漢を目指して   作:2Pカラー

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06.やまのぼり

 ――エオスより北東に約二百二十キロ――

 

 今日も今日とて『流』を用いた高速歩法で駆け抜ける。

 エオスから出ると、今度は大きな山脈にぶち当たることになった。

 無一文も脱出したことだし、今は年齢詐称薬もある。舟――飛行船というらしい。とても飛行船には見えないが――を利用することも考えたが、手持ちが有り余っているというわけでもない。なにより修行が楽しくなってきたということで却下。今も俺は道なき道を突っ走っている。

 エオスでは良心的なオヤジに森で採った採取物を買い取ってもらえた。おかげで念願だった年齢詐称薬を手に入れることに。年齢さえ誤魔化してしまえば、出来ることが増えるというもの。原作の魔法世界編では中三の明石裕奈と佐々木まき絵は普通にバイトをしていたし、幼すぎるということさえなければ働き口だって探せそうだ。

 もっともあまり無駄遣いするつもりもないが。

 オヤジから買った詐称薬はそれほど多くはない。それ以外にも買いたいものがあったからだ。

 まずは水筒。渇きを覚えながら水場を探すのはツライものだからな。次いで食糧。まぁ食糧の方は自然から採る予定だったから非常食になるような干し肉くらいだが。

 そしてもっとも金のかかったもの。それが『魔導書』である。

 別に貴重な書物が欲しかったわけじゃない。欲しかったのは子供向け入門書。

 魔法面に関しては俺は未だ素人もいいところ。『火よ灯れ』すら使えないのだ。

 ……キノコを生で食べていたのも、火が使えないからという理由だったり。

 とにもかくにもこれではまずいと思い立ち、分かりやすそうな魔導書を数点購入。

 おかげでほとんどすっからかんである。まぁいざとなれば植物なんかの採取&売却を繰り返すことでの錬金術にでも手を出そう。分かりにくい場所に自生している植物も『凝』でオーラさえ見ることが出来るのなら簡単に集められるのだし。

 

 

 さて、そんなことを振り返っている間にも山頂へと着きそうだ。

 山脈の頂。それは一つの境界なのだろう。

 険しく雄大な山脈によって分かたれた大地。山頂からならば見ることのできる向こう側の景色は、まさしく『新たな世界』という言葉を想起させるものである。

 山頂に着いたら一度休憩しよう。山に入る前に採取した木の実もある。水筒にもたっぷり……

 

「ってうぉわ!?」

 

 肩から下げたエオスで買ったばかりの水筒に視線を向けて驚いた。

 思わず俺は足を止め、

 

「なんで水漏れしてんだよ? 買ったばっかなのに」

 

 不良品でも掴まされたか? そんな疑念が湧いてくるが。

 しかし、どうにもおかしい。

 普通水漏れというのは、水筒の底だとか、側面だとか、そういう場所から発生するものではなかろうか?

 現在のそれは違う。水筒の上部。蓋の隙間から中身が漏れているようなのだ。まるで開けたばかりのラムネが噴き出しているかのように。

 

「えぇー? 炭酸なんか入れてねぇぞ」

 

 そうつぶやきながらも蓋を開けて水筒を覗いてみれば、それは買ったばかりの新品同様の姿。

 中身が噴き出す要因なんて……。

 

「まさか」

 

 唯一の心当たりに気づき、おそるおそる水筒を手にしたまま『練』を行う。

 水見式。グラスに注いだ水に葉を浮かべ、手をかざし『練』を行うことで能力者の系統を判別する方法ではあるが、なにも儀式的な格式ばった形を取らなくてはならないというわけではない。

 H×H原作において、パームはコーヒーの注がれたカップに『練』を行うことで、中身のコーヒーを増幅させていた。

 すなわち『液体』に『練』を近づけることで『発』に足るということであり、

 

「……うわぁお」

 

 俺の『練』に反応して、水筒内の水もブクブクと増えていた。

 

 水が増えるのはゴンと同じ強化系。

 はぁ。

 こんなことで偶発的に知りたくなんてなかったぜ。

 まぁなんだ。変化系で水筒の水を変な味にされたり、具現化系で水筒内が不純物だらけになる可能性もあったと考えれば、強化系ってのは救いだったわけだが。

 にしても、強化系か。

 

「なんというか。面白みがないわなぁ」

 

 クラピカ曰く、一人で戦い抜ける力を得るために最も理想的なのは強化系である。

 確かに攻め・守り・癒しを補強出来るというのは大きな強みだろう。

 しかし、同時にウイングがこうも語っている。

 即ち、『纏』と『練』を極めて行けば、それだけで十分だ、と。

 

「どうせなら自分だけの必殺技が欲しいんだが」

 

『纏』と『練』だけ極めてソレを必殺技と呼ぶのは物足りない。ウボォーみたいにオーラを込めただけのパンチに名前を付けるというのも……。

 まぁ今は必殺技は置いておこう。水筒を傾けくぴくぴ喉を潤わせながら考える。こういうのはインスピレーションが大事なのだろうし、うんうん唸って考え出す必要はない。

 今は『念』の修行は高速歩法のみとしておこう。『流』と『堅』を鍛えられるのだし、詰め込みすぎるのもよくない。

 

 

 今はむしろ魔法に関して学んでおくべきだろう。

 魔法世界じゃ魔法が使えないってのは下に見られる原因になりそうであるし。

 アリアドネーに着いたときに魔法の射手(サギタ・マギカ)一つ使えないとなると、学ぶことすら許されないなんてことになりかねない。

 さて、そんじゃ山頂まであと少し。そこまで着いたらお勉強タイムとしましょうかね。

 

 

 

 

 

 ――ウェールズ 山間の隠れ里――

 

 ナギ・スプリングフィールドが生まれ育ち、そのナギを慕った者たちが集まり、そして今、ナギの息子であるネギ・スプリングフィールドの生活する村。そこは今、従来の陽気な雰囲気とは隔絶した空気に満ちていた。

 原因は一人の少女。名をアイカ・スプリングフィールド。ナギ・スプリングフィールドの娘にあたる少女が村から姿を消したことにあった。

 言うまでもなく村人たちはパニックに陥った。『英雄の娘』が消息不明に陥ったのだから当然である。

 そして、アイカ・スプリングフィールドの消失は、彼らにも変化をもたらす。

 残された英雄の子、ネギ・スプリングフィールドへの接し方に関してである。

 

「バウワウ! ガウワウ!」

 

 鎖に繋がれた犬が吠える。吠えている相手は幼きネギ。

 ネギは自分の身長ほどもある大きな犬の鎖に杖を向けていた。ネギは何も繋がれた犬がかわいそうだとか、自由に走り回らせてやろうだとか、そういう行き過ぎた動物愛護精神に目覚めたわけではない。

 ネギにあるのはただ一つの思い。『ピンチになれば、(ヒーロー)が助けに来てくれる』という、その思いだけである。

 双子の妹であるアイカが姿を消したことで、ネギの父親を求める思いは強くなっていた。

 自分に優しくしてくれるネカネはアイカが家出をしたと聞いた瞬間卒倒し、それ以降もアイカへの心配からかネギを構うことが少なくなった。

 村の大人たちも目の前で元気な姿を見せるネギよりも、行方すらわからないアイカの心配をするばかり。

 両親がいないという現実を、父親は英雄だから、傍には優しい姉代わりの人がいるから、そして、村の大人たちがやさしくしてくれるからという言葉で無意識のうちに自分を慰めていた聡明な少年は、突然訪れた孤独感から逃げようと、父の幻影に縋り付こうとしていた。

 しかし、ネギの幼い希望も叶えられることはなかった。

 それはピンチになっても父は現れなかったという現実に直面した、というわけではなく、

 

「こらっ。鎖を切ろうとしちゃダメだろう?」

 

 ネギは村の青年にそう言われると、背後から杖を抑えられてしまう。

 そう。ピンチ自体に陥ることが出来ないのだ。

 

 

 アイカがいなくなったことで、村人たちは考えを改めた。

 ナギ・スプリングフィールドの子供には、ナギのような奔放さを身に着けてもらいたいとは思う。

 しかし同時に、彼の『サウザンドマスター』の子供を危険にさらすわけにはいかないとも考える。間違っても失うわけにはいかないのだから、と。

 ゆえに彼らは監視することにした。残された『英雄の子』を。

 子供が一人で住むには寂しすぎるスプリングフィールドの家には、入れ替わりで村人たちが訪れ、ネギの世話をするようになる。もう『英雄の子』が家出などしないようにと。無茶な行いなどさせないようにと。

 しかしそれでもネギの孤独感は薄れることなどなかった。

 ネギは、聡明な少年は、その聡明さゆえ感じ取ってしまう。彼らが『ネギ』を心配しているのではないということを。

 彼らはただ、『英雄の子』を失うことを恐れているだけなのだということを。

 

 

 ネギ・スプリングフィールドは感情に囚われる。

 その幼さゆえに、その感情を何と呼ぶかこそ知らないままに。

 今の寂しさが妹が突然姿を消したからこそ自分に降りかかってしまったのだと理解し。

 それゆえ妹への感情に囚われる。冷たく、暗い感情に。

 

 

 

 




はわわ。ネギせんせーがダークサイドにのまれそうデス
・・・ま、もともとネギ坊主はダークサイドの住人だし別にいいネ
という感じの第六話 アイカという異分子がいることで早くも色々捩れたり

主人公はギャグ。世界はシリアス。ベースはネギま(ラブコメ)
一体ストーリーはどうなることやら

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