。アイカとよく話しているフィオや千雨、エヴァはもとより他のクラスメートと比べても、明日菜の持つアイカの情報は少ないだろう。

 なのに想像できてしまう。アイカが周囲を振り切って家出する姿も、不敵な笑みを浮かべながら大自然の中をその身一つで駆け抜ける姿も。

 

 そしてそんな明日菜の想像の中では、刀を持った青年や白髪の少年、筋骨隆々の大男がアイカと共に走っていた。

 まるで白昼夢のように勝手に広がるこのイメージは一体なんなのか。そのことを明日菜が疑問に思うよりも早く、だんだんとアイカの影に赤髪の青年が重なっていき――

 

「――菜さん? 明日菜さん!」

 

「え? な、なによ? いきなり大声なんか出して」

 

「い、いえ。なんだか僕の声が聞こえてなかったようだったので」

 

「別に、ちょっと考え事してただけよ。それともう少しいろいろ聞きたいから待ってなさい。荷物取って来るから」

 

(さっき私、なにか大事なこと思い出してたような)

 

 もう思い出せない。しかしそれが大切な何かだったということはなんとなく分かった。

 なんだったんだろう、そう思いながら明日菜は教室へのドアを開き、

 

「「「「「ようこそ!! ネギ先生ーーー!!!」」」」」

 

 ネギの歓迎会を用意していたクラスメートたちの歓声に飲み込まれた。

 

 

 

 失った記憶へのかすかな手がかりは、今はもう、なくなっていた。

 

 




 ご無沙汰しております。2Pカラーです
 いや、ホントにご無沙汰というか、私のことを覚えている人がまだ居るのかというレベルで久しぶりなんですが
 長らく放置して、なんか色々ともうスミマセンでした
 これからまたちょこちょこ書いていけたらなぁと思っております

 にしても、一人称ってこんなに書きにくかったかなぁ?
 しばらくリハビリですな。今まで以上の駄文になるやもしれませぬが、どうかご勘弁のほどを



 さて後書きですが
 今回ちょっとばかし明日菜の頭をよくさせてでも残した伏線、回避したフラグがいくつかあります
 まぁメインは原作第二話・惚れ薬イベントフラグの叩き潰しなんですけどね
 あのイベントは……ちょっと扱いに困りまして
 ネギ×のどフラグの一因ということもありますが、それ以上にアイカの絡ませ方ですね
案1)完全スルー
 まぁあのイベントに絡んでくる生徒って、実は明日菜と薬の被害者である木乃香・あやか・椎名・柿崎・釘宮・のどかの計七人だったわけで、アイカが生徒だからと言っても絡まなくても問題ないんですが、それだと原作をなぞるだけで面白くない
案2)普通にレジスト
 明日菜がレジスト出来ていますしアイカも出来て当然なんですが、それだとアイカのポジションが傍観者A辺りになってしまいそう。案1同様盛り上がりに欠けるか
案3)むしろアイカがネギから薬をパクる
 これで女の子にモテモテだぜと勝ち誇るも、しかし惚れ薬は異性を惚れさせるもの。次から次へと現れる男たちを片っ端からぶっ飛ばす展開に。男に言い寄られるシーンとか、書く気がしないっす。高畑や近右衛門辺りが出てくれば派手なバトル展開にも出来るんだが
案4)アイカ、レジストに失敗。ネギに惚れる
 原作知識から惚れ薬のせいだと理解していても、しかしネギにときめいてしまうアイカ。この感情を何とかしたいと思った彼女は一つの結論へとたどり着く。そう、『ときめく相手がこの世から消え失せればいいんじゃね?』、と。結果、暴走するアイカとヤンデレモードのフィオ、闘争にテンション跳ね上げたヘルマンの三人がネギ抹殺に乗り出し、それを止めようとする麻帆良との全面戦争に。戦闘の余波で家が吹き飛ばされたエヴァがブチ切れるわ、この混乱を好機と乗り込んできた関西が木乃香を浚って鬼神復活させて麻帆良に乗り込ませるわ。結果、麻帆良は地図から消えます。多分このルートは超の漁夫の利エンド。一番楽しく書けそうだけど……
 いろいろ考えた結果、イベントそのものをぶっ潰すことにしました
 書きたい気もするんですがね。特に案4


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