――うん? シャガルマガラはどうして故郷へ戻ったのか? そうだなァ……故郷が、恋しくなったのかなァ。
私がシャガルマガラと戦う前、団長さんは確か、そんなことを言っていた。
天を廻り戻る龍。
もしかしたら、団長さんの言うようにシャガルマガラはただ故郷へ戻ってきただけなのかもしれない。自分の生まれ故郷が恋しくなって、戻ってきただけ。
もし、そうだとしたらシャガルマガラを倒すことに対して色々と思ってしまうことがある。思ってしまうことはあるけれど……
「それでも私は君を倒さないといけないんだ」
だって、私はハンターなのだから。
それにシナト村の伝承や、今までの経験からシャガルマガラを放っておくことはどうしたってできない。例え、君に悪気がなかったとしても……ただ生きてきただけだとしても見逃すことはできないんだ。
シナト村の大僧正によって閉じられた扉は、あの時と同じように開いていた。その扉を抜け、禁足地へ足を踏み入れるといつか見たあの古龍と同じモンスターの姿。
その龍は色の消えた視界でもはっきりとわかるほど白く、そして――輝いていた。
君が何を思い此処へ来たのか。そんなことわかりはしない。それでも私は君を倒さないとダメなんだ。手は抜かない。私の全力で戦わせてもらう。
禁足地へ入ってきた私にシャガルマガラが気づき、目が合った。
今は頼れる仲間はいないから、私ひとりで君を倒さないといけない。手足が震える。不安です。怖いです。
それでも、私は前へ進む。
目が合ってから直ぐ、シャガルマガラの咆哮が響いた。
それをジャスト回避して、直ぐにハンマーを右腰へ。
――ジャスト回避した後は直ぐに溜めて良いと思うニャ。ハンマーなんて溜めながら歩くのが癖になるくらいで丁度良いニャ。
そんなネコさんのアドバイスを思い出す。
咆哮が終わり、顔が下がったところで溜めていたハンマーをシャガルマガラの顔へ。弾けるスタンエフェクトと手にかかる僅かな重み。それはハンマーと言う、一発一発が重い武器だからこそ感じられること。
――ブシドースタイルは戦い方がちょっと特殊ニャ。ハンマーは特にジャスト回避後の攻撃が強いから、態と攻撃を喰らうように立ち回って、無理やりジャスト回避をして攻撃した方が強かったりするニャ。
そんなアドバイスをネコさんから受けたけれど、その時の私はよくわかっていなかった。態と攻撃を受けに行く。そんな危ないことをする必要がわからなかった。
でも、今は何故かそのアドバイスを素直に受け入れられる気がするんだ。
シャガルマガラが私の後ろの方へ黒いブレスのようなものを放った。そして、その着弾点からは3本の黒い線。確か、時間差でその黒い線に沿ってブレスが飛んできたはず。一度戦ったことのある相手なんだ。これくらいは覚えている。
右手による叩きつけをローリングなしで躱した瞬間、何かが弾ける音。音を聞き直ぐに後ろを振り向くと予想通り、先程のブレスが飛んできていた。それをジャスト回避。
また直ぐに右腰へハンマーを構え、一度ハンマーが光ったところでシャガルマガラの頭へ振り上げた。
――カチ上げした後、直ぐにローリングをしたくなるけれど、まずは相手の動きを見て、次にどんな行動をするのか予想するニャ。ハンマーはとにかく相手の動きを考えるのが大切だと思うニャ。
直ぐにローリングはせず、シャガルマガラの様子を確認。
後退し、突進の構え。
今の私はジャスト回避なしでも避けられる位置。けれども、あのネコさんのアドバイス通り、態と突進中のシャガルマガラへ突っ込み、無理やりジャスト回避。
ジャスト回避はそれほど難しいものじゃない。けれども、やっぱり怖い。怖いものは怖いのだ。だって失敗したら大きなダメージを喰らうだろうし、今はソロだから回復をすることだって危険。でも、今ばっかりは無茶してみようと思う。あのハンマー使いのハンターさんがしていたみたいに。
ジャスト回避してからハンマーをまた直ぐ、右腰へ。それを今度は最大まで溜める。
――出の遅いスタンプは相手に大きな隙がある時か、振り向きを狙うと良いニャ。相手の動きを予測して、そろそろ振り向きそうだなぁって時に頭がくる位置へスタンプを置いておく感じニャ。
ハンマーを最大まで溜め、シャガルマガラの尻尾の近くで待機。
そして、シャガルマガラが私の方を向き始めたところで、溜めていたハンマーを開放。大きく前へ踏み出しながら、ハンマーを振り上げ全力でソレを振り下ろす。
振り下ろされたハンマーは、まるで吸い込まれてるんじゃないかってくらい上手くシャガルマガラの顔へ直撃。
そこで一回目のスタンを奪った。
カチリ、カチリ――と私の中の何かがひとつずつ嵌っていく。色の消えた白黒の世界はいつもよりずっとずっと鮮明に見えるし、時の流れが酷く遅く感じる。
まるで自分が自分じゃなくなってしまったように思えるけれど、どうしてか悪い気はしない。辛く苦しいはずの狩りが今はひたすらに面白く感じてしまう。
「あはっ」
だから、私の口からそんな乾いたような笑い声がこぼれた。
スタン中のシャガルマガラの顔へハンマーを振り下ろし、振り上げる。一度、二度、叩きつけてからグルリと回りその勢いを活かしてシャガルマガラの顔へホームラン。その全ての攻撃がシャガルマガラの顔へ吸い込まれていく。
心臓は暴れっぱなし、息も荒くチリチリと頭の奥が痛む。でも、何処か冷静な自分がいて、相手の動きははっきりと見える。
うん……今の私ならなんだってできそうだ。
スタンから起き上がったシャガルマガラはそのまま跳び上がり、黒色の何かを撒き散らせながら大きな咆哮をあげた。
その咆哮をジャスト回避。そして右腰へハンマーを構え、また最大まで溜める。
その溜めたハンマーを降りてきたシャガルマガラの頭へ叩きつけた。
――ハンマーは使い難い武器ニャ。一発一発の動作は遅いくせに大した威力はなく、もっと強い武器はたくさんあるニャ。パーティーじゃ頭を上手く狙えないことは多いし、仲間の邪魔をしてしまうニャ。
このベルナ村へ来て、ハンマーを使い始めたけど、その間はずっとパーティーだった。使い難い武器だって私も思ったし、頭なんて全然上手く狙えない。
そのせいか、私はハンマーの本当の強さを知らなかったんだと思う。
――でも、ソロならハンマーは一気に輝くニャ。仲間を吹き飛ばしてしまう心配もないからスタンプを気にせず使えるし、モンスターもしっかりと振り向いてくれるニャ。
ネコさんからもらった沢山のアドバイス。その一つひとつが私の中で面白いくらいに嵌まっていく。
――そして何より、ハンマーは使っていて一番面白い武器だってボクは思うニャ!
……うん、そうだね。今更になって漸く私もわかった。
あの人が使っていた武器だからってことだけでこの武器を使い始めたけれど、今はハンマーを使っていて面白いって感じる。
私はまだこの武器を上手く使えない。それでも、こうして初めてソロでこの武器を使ってみて気づいた。この武器の強さや面白さに。
気づくのがちょっと遅すぎたと思うけれど、私はそんなに器用な性格じゃないんです。それに、気づけないよりはよっぽどいい。
――確かにハンマーは強い武器じゃないニャ。威力は低いし、動きは遅い。使い難いし、ガードだってできないニャ。でも、そんなこと以上に面白いし、カッコイイ武器なんだニャ。だから……ボクはハンマーが好きニャ。
うん、今なら私も胸張って言えると思う。
この武器が好きだって。
シャガルマガラと戦い始めて……どれくらいの時間が経ったのだろう。時の流れが遅く感じるせいで、それはわからないけれど、なかなかの時間が経ったはず。
スタンも3回取り、シャガルマガラの角の破壊も終わっている。運良く大きなダメージは受けていないけれど、流石に私が疲れてきたのか細かいミスも出るように。
そろそろ、キツい。でも――それ以上にこの戦いが面白い。
それは自分でやっていて怖いぐらいに攻撃が上手く当たっていることもあるし、何より初めてこの武器をちゃんと使えていると思えたから。
シャガルマガラの突進。
それをジャスト回避し、またハンマーを右腰へ。尻尾の近くで待機。
そして、大きく踏み出しながらハンマーを振り上げ――振り向きへスタンプ。
もう何回叩いたのかもわからない顔へ吸い込まれていくハンマー。スタンエフェクトが弾け、手にはしっかりとした重み。
その攻撃を受けたシャガルマガラは――大きな叫び声をあげ、終に動かなくなった。
「……ありがとう。これで私は前へ進めます」
謝ることはしない。だって、私と君との関係はそう言うものなのだから。どっちが悪くてどっちが正しいのか。そんなことわからないけれど、私は前へ進みます。
「ん~……疲れたぁ」
シャガルマガラが倒れたことで、暗かった空は晴れた。いつの間にか視界に色が戻り、晴れた空はしっかりと青く見えている。
……空、綺麗だな。空ってこんなに綺麗だったんだ。これならネコさんたちにも見て欲しかったな。重苦しい空気も抜け、今はすごく気持ちが良いし。
そして何より――
「私、勝った……んだよね?」
クエスト中の記憶はどうにも曖昧だけど、確かに私は勝ったはず。目の前に倒れているのはあの古龍シャガルマガラ。
シャガルマガラと戦うのはこれが初めてではないし、前回も討伐することはできた。けれども、今回はあまりにも上手く行き過ぎていて、これが本当に現実なのか信じられない自分がいたりする。
「あっ、剥ぎ取りしなきゃ」
なんとも感情がふわふわしてしまっていたから、これが現実だってわかるように独り言を溢す。
自分を卑下するつもりはないけど、私は上手いハンターじゃない。そんな私だったから今の状況がどうにも信じられなかったんです。
本当なら今は喜ぶ場面。でも、まだ心の中だったり、頭の中はちょっと混乱していたから喜ぶのはもう少し時間がかかりそうだ。
「よしっ、剥ぎ取り終わり! ん~……それじゃ、帰ろっか」
今はまだ素直に喜ぶことはできない。でも、ベルナ村へ戻り、あのネコさんたちの顔を見ることができれば、今の状況が現実だってわかってきっと喜べるはず。
このクエストで私は変わることができたのかな。そうだと嬉しいな。
どうやら予想以上に疲れていたらしく、飛行船に乗り込んで直ぐ私は寝てしまった。しかも、移動中ほぼずっと。だからクエストの帰り道の記憶はありません。目を閉じ、気がついたらもうベルナ村。夢だって見ないほど疲れていたんです。
さてさて、色々あったけど、私は無事にクエストをクリアすることができたんだ。今ばかりは胸張って、ネコさんたちにクエストクリアできたことを伝えないと。
それからネコさんたちに、改めてよろしくお願いしますって私は言うんだ。
ふふっ、そんな私にネコさんたちはなんて声をかけてくれるかな? 相変わらず頼りないご主人ではあるけれど、少しは見直してもらうことはできたかな?
そんなことを思いつつ、飛行船から降り、私の家へ。
そして、一歩進めたことで見えてきた未来に様々な想いを馳せている時だった。
「あっ、ハ、ハンターさん! 大変なのっ!」
なんて、随分と慌てた様子のベルナ村受付嬢さんが私に声をかけた。
え、えとえと、何がどうしたのだろうか。
「おお、ハンター殿、クエストご苦労だった。そして、だな……どうか、落ち着いて聞いて欲しいことがある」
受付嬢さんに続き、此方も此方で随分と深刻そうな表情のベルナ村村長さん。
何がなんだかさっぱりだけど、ホントどうしたんだろう。もしかして凶暴なモンスターが現れたとか……でも、なんだろう。そう言うことではない気がする。
もっと、私に直結することと言うか……いや、ただの勘でしかないんだけどね。
でも……悪い予感だけはよく当たってしまうのだ。
「古代林から帰る途中だったハンター殿のオトモ2匹の乗る飛行船が……消息不明になった」