ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第74話~言の葉ひとつ~

 

 

「よしっ、それじゃゴアをサクっと倒すニャ!」

 

 いつもより少しだけテンション高めのネコさんが、原生林のベースキャンプで大きな声を出した。多分、自分の作りたいものを作れるってことでテンションが高いんだと思う。白ネコさんはいつも通りだけど。

 

 本日の目的はネコさんの防具を作ること。

 メインターゲットは――ゴア・マガラ。

 それは、私にとって何かを思わせてしまうモンスター。私の物語の始まりはダレン・モーランだったけれど、あの物語の中心にはゴア・マガラもいたのだから。

 そんなんだから、やっぱり色々と考えてしまった。これから私たちが戦うゴア・マガラと私が戦ったゴア・マガラは違う個体。でも、同じゴア・マガラなんだ。

 

 何ともいえないモヤモヤとした感情が溢れ出す。

 

 きっと……きっとネコさんたちなら本当にサクっとゴア・マガラを倒してしまうんだろう。例え、どんなに私が足を引っ張ろうとこのふたりなら、あのゴア・マガラを簡単に倒してしまう。

 現に、私がシャガルマガラと戦っていた間、ネコさんと白ネコさんはゴア・マガラを倒している。その場に私はいなかったし、その後に起こったことが起こったことだったから詳しいことは聞いていないけれど……多分何の苦労もなく倒してしまったはず。それだけの実力がこのふたりにはあるのだから。私なんかでは到底届かないほどの実力が。

 

「ご主人! ゴアはエリア5にいるニャ!」

 

 ゴア・マガラは本当に強いモンスターだと私は思っている。実力者揃いの筆頭ハンターさんたちのパーティーですら一度ゴア・マガラに負けてしまっている。

 その後、どうにか勝つことはできたけれど、筆頭ハンターさんたちの力がなければ、私じゃ倒せなかった。私にとってゴア・マガラはそれだけの相手。でも、ネコさんたちにとってはきっと違うんだろう。

 

 ――次元が違う。

 

 そんなこと分かってる。分かりきっている。ネコさんたちはこの世界を何度も救ってくれた伝説のハンターさんたちで、私なんかと比べていいような存在じゃない。

 

 でもさ。いや……だからこそ、かな? 余計にモヤモヤとした感情が出てきてしまう。

 考え。想い。意識のズレ。それも根本的なもの。今までも感じていたソレが今になって余計に感じるようになってしまっている。

 

「……ご主人さん?」

「あっ、うん。ごめん。ボーっとしてた。了解! 頑張ります!」

 

 いけない、いけない。今はクエスト中。考えずにはいられないことだけど、今は目の前のクエストに集中しないと。

 

「うニャ! ボクも頑張るニャ」

「……私も」

 

 うーん、ホント何なんだろうか。この感情は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 なんだかご主人の様子がちょいとおかしいけれど、大丈夫だろうか? まぁ、今回の相手はあのゴア。きっと昔のこととか色々なことは思い出しているんだろう。

 

 とはいえ、獰猛化個体はアレとして、このご主人の実力なら通常ゴアくらいならサクっと倒せるはず。初見相手のモンスターを苦手としているご主人もゴアならきっと問題ない。

 そして、ゴアを倒せば俺の防具を作ることができます! ネコならスキルを気にせず自分の好きな防具を付けられるのが本当に有り難い。いや、まぁ、そりゃあできることなら俺も人間の姿の方が良いんだけどさ。

 

 さてさて、とりあえず今はゴアを倒すことに集中しましょうか。前回の戦いでネコならゴアとの相性が良いのは分かった。まず負けることはないだろう。というより、余裕で倒せると思う。ソロならまだしも今はパーティーでメンバーがメンバーですし。

 

 俺の防具を作るだけなら、今回はゴアを倒すだけで問題ない。ただ、ここで上位ゴアの触角を手に入れておけばナルガハンマーの強化に使うことができる。エムロードビートがあるのだし、ナルガハンマーはいらない気もするけれど、やっぱり色々なハンマーを担ぎたいよね。ナルガハンマーもカッコイイし。うむうむ、そうだというのなら、触角を狙う価値はあるだろう。

 ただ、剥ぎ取りじゃ出ないんだよなぁ……まぁ、ゴア素材なんてあまり使わないし、報酬枠の関係で得られる量の減る捕獲でも問題はないと思うけど。

 

 それじゃ、今後の俺のメイン防具を作らせてもらうためにも此処はサクっと倒させてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

「麻痺取った! ご主人、触角を狙うニャ!」

「りょ、了解!」

 

 予想通りで想像通り。ゴアとの戦闘はかなり順調。

 ご主人のスタイルはブシドー。ゴアが相手なら、ほぼノーモーションの突進以外はモーションも分かりすいから、ジャスト回避も難しくない。それに何よりゴアって頭を叩きやすいんだよね。スタン値の減少速度は速いけれど、2スタンくらいなら楽に取れるはず。

 

 そして、麻痺中のゴアへご主人のジャスト回避からの溜め2が当たりゴアがスタン。触角の破壊も確認できているし、完璧です。

 今回は厳しいと思うけど、これなら0分針だって狙える。これでゴア防具や武器が優秀ならゴアマラソンもしたんだけどなぁ。あと、挑戦者の弱体化もなかなかに大きい。

 

 麻痺からスタン。んで、スタンの解けたゴアの頭へブーメランを1発ぶつけたところで、狂竜化解除と落とし物をひとつ。さらに、脚を引きずるモーション。

 

「ご主人、罠って持ってきているかニャ?」

「へ? あ、うん。持ってきてるよ」

 

 うむ、それなら捕獲にしよう。

 ナルガハンマーの強化に必要な触角はふたつ。部位破壊報酬でひとつは出るだろうから、もうひとつは捕獲報酬でいただこうか。まぁ、そういう時に限って出ないものですが。

 

「触角が欲しいから今回はゴアを捕獲したいニャ。ゴアはエリア8で寝るはずで、寝たら罠を置いてほしいニャ」

「よ、よく寝る場所まで知ってるね……うん、わかった」

 

 そりゃあ、まぁ、最小がほしかったからゴアとはこのマップでかなり戦いましたし。

 

 

 脚を引きずったゴアがエリアを移動し、流石に寝ただろうって頃に俺たちも移動。

 そして、寝ているゴアの脚元へご主人がシビレ罠を設置し、捕獲玉を投げて捕獲完了。ほい、クエストクリアです。

 ご主人にゴアの滑空攻撃に合わせてホームランを当てることとか教えようかとも考えていたけれど、それはまた今度にしよう。今はクエストクリアできたことを喜ぶ場面です。

 

「お疲れ様ニャ!」

「……お疲れ様」

 

 これで俺も、一番好きな防具を身につけることができると思うとテンション上がります。帰ったら直ぐ、加工屋へ依頼するとしよう。

 

 そんな感じで俺はひとりで喜んでいた。

 けれどもですね、どうにもご主人の様子がおかしいのですよ。

 

「…………」

 

 ご主人は捕獲が完了したゴアの傍に立ち、じっとそのゴアを見つめていた。いつもならクエストをクリアした時、一番喜んでいるはずの人だというのに。

 

「ご主人? どうしたのニャ?」

 

 じっとゴアを見つめるご主人の表情は、何ともいえない顔だった。

 怒っているわけでも、喜んでいるわけでも、悲しんでいるわけでもない。でも、無表情でないことは確か。

 

 

「……ホントにサクっと倒しちゃうんだね」

 

 俺の質問に最初は応えず、暫くの間、ゴアを見つめ続けたご主人の落とした言の葉がそれだった。

 

 ……本当のことや、詳しいことは分からない。でも、ゴアとご主人の間で何かしらの物語があったことは知っている。だから、ご主人がゴアに対して何かを想っていることだって分かっていた。

 それでも、今のご主人が何を考えているのかがどうにも掴めない。

 

 だからきっと、俺とご主人との間では何かがズレているんだろう。根本的に。

 

「えと、ご主人?」

「……別にさ、苦戦したかったーとか、あっさり倒したくなかったーとか、そんなことを思っているわけじゃないんだ。……でもね。私にはやっぱり分かんないや。そりゃあ、ネコさんたちがすんごいハンターであることは知ってるし、私なんかとは色々と違うことも分かってる。それでも……私にはネコさんたちのことが分からない」

 

 ああ、なるほど……なんとなく、なんとなくだけど、ご主人が何を言いたいのかは分かった。

 それはきっとあの相棒もずっとずっと思っていたことで、それでも言葉にはできなかったこと。

 

 俺とご主人の間にあるズレ。

 考えとか、想いとか、意識とかそれらのズレ。

 

 それは、俺たちが伝説のパーティーと呼ばれているとか、この世界では実力者とされていることが原因じゃなく――全て俺と白ネコがこの世界の人間ではないことが原因なんだろう。

 そんなことから来たズレがご主人を揺さぶってしまっている。

 

 でも……だからといって、どうすればその問題を解決できるっていうのだろうか。

 

 誤魔化す?

 何も喋らない?

 

 そりゃあ、一番簡単な解決方法くらい分かっている。けれどもそれは、ずっとずっと俺たちが躊躇ってきたもの。それを今から踏み出すのはどうしても躊躇してしまう。

 

 ただ……この機会を逃したらダメな気もするんだ。

 

 ひとつ、大きく呼吸をしてみた。

 

 自分の心臓の暴れているのがよくわかる。こういうことに関しては小心者なんです。でも、これ以上ご主人を迷わせてしまうのはよろしくない。

 

 

「……ねぇ、ネコさん。貴方は、誰ですか?」

 

 

 だから――前に進んでみるとしよう。

 

 

 チラリ白ネコの方を見ると、こくり――と頷いてくれた。それはつまり、ずっとずっと中へ隠していたものを出してもいいという合図。

 

 本当ならもっともっと早く伝えなきゃいけなかったんだ。ご主人にも、あの相棒にも。

 ホント……そのせいでどれだけ俺は彼女たちを傷つけてしまったのだろうか。まさに自己嫌悪。自分の臆病さが嫌になる。

 

 馬鹿みたいに口の中が乾く。出さなきゃいけないはずの言葉が重い。

 

 だから、もう一度だけ大きく息を吸った。そして、ご主人を真っ直ぐと見つめてから――

 

 

「ボクは……俺たちはこの世界の人間じゃない」

 

 

 ひとつ、言の葉を落としてみた。

 

 

 

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