大老殿から派遣されたふたりのハンター……つまり、相棒と笛の彼女と合流してから、オストガロアのクエストへ向かうのは思っていた以上に早かった。
どうやら、竜ノ墓場へ向かっていた調査団もいつの間にか帰還していたらしい。ゲーム中だと確か、連絡が途絶えたその調査団を助けるため、クエストへ行くことになったと思ったけれど……まぁ、無事なようで何よりです。
せっかくあのふたりと再会できたのだし、俺としてはもう少しのんびりしていたかったってのが正直な感想。そんな暇がないことはよくよく分かっていますが。
「あっ、ひ、久しぶり」
「う、うん。久しぶり」
笛の彼女と挨拶をした後、相棒さんとも挨拶をしてみたのだけど……なんか気まずい。前回会った時があった時だったからなぁ。こんな調子じゃまずいって分かっているけれど、想いなんてものはそう簡単に割り切れるものじゃないんだ。
気を遣い合う仲でもないのだし、いつもの調子に戻ってくれることを願うばかりです。
そして、オストガロア討伐に向けて俺たちは出発。
竜ノ墓場のある場所は一応、古代林なのだし移動時間はそれほど長くないだろう。どうにもその実感は湧かないけれど、今後の俺の未来が決まる分岐点はもう目の前まで近づいているらしい。
「それじゃ、オストガロアと戦う上での作戦会議を始めるニャ」
集まったメンバーがメンバーだし、正直適当に戦っても勝てるとは思う。ただほら、一応ね。
「はい、お願いします! それで、えっと……ネコさんってオストガロアと戦ったことはあるの?」
相棒や笛の彼女がいるせいか、やや緊張気味のご主人がそんな言葉を落とした。ただ、相棒と一緒に行った火山の採取ツアーの時ほど固まっているようには見えない。そんなところにも、このご主人の成長を感じる。
「うニャ。ボクと彼女……あー、白ネコは何度か戦ったことがあるニャ」
ご主人には俺と彼女のことを説明したこともあって、すごく話しやすい。元の世界で溜めた知識を活かせるって素敵なことです。
「あっ、やっぱりそうなんだ」
とはいえ、マラソンをしたほど戦ったことはなかったり。
最初は形態変化だったり超大技があったから戦っていて楽しかったけれど、それも直ぐに飽きちゃいました。アイツの素材もライトを作るくらいしか使った記憶がない。
「……それで、どうやって戦うの?」
そんな彼女の声。
ネコだった時の声に慣れてしまっているせいか、どうにも違和感が……
「んと、ボクは基本的にバリスタで戦うニャ。皆は触腕をお願いするニャ。それで、弱点を殴れる時は相棒と君が……え、えと、相棒さん? どうかしました?」
戦い方の説明をし始めたのは良いのだけど、何故か相棒さんが、ぶっすーとした表情で俺の方を見ているものだから、気になって仕様が無い。
「……槌ちゃんには全部話したんだ」
…………あかん。
「そっかー。一番付き合いが長いはずの私にはまだ何も話してくれないのに、槌ちゃんには全部話したんだね。へー……そうなんだ」
「あっ、い、いや、その……たまたまご主人には話しをする良い機会があったってだけで、別に君をないがしろにしているとか、そういうわけではなくてですね……」
相棒さんと俺の様子を見ているご主人はおろおろしてしまっているし、あの彼女はそんな俺たちを見てただ笑っているだけ。
まだクエストは始まってすらいないってのに、嫌な汗が止まらない。なるほど、これがラスボスの脅威ってわけか。
「ちゃ、ちゃんとこのクエストが終わったら話すから今は、ほら……ね?」
拗ねてしまった相棒さんをどう扱って良いのか分からず、なんとも情けないような状態のままそんな言葉を落とすと、相棒はどこか楽しそうに笑った。
「ふふっ、約束だもんね」
「そうだな……大丈夫、今度はきっと話せると思うから」
なんて、まるで自分へ言い聞かせるかのような言葉を落とした。……ごめんな。いつもいつも待たせてばかりでさ。
きっとあと少し……本当にあと少しだと思うからもう少しだけ待っていてほしい。
「え、えっと、じゃあ続きを話すニャ」
やり残したことや、やらなきゃいけないことはまだ沢山ある。
だから……まだ消えられないよなぁ。
相棒さんにはドキリとさせられたけれど、その後は特に何事もなく作戦会議も終了。相棒さんとの間にあったぎこちなさも大分良くなってくれたと思う。
んで、その作戦をまとめると、俺が拘束弾も含めたバリスタを担当で、残りの三人はひたすら殴る。ただ、大ダウンを取った時、弱点を殴るのは相棒さんと笛の彼女だけ。できればご主人にも弱点を攻撃してもらいたいけれど、乱戦の中SAのないハンマーであの小さな弱点を殴るのはちょっと無理です。
また、対巨竜爆弾は笛の彼女に任せることに。彼女が担いでいる武器は轟鼓【虎鐘】。攻撃【大】に耳栓、保険でだるま無効を吹くように頼んだけれど、流石に仕事量が多すぎるだろうか? ただ、この彼女なら問題なくやってくれると信じています。
相手の攻撃は口で説明しても分からないだろうから、それはクエスト中、俺と笛の彼女で他のふたりへ伝えることに。一番気をつけなきゃいけないのは、あのビームだけど……このメンバーならビームを撃たせずに討伐してしまうんじゃないだろうか。0分針は無理でも5分針は出せると思う。
さて、作戦会議も終わったし、後はもうオストガロアを倒すだけ。
待ち遠しい、ってほどではないにしろ、オストガロアの本気状態と戦えることは楽しみだ。早く竜ノ墓場へ着かないものだろうか。
そんなことを考えながら、アイテムポーチの中を整理。今回はアイテムポーチいっぱいにアイテムを入れてきました。
「……ネコなのに、そんなにアイテムを持ってどうするの?」
そして、そんな俺へあの彼女が声をかけてきた。
砥石や回復薬、調合書にいにしえの秘薬調合分、と高難度クエスト用のアイテムポーチとなっています。
「念のため、って感じかな」
このクエストで使うことはないはずだけど、何が起こるのか本当に分からない。だから、しっかり準備しておいたんです。テオのクエストの時は色々と格好悪かったからなぁ。
っと、そうだ。この彼女に見せようと持ってきたものがあったんじゃないか。
それは貴重なアイテムポーチひと枠分を使ってまで持ってきたもの。
「そういえばさ、この『狩りに生きる』だけど――」
アイテムポーチの中から、忘れずに持ってきた情報雑誌を彼女に見せ……たところで、直ぐに彼女に取り上げられ、飛行船から投げ捨てられた。
ああ、せっかく持ってきたのになんてことを。
「……次、ふざけたら貴方をぶん投げる」
めちゃくちゃ恥ずかしいのだろうか、顔がすごく赤い。何この子、面白い。
いつもいつも、俺はいじられる側だったのだし、今回ばかりは俺が頑張ってみるとしよう。
「今までやってたのは、ブーメランを少しょ……ああ、待って! ごめん。嘘です。お願い! 俺を掴まないでっ!」
たまには、と思い彼女をからかってみたらこれだ。
「何やってるのさ……」
そして、俺たちを見て、ため息混じりに相棒さんがそんな言葉を落とした。
お願い相棒さん、この人止めて。
「って、そういえば弓ちゃんは今回来なかったんだな」
あの彼女に投げ捨てられないよう、必死で抵抗しながら気になっていたことを聞いてみる。まぁ、例え弓ちゃんが来てもクエストへ行けるのは4人までなのだし、来ても仕様が無いといえば仕様が無いんだけどさ。
「んとね、弓ちゃんは今、大老殿じゃなくてバルバレにいるんだ。私も詳しくは聞いてないけど、新人ハンターの教育? みたいなことをしてるんだって」
あら、そんなことをしていたのか。
うーん、あの弓ちゃんが新人教育、ねぇ……大丈夫だろうか。教育される新人のメンタルがもてば良いが。あの子、ホント容赦ないからなぁ……
そして、全力で抵抗したおかげか、彼女にぶん投げられることもなく、気がつけば目的地はもう見えていた。
「竜ノ墓場……」
そんな目的地を見たご主人が言葉を落とす。
俺と白ネコはこれで二度目だけど、竜ノ墓場が不気味に見えるのは変わらない。オストガロアが原因なんだろうけど、瘴気みたいなのが溢れていてなんとも怖いんです。
……あの時はお互いに全力で戦えなかった。けれども、今回ばかりは言い訳をせず、全力で戦うことができそうだ。
別に、お前が弱いモンスターだなんていわない。それでも、今回は俺たちが勝たせてもらうよ。
前回は直接相手のいるエリアへ降りてしまったけれど、今回はベースキャンプからスタート。
打ち合わせ通り、拘束弾を含めたバリスタは俺が。爆弾は笛の彼女が担当。
「音爆弾は任せた」
「……うん、頑張る」
俺は主にバリスタを使う関係で、クエスト中指示を出すのが難しい。
そんなことで、細々とした動きの指示は全て彼女に任せることに。演奏に爆弾に指示と、彼女のやらなきゃいけないことがめちゃくちゃ多くなってしまった。それでも、この彼女なら安心して任せることができる。
そして、彼女の演奏する笛の音を聞き終わったところで、準備は完了。
「……っしゃ! 行くかっ!」
「おおー!」
「おー」
「えっ? あっ、おおー!」
ちょいとだけご主人が俺たちのテンションについていけてないみたいだけど……まぁ、ご主人ならきっと大丈夫なはず。今回も頼りにしてますよ。
そんなこんなで4人一緒にオストガロアの待つエリアへ向かって飛び込んだ。
どれくらいの量があるのかも分からない骨の上へ着地し、エリアへ入って直ぐに見えたのは骨に覆われた巨大な本体と双頭。
「うわぁ、かわいくない……」
そんなオストガロアを見て相棒がぽそりと言葉を落とした。お前はラスボスに何を求めているんだ。
「……イカカワイイデス」
そして相棒さんに続いてあの彼女もぽそり。まだイカじゃない! イカじゃないから!
んもう、なんだってんだこのふたりは……ラスボスが相手ってことで少しだけ緊張していた自分がバカみたいだ。
……さて、それじゃクエストスタートといきましょうか。
できれば相棒にエキスの場所を教えておきたかったけれど……ごめん。流石にオストガロアのエキスの場所は分かんないや。
彼女の演奏のおかげで、開幕の咆哮は安全にスルー。打ち合わせ通り、俺以外の3人がオストガロアの触腕へ向かうのを横目に俺はバリスタ弾の発射台へ。
別に最速タイムなんて求めちゃいないけれど、どうせやるなら全力で。容赦なしの待ったなし。
そして、咆哮が終わって直ぐのオストガロアへ向かって俺は拘束弾を撃った。
索餌形態なんてさっさと終わらせて捕食形態になってもらうとしよう。
拘束弾がオストガロアへ当たったところで、触腕の先端に3人がラッシュをかける。拘束が解け、ラッシュが終わるとオストガロアは地面へ潜った。どうやら無事ダメージは足りていたらしい。
オストガロアが潜ったところで、タゲを散らせないため、バリスタ弾の発射台から離れ俺も3人がいる近くへ。そんなところで、地面が揺れ、触腕だけが飛び出してきた。
そこで今度は全員でラッシュ。
「周回形態! ご主人もバリスタを!」
ラッシュ後、触腕が地面へ潜ったところで指示。
「了解ですっ!」
あの突進が本当に鬱陶しいから、索餌形態はできるだけ短い時間にしておきたい。
さてさて、此処まで見事に打ち合わせ通りなわけですが……まぁ、集まったハンターがハンターなのだし、こうなるよなぁ。超大型種は初見じゃない人間がいるだけで、本当に楽になる。
いくらラスボスとはいえ、きっとこんなものなのだろう。
周回形態へ入り、エリアの周りにある水中を泳ぐオストガロアへ俺とご主人がバリスタで攻撃。そして、バリスタの攻撃による大ダウン。
あの彼女が指示をしてくれたのか、大ダウンをし、攻撃できるようになった弱点に彼女と相棒がまたラッシュ。
もう、なんか可哀想になってくるくらいオストガロアがボッコボコにされている。一応、ラスボスなのにね……
大ダウンが終わり、オストガロアはまた地中へ。
さてさて、これでようやっと本番だ。あの時は此処まで来ることができなかった。少し時間はかかってしまったかもしれない。
それでも、俺は此処まで来ることができた。そして、こんなところで止まるつもりもない。一気に行かせてもらいましょうか。
ここからはどうしてもパターンを組み難い。
あんな巨体のくせしてその動きは速いし、触腕の先端へ付ける4種類の骨塊は鬱陶しい。
ただ、まぁ……俺たちも結構強かったりするよ。
破壊できる骨塊は彼女が音爆弾を投げて直ぐに破壊。俺はバリスタで、ご主人はハンマーでひたすら攻撃。誰かがダメージを受けたら、調合分まで持ってきている粉塵を相棒が使う。
とにかく安全に。
無茶をしない。無理もしない。でも……容赦はしない。
1回目の大ダウンでは、オストガロアに登って直ぐの場所に彼女が爆弾を置いてから、彼女と相棒が弱点へ、ご主人と俺が触腕の先端にラッシュ。
もし、相手の体力バーを見ることができたら、きっとすごい勢いで減っているんだろうなぁ。
「……これで全部、終わっちゃうね」
バリスタ弾を撃ち切り、古びたバリスタ弾を拾っている俺にあの彼女がそんな言葉を落とした。
「きっと終わらないさ。そのために頑張ってきたんだから」
元の世界に未練がないってのは嘘になる。
でも、俺がこの世界を歩んで行くと決めたのは本当のこと。
「うん、そうだね。大丈夫、もし貴方が何処かへ行ってもきっと私が見つけてあげるから」
ふふっ、その時はお願いしますよ。
なんて会話を彼女としていたところで――
「クエスト中!!」
相棒さんの怒ったような声が響いた。
そんな光景が何処か懐かしくて……でも、それが嬉しくて、それはやっぱり俺がまだ消えたくないってことなんだろうなって思った。
現在のオストガロアの様子は、口元から出ていた青色の粘液ガスは消え、代わりに赤黒い龍属性エネルギーが溢れ始めている。つまり、瘴龍ブレス形態。これで龍属性エネルギーが完全に溜まれば、モーション値250というどう考えてもやりすぎとしか思えないブレスが飛んでくる。
けれども、粘液ガスが消えたことで、弱点の頭も攻撃ができるように。
どうやら、本当に終わりが近づいてきてしまったらしい。
先程拾った古びたバリスタ弾を打ち終え、残しておいた拘束弾を発射。
きっと、これが最後のラッシュ。
相手はMHXのラスボスであるオストガロア。けれども、危ない場面なんてなかったし、もしかしたら0分針だって出るかもしれない。
お前の本当の強さはよく分からない。それでも……今回は俺たちの勝ちってことで。
ありがとう。これで俺は前に進めます。
もし、この俺の願いが叶うというのなら――今度はG級で会いましょう。
それじゃ、また。
それは、拘束弾からのラッシュが終わって直ぐのこと。
あのオストガロアから断末魔の悲鳴が上がり、最後の力を振り絞ったオストガロアは天へ向かって瘴龍ブレスを発射。
その瘴龍ブレスは竜ノ墓場の天井を貫き、満ち溢れていた瘴気のようなものすら蹴散らした。
天井が崩れ落ち、積もり積もった骨の雨が降る中、ゆっくりと倒れこむオストガロア。
つまり……クエスト、クリアです。
そして、どうやらその時がやってきたらしい。
最後の最期に放った瘴龍ブレスを見て慌てるご主人と相棒。
「っつーー!」
けれども、そのブレスが安全なことを知っていたあの彼女は、俺の方を慌てたように向いた。
オストガロアが貫き、見えるようになった空を見上げた後、確かめるように……ゆっくりと自分の手を見つめてみた。
いつかのように、鈍器で殴られたような感覚はなかった。それでも……その手は小さな小さなあの手ではなく、確かに俺がよく知っている本当の自分の手だった。
そんな俺を見た彼女は嬉しそうな表情になってから――直ぐに、曇り空へ。
彼女の表情を確認し、もう一度自分の手を見つめてみる。
それは確かに、俺の……人間の姿の俺の手だ。
けれども、そんな手は――薄くなり始めていた。
「――――っ!」
あの時のように……今までと同じように、どうやら少しも待ってはくれないらしい。崩壊を始めた世界の中、叫ぶような誰かの声が聞こえた。
誰かが、俺に向かって手を伸ばしてくれている。
崩れ始めた世界と自分の身体。
そんな中、俺も必死でその手を伸ばした。誰かが伸ばしてくれた、その手を。きっと繋ぎ止めてくれるソレを掴まなきゃって思った。
だから、俺も手を伸ばしたんだ。以前よりもずっとずっと大きくなってくれたはずの手を。
そして、伸ばしたその手が何かを掴むことはなかった。
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