違和感すら覚えるようになってしまった本当の自分の身体を軽く動かし、状態を確認。
火山の熱気のせいで少々息苦しさを感じるものの、悪くはない。やはりこの身体の方が俺には合っているんだろう。
「ま、それもそうか」
さて、さてさて。
目の前には大技であるスーパーノヴァを放ち、俺の大切なご主人をベースキャンプに送ってくれた奴が1頭。
「よ、久しぶり。元気だった?」
古龍テオ・テスカトル。それはあのゴリラの次に俺が戦った相手。
つまり、何度も何度も倒し、何度も何度も倒された相手ってこと。だから、コイツにも色々と思い出があるんだ。ホント強いもんな、お前。
そんな相手だからこそ……まぁ、負けたくはないわな。
とはいえ、まさかこの身体に戻るとは思っていませんでした。こうなるのなら事前に教えてほしかったし、せめてご主人が乙る前に戻ってほしかった。
いや、戻ってくれたことは嬉しいよ? 嬉しいけれど……マップがなぁ。
ネコなら問題はないけれど、今は人間。そしてこのマップは火山のエリア6。つまりですね……めっちゃ暑いわけですよ。ネコだからと思いクーラードリンクなんて持ってきてないし、回復薬もない。もちろん砥石も、だ。
暑いエリアでのスリップダメージは3秒で1。今は体力がMAXではあるけれど、例えテオから何も攻撃を喰らわなくても450秒で俺の体力は尽きる。せっかくこの身体に戻ることができたというのに、暑さが原因で乙ってしまったなどカッコ悪すぎる。
身体が戻ったことでテンションが上がり、ご主人相手にちょいとだけ格好つけてしまったせいで、ご主人がいるベースキャンプにも戻りづらい。さらに、攻撃を喰らってしまえばその時間はさらに短くなるだろうし、テオの体から吹き出す炎のスリップダメージもある。
つまり、被弾0+制限時間つきの縛りプレイといったところ。絶望的な状況は変わらない。
「ただまぁ……そのくらいが丁度良いかもな」
だってそのくらいの方が絶対に面白いのだから。
そんなことを考えたところでテオが俺の方を向いた。どうやらノヴァを撃ったにも関わらずエリアチェンジはないらしい。
ごめんな、ちょっと待たせた。
テオと目が合ったところで目を閉じ――ひとつ、大きく深呼吸。
手なんて抜かない。最初から全力全開。
そして、目を開け見えてきた世界から色が消えた。
さんざん我慢したんだ。今ばかりは自由にやらせてもらおう。だから、ひと狩り行かせてもらいましょうか。
俺に向かって突進してきたテオをローリングで躱し、ハンマーを右腰へ構える。武器はナルガハンマー、防具はゴア一式。あとはスタイルの確認だけ。
とりあえず、普通のローリングだったためエリアルは除外。あと、ハンマーの溜まる速度も慣れたいつものソレ。つまり、今のスタイルはギルドかブシドー。
そして、突進を終え、再び俺の方を向いたテオの頭に一度光ったハンマーで攻撃。
出た攻撃は振り下ろしだった。
つまり――
「ブシドー、か」
欲をいえばギルドスタイルが良かったけれど……まぁ、エリアルじゃないだけマシだろう。それに被弾が許されない今の状況ならブシドースタイルが一番美味しい。火力が足りるかは知らん。ご主人が早く戻ってくれることを祈ろう。
俺に向かっての炎ブレス。それをジャスト回避してから、限界まで溜め、ブレスの終わりに踏み込みながら強溜めスタンプをテオの頭へ。テオさんったら大きい頭のくせしてやたらと首に吸われるから、スタンプはできる限り頭の先へ置くのがポイントです。
……被弾が許されないこの状況。本当ならテオの体から出る炎のスリップダメージを考えても後ろ脚を狙うのが正解だと思う。ジャスト回避なんてせず軸避けしていた方が絶対に安全。
でも――それじゃあ面白くない。
1発でも喰らったら終わりだからこそ、ギリギリの状況だからこそ危険な方へ飛び込んでいきたい。自分が愚かなことをしているのは分かっている。どう考えたって非合理的だ。
それでも、俺が求めている狩りってのはこういうものなんだ。理屈じゃない。心躍る方へ。胸膨らむ方へ俺は進みます。
それに、今ばかりはコイツの攻撃を喰らう気はしない。だから、これで良い。これが良い。
強溜めスタンプをぶち込んだテオは、その翼を羽ばたかせ塵粉をばら撒いた。もしかしたらと思ったけれど、残念ながら遠距離ではなく、近距離爆破。
その大きな翼を羽ばたかせ始めたところで、テオの頭の前へ移動し、ハンマーを振り下ろす。
縦1と縦2を当てたところで、テオがその牙を鳴らし、塵粉が爆破。テオを中心に反時計周りで爆破する最初の爆破をジャスト回避してから強溜め1をテオの顔面へ。当たったのは頭ではなく首。
そして、怒り状態になったテオの咆哮が火山に響いた。
ソレをジャスト回避し、もう一度テオの顔面へ強溜めカチ上げ。
カチリ、カチリ――と自分の中の何かが噛み合っていく感覚。頭の中で思い描いていた自分と今動いている自分が少しずつ重なっていく。
「あはっ」
ヤバい、超楽しい!
なんだこれ。なんなんだこれ。
飽きるほど戦った相手で、飽きるほど使った武器。それでもこんなにも楽しいって思えるじゃないか。
怒り咆哮からの突進。ジャスト回避。此方を向いたテオに強溜めカチ上げ。
直ぐにローリングをせず、少しだけ待ってから爪攻撃をジャスト回避。んで、もう一度カチ上げ。スタンはなし。ん~……もうスタンをするはずなんだけど何発か首に吸われていたか。
ブレス。ジャスト回避から限界まで溜め、強溜めスタンプ。踏み込みすぎたせいで頭ではなく首へ。
爪攻撃、ジャスト回避無しのローリングで回避。
攻撃をしているテオへローリングで位置調整をしてから、ハンマーを右腰へ構えることなく尻尾へ縦1。さらに、空中へ縦2。
そして――
振り向きへホームラン。
小さくなってしまったものの確かに感じることのできるヒットストップ。弾けるスタンエフェクト。そこでようやっとテオがスタン。
コイツとは戦ってきた数が違う。嫌になるくらい戦った。それでも、お前との戦いは本当に楽しいって思えるよ。テオの次にする行動が分かる。どう立ち回れば良いのかが分かる。ホント、いつもこうなら良いんだけどさ。
頭の肉質も軟化するし、ブシドーならノヴァだって怖くはない。だから、別に怒り解除を無理に狙う必要はないけれど、やっぱりハンマーなら狙いたくなってしまう。
ハンマーは決して強武器じゃない。けれども、コイツが相手の時は本当に輝くことのできる武器なんだ。
まぁ、例えコイツが相手じゃなくとも俺はハンマーを担ぐんだろうけどさ。それくらいにはこの武器が好きなんです。
スタンをしたテオに縦1からホームランを2セット。
それをぶち込んだところで、テオが誰もいない方へ突進をした。どうやらエリアチェンジらしい。その瞬間、白黒だった視界は元通りに。今回はかなり早いけれど集中力切れ。この状態でさっきまでの動きができるかというと……その自信はありません。体力もそろそろヤバイし、砥石も使いたい。早くご主人戻ってきてくれないかなぁ。
なんてことを考えていると、テオが飛んでいったエリア7とは逆のエリア5の方からとことこと走ってくるハンターが見えた。
ナイスタイミング。集中力も切れているし、体力もヤバめ。これは助かります。
「あっ、えと、ネ、ネコさんテオ・テスカトルは?」
いかにも急いで来ましたといった様子のご主人がそんな言葉を落とした。お疲れ様、心よりお待ちしておりました。
こちらは既に2乙で後がない。けれども、まだ俺の身体は戻っていないし負ける気もしない。
「多分だけど、エリア7に移動したと思うよ」
ご主人にはハンマーを使う上で色々とアドバイスをしてきたつもりだ。けれどもいくら言葉で説明したところで伝わらないことはたくさんある。やっぱり見てみなきゃ分かんないもんな。俺だってネットで上手い人の動画を見て勉強した。
俺がハンマー使いとして上手いということは流石にできない。よくて中級者。そんなものだ。
けれども、きっと何かを伝えることはできると思う。残された時間がどれくらいあるのか分からないし、その時間の中で何を伝えるかなんて考えていない。だから、俺にできるのはいつも通り我武者羅にハンマーを振り回すことだけ。
「あっ、はい! 了解です! そ、それじゃあエリア7へ行けばいい……ですか?」
俺の身体が戻った影響だろうか、ご主人がどうにも硬い。確かに身体の大きさとかは変わっちゃったけど、中身は変わってないんだけどなぁ。お願いだから戦っている間は固まらないでね。せっかく掴み取ったこのチャンスをクエスト失敗なんて形で終わらせたくはないのだから。
さてさて、それじゃご主人も来てくれたし、サクっと倒してきましょうか。
「うん、そだね。ただ、その前に……クーラードリンクをもらえるとすごく嬉しいです」
ちょいとカッコ悪いけど、こればっかりは許してほしいって思います。