死の超越者と大いなる種族   作:河灯 泉

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いつも通りネタがカオスな模様。


恋する乙女の如く愛せよ汝

「あと……4分と47秒。いや、46秒……か」

 

 数えても無駄だなこれ。

 そう、誰に向けるでもなく呟く。どうせ誰もいないのだから。

 好きにして良いじゃないか。独白や独り言はよくあることだ。

 

 ここには誰もいない。

 ワタシ以外、何者も存在しない。

 

「最後の瞬間にもう一度こっちでも地上にも顔を出しておきたかったんだけど今更顔だけ出すのもねぇ」

 

 気まずくはないだろうけど、なんだかね。

 ワタシなんかがいてもいいのかなって思っちゃうわけですよー。

 いや買い物に行ってるものもあるけどそれはまた別の事情といいますかなんとしましょうか。

 

 この自分に向ける言葉としてはこの上ないほど出来損ないな口調。

 これはいけない。

 ワタシはもっと厳かに。可憐に。美しくなければならない。

 威厳を失ってはいけない。上に立つものであるのならば。

 

「最後だよ最後。せめてその時くらいはいいじゃないか」

 

 自分に言い聞かせるように戯言を垂れ流す。

 終点の玉座の間にいるのはワタシ一人だけ。拝聴者など、どこにもいないさ。

 

「長かったなぁ……楽しかったなぁ。面白かったなぁ」

 

 手元に開いた(ウィンドウ)の時計に表示される23:56:17。

 思い出に浸る時間もないね。

 ……今まで散々しておいてまだやるのかと。

 

「やるさ。ユグドラシルはワタシの人生だ。当然じゃないか」

 

 カウントダウンを数えはしないがね。

 それは葉が落ちるのを病室から数えることと同義だ。不毛なことだ。救われないし報われない。

 

 ワタシは、廃人と呼ばれ、悪魔と恐れられ、神と崇められ、守銭奴と罵られ、暇人と嘲笑われた。実に多くの、数々の称号を得た。

 DMMO-RPG『ユグドラシル』。

 ユグドラシルは今世紀最高峰のオンラインゲームだった。

 

 ……過去形、ねぇ?

 

 気に入らないな。気に食わないな。気に障っちゃったな。

 ユグドラシルはこれ以上ないほどの、神ゲーだ。

 

 うん。しっくりきた。

 

 シンプルに、バカっぽく、安っぽく。そんな言い方で構わない。

 私はそれくらいがちょうどいい。

 所詮、そんな程度の人間様なのだ。

 

 ただ死なないだけの日々を過ごしていた私に、ワタシという生を与えてくれた。

 ユグドラシルは、ワタシの人生だ。

 ワタシはユグドラシルに生きていた。

 

 だが、しかし。もうすぐワタシの人生が終わる。

 

「これは……クるものがあるなぁ。張り裂けそうな、この感情」

 

 他人の気持ちがわかるなんて、あまり言いたくはないのだけれど。

 今は、今だけは、そんな近しい想いを抱いてもいいんじゃないかな。

 

 ナザリック地下大墳墓の奥深く。

 そこで自分と同じように終わりの瞬間を待つ人を想う。

 いや、人とは呼べないかもしれないけど。骨だけど。

 人型だし、そもそも精神性や魂といった中の人は人間なのだから人呼ばわりしてなにがいけないのかと。

 

 彼は強い人だ。

 ゲームの戦闘面では他にもっと強い人たちがいたが、そういうものとは別の、簡単には見えない強さだ。

 システムの数値ではなく、人によって評価されるもの。

 ギルドマスターとしての、上に立つべき能力とでも言おうか。

 

 最初は弱く、ただ狩られ弄られるだけだった存在。ロールプレイを重視する育成は困難を極める。

 だが彼は助けられ、助けることの大切さを教えてもらった。

 異形種プレイヤーがPK共に排斥された時代。いやいつだってそうだったけど、それがもっとひどく横行していた時代。

 そこで集まった仲間たちと、築き上げたもの。

 

 アインズ・ウール・ゴウン。

 

 全盛期には千を超える(プレイヤー)と戦い、勝利したギルド。

 

 だが、時は流れる。

 人は変わり、移ろうものだ。

 

 低下するIN率。

 過疎化するプレイヤー人口。

 廃れていく、ユグドラシル。

 

 それでも。

 彼は。モモンガは。

 最後の一人になっても、ギルドを残し、守り続けた。

 

 いつでも、ギルメンの誰かが、誰もが戻ってこられるように。

 

 

 

 ……ふぅ。

 

 回想風にしてみたはいいが。

 ワタシってなんなんだろうね?

 

 ……。

 自己紹介と、いきますか。

 最後だし。誰も見てないし。

 はっちゃけちゃっても、いいよね?

 

 一度でいいからやってみたかったんだよね、こういうの。

 最後だし。誰も見てないし。

 大事なことなので二回言っちゃったけど。

 ひとりぼっちは寂しいもんな。

 ワタシだって自己主張したいのさ。観客が誰も居なくてもね。

 まだ、自分があるのなら。

 

 ――さて。

 

 

 

 我輩はギルドマスターである!

 どこのって、そりゃ決まってらぁ!

 エゴロジーのギルドマスターは私しかいないのさ!

 

 

 

 説明しようっ!!

 

 ユグドラシル最大の生産ギルドこと『エゴロジー』とは!

 

 正式名称は『エゴイスティック・エコロジスト・あらいあんす』である!

 あらいあんすだけひらがななのはわざとだ! いくつかのコーポレーションの集合体だからね。いや、理由にはならんが。まぁそんなことはどうだっていいじゃないか。

 エゴロジーは一歩間違うと新興宗教かテロリストになる物騒な集団のことである!

 我等が掲げるのはただ一つ! 金……じゃなかった「自然を大切に」ってことだけだ!

 リアルでは失われてしまった自然。それを復元して再現し、仮想世界から現実世界へと『自然を愛する心を育む』思想を広めるための組織である!

 

 本拠地は『天空の砦タュピラ』!

 なんか神の雷を撃ってきそうな名前だね! ついでにバルスで崩壊して宇宙まで行きそうだね!

 飛行石というかまぁ似たようなアイテムで浮遊しているからそれほど遠くもないのだけれど。

 複数の島が互いに連結して浮いているような感じだ。

 タュピラを構成しているのは『緑庭』グリーンガーデン、『青邸』ブルーリゾート、『赤山』レッドマウンテン、『白氷』ホワイトアイス、そしてこの四つの島に守られた『黒街』ブラックシティ。更にその上に位置する最終防衛ライン『虹城』レインボーパレス。この6島である。

 これらを纏めて『天空の砦タュピラ』と呼んでいるんだ!

 GvG(ギルド戦争)では空中城砦と呼ばれて恐れられていたね!

 

 以上! 説明終わり!

 

 ……少々、物足りないか?

 あぁ、なんか新入社員に説明していた昔を思い出す……社員とはいってもギルドの新人って意味だけど。

 というわけでいくらか補足していこう。

 

 どうも外部の人間は戦闘力に目が行きがちだが、タュピラの本業は生産である。

 原料の栽培や家畜の飼育は下の四島で、加工や生産を担う工場はブラックシティの内部にある。

 牧場や畑はNPCが勝手に世話をしてくれているので人手いらず。たまに様子を見て調整をしないとAIの思考ルーチンが対応できないとんでもない事態が発生していることもあるから過信はできないがね! 新手の雑草とか害虫の類は厄介だ。アップデートの度に面倒な対応を強いられる。

 下級ポーションなんかは一日稼働させれば(ミリオン(100万))単位で生産できたのだ! まぁ小銭以下のゴミみたいなアイテムで例えるのも難しくて変な話だがね。高位のエリクサーだって1日三桁程度までなら製造できた、と言い直しておこう。

 ギルド戦やその他諸々の物騒な理由で防衛設備を充実させたため現在の生産力は最盛期の半分ほどだが、それでも割と長い間引き篭もって戦争を続けられるくらいには備蓄がある。とにかくアイテムを作っていたのはいいがユグドラシルの過疎化でありとあらゆる需要が低下しちゃったからね。悲しい。

 完全な自給自足をするには地上に数十箇所ある支店や地方工場に移した役割が足りない。分担作業は効率的になる分、補給線を切られると致命的だから怖い。当然の事ながら採掘場や精錬場といった設備も地上に多いからタュピラでは中々補充ができない。

 うちが保有する工場同士で自由に転移できるようにしてはいるが、戦争時のトップギルドならその程度の妨害と対策は容易だ。まぁその場合は逆もまた然り。

 エゴロジー総本山であるタュピラでは主に最上位、最高峰の神器級(ゴッズ)アイテムを扱っていた。公式チートとまで言われた世界級(ワールド)アイテムには劣るが、プレイヤー個人の物としてはこれ以上ないほどのレベルの物をだ。伝説級(レジェンド)アイテムやそれ以下の物なんかも大量に取り扱ってはいたが、やはりトッププレイヤーとしての感想を言うならばそれらは神器級(ゴッズ)には一歩劣ると思えてしまう。

 無論、大手ギルドの財政が吹っ飛んでも買い占められない数の品物を保有していたので情報漏洩には細心の注意を払った。

 このレインボーパレスに足を踏み入れたのは数百を超えるエゴロジーの構成員でもたった数名だけ。砦にいたほとんどのメンバーは皆NPCだ。NPCなら情報統制もなにもない。

 決して弱みを見せてはならない。弱者は常に強者から狙われている。

 

 だからこそ。

 市場を掌握し、金の動きを操り、自分たちの身を守ってきた。

 

 生産系のギルドなんてPKのプロ集団とかに襲われたらひとたまりもないからね。

 大手のギルドにそれとなくサービスを振りまいて互いの不利益を避けようとしてもらったり。

 自衛力を追い求めた果てにナザリック地下大墳墓に次ぐ難攻不落の城砦が出来ちゃったり。

 

 ギルドマスターとしては、楽しかった。サブギルドマスターに仕事を押し付けてレア素材を探しに行ったり。

 プレイヤーとしては、忙しかった。生産ノルマに追われて数字を目で追う作業に没頭したり。

 

 ……なんか立場が逆な気がしなくもないが。

 

 でも、そう。

 ワタシとしては――

 

 

 

「ワタシとしては、ずっとここにいたいって。それだけなんだけど」

 

 私としては、どうなのだろうか。

 大往生? それで満足?

 

「満たされちゃったってのは、あるんだよねぇ」

 

 やりたいことはもうやった。

 それだけの時間をこのユグドラシルで過ごしたのだ。

 思い残すことなど、なにも……

 

 

 

 

 

「……モモンガ」

 

 

 

 あった。

 私の最後の心の……なんて言おうか。

 大切な存在、かな。

 

 彼は今、どうしているだろうか。

 社畜の中の社畜、ヘロヘロさんがINしていたのをフレンドリストで確認した。

 そのヘロヘロさんもついさっき落ちたようだが。話はできたのかな。

 

 誰か、いないのだろうか。

 今、彼の元に。

 

 ……たとえば。

 餡ころもっちもちさんとかぶくぶく茶釜さんとかやまいこさんとか。

 いやいないのはリストを見れば一目瞭然考えるまでもなくわかることなんだけど。

 

 ……ん?

 嫉妬って言うのかなコレ。彼の周りに女性がいるかどうかなんて気にするなんて。

 嫌だな。恥ずかしいな。

 あぁ~、なんか転がってのた打ち回って絶叫したい!

 違うからねそうじゃないからね。

 

 

 んあぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁあッ!!

 

 

 違うんだよそうじゃないんだよほんとに!

 ワタシはただ最後くらいモモンガさんと一緒にいてもよかったかなとかそんなこと考えてただけで私としても友と終わりを語らいたいなくらいにしか思ってなくてでも独りの寂しさはわかるよだから一緒にいてほしいなーなんて思っちゃったりしてでも他に人がいたらどうしようかな別れの邪魔になったりしないかなとかいやほらアインズ・ウール・ゴウン最初期の創設に立ち会った『ナインズ・オウン・ゴール』番外の10人目とはいえ今はもう独立して別のギルドのトップだし余所者だしいちゃ悪いかもなーなんてこと考えて何人か懐かしい面子がINしてきたのを見ながら彼には昨日挨拶しに行ってちょっとした話が出来てそれでよかったね満足したよーなんてばっきゃろぅそれで終わるなよもっと押せ押せで対人関係取り戻してみせろよとか自分で自分に言うけどやっぱり精神的に限界だったのさ無理に決まってるじゃん今更どうやって話をしに行けってんだよ繋がりが切れてないんだからそれでいいじゃないか私たちずっと仲の良いお友達でいましょうねうふふふふーってこのへたれバカマヌケェもっと頑張れって大丈夫だよ結構残った者同士通じ合えるんだからさぁ時々一緒に狩りに行ったりしていたのはなんだったんだよ好感度稼いでたんじゃなかったのかよグイグイ押して押して押し倒しちゃえよとか唆してって自分で自分になに言ってんだよなんかもう支離滅裂でわけわかんなくて全然大丈夫じゃなくてあぁでもやっぱり最後くらいは話しをしに行ってもよかったかなーなんてやっぱりちょっと思っちゃったりしてああでもなーうんやっぱりでもでも何度でも思い直すよ邪魔に思われたらどうしようって考えちゃって怖いんだよ嫌なんだよ避けられるのも嫌われるのも遠ざけられるのも鬱陶しく思われるのもなんもかんも嫌でだけどそれはやっぱり好意を向けて受け止められて受け入れて欲しいんじゃないかって思考とか思想とかこう言うと恋心みたいだねまぁ恋愛も何もないとは思うがねって愛も恋もないのにこれはちょいとアブノーマルじゃねーのかないやでもこのアバターは普通の女の子だし大丈夫なんかいけそうな気がするっていやいやいやダメダメダメ拒絶されたらそれこそ死んでしまいますわ私はとても臆病で繊細で壊れやすくて脆いんだからビッチとか言われたら精神的に死んじゃうしやめたげてよぉってああもう本当にめんどくせぇなぁまったくこれでこんなんでこのまま終わるとか冗談じゃねぇよぉおおおおおおおおおお!!

 

 

 

 ――なんて。

 アホなことやっているうちに。

 

23:59:59

 24:00:00

  00:00:00

    00:00:01

      00:00:0------

 

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 終わった世界――

 

   消えるワタシは――

 

 

           私は――?

 

 

 





きっといっぱい修正入るでしょうけど。
そのときはそのときです。
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