ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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エピローグ

 

 

 かなり苦戦したものの、どうにか名前も知らないモンスターを倒すことはできた。それは良いんだ、それは良いのだけど――

 

「こっからどうすれば良いんだろう……」

 

 いやぁ、困りましたな。

 とりあえず、倒したモンスターからは有り難く素材を剥ぎ取らせてもらいました。初見ってことが大きいけれど、相手はかなり強かった。そうだというのなら、武器や防具もなかなかの性能なはず。まぁ、その装備を作るためにはコイツとは何度も戦わないといけないわけですが。

 ……てか、あれ? そもそもコイツを倒してしまって良かったのか? 目の前に現れたものだから何の疑問も持たずに戦ってしまったが、あまりよろしいことじゃなかったのかも……ま、まぁ、やっちゃったものは仕様が無い。もしギルドから怒られるようなことがあっても、命の危機だった、とか言えば大丈夫だろう。……たぶん。

 

 んでだ。モンスターも倒したことですし、俺は帰りたいのですよ。

 けれども、その帰り方が分からない。他のエリアに通じてそうな道は見当たらないし、モドリ玉も持ってきていない。

 いかにも此処から飛び降りてくださいね、っていう感じの場所はあるのだけど……今俺のいる場所ってすっごく高いんです。今、俺がいるのは雲よりも上なんです。アタリハンテイ力学のあるモンハンの世界といえども、流石にそこから飛び降りるのは怖い。

 観測船でも浮いていてくれれば良いのに、それも見当たらず、見えるのは太陽と月だけ。ホント、どうすっかね。

 

 

 此処で待っていれば誰か来てくれたりしないだろうか? なんて淡い期待を抱きつつ、暇を潰すため、エリア内をもう一度探索してみることに。

 多分アイツが原因なのだろう、壁に走る赤い線をボーっと見たり、エリア内に落ちているアイテムを拾ったり。

 そんな現実逃避の探索で拾えたのは龍殺しの実となぞの骨くらいです。すごくいらない。あの赤い線は……なんなんだろうね、これ。

 

 いやはや……これはもうアレですね。いよいよ覚悟を決めて飛び降りなきゃいけない頃なんでしょうね。

 

 そんなわけで5分ほど目を逸らし続けていた、此処から飛び降りられますよ、って感じの崖へ向かうことに。

 そして、その崖から少しだけ身を乗り出し下の様子を確認。

 

「うわぁ……下が見えない」

 

 雲しか見えなかった。もう泣きそうだ。

 たぶん、此処から飛び降りるのが正解だとは思うんだ。思うんだけど……この高さはいくらハンターでもダメな気がしてならない。

 ようやっとこの世界へ戻って来て、滅茶苦茶強いモンスターを倒したってのに、落下死は笑えない。

 でも、このままじゃ先に進めない。

 

「よ、よーし、飛び降りるぞ。こっから飛び降りるからな!」

 

 誰に当てるでもなく、自分へ言い聞かせるような言葉を落としてみる。この臆病者が少しでも前へ進むことができるよう。

 

 ……いや、でもやっぱり怖いからもう少し様子を――なんて本当に情けないことを考え始めた時だった。

 

 

「……えいっ」

 

 

 後からそんな声。

 そして、トン――ってな感じで誰かが俺の背中をやや強めに、具体的にいうと俺を崖から突き落とすくらいの強さで押してくれた。

 

 そうなると……まぁ、あれだ。もう落ちるしかないのですよ。

 

 いきなり誰かの声が聞こえ、いきなり誰かに背中を押され、気がつけば俺はもう空中。

 本当に意味が分からなかった。先程倒したモンスターが急に現れた時なんかよりも驚いた。

 

 でも、アレは……今聞こえたあの声は――

 

 

 重力を受け、自由落下をし続ける俺の身体。

 眼下に見えるのは真っ白な雲ばかり。その先広がる世界は、まだ見えてこない。

 

 風を切る音がうるさかった。

 

 あの雲の先には、これからの俺の未来には――どんな世界が広がっているのだろう。今はまだ何も見えてこない。だからこそ、面白いのかもしれない。

 これまでの人生で、最も長い時間の自由落下中、俺が考えていたのはそんなことだった。

 

 

 ――空から女の子が降ってきた。

 

 

 なんて言葉がくれば、きっときっと素敵な物語の始まる合図。

 けれども、降ってくるのが俺みたいな野郎だってなると……残念ながら期待できるような物語ではないだろう。

 

 ま、それくらいが丁度良いんだけどさ。

 

 今までと違い、もう元の世界へ戻ることはないだろう。そう考えると、ようやっと物語が始まってくれたんじゃないかって思う。

 最初なのだし、少しくらいはカッコつけた方が良いのかもしれない。とはいえ、そんなことが俺に似合わないことくらいよくよく分かっているわけですよ。

 そうだというのなら、何事もなかったように、いつも通りの自分でいるのが一番なんじゃないかな。

 

 

「あっ、笛ちゃん。上の様子、は……どうだっ……」

 

 

 かなりの滞空時間だったからどうなることかと思ったけれど、無事着地に成功。アタリハンテイ力学万歳。

 そして、着地して直ぐに誰かの声が聞こえた。

 アレだけ長い時間落ち続けたのにも関わらず、未だ雲の中。そんなこともあって聞こえた声の主の姿ははっきりと見えてこない。

 それでも、それが誰なのかくらいは分かった。だって、それくらいの時間を一緒に過ごしてきたのだから。

 

 

「……っと。や、久しぶり。もしかして待った?」

 

 

 せっかくの再会なんだ。洒落た言葉のひとつでも落とすことができれば良い場面。そうだというに、俺の口から落ちたのはそんな言葉だった。

 こんなことになるのなら、何かセリフでも考えておけば良かったのかもしれない。とはいえ……まぁ、そんな言葉だってこの俺には似合わないのだろう。そうだというのなら、これくらいが丁度良い。そう思うことにしておこう。

 

 そんな俺の言葉を向けた相手は、ポカンと口を開けながら、じっと俺の顔を見つめた。

 

「……ううん。大丈夫。そんなに待ってないよ」

 

 そして、そんな言葉。この世界で俺が始めてパーティーを組んだ相手は、くしゃりと顔を歪めながらも――笑ってくれた。

 

 ……そっか。それは良かった。いつもいつも君には待たせてばかりだったもんな。

 俺がこの世界へ戻ってくるまでどれくらいの時間がかかってしまったのかは、まだ分からない。また長い時間待たせてしまったのは確かなこと。それでも、俺なりに精一杯頑張ってみたつもりです。

 だからまぁ、許してもらえると嬉しいかな。

 

 聞きたいことだったり、聞かなきゃいけないことはたくさんある。けれども、今はこうしてまた再会できたことを喜ぶ場面なんだろう。

 

 

 泣き始めてしまった相棒さんを前にどうしたものか、困っていると、俺が立っている直ぐ後ろに誰かが着地した音が聞こえた。

 

「……あのバルファルクは貴方が?」

 

 担いでいる武器は珍しく狩猟笛ではなく、ライトボウガン。

 そんなあの彼女が再会後、最初に落としてくれた言葉がそれだった。

 

 ……バルファルク。それがたぶん、あのモンスターの名前なんだろう。

 できることならもう一度戦いたいものです。

 

「うん。戻ってきたらさ、なんかいたから戦ってみたんだ」

 

 この状況を察するに、このふたりはあのバルファルクを探していたってところだろう。それを俺が倒してしまったわけだけど……まぁ、やっちゃったもんは仕様が無い。

 それにどうせ、このふたりは俺がまだ見たこともない多くのモンスターと戦っていたはず。だから、今回くらいは俺がいただいてしまっても良いだろう。

 

「へ? え、バ、バルファルク、倒しちゃったの?」

「……そうみたい。この上のエリアで倒れてた」

 

 本当に大変だったんですよ? 初見モンスターはとにかく苦手なんです。

 

「あーえー……そ、そっか、それじゃあ今回のクエストは完了だね! 隊長さんにも報告しないとだ」

 

 隊長さん? 誰のことだろうか。分からないことが多すぎる。その分、楽しめるってことなんだろうけれど、今は何が何やら……って感じです。

 てか、そもそもとして、此処は何処で、このふたりは此処で何をしていたのだろうか。

 

「……それじゃ、龍織船に戻ろ」

 

 龍織船。また知らない言葉。さっきから完全に置いてかれてます。

 ホント、俺はどのくらいの時間この世界から離れていたのやら……

 

 

 

 

 その後も何が何だか分からないまま、ふたりについていくと、気がつけば大きな飛行船の上にいた。どうやら、これが龍織船ってものらしい。

 飛行船にはそれなりにお世話になったけれど、此処まで大きな飛行船は初めて見る。もしかしたら、此処がMHX続編の拠点だったりするのだろうか? まぁ、それを確かめる方法はないんだけどさ。

 

 俺たちがいたマップ(遺群嶺というらしい)から龍織船に戻って直ぐ、ふたりが隊長さんと呼んでいた人物へクエストの報告を行った。

 それなりに有名だったらしい俺が急にこの世界へ戻ってきたことや、そんな俺がバルファルクを倒してしまったせいで、かなりバタバタとしてしまったが、隊長さんも喜んでいたし、結果としては良かったっぽいです。

 なんだかよく分かんないけれど、この龍織船にとってあのバルファルク討伐は大きな一歩となったんだってさ。

 そのバルファルク討伐のため、あのふたりは頑張っていたらしい。

 逃げ足が早く、直ぐにどっか行っちゃう、とあの相棒はバルファルクに対し愚痴を溢していた。……きっと相棒にとってバルファルクはあまり強くないモンスターなんだろうなぁ。

 

 そして、相棒と彼女のふたりがどうしてこの龍織船にいるのかって話だけど、どうやらこの龍織船と行動を共にしている、集会酒場っていう場所で活動をしているからだそうだ。

 その集会酒場だけど、此処最近になってできたものらしく、まだ所属しているハンターは少ない。けれども、集会酒場が主に受け付けているクエストはG級。そんなわけで実力のあるこのふたりが配属……というか、ほぼ無理やり此処に移ったと言っていた。あと、ついでに俺の所属も大老殿からこの集会酒場になっていた。

 戦線で頑張っていたハンターが抜けてしまった大老殿の未来が心配だ。いや、まぁ、俺はほぼほぼ名前だけの登録だったわけですので、戦力にはなっていなかったわけですが。

 

 

 そんなことをいっきに説明されたわけだけど……正直、まだよく分かっていません。いきなり多くのことを説明されてもついていけない。

 とはいえ、ゆっくりとでも良いからこの環境に馴染んでいければ、と思う。焦る必要はない。今度こそ、時間はあるのだから。

 

 因みに、オストガロアを倒し俺が消えてから、またこの世界へ戻ってくるまでに約半年の時間が経過していたらしい。

 あのネコの言葉もあり、そもそもあのふたりのいる時間に戻れるのかすら分かっていなかったんだ。その程度の時間なら問題なしです。

 

 なんてことを俺が言ったら――

 

「ふふっ、これで私の方が年上だ」

 

 だなんて、あの彼女に言われてしまった。

 元々、あの彼女には負けっぱなしなわけだし、今更って感じもするけれど、これで更に差が開いてしまいました。ホント、遠い存在だ。

 

 

 

 

 バルファルクを倒したことの報告をするため現在、龍織船はドンドルマへ向けて空を飛んでいる。

 完全に日が沈んだ今、夜風がやたらに涼しく感じた。

 

「あっ、ここにいたんだ。どう? 少しは慣れた?」

 

 バルファルクとの戦いもあって身体は疲れているはず。けれども、どうにも自分の意識はフワフワと浮いてしまい、寝ようにも寝られなかった。こうしてこの世界へ無事戻って来られた実感がどうにも湧かない。

 そんなわけで、龍織船の船首に腰掛け、夜空をボーっと眺めているとそんな声。

 

「流石にまだ慣れないかな。何が何だか……ってのが本音だよ」

 

 声の聞こえた方へ顔を向けることなく、元の世界じゃまず見ることのできないあの夜空へ言葉を落としてみた。

 

 そんな俺の隣へ、誰かが座った。

 

「……そっか。まぁ、そりゃあそうだよね。私だって、君がこうして戻ってきてくれた実感が湧かないもん」

 

 風を切る音が聞こえる。

 

 少し手を伸ばせば届くんじゃないかってくらいの星空が、俺の直ぐ上に広がっていた。それは何度見ようと飽きることはなく、ずっとずっと眺めていられるもの。

 昔は、そんな景色をあと何回見ることができるのかって思っていた。でも、もうそんな心配はしなくて良い。

 

 ……やっぱり、実感なんて湧かないよなぁ。

 

 相変わらず、不安だらけの人間なんです。そんな人間ではあるけれど、もう止まっているのも良い加減飽きてきたところだ。

 本当に時間はかかってしまった。相手はもう待ってもくれていないかもしれない。

 

 

「……俺さ」

 

「うん」

 

 

 お互いの顔を見ることもなく落とし合う小さな言の葉は、夜風に流れ……直ぐに消えた。

 

 最初に交わした約束からもうどれくらいの時間が経ってしまったのかも分からない。そのことには申し訳なさでいっぱいだ。そもそも今更、あの約束を果たす意味なんてないのかもしれない。

 

 それでも、君に伝えなきゃいけないことが……伝えたいことがあった。

 

 

「この世界の人間じゃないんだ」

 

 

 ゆっくりでも良い。

 カッコ悪くて構わない。

 

 それでも良いから……止まってしまった物語をもう一度始めてみようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 あれから、俺と彼女たちとの関係で何か変わったかというと……特に変わったことはなかったりする。結局のところ、俺は不器用にハンマーを振り回すことしかできないし、あの相棒は不安そうに……でも何処か嬉しそうに隣に立ってくれているし、あの彼女は相変わらずの自由っぷり。

 

 

「うへぇ……ラ、ラオシャンロンって思っていたよりずっとおっきいんだね……あれ、ホントに倒せるの?」

 

 

 4度目の訪れとなるこのモンハンの世界。

 慣れてしまったといっても良いくらいではあるけれど、今回は頼りになる前情報は一切無し。難易度高いなぁ……

 

 

「……初めて戦うから楽しみ」

 

 

 ひとりでこの世界を歩んでいけるほど、俺は強くない。そんな俺が、此処まで来ることができたのは……この彼女たちのおかげなんだろう。

 恥ずかしいから、そんなこと言えたもんじゃないんだけどさ。

 

 

「あら? そうだったんだ。ん~……まぁ、俺もラオは久しぶりだし、どうせモーションだって変わってるだろうし、初見みたいなもんだけど」

 

 

 今までが上手くいっていたとは言えない。それに、これからは上手くいかないことだらけだろう。

 やっぱり未来なんて見えないけれど、迷惑をかけてしまうと思う。足を引っ張ってしまうと思う。壁にぶつかる度、止まってしまうと思う。

 

 

「えー、何それ。不安しかありませんぞ……」

「……大丈夫、失敗してもちゃんと謝れば許してもらえると思う」

「ラオは来るまでもう少しかかるし、謝罪の練習でもしとくか」

 

 

 つまりは、どうかこれからもよろしくってことで。

 

 

「失敗すること前提で話すのやめようよ!」

 

 

 心配いらないさ。世界を3度救い、世界を4回越えたところで離れることはなかったんだ。ちょっとくらいの困難なんて敵じゃない。

 

 

「ま、大丈夫だろ。サクっと倒して帰ったらパーっと打ち上げでもしてやろうぜ」

「あっ、結局いつも通りなんだ」

「……今日は私もビールにする」

 

 

 例え迷いながらだとしても胸張って、自信持って行けば良い。やるだけやって、できるだけ頑張って、ダメならそれで。それくらいで良いだろう。

 それにやっと此処まで来たんだ。それならもう楽しんだ者勝ち。

 

 さてさて、それじゃ――

 

 

「っしゃ! 行くかっ!」

「おおー!」

「おー」

 

 

 ひと狩りいくとしよう。

 

 

 







と、いうことでエピローグでした
随分と長くなってしまいましたがこれで本編は完結となります
読了、お疲れ様でした

とはいえ、色々と書き残していることや、どうせなら丁度100話で終わらせたいと思っているため、あと3話、後日談的なものを投稿する予定です
のんびりゆっくり投稿していこうかなと思っています
この作品のあとがたりはソレを投稿し終わってから書く予定です

それでは、また何処かでお会いできることを楽しみにしています

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