sideキンジ
7月7日。武偵高の夏休みが始まる日であり、ついでに言うと緋川神社で夏祭りが開催される日でもある。
何で改めてこんな事を言うかって?
数日前に武藤・不知火コンビがアリアに向けてデートのメールなんぞ書いてくれやがったからだよ!
…でも、まあ、その、約束の7時5分前に一応待ち合わせ場所のジャイアントパンダ前に行っとくk「遅い!バカキンジ!」…アリアが、いた。
浴衣姿で。
「な、なに見てんの?」
「…見たのか、あのメール」
「そ、そうよ。これはカジノ警備の練習って書いてあったから来たのっ。いっぺんくらいお祭りに行ってみたかったとか、楽しみで服のアドバイスを明日菜に聞いたとか、そういうのは無いわ。本当にないわ」
あ、アスナが見つけたのか、あの浴衣。通りでよく似合うわけで。
つーか、「実は武藤の書いたイタズラだ」って言いにくくなったな。
まあ、そういう風に流してもいいか。
「じゃあ行くか。警備に」
「そうね。行きましょ。警備に」
女子どもはあれか、ウエイトコントロールが自由自在なのか?
アリアはあれから綿あめ(ももまん味)から始まり、タコ焼き(ももまんソース)、かき氷(ももまんシロップ)、りんご飴、チョコバナナ(ももまんチョコ)、お好み焼き(ももまんソース)…と、目につくもの片っ端から食べまくった。
つかももまん率高っ!マトモなのがりんご飴だけって。
…しかしまあ、聞いちゃいたがカップルの多いこって。しかも明らかに友達とかそういうのじゃなくて完全に「カップル」になってる女子同士とかいるな。目の前に。全く本当に意味、分から、ん…
………あー。
前言撤回。
キリトとアスナだあれ。
2人揃って見慣れた武偵高制服じゃなくて浴衣だから分かりにくい。(ついでに言うとキリトは濃い蒼、アスナは紅に金の飾り。)
…なんか自分だけ防弾制服って虚しくなってきた。何故だろう?
そのままキリトたちと別れた後(気が付いてはいた。明日菜と目があったし。)、1匹の金魚も取れなかったアリアにヨーヨーを取ってやると―
わあー―
うお!?急に人混みが…って、御輿が来たのか。
人混みの苦手なアリアを巻き込んで。ちっこいから簡単に人混みに隠れられるな。
はぐれても面倒なので、アニメ声の聞こえる方に手を伸ばす。
「アリア、こっちだ!」
握り返してきた手を広場みたいな所で
すぽん!
と引っこ抜く。
「よ、よかったぁ、出られて…なによ、あれ?」
「あれは御輿っていうんだ。よかったな、はぐれなくて。危うく迷子のお呼び出し放送をすることになるとこだったぞ」
途中まあいろいろあって目の周りに青タンが出来た俺と、ちょっと人に酔ったアリアは、神社の本堂の裏、縁側の板に座って花火を見ている。
…夏だな。なんとなくだけど。
「…えっとね、キンジ」
「なんだよ」
「カナの、ことなんだけど…ごめん、やっぱりいいわ」
カナ、か。
元々遠山家は先祖代々、それこそ初代遠山の金さんから『正義の味方』として生きてきた。その末裔の俺も、自分もそんな存在になる。それが当たり前のように、流されていたのかもな。
だが、兄さんが失踪した去年、俺は武偵を辞めようと心に決めた。
「前にも言ったと思うけど、俺はそのうちに武偵を、辞めるつもりなんだ」
「キンジ…」
ただ、最近になって迷いが、ある。
本当に武偵を辞めていいのか。
その迷いは、実は兄さんが失踪して、俺が武偵を辞める決心をする直前から―
キリトの話を聞いた時からあるものだった。
『ソードアート・オンライン』
キリトたち1万人のネットゲーマーを巻き込んだ『デスゲーム』。
キリトがアリアたちに語る話は、実は俺が聞いた話の一部がわざと隠してある。
それは、ラフコフ討伐戦から始まった『殺人』。
そして――
間接的にとはいえ、仲間であるギルドのメンバーを全滅させてしまった、『月夜の黒猫団』の話。
アイツは、何を思って剣を握り続けたのか。
それは、聞いてから半年たった今でも分からない。
「…気になるな。カナがどうしたっていうんだ?」
「むし返すのね」
「気になるもんは仕方がないだろ」
「じゃあ言うけどー『彼』、アンタのお兄さんでしょ」
「ブフォァッッ!!情報源は―」
「…」
アリアは目を逸らせた。
まあ知ってる奴を考えれば十中八九、
「―あんのまっくろくろすけめぇぇ…」
あのヤロウ何しやがってェ。
…まあ、今まで一年の時からの借り全部で手を打ってやろう。
その後、寮の部屋に戻ったらキリトたちは先に帰ってたらしく、部屋にいた。
…なぜか理子、レキ、志乃までいたけどそこはあえてスルー。
ちなみにユイは入学したインターンの小学部の校舎が遠いとかで別の寮で集団生活とのこと。それでいいのかと聞いたら「飛び級申請をしている」だそうだ。無茶苦茶である。
後レキ、その狼はなんだ?ブラドのとこの狼じゃねえか。
…飼ってる?ハイマキ(狼)を?
さいで。
ところでな、
「その荷物、カジノ警備の服だよな?なんか異常に多くないか?」
「7人分だからこれくらいだと思うけど」
「ちょっと待ってくれ明日菜、7人分!?え、ちょっ」
「だ〜か〜ら〜、りこりんたちもやるんだよ〜、カジノ警備」
「…今から万が一入ってきた強盗に哀れみを覚えるな」
強襲科S2人A1人(実力S)、狙撃科S2人(片方はR候補)、探偵科A1人E1人(むろんこのEランクは俺)。
断言出来る。
オーバーキル間違いなしだ。
こういう感じの服が支給されるタイプの任務では、あらかじめ服を試着しておくのがセオリーだ。
それぞれが勝手に決めた部屋(あぶれた理子はアリアの、レキとシノンは白雪の荷物が残ってる部屋に入ってった。)で着替えることになった。
今更だけど女子率高くないか?最近忘れそうになるが、ここは男子寮だぞ。
話を戻そう。
俺は…『青年IT社長』?こんな成金スーツが?うわ香水までありやがる。趣味じゃねーのに。
とりあえず着てみるが…似合わねー。
それ以前にこんなやる気のなさそうな社長っているのか?いたら間違いなくその会社は潰れるだろうな。
リビングに戻ったら、1番乗りだった。
一瞬だったが。
「お〜キーくん似合ってるね〜。なんの役だった〜?」
「『青年IT社長』だと。理子は、ディーラーっていうのは分かるが、アリアはなんだ?」
スーツを着て伊達メガネを掛けただけに見えるが?
「『ベンチャー企業の女社長』だって。りこりん的にはバニーとかそっちの方が良かったんだけどね〜」
「あんのかよそんなの…」
その後ゾロゾロと揃ってきたけど―
明日菜→社長秘書(アリアの方の)
レキ→ディーラー
志乃→換金所のスタッフ
だそうだ。個人的にはヒス的危険性が低いものばかりだから、そこは一安心だ。
「ところでキリトは?」
「そういえば遅いわね」
「りこりん見てくる〜。おーいキリくーん、どったの〜?」
『うわぁっ!?り、理子か!?』
「そーだよ〜。入りま〜す!」
『ちょっ、辞め、辞めろぉぉぉお!?』
「おお、これは!?ね〜キーくん来て来て見るがい〜」
「? どうした?」
「み、見るな、キンジぃ!?」
部屋を覗いたら―
理子に腕を広げさせられてる少女がいた。
足元の紙には、『アイドル』。
…
……
「キリト、お前いろいろと喋ったろ」
「? カナのことか?確かに喋ったけど―」
「天罰ってあるんだな。理子、好きにしていいぞ。プッ」
おっと堪えてた笑いがちょっと漏れたな。
「マジで!?じゃあキリちゃんいっただっきまーす!」
「キンジィィィイ!テメェエェェエ!」
あの後、明日菜あたりが止めるかと思ったら、案外悪ノリし、キリトが死んだ魚のような目をしたまま、支給された曲に理子が勝手につけた振り付けを練習させられていた。
蛇足だが、あの服は教務科の綴がタバコ&酒でベロンベロンにやってる最中に書き上げた際、書類のキリトの性別欄を間違えたのが原因と判明した。
キリトが「あんのアル中がぁぁあぁあ!!」と絶叫したのは言うまでもない。
う「ちなみにキリトアイドル化は、当時たまたまキリトのウエディングドレス姿の画像を見つけまして、リンクを見てったら偶然あったアイドル女装のキリトを見た時点で決まりました。興味のある人は…」
カ「ある人は?」
う「自力で探してください」
カ「オイコラちょと待て」