ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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この作品を通して、モンハンを好きになってくれた方がひとりでもいれば私は幸せです





後日談~その3~

 

 

 別にこれで何かが終わるわけじゃない。けれども、ひと区切りつけるのには丁度良いんじゃないのかな。

 

 幾度と世界を越えようと続いてきたこの物語。

 そんなものにひと区切りをつけようと思う。

 

 本当に色々なことがありました。今では遠い昔のことように感じてしまうほどになってしまったけれど、今でもそれらの記憶ってものはしっかりと残ってくれている。

 初めてこの世界へ来たとき、何が何だか全く分からず、随分と情けない状態だった。だって、ほぼ何もできないままドスジャギィに乙らされるくらいだったんだ。そんなこと、今じゃ考えられない。

 でも、あの時あのドスジャギィにやられたからこそ、今があるのかなって思ってしまう。やられたことが悔しくて、どうにかしたくて……

 そんな俺が選んだ道は絶対に遠回りだった。それでも、あの頃の俺がただひたすらに闘技大会へ出場し続けたおかげで、大切な仲間たちと出会えることができたんだ。ホント、懐かしいものです。

 

 そんなハンターが今じゃ周りから一流のハンターだとか言われるくらいなのだから、人生ってものは分からないものだ。

 きっと、俺ひとりじゃ此処まで来ることができなかった。いつだってそうなんです。俺が今、こうやって立っていられるのは周りにいた人達のおかげ。恵まれていますねぇ。

 

 

「おーい、そろそろ出発するって!」

 

 物思いにふけていると、今日も今日とて元気な相棒の声が聞こえた。

 

「あいよ、直ぐ行く」

 

 アイテムの準備もばっちり。背中に担ぐはもちろんハンマー。そんじゃま、気張ってきましょう。

 

 クエストへの出発口へ向かう途中、酒場のマスターやミルシィ、そして幾人かのハンターから激励の言葉をもらった。

 最初は俺たち以外のハンターなんていなかったというのに、此処も随分とまぁ賑やかな場所になったものだ。ただ、この世界はきっとそれくらいが丁度良いんだろう。

 

 初めてこの世界へ来たときはHRの飛び級なんかもしたっけかな。2度目となるこの世界は毎日毎日が滅茶苦茶忙しかったし、3度目の世界も身体が身体だったせいでどうして良いのかが分からず、ゆっくりしている時間は少なかったと思う。

 その頃と比べ、今回は随分とゆっくりとした時間を歩んできた。先日も弓ちゃんがいるバルバレへ遊びに行ったりしたし、ご主人さんだってちょくちょく龍織船へ来てくれる。このパーティーが別れてクエストへ行かなきゃいけない時もないし、やろうと思えば金冠マラソンをする余裕だってあるだろう。

 つまりは、まぁ……思う存分この世界を楽しめているってことですよ。

 

 そんな俺ではあるけれど、此処まで来てしまいました。

 

「……緊張しているの?」

 

 飛行船へ乗り込んで直ぐ、あの彼女が声をかけてきた。

 

「そりゃあ、まぁね」

 

 それを確かめる方法はない。けれども、今回俺たちが挑む相手は間違いなくゲームのラスボスだろう。

 

 そんな相手は俺たちがラオシャンロンと戦っている時に発見されたらしい。なんでもラオ並の大きさを持つモンスターで、その見た目はまるで砦のようだったとか。

 名前はアトラル・カ。超大型モンスター。まさにラスボス。これから俺たちが戦う相手。

 

 例のごとく、そのアトラル・カってモンスターはかなりの危険性を持つモンスターらしく、ギルド的には一刻も早くどうにかしてもらいたいんだと。俺としてはそんなモンスターと戦えるってことが嬉しいばかりです。

 

 とはいえ、相手がラスボスってなると、やはり考えてしまうことがある。

 

 ――また、俺は消えてしまうんじゃないかって。

 

 考えないようにはしているけれど、それは無理というものだろう。だって、今までずっとそうだったのだから。

 そんな不安だとか、そういうものがあってそれが表情に出てしまっていたのだろう。

 

 迷ってばかり、直ぐに止まってしまうこの性格。こればっかりはなかなか変わってくれないものです。だから、そんな時は――

 

「ま、考えたってしゃーない。とりあえず前へ進んでみるよ」

 

 きっとそれくらいが俺には合っている。

 

「ふふ、ご主人さんの真似?」

「いんや、そう言われたんだ」

「えと……誰から?」

 

 名も知らないお節介なネコから、かな。

 あのネコとどれだけの言葉を交わしたのかも分からないけれど……信じているよ。もう俺たちが消えることはないってさ。

 

 アトラル・カのいるは広大な砂漠にある旧砦跡というマップ。今はただの廃墟でしかないが、どうやら昔はその名の通り砦が築かれていたらしい。戦いやすいエリアだと良いんだがなぁ。

 今回戦うアトラル・カは前情報一切無しの完全な初見。行動パターンなんて知っているわけもないから、事前に打ち合わせをしておくこともできやしない。

 そんなわけで、旧砦跡に向かうまでは結局いつも通り三人で雑談をしているだけとなってしまった。ラスボスが相手ではあるけれど……まぁ、俺たちにはそれくらいが丁度良いのかもね。

 

 

「よ、よーし、頑張りますぞー!」

 

 そして、旧砦跡のベースキャンプへ到着。

 相棒さんの口調がちょっとおかしいけれど、この人、緊張するといつもこうなんです。

 

 ……ふむ。

 

「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」

「え……何言ってんの?」

 

 いや、せっかくラスボスが相手なんだし、それっぽいことを言わなきゃいけないかなって思ってさ。それに一度くらいこのセリフは言ってみたかったんです。

 

 そして、そんな俺に悪乗りをした彼女が続けて言葉を落とした。

 

「……此処は私に任せて先に行って。大丈夫、直ぐに追いつくから」

「皆で戦おうよ!」

 

 うむ、なんだかんだでいつも通りだ。

 緊張したって仕様が無い。目一杯楽しみましょう。せっかくこの世界へ来たんだ。できる限り楽しみたいよね。

 

「なんだかなぁ……こんなんで良いのかなぁ」

「これくらいが丁度良いだろ」

「……私もそう思う」

 

 今回のクエストもこの世界のことだとか、色々なものがかかっている。だから、ゲームをしている時と全く同じよう楽しむことはできないかもしれない。

 ただ、それはそれ。これはこれってことで。

 

「ふふっ、それもそうだね」

 

 ……さて、準備は完了。

 

 後はもう進むだけ。

 

「っしゃ! 行くかッ!」

「おおー!」

「おー」

 

 いつも通りの三人で、いつも通りのかけ声。クエストスタートです。

 

 

 ベースキャンプを抜け、アトラル・カが待っていると思われるエリアへ。

 そして、そのアトラル・カは直ぐに見つけることができた。できたのだけど……

 

「……あれ? なんか小さくないか?」

 

 たぶん、アレがアトラル・カなのだと思う。初めて見るモンスターだし。ただ、そのモンスターは予想よりもずっとずっと小さいんだ。

 

「ん~……アレを倒せば良いのかな?」

 

 相棒さんもちょっとどうして良いのか分からない様子。まぁ、そうなりますよね。俺だって混乱しています。

 

 そのモンスターの見た目だけど、大きさはイャンクックくらいで色は黄色、見た目は……カマキリって感じです。全くもって強そうには見えない。

 ラスボスなのだし古龍種か飛竜種だとばかり思っていたけど……あれ? まさかの甲虫種ですか? なにそれ、聞いてない。

 

「……とりあえず、倒せば良いと思う」

 

 そんな笛の彼女の言葉。マジ容赦ない。

 とはいえ、まぁ、それもそうか。よく分かんないけど、きっとコイツが全部悪いはず。……たぶん。違ったらすまん。

 

 俺たちの存在に気づいたアトラル・カ(仮)は少しだけ近づいて来たと思ったら咆哮をあげた。

 あら珍しい。甲虫種っぽいのに、バインドボイス持ちですか。ただ、その咆哮の怯み時間はかなり短め。

 

 咆哮後、俺はバリスタ。彼女は演奏。相棒がエキス採取。特に決めていたわけではないけれど、このパーティーにおける役割はいつもこんな感じです。ダメージソースはほぼほぼ相棒さん頼み。

 

 そして、尾の先から糸を飛ばしている時に俺の撃ったバリスタ弾が当たると、アトラル・カ(仮)が転倒した。もう何が何だか分からないけれど、たぶんチャンス。

 そんなわけで、転倒中の頭へハンマーでカチ上げを一発。その瞬間、ピキン――と打撃武器特有のエフェクトが弾けた。

 

 つまりそれは――

 

「コイツ、スタン取れるぞ!」

 

 超大型種だろうと思っていたから、スタンは諦めていた。けれども、状況は一変。そうなればもうやることはひとつ。

 何が何でもスタンを取りたくなってしまいます。

 

「よし、相棒。乗れ! 乗るんだ!」

「またそうやって簡単に言う……結構大変なんだよ?」

 

 だって、どうせスタン耐性も高いだろうし、相手の行動パターンも分からない。乗りでもしてもらわないとスタンを取れない。

 初見のラスボスからスタンとか取ったらもう最高だろう。

 

 そんな気持ちはあったのだけど、アトラル・カ(仮)はフラフラ歩きながら俺たちから離れ、また咆哮をあげた。何やってんだろ、コイツ。行動パターンが全く読めない。

 なんてことを思っていた時だった。また尾の先から地面へ向けて糸を発射。

 

 地面が揺れた。

 

 そして、その地面から現れた巨大な瓦礫の山。そこへアトラル・カが飛び込んでいったかと思ったら、瓦礫の山が動き出した。

 

「なにこれ、なにこれなにこれ!」

「い、いや、俺だって分からんって!」

「……でっか」

 

 何が起きているのか本当に分からない。瓦礫の山はまるで生き物のよう。まさに、超大型モンスター。ギルドの人間が見たのはきっとこの姿だったんだろう。

 

 ……いや、こんなのどうやって戦えば良いんだよ。どうすれば良いのか全く分からん。

 

「あっ、足の爪? っぽいところが柔らかそう」

 

 俺と相棒がいきなり現れた超大型モンスターにあわあわしていると、笛の彼女が冷静に言葉を落とした。

 そんな彼女の言葉を聞いてから、足の爪っぽいところを見ると、確かに爪のひとつだけ色が違った。

 ああ、うん。すごく弱点っぽそうだ。なんか、こう……いかにも此処を攻撃してくださいね、って感じです。

 

 そんなわけで相棒と彼女は右脚を俺は左脚の弱点っぽいところを担当。本当は三人一緒の場所を攻撃したかったのだけど、俺の武器、ハンマーですし……

 

 それからはもう、何ていうか、色々とすごかった。

 

 爪を攻撃していると直ぐに相手がダウンすることが判明。さらに、そのダウン中にピッケルによる採取や、脚から背中? の部分へ乗ることできるらしい。

 そんなわけで、とりあえずダウンするまで爪を攻撃し、採取や背中に登って探索を繰り返すことになった。緊張感も何もあったもんじゃない。

 背中へ上り、邪魔な瓦礫などを壊すと大きな繭のようなもの発見。全力でソレを攻撃。そんなことを繰り返しているうちに、アトラル・カはまた元の小さな姿に戻ってしまった。

 ただ、今度のアトラル・カは背中に撃龍槍を装備しており、ソレを使っての攻撃なんかをしてくるように。

 まぁ、それで強くなったかというと……うーん、どうだろう。

 

「よーし、今度はほら……翼! 翼とか付けてよ!」

「……火とか吐けばぐぅれいと」

 

 そして、勝手なことを言うふたり。

 いつもなら相棒がそういうのを止める役割なのに、今回は何かのスイッチが入ってしまったらしい。これ、ラスボスなんだけどなぁ、これで良いのかなぁ……

 

 元の姿に戻ったアトラル・カに暫く攻撃を続けると、また地面へ糸を発射し、あの瓦礫の山を掘り出した。

 

「えー……さっきと一緒じゃん!」

 

 さっきと一緒だった。

 てか、この相棒は何に対して怒っているんだ。

 

 その後は今までの繰り返し。爪を攻撃してダウンを取り、背中に登って繭を攻撃。それを続けていると、今度は口っぽいところへ入れるようになり、その先にはこれまた巨大な繭がある。その繭を攻撃していると、アトラル・カはまた元の小さな姿に。

 

 なんだろう。たぶん、これがラスボスなんだろうけれど、ダラとかゴグマ、オストガロアの時のような雰囲気が全くないせいで、どうにも……いや、ちゃんとダメージは入っているだろうし悪いことではないと思うんだけどさ。

 それに形態がコロコロ変わるおかげで戦っていてなかなかに面白い。そんなアトラル・カが強いかっていうと……まぁ、うん、って感じですが。

 

 4度目の形態変化を行ったアトラル・カは大きな車輪のようなものを装備。

 その車輪を使った広範囲攻撃や、地中から取り出した撃龍槍を使った攻撃はなかなかに大きなダメージだったけれども、パーティーがパーティーだ。こちとら、3度ほど世界を救っているわけですし、それくらいで負けるはずがない。

 

 そして、このクエスト初となる乗りを相棒が成功させ、奪った乗りダウンへラッシュ。さらに、そこでこちらも今日初となるスタンを奪った。目標、達成です。

 

 前情報は一切無し。攻略方法は不明。今回はそんな相手。

 でも、まぁ――十分に楽しめたんじゃないのかな。例え、知識がなかったとしても楽しむことのできるモンハンはやっぱりすごいと思うんだ。

 

 スタンから起き上がったアトラル・カに、俺のカチ上げと彼女の後方攻撃。それが当たった瞬間だった。アトラル・カの腹部から大量の糸が噴出。さらに、エリアを囲んでいた砦の城壁のほとんどが一気に崩れ落ちた。

 

「お? おおー、倒した! お疲れ様!」

「……お疲れ様」

 

 うつ伏せに倒れ、もう動くことのなくなったアトラル・カを確認してから、自分の手を見てみた。いつもならこのタイミング。身体は薄くなり、世界が崩壊する。

 

 けれども、俺の手は確かに存在してくれていた。

 

 ああ……よかった。

 

 ただただ、そう思った。

 

 そんな俺の様子を見ていたふたり。そんなふたりへ何か言わなきゃいけないとは思った。でも、こんな時だって良い言葉は何も浮かばない。

 

「えっと、まぁ……これからもよろしく」

 

 つまりは、そんなところです。

 

 そして俺の言葉に対し、目の前のふたりは笑ってくれた。

 色々と心配をかけました。あと、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

「……これからはどうしよっか?」

 

 倒したアトラル・カから剥ぎ取りをしていると彼女が声をかけてきた。

 ん~……どうすっかね? 特に二つ名がそうだけど、まだ戦っていないモンスターはいるし、俺もそろそろ違う武器を試してみたかったりする。金冠集めなんかも含めやりたいことが沢山残っている。それら全部をやるのは大変そうだ。

 だからこそ、面白いんだけどさ。

 

「そうだなぁ……」

 

 ただ、その前にやっておきたいことがひとつあるわけですよ。

 

 この彼女を抜かしてふたりでクエストへ行ったあの時、相棒に言われたってのもあるけれど、やっぱり負けっぱなしってのはねぇ。

 

 それに、立てたフラグを回収しないのはもったいない。

 

 だから――

 

 

 

「帰ったらさ。結婚しませんか?」

 

 

 

 今回ばかりは俺から言葉を落としてみる。

 いつもいつもこの彼女には先に言われてばかりだった。でも、これだけは俺から先に言いたかったんだ。

 

 そんな俺の言葉を受けた彼女は、口を開いたまま固まった。

 

 

「あと……君のことがずっと好きでした。だから、これからもずっと一緒に居てください」

 

 

 これじゃあ順番がまるで滅茶苦茶だけど、それは彼女に俺がやられたこと。負けっぱなしってのはやっぱり嫌なんです。

 

「……はい。よろしくお願いします」

 

 そして、固まっていた状態から戻った彼女はそう言って言葉を落としてくれた。

 

 そんなことがありましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 それからのお話だけど、やっぱり別に何かが変わったわけではなかったりします。あの彼女に結婚しようと言ったは良いものの、式の予定だとかそういうものも決めていませんし。

 

 そんなわけで、結局今日も今日とていつもの三人でクエストへ向かう毎日です。

 どうやら、酒場のマスターが二つ名ディアブロスと何かしらの因縁があるらしく、今度はそれが目標になるんじゃないのかな。

 

 俺が彼女に告白をしてから暫くの間、相棒さんの荒れっぷりはすごかったけれど、今ではなんか開き直った感じです。

 重婚がどうたらとか、なんだか怖いことを言っていたりしますが、俺としては早く良い人を見つけてくれればなぁ、と思うところ。そんなことを言うとまた怒られるから口にはしません。あの彼女には甘いのに、俺に対して最近の相棒は本当に容赦がないんだ……

 

 

 さて、だらだらと続けてしまっても仕様が無い。随分と長くなってしまったこのお話を良い加減終わらせてみることにしよう。

 あの時――このモンハンの世界へ来た時から始まった物語。

 それは鼻で笑われるようなものだったのかもしれないけれど……それくらいが丁度良いんだろうさ。だから、どうかどうか笑ってやってくださいな。

 なんてね。

 

 別にこれで何かが終わるわけじゃない。何かが始まるわけでもない。

 

 けれどもまぁ、これでとりあえずのひと区切りってことにしたいと思う。

 

 

 







読了、お疲れ様でした

この作品を書き終わり、色々と書きたいことはあったりしますが、それはいつも通り活動報告へ書こうと思います

この作品を読んでくれた全ての方に感謝を――


ありがとうございました


では、またいつかお会いしましょう

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