sideキンジ
7月24日。カジノ警備の日だ。
届いた成金風のネクタイをして、名前の通り、ピラミッドみたいな形をした「ピラミディオン台場」の警備にあたる。
アリア、明日菜コンビとは別行動。
換金所であらかじめ用意されてたチップを受け取り、適当にスロットやらパチンコをやり、見て回るが―
特に、何もなさそうだな。
途中、ポーカーのところでアリアたちとバッタリ会った時に賭けたが、明日菜がまたすごく強い。ビリはアリア。
「〜〜、〜〜!」
本来はバンドや本物のアイドルがいる
ような高台になってるスペースには、明るい曲調の歌を、目を輝かせながら歌う友人がいた。キリトが兄さんと同じような性癖に目覚めないのを祈るばかりだ。後理子、コッソリ写真を撮るな。
奥の方のルーレットを見に行くと―
なんか盛り上がってるな。
周りにいた人の話を総合すると、本物の有名な青年IT社長がルーレットでレキ相手に7000万も負けたらしい。
にしてもあの男、すごい根性してるな。
あのレキに食い下がってるよ。
レキもレキで「お引き取り下さい。今日はもう、帰った方がいいですよ」
ってな。なにげに冷ぇ。
「お集まりの皆さんも、お帰りください。良くない風が吹き込んでいます」
こっちに視線を寄越しつつ、言った。
良くない風…?
バンッ!
レキの後ろに並べられた動物の剥製の間から、ハイマキが飛び出した。あんな所にいたのか。
ハイマキは俺たちの頭上を飛び越えると、フロアの端から走ってきた2人の存在にぶち当たった。
人ではなく『存在』と言ったのは、『ソレ』がとても人には見えなかったからだ。
方や、腰に茶色い布を巻きつけた全身ペンキで塗ったみたいに真っ黒で、頭部がジャッカルみたいになってる男。
方や、金属製の鎧で全身を覆った竜みたいな顔をした男。
仮装の衣装――はないな。あまりにも顔がリアル過ぎる。
そいつらは、ハイマキを簡単に引き剥がすと、手に持った斧と剣を持って突っ込んで来たっ!
今更異常事態だということを理解したのか、客が我先にと逃げ出し始めた。
だが、逆に言えばまだ一般人がいるのだ。発砲は出来ない。
ナイフを構えておき、斧と剣に備え――
ドスッ ザシュザシュッ
ジャッカル男の腹から二本の刀が、鎧男の喉の隙間からはレイピアの切っ先が覗いていた。
「アリア!明日菜!」
「キンジくん、レキさん、無事!?」
「こっちは大丈夫だ!にしてもいったいこいつらは…?」
「ジャッカルみたいな顔した奴は『アヌビス』だって分かるけど…」
「鎧を着た奴は『コボルト』だよ!まずは数を減らそう!」
「数を減らすって―」
刀剣で串刺しにされた奴は何故か砂になってるし、ひとまずは大丈夫じゃ――
「キンジさん、上を警戒して下さい」
ドラグノフの先端に銃剣をつけながらレキが言うから、見上げたら、
「…見ない方が良かったな」
天井にギッシリとアヌビスやコボルトが張り付いていた。ざっと50近くいるように見える。
「避難もあらかた終わったみたいだし、行くわよ!」
アリアがガバを真上に向けて連射する。
アヌビスは射線から逃げるように降りてくるが―
ガギンッ
「「なっ!?」」
コボルトの鎧が銃弾を弾いた。
外見だけじゃないのか、あの防具!
「クソッ!」
跳弾の危険がある以上、ヘタに撃てない。
刀や剣を持ってるアリアたちはともかく、ナイフ1本のオレと銃剣のみのレキはかなり危な―
ドォンッ!
「!?」
こっちを向いていたコボルトが、急に爆発した…?
「キンジさん、伏せて下さい―狙撃です。ステルスによる」
「は?」
言われてやっと気がついた。
いつの間にかネコ耳を生やして弓を構えたシノンがいた。
確かに矢なら、弾かれても跳弾の心配はない。足りない火力はスペル(ALOのステルスはそう言うらしい)で補えるしな。
じゃあ、―
「邪魔にならないように隠れてるか」
今剣2本持った防弾制服姿のキリトが涙目(おそらく羞恥から解放されたから)で暴れてるのはスルー。
戦闘参加が遅いと思ったら着替えてたのか。
…ていうか、
「なあレキ」
「なんでしょう?」
「俺が今からあっちに行って、何か出来ると思うか?」
「何もないかと。少なくともコボルトのいる限りは」
物陰から見える範囲でも、大体の敵はキリトかアスナが仕留めてるし、アリアは天井に敵がいなくなった後はほとんど手持ち無沙汰みたいだし、5、6体外に逃げたけど即射られてたし。
…あれ、全滅してね?
「それにしても…いったい誰だったんだろうな、コボルトたちをけしかけてきたのは。俺には心当たりがまるで無いんだが?」
何もしてなかった事をうやむやにすべく、さりげなく出てきて1番に言う。
これで誤魔化―
「「「何もして無い奴がいうな」」」
―せなかったか。
「おー!終わったみたいだね〜!」
「あ、理子!」
何もしてない人その3(その2はレキ)がいたか。
完全に忘れてた。
「キーくん、先に言っとくけど理子は何もしてなかったワケじゃないからね。むしろー
―本番はこれから、みたいな?」
「―ホゥ。リュパンの曾孫、イー・ウーを退学になりながら、よく妾の前に出てきたのぉ」
そんな声と共に現れたのは―
「ヤッホーパトラ!ひっさしぶり〜!」
「気安く妾の名を呼ぶでない!妾はファラオぞ!」
―なんというか、ちょっと残念な美人だった。
「アリア、誰だあれ?」
「『砂礫』のパトラよ。イー・ウーのナンバー3だったはずだけど、ママの冤罪リスト外だからあまり気にしてなかったわ」
「うるさいうるさいのぢゃー!妾を侮辱したな!妾はファラオぞ!」
「いや、ファラオだかフライだか知らないけどさ、この人―」
「自意識過剰」
「ちょっと残念な人、かな?」
ちなみに上からシノン、キリト、アスナである。
「〜ッ!!妾 を 侮辱 する なぁ!」
あー…たまにいるよな、ああいう1人で盛り上がって1人でキレるヤツ。
「―後悔させてやる。絶対に、泣いて謝っても許してやらんのぢゃあっ!」
「「既に泣いてる奴がいうな」」
おお、久しぶりにキリトとセリフがかぶった気がする。
―ただ、余裕でいられたのは、ここまでだった。
「――『イルファング・ザ・コボルトロード』!!こやつら全員、ブチのめすのぢゃあ!!」
カジノホールを中心に、大量の砂が集まり、『ソレ』になっていく。
コボルトをそのまま巨大化させたようなシルエット。
腰には、斬馬刀。
両手には、それぞれ片手斧と丸盾。
覆う面接こそ減っているが、急所はしっかりと守っている鎧兜。
そして―
『ソードアート・オンライン』第1層のフロアボスにして、コボルトの王が――
『イルファング・ザ・コボルトロード』が現われた。
「グルオォォォォオォオオォオォ!!」
「―なっ!」
「どうして、こんな所に…!」
元SAO攻略組として、かつて自分たちが倒した一度きりのはずのフロアボスが再び現われた、という現象はかなりのショックだったらしく、一瞬動きが止まった。
―その一瞬で、全てが決まった。
ブンッ!
「うおっ!?」
斧と盾を放り投げ、刀を抜くと――
「妾は『教授』になるのぢゃ!邪魔するでないっ!」
―広範囲ソードスキルが放たれた。
攻撃をもらった、と頭が理解できた頃には、大きく吹き飛ばされ、失神していた―