日暮れの平原。
騎馬を駆る一団が相対するのは天使を連れた集団。
ガゼフ・ストロノーフが率いる戦士団と、貸し出された一体のネンドじんの姿が見えた時、相手は明らかに動揺していた。
天使を召喚して待ち構えていた、ニグン・グリッド・ルーイン率いる陽光聖典。
隊長であるニグンはこの任務を難しいものだとは思っていなかった。
人類の足並みを乱す愚かな王国の足並みを揃える為に裏から手を回してガゼフの本来の装備を使わせないようにし、辺境の村を襲わせ彼が釣られたところを自分達が始末する計画。実力を出し切れないガゼフなど、幾度と無く亜人共との戦闘に駆り出された経験のある陽光聖典の者達にとって敵ではない。
そのはずだった。
「なぜ貴様のような奴が
それは悲鳴のような叫びだった。
ガゼフとその部下だけだったらさして苦労せずに片付けられたであろう。
しかし、ガゼフはニグン等が畏れ敬っているモノを引き連れて現れた。
土人様。神の尖兵。
言い伝えられている正式名称は『ネンドじん』。クレイゴーレムの一種とされているが法国では神の遣いと呼んで差し支えない存在をただのゴーレム如きと一緒くたにするのはどうかという議論の的になっている。
600年前にこの地に降臨した六大神。そのうちの一柱――土神が遺されたと云われているモノである。
その力は大岩を砕き、その足は馬をも追い抜き、その身体はあらゆる攻撃を受け止める。
正に神の遣いと呼んで差し支えない存在だろう。
(その土人様が何故……?)
法国ではそれなりに名の知れた存在ではあるが、他国にその情報を渡すことはないはずだと考える。帝国なら名前程度は掴んでいるだろうが王国にそれだけの情報収集能力は無い……と思う。
知りもしないその存在を従えるとは、いったいどういうことか。イレギュラー過ぎる事態だ。
素早く、それでいて的確な行動を取らなければ作戦の失敗は確実。
ニグンの思考は時間が止まっていると思えるほどに研ぎ澄まされ、透き通っていく。
(土人様が相手では我々だけで勝つことは難しい……囮として時間を稼がれてはガゼフを逃がすことになってしまう)
ニグンが召喚した
悔しいことにネンドじんとガゼフを一度に相手して勝てるほど陽光聖典は強くない。
ならば、どうすればいいか。
「最高位天使を召喚する! 僅かで良い、時間を稼げ!」
任務を遂行するために惜しむべきではないと判断したニグンは本国から万が一の時のために授けられていた魔封じの水晶を手に取る。
ニグンの部下達が
ちなみにガゼフの部下達もそれなりに戦ってはいるのだが所詮脇役に過ぎないので端折る。
「顕現せよ
――勝った。
確かに、召喚は成功した。
ニグンは堪え切れない笑みをそっと浮かべ、次の瞬間その笑みは驚愕へと変わる。
神は言っている。ここで死ぬ定めなのかもしれないと。
「最高位天使って言うからどんな奴かと警戒したらガチ装備のわたしがタイマンで勝てる雑魚だった件についてー」
「そのガチが割と凶悪なんですがそれは」
「いやでもカンスト組とやりあったら勝率2割切るよ?」
「戦闘職相手にして2割は十分高い方ですって」
突如として何処からともなく現れた一団。
「ところでずっと前から気になっていたんですけどなんでガチ装備なのに白衣なんですか?」
「これが一番着慣れてるから、っていうのと……あとはまぁ単純に趣味で」
「趣味で
「ちなみにこの下は下着無しだよ。見る?」
「え? ……え、ちょ。いくら規制がなくなったからってそれやばくないですか? てかなにしてんですか!?」
「代わりにスク水を着てるから問題ない」
「問題しかない! 安心したけど痴女じゃないんですからそういうことはやめましょうね」
「防御性能高いのになぁ……。このふたつだけで水と聖と毒の無効化だよ? 凄くない? 超位とかワールドデストロイヤーの超火力みたいなキチ系には通されちゃうけど」
「凄いですけど……確かに凄いんですけど……!」
「あ、とりあえずあれだけ食べておきますね。私は平気だけどアインズだと相性悪いから通っちゃうだろうし」
■■■■。
同時にいくつもの咀嚼音とナニカ硬い物が砕けるような音が混ざり合って聞こえた。
それはまるで食事の風景を切り取って一瞬に加速させたような。
ふと我に帰ると、
「いつ見てもえげつない剣ですね……使用者の半分以下のレベルだと確実に死ぬんですよね?」
「くふ、ふぅ……。成功率は最高で99.99%固定らしいけど失敗したことはないですね。食べ過ぎると侵食が進むからあんまり使えないんだけど。もう、お腹いっぱい……」
「良い実験になりましたか?」
「なりましたー……」
肉塊がシュルシュルジュポジュボと音を立てて少女の腕に収まっていき、やがてなんの変哲の無い、日に焼けていない白い肌となる。
それを確認して、満足気に腕を振るう。もう腕は白衣の袖の中に入って見えなくなった。
その手でさして変わっていない腹部を擦り、首を傾げるもすぐに興味をなくす。満腹感はあっても物理的に腹が膨れることはなかったようだ。
「な……何者だ」
「わたしが正義だ」
「いやせめてそこは正義の味方で……」
あまりにも非常識なことの連続で現実感を失ったニグンの問いに真顔で答える少女は、しかし内容に対してふざけているようには見えなかった。……隣のローブ姿の男はそこまで乗り気ではない様子だったが。
この異様な空間の主導権を握っている二人の後ろでは同量の黄金よりも価値があると思わせる高価な鎧の騎士、禍々しい槍を手に持ち露出度の高い拘束具に似た服を着た紅髪の少女、純白の清らかなローブを纏った金髪の少女、光を飲み込む黒い鎧の戦士が静かに佇んでいる。最後の一人からは今にも押し潰されそうな殺気の重圧が放たれているが周りの者はそれを気にした風も無い。
まぁ、敬愛する主がどこの馬の骨とも知れぬ下等生物と親しくしていたら不機嫌にもなるだろう。
「降参する人は直ちに武装を解除して跪きなさい」
少女がそう告げると、ニグンを含めた陽光聖典の誰もが従う。
勝てない。あり得ない。理解できない。
誰も抗うことはできない。無駄に意味も無く無為に死ぬのは誰だって嫌だろう。ましてや彼らは損耗してはいけない人類の守り手なのだから。
陽光聖典は謎の少女一人に敗れた。それが事実だ。ガゼフと共闘するネンドじんがいたことすら
うんうん、と満足そうに頷き、戦意を消失した陽光聖典を睥睨する。
その少女は一言、
「
「日本語でおk」
呟いた瞬間に脊髄反射の如き速度で返されたつっこみを楽しそうに受け止める。
周囲と隔絶した和やかな雰囲気は、しかし空間に不自然な亀裂が入ることによってかき消される。
「覗き見とは良い趣味だこと。私は爆裂でしたけどアインズはなに設定してました?」
「私も爆裂ですね」
「ふふ、奇遇ですね」
「そうですね」
監視の目をさして気にも留めず、すぐさま二人だけの世界を築き上げる超越者共。
相手側に情報は与えていないので特に問題ない。
軽いジャブ程度のカウンターだったが、牽制にはなっただろうと考えている。
嫉妬マスクを被って爆裂を放ったという通じる人には通じるネタは、スルーされた。相手がリア充だと確定していたわけでもないので別にいいだろう。
「じゃ、後始末は」
「一緒にやりましょうね」
「……あ、はい」
任せましたよ、とは言わせて貰えず。
いまいち締まりの無いままカルネ村周辺での戦闘は幕を閉じた。
そろそろナザリック勢との絡みに入ろうかと。
のんびりとね。