とある鎮守府の日常   作:ジンネマン

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川内の憂鬱?

 ここは、日出国(ひいずるくに)のとある鎮守府。

 あの日、あの夜より幾日か過ぎた日のこと。

 

「あ~~お日様のしたで寝るのもなかなか良いもんだ。ねぇ提督」

 

 鎮守府全体を見渡せる丘の上、そこで大きく背伸びをして寝転がる川内。

 

「ああ、いつもは執務室で書類整理か、会議室で会議か、あとは指令室で指揮をとるくらいで外に出るのは大本営への出頭か鎮守符内の視察。やれやれ気が滅入ってくる」

 

 ♪~~♪~~~♪

 

 その傍らにいる偉丈夫、この鎮守符を預かる提督が腰を下ろす。

 陽光が暖かく三人(・・)を照らし、吹き抜ける風は三人(・・)の肌をを心地よく撫でる。まるで太陽と大地が三人(・・)を祝福しているかのように。

 

 ♪~~~~♪~~♪

 

「ああ、本当に、こういう時間の過ごし方も良いものだ」

 

「そうですね。これなら間宮にお弁当でも作ってもらってピクニックて言うの悪くなかったかも知れませんね」

 

「たしかに間宮のお弁当でもいいが、どうせなら川内の手作りがいいな。この間の夜食のおむすびと卵焼きは絶品だった」

 

「――な! 何言っ「川内ちゃん! 差し入れってどういうこと!?」」

 

 さっきまで楽しそうに歌を歌っていた那珂が、川内と同じ柿色の下地に白の半袖セーラー服、黒いスカーフと黒い長手袋を着用した艦娘。川内型3番艦那珂が歌うのを中断して川内を問い詰める。さっきまでのやり取りの中に何か引っかかるモノでもあったのだろう。すごい勢いで川内に迫り、あと五センチも進めば鼻先が接触しそうな程近い。

 川内が珍しく狼狽する。普段の那珂からは想像できない俊敏さと圧迫感で川内が後ろにひいている。

もちろん戦場での那珂は俊敏に動くがそれとは違う速さだった。

 

「いや、ほら、あれよ。艦娘として提督の健康に気を配るのは当然だろ? ほら、なんにも問題はない。うん。問題ない」

 

 川内は那珂から視線をそらしつつ矢継ぎ早に喋り、一方的に話を切り上げる。

 しかし、那珂はそれを許さない。

 

「問題あるよ! あ、わかった。最近非番の夜部屋にいないと思ったら全部提督の部屋に行っていたんだ! ひどーーーーいーーー抜け駆けなんてひーーーどーーいーーーー。

 あ、那珂ちゃんも今度やる! ねえ、いいよね提督!」

 

 那珂の矛先が提督へと向けられる。それは先の川内の時よりもすごい勢いで鼻先どころかあと三センチも進めばキスが出来そうなほど接近していた。

 どんどん近付いてくる那珂の荒い鼻息、それとは別に那珂の薄いピンク色の柔らかそうな唇が、那珂が提督(自分)のために何かしてあげたいという熱意が爛々と灯る瞳が迫ってくる。

 ――『那珂近い!』 っと、言ってしまいたいがそれでは突き放すようになってしまう。が、ここまで近づかれると……

 

 一瞬、那珂から顔を背けてしまいそうになる自分を叱咤して留める。

 ――何より那珂の厚意を無下に、いや、艦娘たちの気持ちは無下にはできん。自分にはそのような権利はない。あの娘たちを死地に送りながらも、作戦指令室等という安全圏で引きこもっている自分なぞに――

 

「ああ、いいぞ。むしろもうすこし自分の事よりも、那珂自身のため――」

 

「わかった! じゃあ行ってくるーー」

 

「に、時間をだな………………」

 

 那珂は自分の言葉を最後まで聞くことなく土煙を上げながら鎮守府の方へ走っていった。

 

「……那珂はどこに行ったんだ?」

 

「多分、間宮のところに行ったんではないですか?」

 

「間宮のところにか?」

 

「ええ、間宮なら快く教えてくれそうですし、それに那珂は何事にも努力を怠らないからすぐに上達すると思うますよ」

 

「そうだな。那珂ならすぐにでも上達するだろう」

 

 二人で那珂の走っていった方を眺めていると心地よい風が大地を駆け抜けた。その心地よい風と、暖かい陽光を浴びていると眠気に襲われそうになる。

 

「――そう言えば提督、今は私たちを労ってくれる時間ですよね?」

 

 急に、川内が上目遣いでこちらに寄ってきた。なにかお願いごとでもあるのだろうか少し甘えたそうな感じで、いつもの川内とは違う声色(こわいろ)だ。

 

「無論そのつもりだが、なにか要望があったら言ってくれ。可能な限り応えよう」

 

「じゃあ遠慮なく。ねぇ提督、そこに足を延ばして座って」

 

 川内は近くにある木の根元に指さして要望(?)を言う。自分は何がしたいのかわからないが、それを川内が望むなら、と、木の根元に腰を下ろした。

 すると、仙台が自分に近づき腰を下ろして隣に座るかと思ったら。

 

 自分の腿に頭を乗せて寝転がった。正確に言えばうずくまるように自分の腿に耳を当てる形に寝転がった。

 

「川内」

 

「ほら、提督。ここは優しく頭を撫でる場面ですよ」

 

「う、うむ」

 

 川内を撫でる。短く切られ、サラサラとさわり心地がよい川内の髪を撫でる。初め遠慮がちながらやっていると川内の眉がヒクヒクしていたので今度は少し大胆にやると眉のヒクヒクが収まり心地よさそうにしている。

 自分はそのまま優しく、慈しむように撫で続ける。そして時折穏やかな風が自分たちを包み込む。こうしていると本当に――「川内のお弁当をここで食べたかったな」

 

「な! まだいうんですか提と!」

 

 ガチン! 急に立ち上がった川内の額が自分の顔面に直撃して悶絶する。流石は川内型と言うべきかその速さは見事の一言に尽き、こちらが避けようと思った瞬間には既に川内の額が自分の顔面に接触した後であった。

 斯く言う川内も額を抑えてうずくまっている。あちらもあちらであの速度で衝突したから相当痛かったようだ。

 

「――川内、大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないですよ。(提督の顔をあんな近くで見るの初めて)――じゃなくって! いきなりなんなんですか提督!?」

 

 川内は涙ぐみ、何かを呟きながらも抗議をしてきた。それどころか顔を真っ赤に染めているものだから相当痛かったのかと思うと申し訳ない。

 

「その、なんだ、すまん」

 

「全く、冗談もほどほどにしてください提……提督鼻血が出ていますよ!」

 

 言われて自分の鼻の辺りを手で触ってみると粘度のある液体の感触があり、おもむろに手を見ると赤くなっていた。

 

「ああ、たしかに鼻血だな。だがこんなもの放っておけばそのうち治る」

 

「ダメですよ。そのままにしておいたら服が汚れちゃいます。ほらこっち来て」

 

 川内は持っていたハンカチを自分の鼻に押さえつけて、頭を強引に引っ張り寝かされた。

 ――ん? この体勢は、

 

 今の自分はさっきまで川内にしていた状態、つまるところの膝枕をしてもらっている。

 自分の視線を上に向ける。その先には川内の――

 

「こら! こっち見るな助平」

 

「わ、す、すまん」

 

 パチン!

 自分の視線を遮るように川内の平手打ちが打たれ、自分は慌てて視線を90度移動させる。が、その先には川内の――

 

 バチン!

 

「な・ん・でそっちに向くんですか!?」

 

 今度はさっきよりも強めの、平手打ちではなく拳骨(グー)がこめかみに入り少々、いや、まじめに凄く痛かったが何事もなかったように180度回転させた。

 暫く自分がおとなしくしていると川内が頭を撫で始めた。それは嘗て、遠い昔に母がやってくれたような優しいそれで、あんしんしてねむたくなってしまいそうだ。

 こんなところで艦娘に寝顔を晒すわけにもいかず眠らぬように気を張る。

 

「このまま寝てもいいんですよ」

 

 川内の言葉(誘惑)に負けそうになるがここは堪える。

 

「そうもいかんだろ。それに、今気づいたがこれでは川内ではなく自分が労われているみたいではないか?」

 

「いいんですよ。これはこれで私には労いになっているんですよ」

 

「そうか?」

 

「そうなんです|《私としてこのまま寝てくれても構わないんですけどね》」

 

「ううん。まあ、それならいいが――」

 

 横目で川内の顔を確認するとたしかに笑顔で自分を撫で続けている。なにが良いのかわからんが、あと最後になにか呟いていなかったか?

 ――まぁ、これで川内が良いと言うなら、その言葉に甘えさせてもらおうかな。最近疲れて………

 

 遂に意識が落ちそうになった時。ある艦娘が来訪する。その艦娘は。

 

「ヤッホー提督! 早速間宮に教わって”おむすび”と”味噌汁”作ってきたよ!」

 

 下の方から、鎮守府の方から両手に笹の葉の包と水筒を振り回しながら走ってくる。

 瞬間、寝ていた自分の側頭部に川内の一撃が撃ち込まれ、自分は壁に寄りかかるような態勢にさせられたあと追い打ちを掛けるように背中と脇腹に指突と掌底が撃ち込まれて、あたかも初めから立っていたかのような姿勢にさせられた。もっとも若干ながら足元がおぼつかないのと三か所から鈍痛が響いてキツイ。

 

「あれ? 提督顔色が土色みたいになっているけど大丈夫?

 それに川内ちゃんも顔が凄く赤いけど……二人とも何かあったの?」

 

「……いいや何の問題はないぞ」

 

「そうだよ那珂。何もないよ――|《少しは空気読んでよ。ってか、あの短時間に料理を習ってきて速攻で来るとかどうなってるのよ》」

 

 自分は痛みをこらえながら平静を保つ傍ら、仙台は笑顔で那珂に対応していた。

 ――また川内が何か言っているようだが、相変わらず聞こえなかった。

 ――川内はこんなに独り言が多かっただろうか? とは言えど最初の頃は挨拶すらしてもらえなかったからな……

 

「? 川内ちゃん何か言った?」

 

「いや、何も」

 

「ふう。それよりも提督食べてーー」

 

 川内の反応に不思議がるも、今の那珂にそれは些事のようで、手に持った笹の歯の包と水筒を自分の前に押し出した。

 

「ちょっと那珂、提督はもうお昼は済ませているんだから無理に押し付けない」

 

「いいじゃない。せっかく那珂ちゃんが頑張って作ってきたんだから! ファン第一号の提督には一番に食べてもらいたいの」

 

「ちょっと、いつから提督があんたのファン第一号になったの!」

 

 その後も自分のことで二人が言い争いをしている内に休憩時間は終わりを告げた。

 結局二人がなぜ争っていたか自分にはわからずじまいだったが、それでもこんな休憩時間も悪くはないと、そう思えて仕方ない。

 

 だが、そんな自分たちを影から覗く者がいることに、その時は誰も気づいていなかった。

 

 

 

「おお、これはいいネタになりそうですぅ!」

 

「しかし、青葉はあんなところで何やっているだ?」

 

 ただ一人を除いては…………

 




はい。遅くなりまして。
うん。思ったよりも遅くなりました。

いやー苦労しました。具体的に言うと『川内』を『仙台』って書き間違えることが多々あり、それの適時確認と修正で疲れました。
そして、川内と那珂が可愛く書けているか不安ですが、
そんな川内ともしばらくお別れと思うと寂しいですが、それもしばらくだけの間。早く会いたいな。

あとこれよりも下には少しシリアスポイ話があります。
実は言うと勢いで最初に書いたのはそれで、読み返してみたら『俺の書きたい艦これはこれじゃない!』
っと、思ったので書き直したのが本編という。なんとも、いやはやなかなkどうして。

そういうわけで、興味のある方どうぞ。無い方はスルーしてどうぞ。
では皆様またの機会に。









 ここ最近、人の頭を撫でることなど、いや、駆逐艦たちを少し前まではよく撫でていた。しかし最近あの娘たちの頭を撫でてあげられているだろうか? この間雷を撫でてあげたのがかなり久しいことではなかった。
 そう思うと他の娘たちとまともに話をしているだろうか? 自分は――

「また撫で方が酷くなってますよ」

「あ、すまん」

 考え事をしていたら撫で方が雑になっていたようだ。その分挽回するようにさっきよりも優しく、慈しむように撫でる。
 この平穏な時間、この暖かな時間、この優しい時間にはすべてを忘れてしまいそうになる。そう、今日、今この時にでも各地では奴等と戦っている同胞がいることに、そもすれば次の瞬間には警報が鳴り、この地も戦場になってもおかしくない、そういう現実を忘れそうになる。
 だから、この貴重な時間を少しでも長く謳歌したい。

「提督」

「ああ、すまん――」

 またも雑に撫でていたようだ。今度こそはと思い撫でようとすると、

「そんなに気にしなくっていいですよ」

「え?」

「これは独り言ですけどね。私たち提督には感謝しているんですよ。
 本来なら私たちは兵器で、武器で、こんなふうに接する必要なんかないですよ。効率で言うなら最低限食事と最低限の寝床。その空いた分の予算で兵器開発と補給で戦線に送るだけでいいのに提督はそうじゃない。
 鎮守府ないにバーを作ったり、間宮に食堂を経営させたり、年に何回かのイベントを催し、たまに私たち個人のお願いを聞いてくれたり、至れり尽くせりじゃないですか。
 だから私たちは頑張れるんですよ。提督の為に頑張れるんですよ。

 だから、そんなに気になくってもいいですよ。たとえ、また、あの魔の海域に出撃しろと言われても行きますよ。
 だって、それくらいしか提督に恩返しできません」

「川内――自分は、俺は」

 瞬間、鎮守府内にけたたましい警報と共にアナウンスが流れる。

「緊急警報。現在、この鎮守府近海に深海棲艦らしき艦影を補足。出撃可能な駆逐艦、及び巡洋艦は至急ドック集まれたし。提督も至急作戦指令室に――」

「あーーあ。もう逢引は終わりですか。と、言っても途中まで那珂がいましたし、もうすぐ休憩時間も終わりましたしこんなもんですか?」

 川内は起き上がると背伸びをして体をほぐしながら喋る。これも独り言の内なのか自分の事を見ようとはしない。

「じゃあ行ってきますね提督。こんどはもっとゆっくりとしたいですね」

 最後に川内は自分に笑顔を向けるとそのまま走っていった。
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