ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第89話~恩返し~

 

 

 真っ白でもあり、真っ黒でもある空間。

 自分の存在すらも曖昧で、今、自分がどんな状況なのかも分からない。

 

 そんな世界で唯一分かるのは、目の前に一匹のネコがいるということ。

 

「うニャ」

 

 そして、そのネコは何処か嬉しそうにそんな言葉を落とした。

 

 オストガロアを倒し、結局俺はまたあの世界から叩き出されることになってしまった。アレだけあの世界を歩んでいこうと決めていたのにも関わらず、だ。ホント、人生うまくいかないものですね。

 ただ……いつもなら、あの世界から叩き出された後は直ぐに、元の世界に戻っていたはず。そうだというのに、今回はこんなよく分からない世界にいる。

 

 自分の状況は全く分からない。

 けれども、何故かやたらと冷静な自分がいて、どうしてなのやら今の状況をあっさりと受け入れることができていた。

 

「久しぶりニャ」

 

 ああ、久しぶり。

 

 ……久しぶり?

 ネコの言葉に対して、自然に溢れてしまった自分のセリフに対して違和感を抱く。

 

 そして曖昧に、朧気に……水面へ落ちた雫の作る波紋のように、自分の中にあったであろう記憶のようなものが広がっていった。

 つまりそれは、この目の前にいるネコと俺が初対面ではないっていうこと。なんとも曖昧な記憶しかないけれど、きっと何度かは会ったことがあるのだろう。そう考えると、先程自然と溢れてしまった自分のセリフにも納得がいく。

 

「君には本当に感謝しているニャ。……ありがとニャ!」

 

 あいよ。どういたしまして。

 

 俺がこのネコのために何ができたのかは……やっぱり、よく分からない。

 もしかしたら、このネコと俺の間で何かしらの約束事をしたのかもしれない。けれども、そんな記憶は曖昧で朧気だ。

 このネコと俺の間で何があったのかは知らない。それは分からないが……まぁ、どうやら俺はきっちりその役目を果たすことができたらしい。それならもう特にいうことはない。

 

「キミのおかげであのハンターさんもまた一歩、前へ進むことができたニャ。ボクは満足ニャ」

 

 あのハンターさん、ねぇ。そのハンターさんってのはやっぱり……ご主人さんのことなのか?

 

 そんな俺の質問に対し、目の前にいるネコは――ニャふと言ってから笑った。

 

 そっか。

 正直まだ分からないことだらけではあるけれど、三度目となるモンハンの世界で俺があの小さな身体となってしまったのは、あのご主人のためでもあるってことなのだろう。

 

 俺があのご主人に対して何ができたのか……その具体的な答えは直ぐに浮かばない。確かに、ネコとなりご主人のオトモなのだからと、頑張ったつもりではある。それで良かったってことなのかねぇ。

 

 ん~、俺がネコの身体になった理由はなんとなく分かったんだが……どうしてあの彼女までネコの姿になったんだ?

 

「……ボクが見たかったからニャ」

 

 何をさ。

 

 

「あの子と同じ姿のオトモが旦那様のために頑張るところを、ニャ」

 

 

 あの子と同じ、姿……?

 

 あの彼女は俺と違い、真っ白の毛並みが特徴的な姿だった。だから、白ネコ。

 

「……ボクじゃ、あの子に“勇気”を与えてあげることはできなかったニャ。むしろ、ボクのせいであの子は臆病になってしまった。自分の中にいる勇気を追いやり、臆病を表に出させてしまったニャ」

 

 それは、何処かで聞いたことのあるようなお話。

 自分の頭の中へゲーム中、何処かで誰かが話してくれた記憶が広がる。

 

「ボクはもうあの子の傍にいることはできなくて、それでも何かをしてあげたくて……そんな時、あのハンターさんがあの子の臆病を何処かへ連れて行ってくれたニャ! それが本当に嬉しくて、そんなハンターさんに恩返しをしたかったのニャ!」

 

 ……ああ、なるほど。ようやっと分かった。

 MH4、4Gの主人公であったご主人。そんなご主人がしてきたこと。ゲームの中、俺が動かしていたキャラとあのご主人は違う人物ではあるけれど、きっときっと重なることもある。

 そういうことなんだろう。

 

 つまり、お前はチコ村にいたあの臆病なオトモアイルーの――

 

「ニャふ」

 

 俺の質問に対して目の前にいるネコはそれだけしか言ってはくれなかった。

 けれども、俺の考えていることは間違いじゃないはず。

 

 つまるところ、三度目となるこのモンハンの世界で俺に与えられた役割は、ネコの恩返しといったもの。なんだってそんな面倒なものを俺に、なんて思ってしまったりもするが……悪い気分ではなかった。

 俺だって、あのご主人に対して何かしらの恩を返したいって思っていたのだから。

 

 ご主人はそのことを知らないが、2000時間近くプレイしたゲームで俺が一番お世話になったのは、1000頭以上狩ったラージャンでも、2000回以上使ったハンマーでもなく、俺の代わりとなってずっと動いてくれていた主人公。つまり――あのご主人だ。

 だから、そんなご主人に少し変わった形でも恩返しをすることができたのは素直に良かったって思えている。

 

 それにしても……じゃあ、俺が白ネコで良かったんじゃないか? あの臆病なオトモアイルーの性別は不明だが、きっとオスだろう。それなら、あの彼女じゃなく、俺が白ネコの方が良かったと思う。そして俺が白ネコになっていれば、あの彼女までネコになる必要はなかった。

 

「キミに白ネコは似合わないニャ」

 

 笑いながら、何処か楽しそうに言葉を落とすネコ。

 さよですか。うん、まぁ、俺も白ネコは似合わないと思うけどさ……

 

「それに、キミひとりだけじゃ寂しいだろうと思ったニャ。ひとりより、ふたりニャ!」

 

 そんなネコの言葉に何かを言い返すことはできなかった。……情けないことではあるけれど、ひとりで歩いていけるほど強くない。

 最初はあの白ネコが誰なのかも分からず、ホント大変だった。でも今となっては、あの彼女が傍に居てくれたことは本当に良かったと思う。

 そのことは感謝……するべきところなのかな? 良い方に考えれば、俺とあの彼女がまたモンハンの世界へ来ることができたのも、このネコのおかげってことなのだし。……たぶん。

 

 

 あー……んでさ、俺ってこの後、どうなるんだ? できればだな、その……あの世界へ戻りたいんだが。

 

「安心するニャ。もう直ぐ。キミはあの世界へ行けるはずニャ!」

 

 そりゃあ良かったよ。

 相棒との約束はまだ果たしていないし、あの彼女がいない元の世界ってのも寂しい。きっと出るであろうモンハンの新作は気になるが……あの世界を歩んでいけるのなら、俺はそっちを選びます。

 

「ただ、えっとぉ……う、うニャ。ちょっとニャ。ちょっとだけキミは遅れちゃうニャ」

 

 え……なにそれ。

 

 んと、つまり俺はオストガロアを倒した時に戻れるってわけじゃない……ってことで良いのか?

 

「うニャ!」

 

 いや、そんな自信たっぷりに頷かなくても……此方は不安だらけなわけですし。

 

「でも、きっとキミなら大丈夫だと思っているニャ。何度も世界を越え、あの世界を何度も救ってくれたキミの物語が良い加減な終わり方をするわけがないニャ!」

 

 根拠も何もあったものじゃない。本当に大丈夫だろうか……

 

 相棒とあの彼女のいる世界へは行けるが、このネコ曰く、ちょっとだけ遅れる。そのちょっとってのはどのくらいなのやら。ニュアンス的にオストガロアを倒してから二日後とかではないだろう。100年後とかなったらたまったものじゃない。

 

「ネコは気まぐれなのニャ!」

 

 それに振り回されている俺の身にもなってほしいです。

 

 とはいえ、きっとこればっかりは仕方の無いことなのだろう。このネコの本当の気持ちまでは分からないが、その小さな小さな手で頑張ってくれたことはなんとなく分かった。

 今までずっとネコの姿をしていたんだ。それなら俺だってネコの気持ちくらい分かるようになる。

 

 なんてね。

 

 

「……流石にふたりも残すのは大変だったニャ。ごめんニャ。ボクにできるのはこれが限界ニャ」

 

 

 気にすんな。

 あの世界を歩ませてくれるってだけで、俺は感謝しているよ。

 

「うニャ! それじゃあ、そろそろお別れニャ」

 

 もうそんな時間、か。

 なんだろう……何て言葉をお前にかけてやれば良いのか分からない。お前と俺との間にある関係がどの程度なのかは知らない。ただ、これでお別れってなると少しだけ寂しいかな。

 

 ま、とりあえず――ありがとな。

 

「ボクこそ、ありがとニャ。もし迷ってしまった時、前へ進んでみるのもボクはいいと思うニャ」

 

 大丈夫、今度こそ迷わず進んでみせるさ。あのご主人がそうだったように。

 俺がご主人にできたことは分からない。でも、俺がご主人から教えてもらったことだけはしっかりと分かる。だからきっと、良い経験だったってこと。

 

「ニャふふ。どうニャ? ネコも悪くないニャ」

 

 ……もしかして、俺がゲーム中のオトモのことを散々バカにしていたことを根に持っていたりするのだろうか。

 いや、まさか、そんな……ねぇ?

 

 ただ、そうだなぁ……うん。当分は遠慮したいところだけど、ネコも悪くはなかったよ。

 

「うニャ!」

 

 でも、やっぱり俺はハンマーが好きかな。

 

 なんて言葉を俺が落とすと、呆れたようにあのネコが笑った。

 この性格ばっかりは変えられないからなぁ。ま、きっとそれほどにハンマーという武器が魅力的ってことなんだろう。

 

 そんじゃ、休憩もできたことだし行くとしますか。

 

 良い言葉は見つからないが、ちゃんと感謝している。

 本当にありがとな。そして、さようなら、だ。

 

「ニャふ、さよならニャ。……ボクにできるのはこれが限界だったニャ。別にクリアする必要なんてないし、無視してくれて良いニャ。でも、この小さなネコの手が借すことのできる最後の贈り物ニャ。だから――頑張れニャ!」

 

 ……うん? なんですか、それ。

 そんな抽象的なことを言われても俺には分からないのだが。

 

 ま、それも行ってみれば分かることか。そうだというのなら進んでみるとしよう。きっと今の俺にはそれくらいが丁度良い。

 

「それじゃ、行ってくるニャ!」

 

 行ってきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 オンラインへ接続します。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの曖昧な世界を抜けて直ぐ――風が吹いた。

 

 自分の様子を確認すると、すっかり見慣れてしまったあの小さな姿ではなく、確かに人間の姿の自分であることが分かった。

 

 顔を動かした時、音が響いた。それは防具と防具とが擦れ合う音。そして、背中にはもう久しく感じていなかったあの重み。

 

 もうすっかり慣れたといっても良いかもしれないが、これが夢なのか現実なのかはやはり分からない。

 それでも、確かなことがひとつ。

 

 此処、モンハンの世界だわ。

 

 

「っと。とりあえず、戻って来ることはできた……のか?」

 

 無事、モンハンの世界へ来ることができたのは良いが、今、自分のいる場所がさっぱり分からない。何処だよ、此処。

 

 風が、強かった。

 

 かなり高い場所にいるのか、周りの景色を眺めてみても、見えるのは広がる雲海ばかり。月と太陽すら同時に見えていることからも、此処が相当高い標高であることは間違いないと思う。

 

 多分、此処は何処かのマップの何処かのエリアなのだろうけれど……こんな場所知らん。強いて言えば塔の頂上に近いが、MHXにあるのは塔の秘境だけだったはず。それにエリア全体が濡れているし、なんだかよく分からん赤い閃光が地面を走っている様子は塔の頂上って感じじゃない。

 

 ん~……じゃあもしかして、新マップなのか? その可能性はかなり高そうだ。これが、あのネコの言っていた最後の贈り物ってやつなのかねぇ。クリアがうんぬん言っていたし、なんか違う気がするけど。

 

 

 いくら考えてみたところで、分からないものは分からない。

 そんなわけで、とりあえず散策してみることに。モドリ玉でもあればもしかしたら、BCへ行くことができたのかもしれないが、残念ながら持ってきていません。調合書に秘薬調合素材まで持ってくるともうポーチはいっぱいだ。

 

 地面や壁に走っている赤色の閃光が気になりつつも、何か拾えそうなアイテムを探す。そして、クレーターのようなものの中心に突き刺さっている何かを見つけた。

 はて、これはなんだろうか。こんなもの俺は初めて見たぞ。

 

 拾ってみようとも思ったが、なんだか怖いのでとりあえず止めておくことに。

 うーん、とはいえ他に拾えそうなものもないし、此処以外のエリアへの行き方も分からない。いやぁ、流石にこんな高い場所から飛び降りるのはなぁ……

 

 さてさて、どうしたものかと思い、空を見上げてみる。

 

 そして、見上げた空に見えた赤いひとつの点。

 

 なにアレ。空にあるオブジェクトなんて飛行船くらいし……あら? なんだか俺の方へ近づいてきて……ちょっ! まっ! ホントにこっちへ来るんかい!

 

 空に赤い点が見えると思っていたら、その点は一気に大きくなり――

 

 

 俺からローリング4回ほどの距離へ着弾した。

 

 

 ……さて、つまりはアレ、だよな。

 あのネコの言っていた贈り物ってのは――これか。

 

 初めて見るマップの初めて見るエリア。そして……初めて見る相手。

 

 音すらも置き去りにする速さで着弾したソレは、ゆっくりと起き上がってから俺の方を向いた。

 

 頼りになるいつもの仲間はいない。ソロ。ハンマー。深く考えないでも分かる。状況はよろしくない。

 

「……初見モンスは本当に苦手なんだけどなぁ」

 

 それでも、ま、やるだけやってみましょうか。

 

 

 

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