「はふぅ……」
心地良い日差しを受け、モッフモフなムーファの背の上で寝転がる俺の口からは何とも気の抜けた声が出た。仕方無いね、それくらい気持ちが良いのだから。
今日は久しぶりの休日ってこともあるけれど、テオを倒したことで俺たちのHRも7となり一段落。今くらいはのんびりさせてもらおう。
テオを倒し、HRが7となってからご主人のやる気がすごかった。もしかしたら人間の姿の俺を見て……なんてことをチラと考えたけれど、なんか恥ずかしいからそうじゃないと思うことに。
そして、ご主人がやる気なら俺も頑張らないと、な~んて思っていたけれど、肝心のクエストがない。いや、中型種や小型種の討伐や採取クエストなんかはあったんですが、大型種……それもテオみたいにHR7にならないと受けることのできないクエストがありませんでした。
そんな現実を受け、せっかく気合の入っていたご主人もなんともいえない表情に。
それでここ最近は久しぶりに村クエをやっていました。
クシャを倒し、上位ハンターとなってからはほとんど手付かずとなっていた村クエ。はてさて、どんなクエストがあるのやら、なんて考えながらベルナ村の受付嬢の元へ。
そこで紹介されたのは全部で3つ、ライゼ、ミツネ、ディノのクエストだった。そして、迷うことなくそのクエストを受けることに。
ただ、ですね……俺たちはもうHR7で、しかも武器防具が揃ってしまっている。そんなハンターが村クエ、それも下位レベルのクエストを受けても、直ぐにクリアしてしまうわけですよ。頭なんて狙わず、もう何も考えず、ただ縦1からのホームランを続けているだけで簡単に倒してしまう。
「……終わっちゃったね」
「……うニャ。終わっちゃったニャ」
苦労なんて何もなかった。一瞬といって良いくらいだった。それだけ成長したってことではあるけれど、ご主人の表情は複雑なそれ。きっと思っていたのと違ったんだろうなぁ……
村クエをクリアしたことで、村長からは何度もお礼を言われたけれど、何を言われたのかは覚えていません。早いタイムでモンスターを倒せたことに文句はない。文句はないのだけど……こういうことじゃないんだよなぁ。いや、まぁ、村クエを受けるって時点でこうなるんだろうなぁとは思っていましたが。
やっぱり村クエは序盤に進めておかないと、ただの作業になっちゃうよね。モンハンの難しいところだ。
そんなことはあったけれど、まだ集会所にHR7になって初めて受けることのできるクエストは届いていない。そんなわけで今日は丸々一日お休みです。
ああ、ムーファの背中が気持ち良い。
「あっ、ネコさん。こんな場所にいたんだ。さっきね、『狩りに生きる』をもらってきたよ」
もうこの良い気分のまま寝てしまおうと思っていたら、そんなご主人の声が聞こえた。
因みにだけど、『狩りに生きる』ってのはこの世界で刊行されている月刊情報誌のことです。読んだことないから何が書かれているのか知らないけど。
「ハンマー特集はあるのかニャ?」
「ないと思う……」
じゃあ、いいや。
モンスターの肉質だとか状態異常耐性値なんかが載っていれば読みたいけれど、多分そんなものは載っていない。どうせどこどこのハンターがどんな成果をあげたとか、また第三王女の犠牲者が出たとかそんなことだろう。色々と言いたいことはあるけれど、とりあえずギルドは、なんでもホイホイ依頼を受けてしまうのをやめた方が良いと思う。俺が依頼文をちゃんと読むことは少ない。ただ、まともな依頼ってあんまり多くないイメージです。まぁ、あのワガママ王女を放っておくと何をしでかすか分からんし、仕方無くギルドも依頼を受けているんだろう。そんなことをしなきゃいけないギルドも大変だ。
「でも今回の表紙は白ネコさんだよ」
「え……マジ?」
「うん、本当」
そ、そんなこともあるのか……そりゃあ、またなんとも似合わないことで。
ああ、そういえば相棒なんかはよく取材を受けていたような気もする。確か、弓ちゃんもあった。俺は取材なんてされたことないけど。フシギダネ。
てか、なんだ。もうあの彼女が戻って来たっていう情報は回っていたのか。ん~……まぁ、有名なハンターであることに違いはないだろうし、そんなものなのかな。
「それで、どんなことが書いてあるのニャ?」
「まだ読んでないから分かんないけど、今回の主は白ネコさんへのインタビューみたい」
あの彼女へインタビューって……きっと取材する人も苦労したことだろう。あの彼女は基本、そういうことが嫌いですし。マタタビに釣られたアイルーが書いたとか、そんなところだろうか。
最初は全く興味がないと思っていたけれど、あの彼女のことが載っているのなら話は別。モッフモフの背中と別れ、お昼寝の時間を後へ回すことに。
「あっ、読む気になったんだ」
「うニャ」
どんなことが載っているのか気になります。
ムーファの背中から降り、ご主人が手に持っていた雑誌を見ると、確かに表紙へあの彼女が載っていた。当たり前だけど、人間の姿の彼女が。
多分だけど彼女がネコに戻ることはもうないんだろう。羨ましいことだ。
そして、表紙に載っている彼女だけど――
「えっと……あー、うん。可愛いとは思うけど、白ネコさんは何をやっているんだろ……」
雑誌の表紙にはいつも通り、眠たそうな彼女の顔が。
ただ……
「多分だけど、笑って。って言われて笑えなかったからこんなことになったんだと思うニャ」
両手で自分の口角を上げ、無理やり笑っているような表情を作っている彼女。ただ、目は眠たそうなままで、なんともシュールな画面だ。
うむ、この雑誌は取っておくことにしよう。あの彼女に見せた時の反応が面白そうだし。
「な、なるほど……確かに白ネコさんってあんまり笑わないもんね」
あーんー……そうでもないよ。あの相棒なんかと比べると、確かにあまり笑わないけれど、ご主人の前なら結構笑っていたと思う。ただ、仲良くない人の前では表情が固まってしまうだけ。
本当に自由な性格の彼女だけど、あの娘、人見知りなんです。そんな性格でよく雑誌の取材なんて受けたと思う。
表紙をめくると、アイテムや商人、ギルドの宣伝のページがいくつか続き、それを過ぎると彼女へのインタビューの記事が載っていた。
Q:ここのところずっと姿が見られないようでしたが、どちらに?
A:遠い場所にいた。
Q:そこでは何を?
A:ブーメランを少々。
Q:これからの予定は?
A:がんばる。
Q:読者の方々へひと言お願いします。
A:がんばります。
「…………」
「…………」
とりあえず記事を読んでみたけれど……なんだろうね、これ。どうコメントして良いのか分からない。そりゃあ、俺もご主人も無言になるわ。なんて中身のないインタビューだろうか。
「情報雑誌としてこれでいいのかな……」
ダメだと思うけど、インタビューを受けている人間があの彼女だからなぁ……編集部も苦渋の決断を強いられたことだろう。俺がいうのもアレだけど、もう少しまともなコメントをしてあげなさいよ。そういうところはあの相棒や弓ちゃんの方が上手くやっていそうだ。俺はそもそもインタビューされないから論外ってことで。
まぁ、あの彼女が元気そう(?)ってことも分かったし、これはこれで良いのかな。きっと今頃は相棒たちと一緒に狩猟笛を振り回していることだろう。
相棒さんへのフォローはよろしく頼んだよ。
「あっ、まだインタビュー続いてたよ」
いや、良い予感がしないしもう良いのだけど……これ以上はインタビューをしていた人が可哀想になってくる。
Q:ずばり、好みの男性のタイプは?
A:1mちょっとの可愛らしい大きさ。色の種類は茶ブチ。くるりと丸まった尻尾とピンと立った耳が特徴のサポート傾向はアシストで、ブメ3種に遠隔強化持ち。防具はゴアSネコホラーの人。
「これ、ネコさんのことだよね?」
……俺からはノーコメントで。
ホント何を言っているんだろうあの彼女は……どれくらいの人間がこの雑誌を読んでいるのか知らないけれど、決して少ない人数ではないはず。どうして俺がこんな気持ちにならなきゃいけないんだ。
Q:それ、好みなネコの話ですよね(笑)そうではなく、好みな人間のタイプをお願いします。
A:じゃあ……ハンマーを使う人。
「……これもネコさんのことだよね?」
お願い! 俺に振らないで! 分かってる、分かってるからっ!
いや、あの彼女からこうやって気持ちを伝えられるのは嬉しいですよ? でもさ、何か違うんだ。こうじゃない。てか、色々おかしい。なんでその質問だけ饒舌になってるんだよ。
そんな記事のせいでせっかくの休みだというのに、一気に疲れてしまった。
こんな機会だし、ひと通りその雑誌を読もうかとも考えていたけれど、俺はもう疲れました。これ以上読むのはやめておきます。
……全く、顔が熱いったらありゃしない。
そんな状態の俺が最後に目にした記事は――
Q:貴方と同じパーティーだった、今もなお行方不明になっているハンターさんはどうしていると思いますか?
A:それは私にも分からない。でも……もし私たちが危ない状況になった時、あの彼は戻ってきてくれる。あの人はそういう人。
そんな、ものだった。
今までずっと一緒にいた人間と別れることとなり、そのことに寂しさを覚えないといったら嘘になる。少しばかりの分かれ道。けれどもきっとその道はまた繋がってくれるはず。
それは間違った考えじゃないと思うんだ。
「……俺も頑張らないとだな」
心地良い日差しを受けながら無意識に落ちたそんな言葉は、空へ上り、消えていった。