ルルーシュ暦02
何だ、どういうこった?
脳漿炸裂ボーイとなったはずの意識が何故再起動している?
視界いっぱいに乱立するビジョンが鬱陶しい。
見せるならもっと落ち着いてみせてくれないもんかな。
「落ち着け、これは侵入者に対するトラップだ。作動させた奴が――ッ!?」
「ぬぁッ!?」
唐突に女の声が聞こえたと思ったら何処かへ投げ出されるような感覚に襲われる。
そして再びビジョンが流れていく。
今度のはそう珍しくない。
人間の暗部の総集編だ。
その中で一人の女が見えた。
いくつもの騒乱の中にある女。
何度も、何度も虐げられ、殺される。
殺されても、生き返り、死を許されない生の強要。
終ることのない死の繰り返し、それがどれほどの絶望を彼女に齎したのか俺には理解できない。
「残っているのは魔女としての記憶だけ。そもそも自分が人間だったのかさえ知らない。私を虐げた者も優しくしてくれた者も等しく時の中で消え去っていった。果てることのない時の中で――私、ひとり」
「……C.C.か?」
「ッ! ルルーシュ……じゃない? 何者だ」
俺がルルーシュでないとすぐに分かったようだ。
このショックイメージとやらのせいか?
さて、どうしたものかな。
こんな真っ白な精神世界?からは、さっさと抜け出したい。
そんな俺の思いが聞き届けられたのか次の瞬間には見慣れぬ機械に囲まれた座席に座っていた。
「ガウェインのコクピットか」
視線の先にはC.C.が恐ろしいほどの眼光で俺を睨みつけている。
「貴様は、いったい何も――」
いろいろと文句があるようだったが、問い詰める時間もないだろう。
何せ、ニュータイプ・オレンジさんが来るんだもん。
『私です、ゼロよ! 懺悔は今!』
皆に愛される忠義の騎士(笑)、オレンジ農園の幼妻持ち勝ち組な未来がまっているオレンジことジェレミア・ゴットバルトさんのご登場です。
ガウェインが複座型でよかった。
ただでさえ、KNFの操縦が下手なルルーシュの身体なのに俺自身が操縦知識皆無だからな。
自分の能力を弁えているあたり、ルルーシュは少しは考えている。
俺が持っているのは暴走したギアスの力だけ。
本来の俺自身が持っていた能力など現状を打破するために使えるようなものではない。
「ちぃ!」
舌打ちしつつも、端倪すべからざる機動をガウェインに強いるC.C.さん。
まともな思考ができない状態であってもジェレミアさんは帝国最強の皇帝直属部隊ナイトオブラウンズにも匹敵するほどの強敵だってのに。
「C.C.さんは、すごいな」
「煩い!」
怒られた。
あ~この後どうなるんだっけか?
ああ、そうか。
「ハーケンが来る」
「ッ!!」
ほとんど反射だったのだろう。
俺の言葉で、ジークフリートに背後を取られていたガウェインが急旋回することで背後からのハーケンをギリギリで回避した。
「くッ! お前はいったい誰なんだ! ルルーシュはどうした?」
「ぐぬぉおッ!!」
C.C.さん。今の状況で聞かれても急激なGが掛かっているので俺は喋れません。
ジークフリート相手に小休止など出来るはずもないので我慢しますから、勝って下さい。
物理的な問題の解決は今のところ俺には無理なんでね。
「何でこんな時に、こんな馬鹿げたことが起きる? 私に聞くな! お前の差し金じゃないのか!?」
とんでもない高軌道戦闘を継続しながらも誰かと会話しているようですね。
俺はもう首がやばいんだが。
「わからないだと? じゃあこれは誰の仕業なんだ!」
あの~、口論しているところ申し訳ありませんが、もうすぐスザク君が来てしまうのですが?
「レーダーに反応? こんな時にランスロット!」
モニターに拡大された白い機体。
湖の騎士の名を冠するKNF。
やっぱスザク君の立場と合わせて名称が決まったのかもね、設定的に。
『ゼ~~~ロ~~~!!!』
「きゃああ!!」
「ドハァッ!!」
すごく痛ってぇです。
ランスロットに気を取られている隙を付かれ、ジェレミアさんからすごく痛い背後からの攻撃。
コクピット内部にまで届いた一撃で周囲のモニターがほとんど死んだ。
背後を振り返ればジークフリートやランスロットが飛び交う大空が丸見えになっている。
まずいまずいまずい。
KNF戦では、C.C.さんが頼りだから俺は何もできない。
回線繋いでジェレミアさんを揺さぶる?
駄目だ。
今のジェレミアさんに揺さぶりをかけても暴走して、余計手に負えなくなる予感しかしない。
しかも、ランスロットinスザク君も到着済みなのでゼッテー死ぬですよ。
マジで死。絶対死!
どうする俺!
なんて、そんな危機感を感じながらもすでに終わっていました。
先のジークフリートからの攻撃がコクピットまで達したという事実。
一段下の操縦席にいるC.C.に致命傷はない。
まあ、どの程度の再生能力かは知らないが不死身らしいから心配する必要もないけど。
でも俺は駄目。
やけに体の感覚がないと思ったら腹部の半分くらいがショッキングなレッドに染まっちゃってるぜ!
あまりにもショックだったのか、俺のおが屑脳みそは痛みを感じないで済んでいる。
薄れゆく意識の端で、ランスロットとジークフリートがなにやらゴタゴタしているようで、ガウェインはというと中破して降下中。
ああ、5分も経ってないよ。
ルルーシュ暦03
無に沈んでいた意識が浮上するとそこは戦火の色に染め上げられるビル群のただなかだった。
二度あることは、三度目ある。
ジェレミアさんにジクられてからさらに時を遡ってブラックリベリオン真っ最中の東京租界に来ちゃいましたよ。
こんなガチの戦場に叩きこまれても指揮能力とか、軍略スキルとか皆無なんでどうしようもないんですけど?
しかし、俺が目覚めた場所は、幸いなことに最終段階に移っている場面だった。
「……そう、か。ゼロの正体はお前だったのか」
目の前には血濡れの女性が横たわって俺を見ている。
「ブリタニア皇族への怨み。ダールトンの分析はあたっていたな」
命に別状はないと思うけど早めの治療が必要と思われる女性が諦観したように呟く。
ちょっと話すよりまずは止血くらいしませんか?
「ナ、ナナリーのために、こんな事を……」
ああ無理して喋ると傷に触りますよ。
なんかごふっ、ごふっ、しながら吐血してますし。
これがギャグ世界なら吐血キャラということで心配する必要もないんだけど、この世界ってば俺を置いてけぼりにするシリアスがほとんどだから困っちゃうんだよね。
ギャグで済ますならシスコン皇女さまを茶化して危ないレベルの弩シスコンに変化させて楽しみたいんだけど。
そう、このお方こそルルーシュと対を成すハイスペックシスコンにして、選任騎士の旦那だとか、スケバンだとか、紫ババァ結婚してくれだとか、おぱいとか、腋とか、若返り現象だとか色々ネタにされながらもそれなりに人気を勝ち取っている神聖ブリタニア帝国第2皇女、コーネリア・リ・ブリタニアその人である。
何度も正すが、この世界ってば超シリアス。
だから俺は精神的な遊びしかできないわけで……弱ったところに『セクハラし放題だぜ、ひゃっふぅー!』というテンションに持っていくこともできない……現実ではね。
「傷の手当てをさせてもらえませんか。手当てといっても止血くらいしかできませんけど」
「くっ、ふざけた事を。捕虜になるくらいならば、死んだ方がマシだ。お前も道連れにして、な」
かなりしんどそうな状態でも威厳ある態度を崩しはしないし、最後まで諦めない人なんだろうね。
俺がおにゃの子だったら惚れて……いや、男だったらこのおぱいに惚れないわけがないか。
敵になったら容赦なしなリアル虐殺皇女でもちゃんとした手順を踏んで立ち合いをすればそれなりに評価してくれるっぽいんだよね、このお人は。
ああ、自棄になるしかないな。
こんな中途半端なタイミングじゃ。
「私のことが許せませんか?」
「何を今さら! ユフィを殺した貴様を!!」
でしょうね。
でも、仕方がない。
今の俺には、与り知らぬことなんですよ、それ。
ああ、そういえば今の状態なら視線を合わせるだけでいいんだっけ?
「このようなことになったのは、すべてブリタニア皇帝の企みだとしても、ですか?」
ここで使うのはやはりこれでしょ。
冷酷非常で謎の多い皇帝の名は、皇族やその周囲ならいくらでも粗を作れる。
つまり、困ったときの『全部○○が悪い!』みたいに『全部皇帝のせい』な感じで便利に使わせてもらってますよ、シャルルん?
「なん、だと……」
まだ信用していないみたいだが、まあいい。
いざとなれば『全部ルルーシュが悪い!』の要因であるギアスの力がある。
「我が母マリアンヌが暗殺された後、皇帝の命を受けたシュナイゼルが遺体を運び出したのだろう?」
「知って、いたのか」
驚いているようだが、まあそうなんだろうな。
そこにどんな思惑があったかを知らないコーネリアさんにその先にある真実は判別できない。
もちろん、俺もそんなものは分からない。
ついでに言えば、シュナイゼルも真相は知らないままにやったことだ。
「ええ、俺なりに調べましたからね。なあ、コーネリア。ヤツは、なぜそんな命令を下したと思う?」
俺を睨みつけながらも話は聞くつもりらしい。
負傷したところを抑えながらもしっかりと俺を見据えている。
「答えは簡単だ。母の死は皇帝の描いたシナリオの一つだったから」
「ッ、何だと!?」
「そして、俺の反逆もすべてヤツの思惑の一つ。母の死も、クロヴィスの死も、ユーフェミアの死も、すべてヤツのシナリオ通りだった」
口八丁手八丁?
まあとにかく必死に訴えるような俺の言葉にコーネリアさんの驚愕は大きくなる。
「そ、んな……。それなら……それを知って、いな、がら。何故、ユフィ…を」
当然そこに行くんだよな。
俺にはそこら辺の判断はできないから嘘を並べるしかない。
「ユフィの死が、私に皇帝の企みを気付かせてくれただけのこと。過ぎ去った時間は戻せない。俺がユフィを手にかけるところを見ていた皇帝は高笑いをあげていたらしいがな」
「皇帝陛下が……ユフィ、を?」
「死に追いやった。ユフィを俺に殺させることでエリア11の混乱を加速させたかったのだろうな」
俺の言葉を鵜呑みにはしていない様子だが、皇帝への不審は植え付けられたようだ。
そもそも今のシャルルんにとって大事なのは、マリアンヌと目指している世界であり、マリアンヌの子供であるルルーシュとナナリーはついでの様なものだ。
あとの皇族は、シャルルんにとってその他大勢でしかない。
だからこそ皇族に対してシャルル・ジ・ブリタニアという男を不審に思わせるのは容易だ。
もちろん、不審に思わせてもこちらの思い通りに動いてくれるかはその人次第だけどな。
『おい、戻って来い!』
背後で待機していたガウェインからC.C.の声が響く。
「ナナリーのことなら後回しで良い」
『なんだと!? いや、待て。何故ナナリーのことが分かった!?』
ルルーシュ(俺)の言葉が信じられないC.C.さんの声がちょっと怖い色を含んでいる。
「ナナリーがすぐに殺されることはないはずだ」
『ルルーシュ、お前ッ!?』
ナナリーのことを誰よりも考えているはずのルルーシュの口から出た言葉とは思えないことに行き着くとC.C.さんはまた静かになった。
おそらく例の声と会話しているのだろう。
それならこっちも手早く済ませよう。
「ナナリーが、どうかしたのか?」
コーネリアさんもナナリーに何があったのか気になるようだ。
「拉致されたんですよ。犯人は……言わなくてももうお解りでしょう?」
「皇帝陛下、なのか……」
「実行犯は、皇帝の協力者ですがね。大方、自分のシナリオから外れた私に対する制裁のつもりなのでしょう」
さきほどまでの会話と現在の状況からそれらしい言い訳は他に思いつかん。
ここでナナリーを見捨てるのは、ルルーシュ的にはあり得ないが、俺はルルーシュほど妹思いじゃないので、ナナリーの優先順位は低い。
「何故、助けに行かないのか、ナナリーを?」
コーネリアさんも妹思いなだけあり、ルルーシュのナナリーに対する依存度から俺の落ち着きようを疑問に思っているんだ。
何だかんだいって、マリアンヌの子であるルルーシュやナナリーのことをコーネリアさんは、ユーフィミアの次くらいには想っているんだろうか?
まあ、皇族として暮らしていた時のルルーシュたちのことは殆ど知らんから本当の所はわからんけどな。
「ナナリーを助けに行ったところで状況は好転しない。それに私は多くの兵の命を預かる身。そこは貴女も理解できるはずだ」
「……本当にルルーシュ、なのか?」
やっぱり疑われるか。
当たり前だな。
幾ら装っても育ちのまったく違う俺にルルーシュの在り方を模倣するなんてことは、土台無理な話さ。
いくら喋り方を真似ようとしても染み付いた言葉遣いはすぐにボロがでる。
「さて、コーネリア皇女殿下。この戦い、我ら『黒の騎士団』の勝利で終結させるためにお力をお借りしたい」
「ぐッ、ふざけるな……。貴様の言葉が真実だという確証はない。貴様に降るつもりはない」
始めから色よい返事は期待してない。
それに急がないとカレンちゃんや藤堂さんも持ち堪えられなくなる。
「俺の言葉には誰も逆らえないさ、コーネリア皇女殿下」
「なに?」
先ほどから掌で隠していた左目でコーネリアさんを捉える。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。私に永遠の忠誠を捧げよ、身も心も過去も現在も未来もすべてを!」
「んな? あ、あああ」
いきなりの言葉に一瞬の驚愕と嗚咽。
ギアスにどれほどの持続時間があるかは知らないが最低でも数ヶ月は持つはずだ。
力の失せた体は、そのままに妖しい色を宿す瞳が俺の方へと向けられる。
「コーネリアさん、俺の指示に従ってくれますね?」
俺の言葉に傷付いた身体に鞭打って反応するコーネリアさん。
肩膝をつき騎士の礼を取る。
「イエス・ユア・ハイネス――永遠に変わらぬ忠誠を御身に」
うわぁすごい違和感がある。
本来なら他者を傅かせる側の皇女が自分に跪く姿は何というか背徳的な支配欲を刺激する。
最後の最後になるまで完全に人を支配する命令をしていなかったルルーシュはそれなりにまともな人種だったのだろう。
たった一つの命令で使い切るより、永続的に支配できる命令をした方が効率が良いのにルルーシュは最後の決戦までそれをしなかった。
人の自由意思を奪い続けることは、死で終らせるよりある意味で人の尊厳を徹底的に貶めることだ。
ルルーシュはそこら辺に妙な矜持を持っているから魔神になり切れなかった。
それに比べれば、俺は人の尊厳を気にするような殊勝な人格ではない。
自由意思があるのに自由を奪われる、なんてことは日常的に起こりうる社会生活の一部だ。
持ち得た力を最大限利用して自分にとって最大の幸福を求めることは、意志ある者として当然のこと。
ルルーシュの存在を被っていると言っても俺は、俺自身の意思を曲げるつもりはない。
まあ、今はブラックリベリオンを勝利で終らせ…………拙い(汗。
「コーネリアさん。さっそくだが、ブリタニア軍をぉぉぉおお!?」
やば、瀕死の人に無理させすぎたか。
立ち上がろうと下らしいコーネリアさんが力尽きたように倒れこんできた。
夢というのは敗れるものだ。
コーネリア姫……重い。
豊満なおぱいの感触は確かに心地良いが、その鍛えられた身体を支えられるほどルルーシュのボディは強くないようだ。
「C.C.! 手伝ってくれ!」
俺の救援要請を聞き届けてくれたのかガウェインを器用に動かし、コーネリアさんごと俺を掬い上げる。
「ナナリーはどうするつもりだ」
さすがに出血が多かったのでコーネリアさんに応急処置のみを施して飛び立ったガウェインの中でC.C.さんが睨みを効かせながら聞いてくる。
「今はどうしようもない。それよりアッチの方角にハドロン砲照準、問答無用で発射!」
「何? いった、ッ!?」
唐突な俺の指示に戸惑いながらもC.C.さんだったが、彼女も怪しげな揺れを感じ取ったのか急いで俺の示した方角にハドロン砲を向ける。
そして、躊躇う事無く引き金を引いた。
『オ~~ル・ハイル・ブリタぁ』
建物を削りながら這い出てきたジークフリート。
その頭頂部でアホのように本体丸出しのジェレミアさんは、哀れ登場シーンの途中で塵となった。
「今のは……」
「ただのオレンジ農園経営者だ。きっと自慢のオレンジロボを披露したかったんだろ?」
曰く言い難い顔のC.C.さんには悪いが今はそれでころではない。
折角、ギアスを使ってコーネリアさんを引き込んだのに気絶しちゃってたらこれから後が面倒だ。
コーネリアさんが鶴の一声でブリタニア軍を止めてくれれば早々に戦いは終わるんだが。
「仕方ない。――藤堂、ディートハルト。聞こえるか」
『ゼロ! まだそちらは片付かないのか』
『どうかなさいましたか、ゼロ』
両者それぞれの戦況に合わせた声色の二人。
うむ。善き哉、善き哉。
「お前たちは大好きだ!」
キャラクター的にも中の人的にも超好みな二人の声を聴けて反射的に告ってしまつた。
『私も少々耳が悪くなったのでしょうか?』
『ぬぉあ!? ぐぅ、こんな時にふざけている場合か!』
本心が出てしまったが後悔はしていない。
俺も男だから二言はないのだ。
それにしても前線で戦ってる藤堂さんのところは戦況が大分辛そうだ。
確にギルフォードの率いる隊やグラストンナイツを相手にしている時にボケを喰らわされたら危険だろう。
「すまない。ようやくコーネリア皇女殿下を押さえることができたので少しばかり興奮しているのだ」
『ついにやったか!』
『おお、これで黒の騎士団の勝利が確実です』
双方ともにコーネリアさんの捕獲に驚いているようだが、士気上昇には大いに役立つ報のようだ。
「藤堂はオープンチャンネルでブリタニア軍にこのことを伝え、降伏するよう言ってくれ」
『分かった』
「ディートハルトは、メディア方面でそのことを頼む」
『心得ております』
まあ、演説力も交渉力もない俺が言うより、戦場に慣れている藤堂さんや広報関係者として皇族とも面識があったディートハルトさんなら効果的な停戦交渉ができるはず。
ここは帝国の先槍異名を持つ誇り高きコーネリア皇女の選任騎士ギルフォードが指揮する戦場だ。
下手な刺激は、彼の激昂を招き乾坤一擲の覚悟でコーネリアさんの奪還に動きかねない。
コーネリアさんの陥落が戦況を一気に好転させてくれればいいが。
簡単には終わらないだろうな。
それにこの戦場とは別に危険要因がこの街にはある。
「C.C.、アッシュフォード学園に向かってくれ」
「学園に? ナナリーは神根島にいるんだぞ」
「さっきも言っただろ? ナナリーのことは後回しだ。今は私を信じて急いでくれ!」
「誰だか知らないが、勝手すぎるな」
やっぱり気付いてるよね。
コーネリアさんを押さえた今、次に優先すべきは“例の爆弾”だ。
アッシュフォード学園に向かう途中でも交戦の続く場所はあり、そういった場所は頭上からハーケンを使って叩いた。
一応エナジーフィラーの交換を途中で行い、目的地であるアッシュフォード学園に到着する。
「アヴァロンのご到着か」
アッシュフォード学園の上空に浮かぶ見覚えのある艦に少しばかり焦りが出る。
まだセシルさんは外に出ていないみたいなのでゲフィオンディスターバーも破壊されずに残っており、最大の脅威であるランスロットinスザク君はしっかりと無力化できている。
スザク君が自由になったら対処のしようがない。
神根島の時みたいに二人で対話ができる状況ならともかく、黒の騎士団もアッシュフォード学園の生徒たちもたくさんいる状況でまともな説得ができるわけがないからな。
「C.C.、すぐにでもアヴァロンからKMFが出てくるから破壊してくれ。けど、パイロットは絶対に傷つけないように頼む」
「注文が多いぞ!」
俺の無茶なお願いにC.C.さんは悪態を付きながらもセシルさんが搭乗しているはずのKMFを両手のハーケンでバラバラにした。
『ゼロ!』
何人もの声が同時にスピーカーから伝わってくる。
アヴァロンにハドロン砲の照準を合わせたままガウェインから降りた俺は、ランスロットを捕獲している場所へと足を向けた。
ゼロを待っていた者たちの視線が突き刺さる。
「タイミングバッチリだったなゼロ。助かったぜ」
ネコに不意を付かれた玉城んは放って置こう。
ここで絡んでも時間の無駄だ。
「ゼロ! 君はよくも!」
君の前に姿を現せたね、とでも言いたいのかな?
でも、ごめんよ、スザク君。
君を罠に嵌めたのは俺じゃないんだ。
ていうか、今も君に構っている暇はない。
「枢木スザクの拘束は二重三重に彼のことは人の形をした最新型KNFだと思ってガッチガチに拘束するんだ!」
学園の生徒を人質にされ、ランスロットのコクピットから出ていたスザクを黒の騎士団の団員たちに拘束させる。
「ゼロォ!」
物凄い殺気を浴びせられるが無視だ無視。
いくら変態的な超常生命体級の身体能力を持つスザク君でもKNF固定用のワイヤーベルトで固定されればさすがに動けないだろう。
というか俺の指示を疑いなく行動に移す黒の騎士団メンバーの忠誠心に驚くとともにそれだけの可能性はあると思わせているであろうスザク君もすごいのだ。
狂犬もかくやというスザク君の恐ろしい眼光を躱し、人質にされていたアッシュフォード学園生徒会メンバーに声をかける。
「君が生徒の代表で良いな?」
「わ、私に何かようでも?」
テロリストの首領に声を掛けられても僅かな怯みも見せずに気丈な態度で応えるミレイ・アッシュフォード。
そのおぱいとハイテンションと意外と純なところとかも高評価だが、今は目の保養をしている暇はない。
「君はあそこに浮かんでいる艦に生徒たちを避難させられるように準備をしてくれ。今すぐに」
「え?」
そんな呆けた顔してる場合じゃないんですよ。
もう最強に凶悪なぶっ飛び嬢ちゃんがいるんだから。
「君たちの身の安全は私が保証する。だから、今は私の指示に従ってほしい」
「え、ええ分かった」
俺の指示を怪訝に思いながらもミレイちゃんは他のメンバーを引き連れて生徒たちが囚われている校舎へ向かった。
よし、次は団員たちにも避難の準備をさせないと。
「ラクシャータ! 上のアヴァロンに学園の生徒たちを収容する準備をするように話をつけてくれ」
「な~に? 随分と慌ててるじゃない。プリン伯爵と何かあるわけ?」
「そのプリン伯爵もぶったまげるようなことが起きるかもしれないんだよ!」
そんな落ち着き払っていられるのも今のうちだぞ。
「騎士団も全員避難できるようにしておけ」
『何か出てくるぞ!』
何かって、何が何なんだよ。
って、この学園で出てくるもんで、C.C.さんが知らせるもんっていえばアレですよね、憶えてます。
「全員、手を出すなよ!」
校舎正面の広場の石畳が左右に開き、骨組みだけのKNFガニメデが姿を現す。
学園に何故に隠しエレベーターらしき設備が?
マオが侵入した時にナナリーを捉えていた場所とか、この後も機密情報局が拠点にする地下空間とかもしかしてアッシュフォード家って実は秘密組織っぽい家系なのかな?
無駄な嗜好が駆け抜けるが、彼女の登場は現状でバッドエンドまっしぐらなフラグだ。
「ゼロは何処……教えて、ユーフェミア様の仇。ゼロはどこにいるのよぉぉぉ~~~~~~~~~~!!!」
あ~初っ端からすっ飛ばしてるな。
そのファミリーネームに恥じない才能を持ちながら間違った方向に尖った成長を続けるクレイジーサイコレズ、ニーナ・アインシュタイン。
例え不発に終わるとしても原子爆弾擬きを一介の女学生が一人で作り上げるなんてところがまた現実味を遠ざけるな。
「ゼロならここにいるぞ! ニーナ・アインシュタイン」
芝居がかった大仰な仕草でマントを靡かせて名乗りを上げる。
そんな俺の姿を確認したニーナちゃんは、定評のある顔芸を披露し、絶叫する。
「ゼ、ゼロォォォォ! ユ、ユユ、ユーフェミア様の仇ィィィィイイ!」
最高にクレイジってるね。
今にもガニメデin原子爆弾の起爆スイッチを押そうとするニーナちゃんの真ん丸眼鏡の奥に向かって平常運転の俺が叫ぶ。
「ニーナ・アインシュタイン! あらゆる意味で絶対に私を傷つけるな!」
「へっ? え、なんで? どうなってるの、これは!」
爆弾は不発に終わると分かっている。
それでももしかしたら何かの手違いで本来とは違う結果が待っているかもしれない。
だから、保険は掛けておくべきだ。
「ニーナ・アインシュタイン。その爆弾を安全に解体し、私を傷つける可能性を排除してくれないか?」
「わ、分かりました。すぐに解除、しま、す、うぅぅ」
目を見開き苦悶の表情でガニメデに搭載した爆弾の処理を始めるニーナちゃんの姿に一安心。
一般人に過ぎないニーナちゃんがギアスの力に抵抗しているそぶりを見せているのは、ドン引きだけどな。
どれだけユーフェミア大好きフリスキーなんだよ、このクレサレズっ子め。
『ちょ、今のは一体全体なんなわけ?』
突然爆弾らしきものを搭載した旧式KNFで登場したニーナちゃんを俺が言葉一つで鎮めた状況にラクシャータから困惑の声が漏れる。
それは他の者たちも同様であり、皆一様に俺を薄気味悪い何かのようなモノであると感じているらしい。
どうせ、ギアスを使って記憶操作すればなんとでもなるし、今更どうでも良いことだ。
「とりあえず、これで緊急ミッションは完りょ――」
「ゼロ! 上だ!」
ようやく一息つけるかと思ったところに重要ではないはずの玉置んが警告の声を上げた。
「やはり、貴様がユフィに!」
怒髪天なスザク君の怒りの声を捉えると同時にかの有名な
ぐふっ――スザク君は、キレたらKNF以上の戦闘力を発揮しやがるのか?
▼ ▼ ▼
こうして三回目のルルーシュが終った。
さて、いい加減に俺も気付いたことがある。
死ぬたびに俺はルルーシュの歴史を遡っている。
それ以外にもルールがあるかもしれないが、今のところ他の要素は不明。
こういう場合、基点となる時期までに条件をクリアして生存すれば、ループを脱出できるというのがテンプレだ。
さて、ここで問題になるのが「基点となる時期」と「クリア条件」なのだが。
これを知るゲームマスターはいるのか?
C.C.さんやC.C.さんと会話している何者か(――まあ、正体は知ってるんだけど)も俺のことは知らないようだった。
失敗して遡行した場合も、俺に対する情報は引き継がれないらしい。
C.C.さん関係の超常側の存在に分からないというのは、どうなんだろうな。
まあ、そういう設定ならば別にいい。
このまま失敗を続けていれば過去に戻れるってことだからな。
C.C.さんとの出会いか、スザク君と出会ったタイミング。
そこら辺の基点まで戻れれば、選択の幅は爆発的に増える。
ルルーシュが『ゼロ』になってしまうと路線変更がかなり難しいからな。
ハテサテ。
また覚醒し始めた意識が耳に激しい銃撃の音を捉えていますよ?
という事は、トウキョウ租界に黒の騎士団が攻め入ってすぐの当たりかな。
怒りのスザク君とか、コーネリアさんを相手にするのははっきり言って俺には無理。
あ~次も痛い死に方はしたくないな。