「ご主人! 脚の叩きつけが来るニャ!」
「りょ、了解!」
ガムートと戦い始めて5分くらいと言ったところ。最初はその大きさに驚いたし、今まで戦ってきたモンスターと動きが全然違う。
ネコさんのアドバイスもあって大技はくらっていないけれど、それもいつまでもつのやら……
ネコさんの言葉を聞き、直ぐにガムートからローリングで距離を取る。その瞬間、ガムートが大きく足踏みをし地面を揺らし、更に脚についていた雪の塊を飛ばした。どれくらいの威力か分からないけど、アレをくらってしまったらちょっとマズいんだろうなぁ。
う~ん、それにしてもガムートの動きが覚えにくい。そもそも身体が大きすぎるんだ。それに私はぴょんぴょんしているだけだから、余計に覚えられない。
ハンマーを使い始めてそれなりの時間が経ったけれど、未だ上手く使えている気はしない。ネコさんも言っていたけど、ハンマーはモンスターの動きを覚えないといけない武器なんだって。そして、私はソレができていないだろうなって思うんだ。
私もあのハンターさんのようになりたいんだけどなぁ……
脚に付いていた雪が取れたガムートへ近づいてからローリング。そのままガムートを蹴り上げてジャンプしてハンマーを振り下ろした。そこで、今日2回目の乗り挑戦。さっきは失敗しちゃったから今度は頑張らないと。
「支援お願い!」
「ナイスニャ」
前回の乗りを失敗しちゃったのは、スタミナが足りずガムートの長い咆哮を耐えられなかったから。でも、今回はスタミナも十分だし、ガムートの暴れる感じも掴んだ。
だからもう失敗しません。
「ぐぅれいと」
乗りに成功するとそんな白ネコさんの声が聞こえた。ごめんね、頼りないご主人で。
えとえと、ダウンを取ったら頭へいかないとだ。ガムートの攻撃は正面に対してがほとんど。だから、普通なら私じゃ近づくことができない。ダウン中くらいしかいけないのです。
そんなダウン中のガムートへ右にハンマーを構え、最大まで溜まったところで頭に全力で振り上げた。このパーティーで私がどれくらいの戦力になっているのか分からないけど、とりあえず一回くらいはスタンを取らないと。
そうやって何か仕事をしていないと押しつぶされそうになっちゃうんです。責任だとかプレッシャーみたいなものに。
このパーティー……と言うか、あの2匹のアイルーさんは本当に上手い。あの2匹だけでもガムートは簡単に倒しちゃうだろうし、私なんていらないと思う。そんなこと痛いくらいわかってる。
あの2匹は優しいからきっと私についてきてくれると思うけど、それでもやっぱり思っちゃうことがあるんです。……本当に色々と。
どうやったって私はネコさんたちほど上手くはなれない。それでも、私なりに頑張ってみたいから乗りだったりスタンだったり仕事をしたい。ネコさんたちの力に少しでもなれるよう。
それじゃあダメだってこともわかっているんだけどさ……
でも、どうすれば良いのかがわからないのです。
「よっし、討伐完了! お疲れ様だね!」
「お疲れ様ニャ」
「お疲れ様」
結局、何の問題もなくガムートの討伐が完了した。
村長さんから聞いていたけど、ガムートは決して弱いモンスターじゃない。むしろ、強いモンスターなはず。そうだというのに、このパーティーで戦っていると、そんなことを全く感じない。
それは良いことだと思う。思うんだけど……私の心はざわつく。このままで良いのかなって。
白ネコさんがパーティーに加わり、ネコさんたちが出場した闘技大会を見てから、そんなことばかりを思うようになってしまった。
四天王なんて呼ばれているモンスターも、私たちはこれで2頭目の討伐。ベルナ村に来てまだ2ヶ月くらいだというのに。それはきっと異常な早さだ。……少なくとも私にとっては。
随分と贅沢な悩みだって思う。自分のオトモが強すぎて悩むなんて。多分、そんなハンター私以外にいない。
ネコさんたちに対して嫉妬……ではないだろうけど、やっぱり色々と思ってしまうのです。それは私に実力がなく、私の心が弱いせい。でも、どうすれば良いのかなんてわからない。ネコさんと出会うまではずっとずっとひとりだったから、パーティーにおける役割だとか立場とかが私にはわからない。
本当、このままじゃ良くないと思うんだけどなぁ。
じゃあ、どうするの? ってお話なわけでして。でも、解決案は浮かんできません。だって、この問題は私に実力ないからというのが原因。そりゃあ、私だって上手くなりたい。上手くなりたいけど……気持ちだけじゃどうしようもない。
ホント、パーティーって難しいなぁ。
ベルナ村来て、今度はひとりで頑張ってみようと思った。でも、なかなか上手くはいかないね。
皆と会えればあの頃みたくまた、がむしゃらに頑張れるような気がしたから。
――――――――――
まったく……油断も隙もあったものじゃない。いくらネコの姿だからと言って、隣に私がいると言うのにあの彼は……ちょっとスカートの中が見えたくらいでニヤケちゃって。流石に今は大丈夫だとは思うけど、あの彼を狙っている人も多そうだから心配してしまうんです。
いや、じゃあ、早く本当のことを教えなさいって話だけど、やっぱりそんな勇気はなかったり。だって恥ずかしいもん。
ん~……それにしても、なんだかご主人さんの様子がおかしい。
せっかくガムートを倒したと言うのに、あまり嬉しそうには見えない。クエスト中、ご主人さん
じゃあ、何を悩んでいるのかって話だけど……私たちのことなんだろうなぁ。自慢しているみたいでアレだけど、私と彼はご主人さんよりも確実に上手いし、ダメージだってご主人さんよりも稼いでいると思う。
そのことはご主人さんも良く分かっているはず。多分、ご主人さんが悩んでいるのはそのこと。
ご主人さんは確かに上手い。駆け出しハンターなんかには見えないし、少なくとも下手なハンターじゃない。でも、ご主人さんが使っている武器が武器だし、やっぱり私たちとは主に知識や経験からくる実力の差がある。
つまりそれは、あの娘の時と同じ悩み。
でも、あの娘の時はその悩みを消してしまうほどの実力があった。スイッチの入った彼と並んで戦えてしまうくらいの実力が。けれども、それはあの娘だからできたことで、あの娘がちょっと異常なんだ。それをご主人さんに求めることは流石にできない。
ご主人さんの実力や、あの彼と私がオトモになっていることから、いつかこうなるだろうなぁとは思っていた。嫉妬とはまた違うだろうけど、劣等感だったりそう言うことは感じてしまうだろうから。例えその相手がネコだとしても。
そんなこの問題を解決するのはちょっと難しい。私と彼がただのネコじゃないってことを教えれば解決しそうではあるけど、そうしたらまた別の問題が発生しちゃう。
だからこんな時、ご主人さんの悩みを聞いてあげられる人がいれば良いけど、今の私はただのネコ。そして、あの彼もこう言うことは苦手。そもそも多分、彼はご主人さんの様子がおかしいことに気づいてない。そうなると、あの娘が適任だと思うけど、あの娘もすごく忙しいしなぁ。
「よしっ、それじゃ帰ったら打ち上げしよっか」
「うニャ! 冷たいビールが飲みたいニャ」
う~ん、困った。今はどうにかご主人さんが頑張っているけど、今にも潰れちゃうんじゃないかって思ってしまう。そして、それは避けたい。
ただ、恥じらいだとか色々なことがあって私も上手く動けないわけでして……
悩んでいることはあの娘の時と同じように見えるけど、あの娘とご主人さんは違うのだから、やっぱりこれは全然違う問題。だから、あの娘の時と同じようにはいかない。
そもそも、ご主人さんはこれからどうしたいんだろうか。彼や私はモンスターと戦うこと、つまり狩りが好きでハンターをやっている。あの娘の場合は、モンスターに困っている人たちを救うためハンターをやっている。
じゃあ、ご主人さんは?
実力は確かに、私たちの方がある。でも、私たちはオトモなのだからご主人さんに合わせなきゃいけない。それはあの彼だって同じ意見なはず。だから、ご主人さんがどうしてハンターをやっているのかは気になった。
ただ、ご主人さんに合わせるため、私たちが手を抜くのは絶対に正解じゃないはず。やれることは全力でやるべきだ。礼儀だとかそう言うことを抜かしたとしても。
「ふふ、今日は寒いマップだったのにネコさんはまたビールを飲むの?」
「クエストを終わった後はビールって決めているんだニャ」
正直なところ、私たちにできることはほとんどない。オトモの方が上手いと言うのは複雑だと思うけど、割り切ってしまうのが楽。それに、こうやって問題なくクエストをクリアできているのだし、ご主人さんだって下手なわけじゃない。時間はかかっちゃうだろうけど、ご主人さんひとりでも今のガムートなら倒せると思う。それくらいの実力はある。だからもっと自分に自信を持ってもらえれば良いけど、それを私から言ってもお世辞としか思われない。
今は、何か考えが変わるようなきっかけが欲しい。でも、それもやっぱりご主人さん次第だ。
はぁ、相変わらず悩み事がなくなりませんね。
きっかけ……か。
クエストが終わってからひとりで色々と考えてみたけれど、結局良い案は浮かばなかった。彼ほどじゃないけど、私だってこう言うのは苦手なんだ。
このままじゃマズいってのは分かってる。でも、どう動けば良いのかが分からない。つまり、現状維持。非常によろしくない状況。
ベルナ村に着いてから、とりあえず村長さんに報告し、その後はいつものよう打ち上げをすることになった。
「それじゃ、今日はお疲れ様でした!」
「お疲れ様ニャ!」
「お疲れ様」
ご主人さんは笑い、明るく振舞ってくれているけど、その笑顔の裏に少しばかりの影が見える。それは他人の表情ばかりを気にしてきた私だから分かることなのかも。
そんなご主人さんの力になってあげたい。なってはあげたいんです。
「うニャー。今日もビールが美味しいニャ!」
そう言っていつも通り美味しそうにビールを飲む彼。私がこれだけ悩んでいると言うのに全く、この彼は……
「ふふ、本当にネコさんはビールが好きなんだね」
「美味しいから仕方無いニャ」
昔から貴方は変わらないね。でも、彼はそれで良いと思う。それは彼の弱みだけど、それ以上に私はそんな彼に救われているのだから。
そうなると、やっぱり此処は私が頑張らないとなのかなぁ。
「……って、あれ? あっ、ちょ、ちょっと席外すね」
美味しそうにビールを飲む彼を横目に悩んでいると、急にご主人さんがそう言ってから立ち上がった。えと、どうしたのかな。
私たちから離れ、とてとてと走っていくご主人さん。
そんなご主人さんが気になり、走っていった先を見ると――
「うん? 団長さんじゃん」
画面越しに何度も見たあのキャラがいた。
ようやっとご主人さん中心のお話が始まりそうです