偽書 ロックマンゼロ   作:スケィス2

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第肆話 Crazy Train ~暴走列車~

 序

 

 

 人類最後の理想郷、ネオアルカディア。

 幾多の災厄を生き延びた人々の多くは、己が身をに降りかかった災禍を忘れるかの様に造られた楽園に閉じ籠り、蜃気楼の如き繁栄を享受していた。

 しかし、閉鎖された環境は人間の尊厳など、いとも簡単に腐らせてしまう。それは、生きながら死んでいるに等しい事だった。

 事態を重く見た時のネオアルカディア政府は、都市を覆う忌まわしき倦怠を払拭すべく、あらゆる手を尽くした。

 が、しかし、レプリロイドと人間からそれぞれ優秀な人材を集めて構成された最高評議会――人間側の役人は既に渦巻く倦怠に浸かりきり、今更逃れられぬ身。そんな彼らが如何に知恵を絞った所で名案が浮かぶ筈も無く、かといってレプリロイドにしても――全てではないが――人間の事を正しく理解しきれているとは言い難かった。

 結局、どの方策も焼け石に水と終わる事になり、そのまま数十年の時が流れた。

 

 

 

 ネオアルカディアから遠く離れた地下ホームもその時の名残の一つであった。

 巨大レジャー施設の建設計画の一部として開通したものの、直後に計画自体が頓挫した為に、いつの間にか人々からも忘れ去られた過去の遺物。今では、数本の輸送列車が通過するだけだった。

 その日、物々しい空気が彼の地に満ちていた。

 朝方早く、ホームに滑り込んだ装甲輸送列車。厳重な警備体制によって守護された貨物車両に、一つのコンテナが積み込まれる。通常のモノよりもかなり小さいそのコンテナは、列車の中央に位置する重装車に納められた。

 その周囲を防衛仕様の重装パンテオン部隊が固めている。素人目に見ても、隙が無いのは明らかだ。例え、歴戦の勇士であっても正面から破るのは難しいだろう。

 だから――彼は考えた。

 天井から列車を見下ろす仮設照明を吊るす梁の上、最も濃い闇に身を浸す紅のレプリロイド――ゼロはホームを隅々まで見渡した。

 セルヴォの作ったジャミングマントを纏う姿は、まるで羽を休めるコウモリの様だった。実際、単騎故に出来る事が限られ、日陰を渡るしかない身は正しく光を厭う獣と言うしかない無様なのだろう。だが、元よりゼロはそんな些細な事を気にする性質では無かった。これは記憶の有無と言うよりは、生まれ持ったモノなのだろう。

 正面が駄目なら……

 視線を滑らせたゼロは、最後尾を注視した。

 

 

 

 

 

 

 

 壱

 

 

 それは、一週間前の事だった。

 百年前の旧跡を流用したレジスタンスベース中層区画、ブリーフィングルーム。

元からあったモノをそのまま流用しただけが殆どのベースにおいて、その部屋も同様に百年に渡る時間の残滓を限られた空間に堆積させていた。

 あちこち錆の浮いた入口のドアが、ぎこちなくスライドする。

 まず始めに入室したのは、レジスタンスのユニフォームでもあるグリーンの装束に身を包んだレプリロイド戦闘部隊コルボーチームのリーダー、コルボーだった。

それから紅のアーマーを纏ったレプリロイド――ゼロとハニーブロンドの小柄な人間の少女シエル、最後に技術者兼参謀を勤める学者然とした風貌の男性型レプリロイド――セルヴォが続く。

「これで全員、かな」自分以外が着席したのを見渡してから、セルヴォが見た目に違わぬ穏やかな所作で最後に着席した。

 そうして集まった面々は、時間も惜しいといわんばかりに早速ミーティングに入った。

 上座にはシエルが収まっている。誰が決めたと言う訳ではないが、自然とそういう事になっていた。強いて言えば、彼女がレジスタンス組織の創設者の一人であり、リーダー格でもあるからだろうか。

 その後、既に大まかに固まっていた作戦の細部を詰める議論が行われたが、慎重論を提示するセルヴォとそれに反論するコルボーとがぶつかり合ってなかなか進展せずにいた。

「ダメだ。危険すぎる」

「んな事言ってられるか!」

 事の発端は、レジスタンスの財務と物資の管理を取り仕切るロバートチームからの報告だった。

 隊長ロバートの個人的なツテによって、近々ネオアルカディアによる極秘輸送作戦が開始されるらしい事が判明した。しかも、積み荷が未確認のサイバーエルフらしいとの情報もある。見過ごせないと断じたシエルは、すぐに救出作戦の立案に取りかかった。が、慢性的な人手不足に悩まされているレジスタンスに動かせる人材は限られている。

 結局、ある程度自由なコルボーチームとゼロ、それに参謀であるセルヴォとオペレーターを勤めるシエルを加えた急拵えの救出部隊が結成された。

 救出部隊の生命を預かるセルヴォとしては、作戦を確実に成功させる為にギリギリまで状況を見極めるべきだと主張するが、コルボーは時間的余裕が無いのを理由に強行策を訴えている。

 どちらの意見にも一応の理がある故に、いつまで経っても着地点を見出だせずにいた。

 そんな膠着した現状を見かねたのか、ゼロが両者の間に入って口を挟んだ。

「俺が行こう」

 その場にいた面々がゼロの提案を理解するのに、数瞬程かかった。構わず、ゼロは続ける。

「セルヴォの言う通りギリギリまで見極めた後、俺が一人で仕掛ける」

「危険だ!」

「本気か、ゼロ?」

 思わず口を揃える二人。

 強固な護衛体制が敷かれた輸送列車への単騎突撃。

 死にに行く様なモノなのは、馬鹿でも解る。が、それで意見を翻すゼロではない。

 金の髪の狭間に揺れる瞳の光が、強い意思を訴えている。

その時、コルボーらがヒートアップし始めた頃から黙って事を見守っていたシエルが、深く溜め息を吐いた。何かを堪えているかの様な眼差しを湛えて、ゼロに頼み込む。

「……行ってくれる?」

 揺れる瞳を正面に据え、シエルは絞り出す様な調子で、告げた。

 黙したまま、ゼロは首肯した。

 

 

 

 

 

 

 弐

 

 

 そして、作戦決行の時が来た。

 何とか監視の目を掻い潜ったゼロは列車に潜り込むも、予想以上に隙の無い警備体制だった為に、当初の予定よりも大分離れた最後尾車両にに追いやられてしまった。薄暗い貨物室は人間であれば多少難儀だったろうが、レプリロイドであるゼロには、さしたる問題では無かった。

 さて、問題はここからだ。現時点で予定を大幅に逸脱している。こうなると、サイバーエルフを諦めるという選択肢も出てくる。

 だが――

 ゼロの脳裏に、少女の儚げな横顔が過る。

 ゼロは今回の作戦の内容を電子頭脳内の記憶媒体から引き出し、ヘルメット内のホロカメラで虚空に投影した。

 レジスタンスのバックヤードが作成した列車内部見取り図の虚像が出現する。

 実際の車両数は、一致している。が、流石に内部の情報はほとんど入手出来なかった為に、同型の車両を参考に作り上げた予想図は些か頼り無かった。

 だとしても、既に賽は投げられたのだ。後は進むしかない。

 

 

 

 先頭に近づくにつれ抵抗が激しくなっていく。屋根を伝えば空中戦仕様のパンテオンまで出張ってきている。さすがのゼロでも分の悪い状況だった。

 取り敢えず、物陰に退避してサポートを要請しようとしたが、妨害されたのか通信が繋がらない。

 何が起こっている?

 

 

 

 一方、列車を後方から追跡する形で走るのは鋼鉄の重騎ライドキャリアー。牽制の為に急遽取り付けた旧式の火砲で、断続的に列車へ砲撃を加えている。

 申し訳程度の広さしかないバックキャリアに押し込まれたコルボーチームは、密かに制作者であるセルヴォを恨んでいた。曰くライドアーマーのパワーとライドチェイサーの機動性を両立したマシンだとの事らしく、本来はあまり期待するべきではないのだろうが、居住性に関してはもう少しどうにかならなかったのか?

「覚えてろよ……セルヴォ」

 辛苦を刻みつつも穏やかさを湛える古樹の微笑を思い浮かべ、ささやかな復讐を誓ったコルボー。

 その時、狭いスペースを更に狭くしていた通信及びレーダー機器の一つが異変を察知して警告音を発した。

「隊長ッ!」

「どうしたッ!」

「通信回線が全部潰されましたッ!」

 キャリア内のコルボーチームに動揺が走った。

 どういう事だ。コイツ(ライドキャリアー)の通信機能はネオアルカディアの妨害を想定して強化しているんじゃないのか?

 思わず悪態を吐くコルボー。

「クソッ……ホントに恨むぜッ!」

 

 

 

 

 

 

 参

 

 

 先頭から二両目まで到達すると残存戦力を一点に集中しているのか、護衛の密度が後部の比では無かった。だが、ゼロは冷静に状況を見極め、最適な行動へ速やかに移った。

 ガネシャリフから抽出したデータによって、ゼロの戦力は飛躍的に上昇した。強化した緊急加速デバイスを搭載したダッシュパーツで敵をすり抜け、新装備のマルチロッドとシールドブーメランを駆使して残らず粉砕していく。

 その姿は、血染めの鬼神の様だった。

 

 

 

 門番の様に立ち塞がっていた重装甲レプリロイドを倒して機関部へと踏み込んだゼロは、シャッターの向こうに広がる光景に圧倒された。

 その空間の半分を、巨大な脳髄が占領していた。否、正確には極めて有機的な機械群と言うべきか。これらが列車全体の機能を制御しているのだろう。道理で、この列車内に居るのが戦闘用レプリロイドばかりなワケだ。

 そして、何より目を引くのは巨大脳髄の中央部に埋め込まれた『眼』である。

 よく見ると、それはパンテオンの頭胸部だった。他のレプリロイドならば兎も角、エックスをベースにしたパンテオンの性能ならば、これだけの代物でも制御出来ると言う訳か。奇妙な感覚に陥りつつも、ゼロは納得した。

 その直後、脳髄が不気味な鉄の咆哮を上げた。車両全体が身動ぎするかの様に振動する。瞬後、天井が割れて一面を覆う針の群れが露になる。床にも仕掛けがある様だが、わざわざ付き合ってやる義理はない。

 ゼロはフットパーツを全力稼働させて、機械仕掛けの巨大脳髄へと疾走した。が、当然敵がそれを許すハズは無い。再び車両全体を震わせる咆哮が上がると、床が勢いよく競り上がって針天井へと伸びて行く。

 ジグザグに移動して、それらを回避したゼロを今度は熾烈な火炎放射が襲う。

 部屋全体に張り巡らされたトラップと、強力な武装。そうやって敵を駆逐するのが、この巨大脳髄の戦法なのだろう。冷静に判断したゼロは跳躍して焔を凌いだ。

 それからは、泥仕合の様相だった。互いの攻撃が次々といなされ、両者共決め手を打てずにいた。

 限定された空間故にゼロは存分に立ち回れず、パンテオンコアの方も動きの素早い敵を捕捉しきれていなかった。

 しかし、そんな状況でも、ゼロはパンテオンコアの弱点を見破っていた。

 それは、中枢として組み込まれたパンテオンヘッドだった。

奴を排除すれば、この部屋の仕掛けは止まるだろう。上手く行けば、列車そのものが止まるかもしれない。

そうなれば、サイバーエルフ救出も用意になる。

 再びゼロは攻撃を仕掛けた。だが、周囲には強力なバリアフィールドが展開されており、並の攻撃ではパンテオンに届きはしない。

チャージショットですら減退して威力が落ち、決定打にならない。

 一見、何処にも死角がない様に見える。が、ほん一瞬だけバリアフィールドが消失する時があった。

 それは、火炎放射器を使用する僅かな瞬間だった。

自らの焔に焼かれない為、一時的にバリアを解かねばならないのだろう。

 時間にすれば、ほんの数秒。だが、それだけあれば充分であった。

 せり上がる床と新たに現れた無数の銃火を掻い潜り、巨大脳髄の目の前に躍り出たゼロ。

 それを狙ってか、火炎放射がゼロを呑み込まんと迫る。

 灼熱の業火をシールドブーメランで受けきると、ゼロはフルチャージしたバスターの銃口を中枢部に向けた。

 迫る破滅の気配から逃れようとしているのか、蠢くパンテオンコア。

 揺らぐ感情を底に沈めた無機質な黒瞳に撃つべき敵を捉えて、ゼロはフルチャージバスターのトリガーを引いた。

 

 

 

 巨大脳髄の残骸を越えた先――先頭車両の貴賓室で、ゼロは豪奢なテーブルの中央に鎮座した特殊鋼カプセルを発見した。淡い光を放つ小さな存在が、窮屈な鉄の鳥籠の中で震えている。

 駆け寄ったゼロをネオアルカディアの一員と思っているのか、相当怯えた様子を見せたが、ゼロの手によって解放されると、サイバーエルフは嬉しそうに辺りを飛び回った。

 貴賓室を出て操縦室を覗くと、中はもぬけの殻であった。恐らく無人制御だったのだろう計器が、無茶苦茶な数値を表示している。

 どうやら、パンテオンコアを倒した事によって制御不能に陥った様だ。

 

 列車が大きく揺れた。

 

 窓を見ると、屋根から振り落とされていくレプリロイド達の姿が見える。

 どんどん加速している。このまま地面に激突すればただでは済まない。前方を見ると、丁度切り替えポイントを通り過ぎる所だった。

 ――この先は、深い断崖だったはず。

『自爆装置が作動しました。乗員は直ちに……』

 列車の自爆装置の作動を告げる無機質なアナウンスが流れる。

 サイバーエルフを連れて脱出しようとするが、咆哮する車両がゼロのセンサー類を刺激した。人で言えば、総毛立つ感覚と言うべきか。

 

 奴は……パンテオンコアはまだ生きている!

 

 中枢を破壊したハズ――と言いたいが、こうもセンサー類が異常を訴えている以上、嫌でも納得するしかない。となれば、自爆装置も奴の仕業か。

 兎に角相手をしている暇は無い。ゼロはサイバーエルフと共に、脱出路を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 肆

 

 

 小爆発を起こす地獄行きの車両。何事か、とコルボーはキャリアから身を乗り出した。

「ゼロ……」

 未だあの場所にいる仲間の事を案ずる。

 どうすれば良いのか必死に考えて、周囲を見回したコルボーはあるモノを発見して我知らず口の端を吊り上げた。

 

 

 

 鮮烈なる光刃が、襲い来る鋼鉄の兵士を切り裂く。

 ゼロは、後方から断続的な振動が伝わってくるのを感じ取った。

 これは……爆発か?

 少しでも証拠を隠滅しておく為に先に細かく砕いておいて、それが終われば今度こそ跡形も無く爆発させるつもりなのだろう。用意周到だが、積み荷がサイバーエルフだった事を考えれば当然の事か。

 執念とも言える執拗さだが、それよりも、この期に及んで足止めしようとするレプリロイド達にゼロは些か手を焼いていた。

 このままでは自分達もただでは済まないのに――そこまでしてネオアルカディアに忠誠を誓う必要がある?

 一瞬の迷いだった。が、同時に大きな隙でもあった。敵の攻撃をまともに喰らったゼロは、吹っ飛ばされて連結部のドアに叩きつけられた。

 心配そうにサイバーエルフが、ゼロの周囲を飛び回る。

「大丈夫だ」

 ダメージは軽い。問題は無い。

 いずれにしても、もう迷っている暇は無い。立ち上がってセイバーからバスターに持ち替えたゼロは、敵の頭に照準を定めて引き金を引いた。

 頭部を失ったレプリロイドは、ゆったりとした動作でうつ伏せに倒れた。

 残骸の向こう側の車両から更なる増援がやって来たのを見たゼロは、背後のドアを開けようとした。が、厚い特殊合金で覆われた扉は厳重にロックされていてビクともしない。

 迫る敵を前に覚悟を決めたゼロは、正面突破を敢行しようとしてセイバーを構えた。

 車両の壁が弾けたのは、その時だった。

 飛び散る破片の先――穿たれた大穴の向こうに何かが見えた。

 それは、巨大な大砲を構えたライドキャリアーであった。

「行くぞッ!」

 サイバーエルフと共に、ゼロは大穴から跳んだ。

 ライドキャリアーがそれに合わせて接近して来るのが見えた所で、レプリロイドとしての直感――人間で言えば、第六感と云うべき感覚――がゼロの奥底で警鐘を鳴らした。

「先に行け」

「――!?」

 戸惑うサイバーエルフを押し出すと、ゼロは身体を崩れ行く列車に向けた。

 次の瞬間、何者かが天井を突き破って現れ出でた。

 それは、朽ちかけたボディを蛇のようにうねるコードで補ったパンテオンコアであった。最早、どういう理屈が働いているのかも解らず、執念と云う他無い有様だが、ただ一つ理解出来る事がある。

 何があろうと、奴は俺の敵だ。

 両手のバスターを乱射するパンテオンコア。

 光弾の嵐の中、ゼロは両手で構えたバスターを半壊したレプリロイドの頭部に向けた。

 今度こそ、終わりだ。

 ゼロは、バスターの重い銃爪を引いた。

 

 

 

 着弾した瞬間、あまりの衝撃故に列車の車体が爆ぜると共に大きく傾いた。

その時ばかりは豪胆で通っているコルボーですら、流石にヤバいと背中に冷たいモノを感じた。

 ゼロが脱出出来る程度の穴を開けられれば儲けモノだった筈、なのだが……

 同じく眼を丸くしているのコルボーチームの一人が、呆然と呟く。

「やっぱ、コイツの大砲で脱出口作るなんンて無茶だったんじゃ……」

 苦虫を噛み潰した様な顔で、コルボーはライドキャリアーを見上げた。無骨な大砲を構える機械仕掛けの鉄巨人は、半壊した燃え盛る列車を無機質な眼差しで見つめている。

 正直言って、手に余る代物である。

 ――ホントに恨むぜ、セルヴォよぉ。

 頼りになるが、些か危なっかしい頭脳担当の事を思い、コルボーは頭を抱えた。

「隊長、ゼロだ!」

 俄に飛び込んだ部下の声に振り返ると、大穴の空いた列車の屋根の上に紅い装甲のレプリロイドが立っている。

周りを飛んでいる光は、サイバーエルフか?

 取り敢えず、難しい事は後回しだ。

「――よし、ゼロを回収したら、さっさとずらかるぞ。急げ!」

「隊長、アレ!」

「なッ!?」

 再び車両を見たコルボーは、新たに出現したモノを見て絶句した。

 蛇の様な、龍の様な……化け物じみた風体のレプリロイドは、ゼロ目掛けて両手のバスターを向けた。

「――急げッ!」

 コルボーは、操縦士に向けてがなった。

「やってますよ! でも、あんなんがいるんじゃ……」

「隊長、コイツの大砲で――」

「駄目だッ!」

 ライドキャリアーのキャノンでは、ゼロごと吹き飛ばしてしまう。そんな事はあってはならない。俺達にはアイツが必用なんだ!

 ゼロのバスターから放たれた閃光が、異形の大蛇を貫いた。

「よし、今だ!」

「了解!」

 既に自由落下状態のゼロを回収する為、ライドキャリアーは全速力で疾走した。

 

 

 

 

 

 

 結

 

 

 作戦終了から一週間後。救出されたサイバーエルフは新たな名前を与えられ、無事レジスタンスに保護された。既に保護されているエルフ達と共に、アルエットの良い遊び相手になっているとは老レプリロイドのアンドリューの談である。

「新しいエルフが来てから、アルエットがますます元気になってのう。

見てるこっちも微笑ましい限りじゃて」

 作戦の事後報告のためにシエルの自室を訪れていたゼロは、研究スペースの片隅に見覚えの無いカプセルを発見する。

「これは……」

「ん、彼女もサイバーエルフよ。まだ赤ちゃん、だけどね」

 端末に向き合ったまま答えたシエル曰く、研究中の全く新しいサイバーエルフとの事。今はまだ実験段階であるが、上手く行けば新エネルギーの礎になるらしい。

「この研究が上手く行けば、罪も無いレプリロイドが処分されずに済むの。そうなれば、ネオアルカディアだって変わっていく筈……」

 シエルの彼女のたった一つの願い。

 彼女はまだネオアルカディアに希望を抱いているのかもしれない。

 ゼロは、カプセルの中を覗き込んだ。強化シールドに守られた揺りかごの中で、まだ形を持たぬ何者かが微笑んでいる様に見えた。

 

 

 

 

.


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