空はどす黒い霧のようなもので覆われ、お世辞にも良い天気とは言えそうにない。安全なベースキャンプは遥か頭上。飛行船は大破し、とてもじゃないがもう使えはしないだろう。それでもって足元は積もり積もった大量の骨だらけ。
そして、これだけの竜の骨を集めた奴が俺たちの飛行船を壊した犯人だったりする。
「え、えと……此処はどこなのニャ? それに飛行船もこれじゃ帰れないニャ……」
現状を理解していないのか混乱状態の飛行船を操縦していたネコ。
まだアイツの姿は見えないけれど、どうせ直ぐに出てくるはず。そしたらまたパニックになるよなぁ……なんとも運の悪いネコだ。
「竜ノ墓場って言われてる場所。危ないから貴方は隠れていて」
そんな言葉を落とした白ネコの様子はいつもと変わっているように見えなかった。この白ネコなら今の状況がちょっとマズいことくらい分かっているはず。それでも、この冷静さは流石です。
今までは乙ることを気にせず挑むことができた。けれども、今回はそれができない。だから柄にもなく今は緊張しているんです。
「……どうしよっか?」
コテリ首を傾げ、白ネコが聞いてきた。
ホント、どうすっかなぁ……ギルドだって俺たちに何か問題があったと気づいてくれるはず。だから、ギルドからの助けが来るまで地面に潜るなり、安全な場所に隠れているのが一番だと思う。それに、今回はいつものクエストと違うんだ。慎重になりすぎるくらいが丁度良い。
この白ネコと俺なら、アイツの撃退くらいならできるだろう。でも、それは相手が下位レベルならって話。もし、上位レベル……つまり、アイツが本気で来たら流石に勝つことは無理だ。
そんなことで滅茶苦茶悩んでいるわけですよ。
「ふふっ、もしかして緊張してる?」
クスクスと笑いながら、白ネコにそんな言葉を落とされた。
……いや、そりゃあ緊張くらいしますよ。だって今回の相手は今作のラスボスなのだから。この白ネコは随分と余裕そうだけど、それはやっぱりアイツのことを詳しく知らないからってことだろうか? そうは思えないけど、何を考えているのやら。
「大丈夫。貴方と私なら倒せる」
これはまた、随分と信用してもらえていることで……
確かに俺だってこの世界のネコの中では上手い方だと思うけど、実際はそんなに上手いわけじゃないんだけどなぁ……
そして、地面が揺れ――轟音を響かせながらアイツが現れた。
逃げることなんてできやしない。
腹、括るしかないんかね?
――――――――――
「うニャ!? な、なんか出てきたニャ!」
積もった骨の地面を突き破り、轟音を響かせながら現れたのは、長い2本の首と骨で覆われた大きな胴体。
最初にこれと戦った時は、私も何がなんだかよく分からなかったなぁ。まぁ、それはゲームのお話だから、今とはまた違うわけだけど。
「……戦うかニャ?」
そして、いかにも緊張していますと言った様子の彼。
それは普段の彼なら絶対にしないようなこと。だから、そのことが少しおかしくて、無意識のうちに私の口からは笑のようなものが溢れた。
「やるだけやってみよ。無理っぽかったら潜れば大丈夫」
どうして彼がこんなにも緊張しているのかというと、多分、彼の予想していなかったことが起きたからってことだと思う。昔からそうだったもん。知らないことは苦手だもんね。
それに、ギルドの援助がないせいで、一度も乙ることができないってことも彼の足を引っ張っちゃってるんだろう。いつもなら、例え3乙したところで、身の安全は一応保証されている。でも、今回は違う。乙ることが直接“死”に繋がっているんだ。
だから、この彼はきっと此処まで緊張してしまっているんだと思う。
「……了解ニャ。ボクも頑張ってみるニャ」
うん、そうしよ。やっぱり逃げるのは嫌だもの。
彼の強みは、この世界でもゲームと同じように動き回ることができること。危険など顧みず我武者羅に突っ込んでいけること。
でも、今回はそれができない。だから、きっと此処は――私が頑張らないといけない場面なんだ。
私は彼ほど、ひたすらに進むことができない。
私はあの娘ほど、上手く戦うことができない。
そんな私だから、彼やあの娘に対して負い目を感じることは沢山あった。
それでも……そんな私でも今だけは頑張ることができそうだ。だって、私もあの彼のパーティーの一員だったのだから。
一乙したら終わり? そんなこといつもと何も変わらない。私はいつだって、どんなクエストだってその想いを忘れることなく、この世界を進んできた。
例えこの世界がどんなにゲームと同じ設定だろうが、それだけは忘れたことがない。
私は彼と違って、この世界がゲームの世界と簡単に割り切れなかった。だからこそ、今できることがあると思うんだ。
さて。それじゃあ、ひと狩りいくとしよう。
「貴方は隠れていて」
多分、戦力にはならないだろうから、飛行船の運転ネコにそんな言葉をかける。流石に潜っていれば大丈夫……なはず。
「ニャ、ニャンターさんたちはどうするのニャ?」
「……アレと戦ってみるニャ」
そして、彼がそんな言葉を落としたところで、オストガロアの咆哮が響いた。
やっぱりモンスターと戦うのは怖い。でも、きっと大丈夫。私と彼なら負ける気はしない。
「それじゃ戦略は?」
「基本はバリスタで。今回はとにかく安全に戦うニャ」
了解です。
ただ、今回だけはお願いだからスイッチ入れないでね。そうなったら流石に止められないもの。
オストガロアの形態は第一段階。つまり、まだ龍っぽい。
けれどもソレは仮の姿。第二形態――つまり、本当の姿は龍と言うよりも、イカとかオウムガイと言った感じ。下位ではその姿になることがないはずだし、そうなったら今の私たちじゃまず勝てない。
でも、もし本当の姿にならないとしたら今の私たちでも十分勝てるはず。それに何より……やっぱり負けたくない。
彼ほどじゃないけど、私だって負けず嫌いなんだ。
「っ! 突進来るニャ!」
「了解」
この状態のオストガロアの攻撃パターンは主に、その巨体による突進と双頭を使った噛み付き、突き上げ。あとは、なんの成分だか分からない青色の液体のブレスと攻撃パターンはそれほど多くない。
だから、そんなに攻撃を喰らうことはないと思うけれど、相手の火力が分からないから、どうにも攻め難い。
オストガロアの突進を躱してから、双頭に向かってブーメランを投げつける。サポゲも溜めたいし、攻撃しないと、今回のメイン火力になるだろうバリスタの弾も落としてくれない。
因みに、オストガロアが突進をしてくるときは、独特の鳴き声みたいなのがするし、本体からオーラみたいなのが出る。突進はなかなかにキツい技だけど、注意していれば躱すのも難しくないかな。
突進が終わって直ぐ、オストガロアがその双頭を振り上げるのが見えた。
「触腕の叩きつけ! 先端を狙ってくれ!」
了解。
ふふっ、余裕がないのかな。口癖治っちゃってるよ?
そんなことが気になってしまうってことは集中しきれてないってことだけど、今はそれくらいが丁度良いと思う。だって、ふたりしてテンパっちゃうのはやっぱりマズイから。
2つの触腕による叩きつけは、オストガロアの正面(本当は真後ろだけど)にいれば当たらない。
そして、叩きつけを避けてから、弱点である触腕の先へブーメランを投げつける。その肉質は……えとえと、60くらいだったかな。
そうやって、ふたりで弱点を攻撃したおかげか、オストガロアは怯み、キラリと何かを落とした。できれば直ぐにでも拾いたいところだけど、もう少しだけ我慢。
「うん? 怯み値が低いけど、これは……」
ぽそりと聞こえたそんな彼の声。
うん、そうだね。いくら弱点にラッシュを叩き込んだと言っても、流石にこれは怯むのが早い。まだ分からない。油断なんてできるわけがない。けれどもこれなら――
「サクッと倒しちゃおっか」
「うん……やれるだけやってみよう」
厳しい状況なのは変わらない。
けれども、希望は見えた。
今までだって沢山ギリギリの状況はあった。そんな状況に慣れたとは流石に言えないけれど……彼と一緒なら負ける気はしない。
小さな身体となってしまった私と彼。でも、その中身が変わらないと言うのなら、今回も勝たせてもらうとしようか。