ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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いつもより少し長くなってしまいました




第67話~あの頃からずっと~

 

 

「それじゃ、説明して」

 

 クエストを終えて龍歴院へ戻る飛行船の上。さぁ、始まりました。お待ち兼ねしていない尋問のお時間です。

 どんな言い訳をしようか考えながらライゼクスと戦っていたけれど、ここに来て妹さんの調子は絶好調に。言い訳をちゃんと考える時間もなくライゼクスの討伐は完了。どうしてライゼクス直ぐやられてしまうん……

 

「えーと、ですね……気がついたらネコの姿になっていまして……」

「意味わかんない」

 

 いや、そんなことを言われても、俺だってどうしてそうなってしまったのか分かりません。

 そもそも、なんで俺がこの世界へ来ているのかだって分かっていないんだ。本当に分からないことだらけです。

 それにしても妹さん怖いよ、妹さん。ただ、怒ると頬が若干膨らむところは姉妹共通ということが面白い。

 

「……じゃあ、どうしてさっきは人の姿だったの?」

「いや、それも分からないんだ。人間の姿に戻れたのはアレが初めてだし、どうして戻れたのかも分からない」

 

 俺だってできれば人間の姿になってハンマーを振り回していたい。ただ、それができないからこうやって小さな身体で頑張っているんです。

 なんとも頼りない姿だけど、それくらいしか俺にはできない。

 

「貴方が貴方だってことを皆は?」

「知っているよ。相棒も弓ちゃんも、俺のご主人も」

 

 隠しきれるとは思っていなかったけれど、まさかほぼ全員にバレるとは思っていなかった。とはいえ、隠し事は苦手だからなぁ。

 

「じゃあ、どうして……」

「うん?」

「どうして貴方は戻ってこないのさ!」

 

 今までにないくらいの大きな声で妹さんが言葉を落とした。ど真ん中のストレート。まるで容赦がない。

 それは、言われるだろうなって思っていた言葉。でも、それに対する良い言い訳はやはり思いつかなかった。

 

 

「……お姉ちゃん、貴方とまた一緒にパーティーを組みたいっていつも言ってた」

 

 

 ああ、これは……予想以上に心にきますね。

 それはあの相棒と会う度に言われていたことではあるけれど、ここまで直接的に言われたことはなかった。それに、自分の中で相棒に対してやっぱり後ろめたさがあったこともある。

 

「……この姿じゃ、例え大老殿に戻ったところで何もできないよ?」

「そういう問題じゃない! 例えどんな姿だろうと、貴方がそこにいるかどうかが問題なんでしょ!」

 

 ずっとずっと先送りにして、見て見ぬ振りを続け、逃げ続けてきた問題。

 そんなものがようやっと目の前に現れてくれた。だからもう逃げることはできないんだろう。

 

 そもそも最初はこの世界が前の世界と繋がっているとは思っていなかった。ネコの姿だったし、ベルナ村からのスタートだったし……だから俺はご主人のオトモとして頑張ろうって決めたんだ。

 この世界がまだ繋がっていることを知ってから、色々な道を選べたと思う。それこそ、大老殿に行ってまた相棒たちと一緒にパーティーを組むことだって。それでも俺はご主人のオトモになることを選んだ。

 

 自分の中にしっかりとした何かがあったわけではないと思う。軽い気持ちであったことも否定しない。

 それでも、それは俺が選んだ道であり、その道を選んだ理由は――

 

「……君の言うように、大老殿に戻った方が良いんだと思う」

「じゃあ!」

「でも……ごめん。やっぱり、まだ戻ることはできない」

 

 ご主人を放って大老殿に戻れないっていう理由もある。必ず来るだろうオストガロアとの戦いがあるっていう理由もある。

 そして何より……ここで大老殿に戻るなんていう、そんな中途半端なことはしたくないんだ。

 

 それにさ、やっぱり俺はひとりのハンターとしてこの世界を歩んでいきたい。例え小さな身体だろうと、例えオトモっていう存在だろうと、俺はハンターとしてこの世界にいたいんだ。

 それは俺が大老殿に行ってしまったらできないこと。だから俺はこれからも此処にいたい。

 

 全てのことを妹さんに教えることはできないし、理解してもらおうと思わない。きっと最低な奴だと思われているだろう。

 それでも、俺はこの道を選びます。

 

「どうしても戻らないの? ここまで言われても貴方は戻ってくれないの?」

「……ごめん」

 

 申し訳ないと思っている。本当は全部説明したいとも思っている。でも、今の俺にできるのは、ただひたすらに謝ることだけだった。

 

「ただ、もし元の姿に戻ることができて、こっちでやらなきゃいけないことが終わったら……きっと戻る。必ず戻れるかどうか約束することはできないけれど、そうできるよう頑張ってみるよ」

 

 今の俺に言えるのはそれくらいだ。

 人間の姿に戻れるかどうか分からない。オストガロアを倒した後もこの世界にいられるかどうかも分からない。でも、もし人間の姿に戻ることができて、オストガロアを倒せたらまた相棒たちのいる場所へ戻ります。

 それだけは約束する。

 

「……本当に? また戻ってくる?」

「ああ、必ず」

 

 それは低い可能性だと思う。運の悪い俺のことだ。そうなる可能性は本当に低い。

 でもさ、今までずっとずっとその運の悪さに付きまとわれてきたんだ。こんな時くらいは自分の都合の良いように、運良くいってくれたって良いんじゃないかって思うんだ。

 

「貴方のやりたいことってのが何かわかんないし、全然納得できない」

 

 でしょうね。

 

「それと! そのやりたいことってのが終わったら戻ってこい! 別に人間の姿じゃなくてもいい。ネコのままでもいいから戻ってこい!」

「えっ、いやそれは……」

 

 大老殿で受けるクエストじゃネコが活躍できる気がしないから、それはちょっと許してもらいたいのだけど……

 

「ダメ、決定! それで、このことはちゃんとお姉ちゃんに全部貴方から話をすること。どうせ私にはまだ隠していることもあるだろうから、そのことも含めて全部!」

 

 あー……それはちょっと難しいかなって思ってみたりするのですが。いや、だって此処がゲームの世界だとは流石にいえませんし。あの相棒ならあっさり受け入れそうだけど、そればっかりは言わない方が良いと思う。

 

 ただ、まぁ……色々と話さなきゃいけない時なんだろう。こんな機会でもなければこの臆病者はきっと動かない。

 あの相棒には今まで何度も何度も迷惑をかけてしまっている。そして、これからも。そうだというのなら、色々と話をしないといけない、のかな。

 

 ネコの姿のままでも戻るというのは……まぁ、うん。仕様が無い。これだけ俺の我が儘を聞いてもらえているんだ。それくらいは受け入れます。

 

「分かった。約束する」

 

 いかにも私、怒ってます、というような妹さんに向かって言葉を落としてみた。

 許してもらえたわけではないと思う。でも、なんとか妥協はしてくれたんじゃないかな。

 

 そして、最後に妹さんが――

 

 

「あと……やっぱり貴方のことは嫌いだ!」

 

 

 なんて言葉を落としたところで、その会話は終わった。

 今回は全面的に俺が悪いわけですから、何も言い返せない。

 

 さて、どうにか妹さんを乗り切ることができたわけですが……次は相棒さんが待っています。そんなことをいったら失礼だけど、まさに一難去ってまた一難。

 

 今日は長い一日になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、帰ってきた。どう? 特に問題は……あれ? 何かあったの?」

 

 龍歴院へ戻ると既に全員がいた。

 そして、帰ってきた俺と妹さんへ相棒が言葉を落とし、様子のおかしいことに気づいたのか首を傾げた。

 

 はい、本当に色々とあったんです。ホント、どうしてこうなったのやら……

 

 既に日は落ち、お酒を飲み始めるのには丁度良い時間。けれども、今はその前にやらなきゃいけないことがある。本当は逃げ出したいところだけど、約束までしてしまったんだ。もう逃げることはできない。

 

「へい、相棒」

「へ? あ、あうん。どうしたの? てか、語尾……」

 

 もう語尾は良いんです。どうせ此処にいる皆は知っているわけだし。

 皆の視線が俺に集まっていることが分かる。むぅ、やたらと緊張しますね。

 

「ちょっと話があるんだ」

 

 さてさて、これでもう本当に逃げられなくなっちゃいました。

 手足は震えるし、嫌な汗が止まらない。恥ずかしいことだけど、古龍種と戦う時なんかよりも今の方がよっぽど緊張しています。

 

 

 

 

 

 

 

「えと、色々と聞きたいことがあるんだけど、どうしたの?」

 

 ベルナ村のオトモ広場へ移動してから、相棒さんと対面。

 さて、何から話をしたものか……

 

「クエスト中、少しだけだけど人間の姿に戻った。あと、妹さんにバレました」

 

 とりあえずはそのことから。

 

 今更だけど、あの彼女――白ネコも連れてきた方が良かったかもしれない。できる限りのことを話そうって思っている。そして、それは俺に関わることだけじゃないのだから。

 

「へ? ほ、本当ですか! え、えと、あの子にバレちゃったのはいいとして、それで……」

 

 驚き、でも嬉しそうに何かを期待しているような相棒の顔。

 

 ……さて、問題なのはここからですよ。きっとその言葉を伝えたら、この相棒は落ち込むと思う。それでも、伝えなきゃいけない。そういう約束で、それが相棒のためになるのだから。

 

 馬鹿みたいに暴れる心臓を落ち着かせるため、ひとつ大きく深呼吸。

 

 そうしてから、俺は言葉を落とした。

 

 

「戻らないよ」

 

 

 余計な言葉は加えない。言い訳もしない。けれどもそれは、色々なことを詰め込んだひと言。

 

 そんな言葉を受けた相棒の顔は、嬉しそうな顔から何ともいえない表情になった。悲しんでいるというか、怒っているというか……なんともいえない表情に。

 

「……なんだ。戻ってきてくれないんだ」

 

 そして、静かに笑った。

 憂いの見える表情で、諦めたように相棒は笑った。

 

 押し寄せる罪悪感の波。後悔ばかりが自分の中で膨らむ。そうなるって分かっていたから言いたくなかったんです。でも、それは言わなきゃいけない言葉だった。

 

「それは、槌ちゃんがいるからっていう理由?」

「……いや、俺がまだ此処にいたいからだよ」

 

 詰まるところ、俺が相棒たちの元に戻らないのはそんな理由だ。

 ネコの姿だからとか、ご主人のためとか、オストガロアと戦うためとか、そんなものは全て体の良い言い訳。結局は俺がまだ此処にいたいから戻らないってだけだ。

 

「ふふっ、そっか。それなら仕方無いね」

 

 夜空を見上げた相棒。つられて上を向くと、星空と一緒にそんな相棒の言葉が落ちてきた。

 視界いっぱいに広がっている星空は、吸い込まれそうになるくらい綺麗だった。

 

「うん、君がそう思っていたんなら仕方無いや。……あーあ、私は君とまた一緒に生活したかったのになぁ。昔みたいに皆でわいわい騒ぎながら進んで行きたかったのになぁ」

「……ごめん」

 

 それだけしか、言えません。

 

「ホンっト、君って自分勝手だよね。知ってる? 今回の休みをもらうために私は、狂竜化モンスター3頭にクシャルダオラとほぼ休み無しで戦ったんだよ? それで、久しぶりに会えるのを本当に楽しみにしていたのに、君からもらえたのはそんな言葉」

 

 相棒さんの言葉が心に突き刺さる。

 妹さんの言葉もかなり効いたけれど、これはこれでまた心にきます。正直、もう泣きそうだ。

 

 ただ……この相棒はそれ以上にダメージを受けているんだろう。

 

「本当にごめん」

「ふふっ、君ってなんだか会う度に謝ってるよね」

 

 今の俺にはそれくらいしかできないからなぁ。

 

「でもさ……君はそれでいいって私は思ってる。そりゃあまた君と一緒にいられれば私も嬉しいよ? ……でも、それは私が君を縛っていい理由にならないし、君は槌ちゃんと一緒にいた方がいいってこともわかってる」

 

 俺に背中を向け、言葉を落とし続ける相棒がどんな顔をしているのかは見えない。

 ただ、その姿は俺が知っているものよりもずっと大人びて見えた。

 

「ただ、やっぱり納得できないこともあります。だって、私はそんなに素直な性格じゃないもん。だから……だから、ひとつだけお願いを聞いてもらってもいいですか?」

 

 くるりと此方を向いてから、相棒はそんな言葉を落とした。

 

 お願い、か。もしかしたら、無茶なことを言われるのかもしれない。もしかしたら、全てを話せとか言われるのかもしれない。

 そうだとしても、その言葉に対する俺の返事は決まりきっていた。

 

「ああ、俺にできることなら何でも」

「うん、ありがと。じゃあさ――」

 

 さて、何を頼まれるのやら。相棒のことだし、何でもってことにかこつけて、今直ぐ大老殿に来い、とかは言わないと思う。

 でも、簡単なお願いではないだろう。

 

 

「それはできないって言って」

「……は?」

 

 なんか、思っていたのと全然違うのが来た。

 てか、普通に意味が分からない。

 

「だからさ、これから私が言う言葉に、できない。って言ってほしいってこと。難しいことは考えないで、余計な言葉も加えないで。ただただ――それはできない、って」

 

 えっ、い、いや、お願いの内容は分かったけど……え? そんなことで、それだけで良いんですか?

 ただでさえ、色々なことがあったせいで、頭の中はぐちゃぐちゃなんです。そんな状態で、まともなことなんて考えられるわけがない。

 

「あ、ああ。それは良いけど……そんなことで良いのか?」

「……うん、それだけでいいの。それでやっと私は前へ進むことができるから。……よしっ! それじゃお願いね」

 

 正直、何がなんだかさっぱりです。

 ただ、まぁ、それで相棒が進むことができるというのなら……それでいいのかな。

 

 

 

「君のことが好きでした。だからずっと私と一緒にいてください」

 

 

 

 トクリ――と何かが跳ねる。

 

 吸い込まれそうな星空の下。

 声が、響いた。

 

「それは……できない」

 

 色々な言葉が溢れそうになったけれど、どうにか我慢して言葉を落とした。

 そんな予想なんて全くしていなかった。頭の中は本当に真っ白。夢か現か。何がなんだか分からない。昔っから想定外のことは本当に苦手なんです。

 

「……ありがとう」

 

 そして、俺の言葉に相棒はそう言った。

 この会話に、どれほどの意味があったのかは分からない。それでも、相棒は見蕩れるような笑顔をしてから言葉を落としてくれた。

 

「あー……フラれちゃったなぁ。せっかく勇気を出して言ってみたのに、フラれちゃった」

 

 何が楽しいのか分からないが、くるくると笑いながら言葉を落とす相棒さん。一方、俺は未だに混乱状態です。

 てか、えっ? なに? さっきの告白はなんだったの?

 

 色々と聞きたいことがあった。

 でも、楽しそうに笑っている相棒を見ていると、言葉は出てこなかった。

 

「よしっ、スッキリしました! これでこれからも頑張れそうです! ありがとね。こんな茶番みたいなことに付き合ってもらって」

「ん……いや、これくらいならいくらでも」

 

 さっきのやりとりなんて、傍から見れば本当にただの茶番だったと思う。

 それでも、それをすることで相棒は前に進むことができると言った。だから、きっとただの茶番ではなかったんじゃないかな。相変わらず何を考えているのか分からない奴だけど、きっときっと何かの意味があったんだと思う。

 

「それじゃ、皆のところへ戻ろっか」

「えっ? いや、俺が言うのもおかしいけど、その……聞かなくて良いの? 俺や白ネコのことを」

 

 今回の一番大きな目的は、今まで隠していたことを話すっていうもの。

 まだ、頭の中は整理がついてないから、上手く話せるかどうか分からないけど、ちゃんと話そうと思っていた。

 

「うん、それはもういいの。少なくとも、今は」

 

 ……そう、ですか。

 そう言われると俺からは何もいえないわけでして……うーん、ホント何を考えているのやら。俺には分からないことだらけです。

 

「よし、じゃあお酒を飲むぞ、お酒を」

「お酒は良いけど、頼むからご主人の前で酔い潰れたりはしないでくれよ……」

 

 そんな感じで結局、自分のことを話せはしなかった。

 何というか……相棒さんにしてやられてしまった感じ。

 

 俺と相棒の交わした会話にどんな意味があったのか。それはやっぱり分からない。でも……あの会話のおかげで相棒だけじゃなく、俺も前へ進めたような気がする。

 何処かに置いてきてまったものを、今になって拾うことができ、これからは後ろを気にせず進むことができる。

 

 そんな気がするんだ。

 

 

 






前作を含めてもう140話以上書き続け、何といいますか……ようやっと一区切りつけることができた気がします
前作を書き始めた頃は登場する予定すらなかった相棒さんが、こんなにも素敵なキャラとなってくれ、私としても嬉しい限りです

では、次話でお会いしましょう
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