……実際のところ予想はしていた。こうなるんだろうなって。
ご主人が優れたハンターであることは確かで、此処まで順調に進めているのもご主人の実力があったから。
まだまだ雑な行動が見られることは多いし、ハンマー使いのハンターとして一流とはいえない。それでも、俺よりも確実にある才能を……そのオールラウンダーっぷりを見せつけてくれている。
そんなご主人ではあるけれど、やはり苦手なモンスターくらいはいる。
「誠に申し訳ありません……」
「ボクは気にしてないニャ。それに今はとにかくテオの動きに慣れることが大切ニャ」
HR7になるための緊急クエストの内容は古龍テオ・テスカトルの討伐。
もしかしたら――なんてことも思ったけれど、どうやらそこまで甘くはないらしい。
突進を連続で喰らったご主人が乙。無理に頭は狙わなくても良いとは言ったけれど、それでも引っかかってしまうらしい。
クエストが始まってまだ5分針もいっていない。この様子だと今回もクリアは難しいだろう。
……このクエストはこれで2回目。1回目はほぼ何もできずご主人が3乙。
ハンマーを使っていることもあり、今までのご主人はほぼモンスターの頭だけを攻撃していた。けれども今回はそうではなく安全にいきたいから後ろ脚をメインに攻撃してもらっている。多分そのせいもあって立ち回りが安定しないんだろう。とはいえ、テオの頭を攻撃するのはそんなに簡単なことじゃない。難しいものです。
「あぅ……なんだか勝てる気がしないです……」
うーん、ホントどうしようね? 一番の解決策はご主人に片手剣を使ってもらうことだけど、それじゃあ意味がない。ハンマーでテオを倒さなきゃいけないんだ。
いっそのことエリアルスタイルを使うとか……ないか。ブシドーで避けきれていないのにエリアルになんてしたら余計に被弾が増えるだけだろう。
俺が麻痺武器を担いで拘束時間を増やすって方法もあるけれど、火力は落ち、結果として戦っている時間は増えてしまう。それじゃあなぁ……
つまり、このクエストばかりはご主人がテオに慣れるしか方法がないんだ。
「そんなことはないはずニャ。まだテオの動きに慣れていないだけニャ。だから、こればかりは何度も何度も戦って慣れるしかないニャ!」
そんな言葉を落とすくらいしかできない自分が嫌になる。
いくら世界を救ったことのある人間でも、今ばかりは自分の小ささを思い知らされる。
「はい、頑張ります……」
「うニャ! 頑張れニャ!」
状況はまさに絶望的。このクエストをクリアできる未来が全く想像できない。
ただ、もしご主人と俺の立場が逆だったとしたら――こんなにも面白い状況はないんだろうなって思ってしまう。勝てるはずがないと思ってしまう相手にどう戦うか必死で考え、何度も何度も失敗しながら挑む。そんな状況は絶対に面白い。
だから、今のご主人は本当に羨ましい。この姿の俺じゃあそんな状況には絶対にならないから。
モンハンでクエストクリアを考える上で大切なのは大きくわけて4つ。
1つ目は武器防具。2つ目がスキル。3つ目がアイテム。そして、4つ目がプレイヤースキル。それらを変えるだけで、クリアなんてできる気がしないと思っていたクエストでもあっさりクリアできてしまう。
そして、倒したい相手に対し、それらのことを考え実践する時が本当に楽しいって俺は思う。
けれども、このネコの身体ではプレイヤースキル以外を変えることができない。
武器は現在選べる中で最高の物を用意した。傾向はアシスト、スキルはブメ3種で固定。アイテムは使用できない。できるのは……俺が上手くなることくらい。ただ、自分のプレイヤースキルを上げるのにどれだけの時間がかかるのかってことはよくよく分かっている。
何を言いたいかって……今の状況を全く楽しめていないんだ。
アレだけ強いモンスターと戦いたいって思っていた。そして今、そんなモンスターと戦うことができている。そうだというのに、高揚感だとかそういうものが全くない。これじゃあただの作業だ。
それはテオという戦い慣れすぎたモンスターが相手ってこともある。けれども、何より問題なのは今の俺がネコってことなんだろう。
ご主人の力になりたい。でもこれ以上、俺には何もできない……
そんな、もどかしさや遣る瀬無さもある。
「ふー……よしっ、それじゃリベンジ行きますっ!」
「うニャ!」
こんなところで止まりたくなんてない。止まりたくなんてないけれど……俺に何ができるというのだろうか。
マップは火山。エリアは6。
ちょっと邪魔な岩が生えているけれど平地が多いし、かなり戦いやすいエリア。
「怒った! 塵粉に当たったら直ぐにローリングで消すニャ!」
かなり時間はかかっているものの、怒らせることはできている。だからダメージは与えているはずだけど……倒せる気がしない。
正直なところ、テオに関してはG級の方が戦いやすい。塵粉を出したあとは噛み付き爆破は頭を狙えるし、超火力の前方ノヴァだって剣士ならまず喰らわない。
まぁ、そんなことをいっても、相手は上位モーションしかしてこないのだから仕様が無いけれど。
「りょ、了解です!」
怒ったってことはスーパーノヴァまでのカウントダウンが開始ってこと。
一応、ノヴァ対策に絶対回避はとっておくようにご主人に言ってはあるけれど、喰らうときは喰らう。そして喰らえばまず即乙。頭を狙わない関係で怒り解除は厳しく、ご主人がノヴァを喰らわないよう祈るばかり。
怒ったテオ相手に俺は頭を、ご主人が後ろ脚を攻撃。流石に怒り解除は無理だよなぁ……そして、テオは後ろ脚怯みの後が怖い。怯んだ後の行動が早すぎるんだ。
ご主人だって多少は慣れてきていると思うけれど、多分テオ自体が苦手なんだと思う。いつもと比べてご主人の動きが明らかに悪いし、被弾の量も本当に多い。
テオとは嫌になるほど戦った。そんなこともあってコイツが相手なら俺は被弾0で立ち回ることができる。けれどもご主人は……
「あっ、まず……か、回復します!」
飛びかかり攻撃に引っかかりご主人が被弾。
本来ならテオはHR解放後に戦う相手。そんなこともあり火力がヤバい。回復薬グレートじゃ回復が間に合わないし、次は秘薬の調合分まで持たせた方が良いかもしれない。
回復するご主人の位置を確認して、テオが俺を狙ってくれるよう……ああ、ご主人狙いだわクソが。
「そっち向いた!」
「えっ? ちょ、まって!」
そして、ガッツポーズ中のご主人にテオの突進が直撃。秘薬を飲んでいたのかどうにか乙ってはいない。
ただ、この短時間で攻撃を連続で喰らえば……うん、まぁ、ピヨるよね……大ピンチです。しかも、そろそろノヴァの時間なわけですよ。
そんな予想は当たり、未だスタン状態のご主人の真上に飛び上がるテオ。
これで2乙は確定。
クエストが始まりようやっと5分針といったところ。
つまり、もう、後がない。
だから……もう、もういいかな。
このクエストもクリアはまず無理だろう。俺にできることは全てやっていると思う。それでも、このクエストをクリアするのには届かない。
それは俺の実力不足が原因ってのももちろんある。本当に上手いハンターならこの時間で討伐することだってできているだろうから。でも、俺にはそれだけの実力なんてない。
でもさ、どうせダメだっていうのならせめて楽しみたいじゃん。
せっかくこの世界に来てこんな形のまま、自分で何ひとつ納得できないままクエストを失敗したくない。
だからこれは俺の我が儘だ。ご主人が乙った時は俺もベースキャンプまで戻っていたけれど、それもなし。
ご主人のためだとか、オトモだからだとかそんなことはもう知らない。
誰のためでもない。
今ばかりは
そして、ご主人の真上でテオが爆発すると同時に、ガツン――と鈍器のようなもので頭をぶん殴られた感覚とあの声が頭の中で響いた。
『操作モードを切り替えます』
状況はまさに絶望的。
それでもまぁ……反撃開始と行こうか。
――――――――――
何度やっても上手くいかない。
どれだけ気をつけてもテオ・テスカトルの攻撃に当たってしまうんです。今までだって強いモンスターと戦ってきた。でも、それらのモンスターにはまだ勝つことのできる未来が見えていたんです。
そうだというのに、今回ばっかりはそんな未来が見えない。見えるのは私がテオ・テスカトルにやられる未来ばかり。
私がそんな状況だからネコさんには本当に迷惑をかけちゃってると思う。口や表情には出さないけれど、内心はこんな私に呆れているはず。
正直、心が折れそうだった。
考えちゃダメだって分かっている。でも、考え出すと止まらない。自分が上手く戦うことだけを考えなきゃいけない。
それがもう……私にはできない。
あのハンターさんに憧れて使い始めた武器。頑張ろうって決めた武器。このハンマーっていう武器を使うことにはたくさんの意味を込めている。私はこの武器で頑張りたい。
ネコさんからたくさんたくさんアドバイスをもらった。
それでも私はこんなにも下手くそだ……
頭の中は悔しさだとかそんな気持ちでいっぱい。そんな気持ちなんて私はいらないのに。
テオ・テスカトルを倒さなければ私は前に進めない。ひたすらに我武者羅に戦わないといけない。そんなことは分かっている。
でも……そんな相手にどう戦えばいいのかが分からない。いくらアドバイスを受け取っても、どんな言葉を送ってもらっても、私には何も見えない……
ボロボロの精神状態。そんなんだから、やっぱり私はテオ・テスカトルの攻撃をまた喰らってしまった。
グルグルと回る景色の中、攻撃をしたテオ・テスカトルはさらに私の真上に飛び上がった。
ああ……マズイな。これは、避けられないや。
アレだけ注意しろって言ってくれたのに、本当にごめんネコさん……
そして、私の視界は真っ白に。
どれほどの攻撃を喰らってしまったのか分からないけれど、また私は倒れてしまった。指一本動かない。つまり、またダウン。きっと直ぐにネコタクによってベースキャンプに運ばれる。
そんなことにももう慣れちゃったな……
ゆっくりと。でも確実に薄れ始める私の世界。次に目を覚ますのは当たり前の光景になってしまった火山のベースキャンプ。そこでまたネコさんに励まされるんだろう。
ホント、悔しいなぁ。
そして、もう全部を諦めて目を閉じようとした時だった。
「またいつ戻ってしまうのか分からないから、あまり伝えられないかもしれない。でもさ、精一杯頑張ってみるから、できるだけ急いで戻ってきてもらえると俺は嬉しいかな」
私がずっとずっと憧れていたあのハンターさんがそんな言葉を落としてくれた。