死の超越者と大いなる種族   作:河灯 泉

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神は人を創りたもうて人は神を想像す

 ……。

 

「ん――――――ぅ?」

 

 我を忘れて羞恥心で悶えていた私だが、ふと違和感を覚えた。

 

「ログアウト……してない?」

 

 現実の、不幸で不運で不遇で不憫で不便で不要な肉塊ではない。

 ユグドラシルで二番目に長い付き合いの、慣れ親しんだ少女の身体だ。

 

 意識ははっきりとしている。

 本来、ないはずの感覚まである。

 視覚と聴覚などは現実との違いなんてよくわからないが、嗅覚、味覚、触覚はゲームでは制限されている、もしくはそもそも存在しなかった領域まで知覚できている。

 火薬臭い身体。臭気以上に感じられる空気の味。

 しかも、それだけではない。

 意識の分割ができている。

 ゲームユグドラシルでは複数のタブやウィンドウを開いて操作していたモノ。

 それが今では自分の一部……いや、それらも含めて自分自身一個体として認識している。

 

 ……うーん。

 説明しづらいなぁ。

 なぜだか。これが平常で、当然の、普通の状態だと思えてしまっている。

 「どうして人間は四肢があって五指があるのに混乱しないの?」と質問されたってどう答えればいいかなんて生物学者かトンチの利いた坊さんでもないと難しいだろう。

 ついでに述べるなら無いはずの6本目の指が突然消失したような感覚なんかもあってわけがわからない。いったいぜんたいこれはどういうことなのか。

 

 ……ん?

 

<報告:遮蔽、および隠蔽が解除されました>

<報告:座標点の消失を確認しました>

<報告:魔道動力炉は機能を停止しています。コズミックキューブは正常に稼動しています>

<警告:高度の維持ができません>

<緊急:動力炉を再稼動させます。コズミックキューブとの再接続を確認>

<設定:当砦は自律防衛行動に移行します>

<設定:命令は可能です>

<―――速やかに的確な指示を出して下さい>

<謝罪:当砦の思考回路は不完全です>

<報告:動力炉の再起動に成功しました。初期稼動率は98%で安定しています>

<報告:第一島『緑庭』、第二島『青邸』、第三島『赤山』、第四島『白氷』、第五島『黒街』は正常に稼動しています>

 

「遮蔽装置の再起動を最優先にして、隠蔽術式は一度破棄して再試行。光学迷彩の使用も許可する。座標点は現地点をゼロとせよ。高度を測定して報告……2万? ん、わかった。現高度を維持して。動力炉は出力を抑えて、一度止まった原因を調べて。防衛兵器は警戒態勢のまま何かあっても撃たないように。防御障壁に出力を集中させて。それから今すぐ第一から第五までの守護者を会議室に緊急招集して。それと『虹城』の状態を報告」

 

 ……なんだこれ。

 

<報告:隠蔽術式を再試行しました>

<完了:竜の巣再形成>

<報告:光学迷彩を発動しました>

<確認:座標点を再設定しました>

<報告:動力炉稼働率は現在15%です>

<調査:動力停止の原因は不明です>

<報告:防衛兵器は待機中です。対地、対空兵装の換装は実行されていません――装填、装弾は完了しています>

<召集:各守護者の了解を得ました。会議室への集合まで推定108秒>

<報告:現在『虹城』は自律防御形態です。損傷、損害は確認されていません>

 

「各設備の状態は?」

 

 ……なんなんだこれ。

 

<栽培:問題無し。対菌、対病機能の警戒態勢をレベル4へ移行しました>

<飼育:家畜のストレス値が上昇傾向にあります。許容範囲の逸脱は確認されていません>

<養殖:水温、PH、水圧、光量、生体バランス全て問題なし>

<生産:全生産・加工ラインは現在停止中です。再稼動に問題はありません>

 

「隔離施設の様子は?」

 

<――隔離施設は正常に対象の全機能を停止させています>

 

「そう、わかった……あとは守護者と話してからだな」

 

 動揺はしている。

 というか、動揺しかない。

 しかし、現状を冷静に捉えて考えている自分も存在する。

 次から次へと送られてくる情報を処理する自分もいる。

 受け答えをしているのも勿論自分だ。

 

 これは。

 やはり。

 種族補正というものだろうか。

 

 この肉体自体は純粋な人間のものだ。

 ただ、本来の、本体とも呼べる身体は別にある。

 

 私の種族は『イース』である。

 大いなる種族とも呼ばれる。クトゥルフ神話に登場する旧支配者の一種族だ。

 元あった体を捨て、未知なる宇宙の何処かへに消えていった精神生命体。

 偉大で壮大で広大で拡大しすぎてどういう存在なのか理解が及ばない領域の存在。

 他の生命体と精神を交換し、過去や未来の知識すらも収集する化け物。

 まぁ、ユグドラシルではゲームバランスの問題でかあんまり強くなかったんだけど。

 

 イースは複数の意思を有している種族ではないよ、とかそういう突っ込みは無しで。複数体存在するのはナイアーラトテップとかのもっと上の邪神なんだけどね。

 そういうのはユグドラシルの製作者にでも訊いてくださいな。

 実はイースは複数同時に存在するとか、契約契約迫る白い悪魔ことQBみたいな存在にされているとか、そういう設定かもしれない。詳しいことは知らない。

 

 そうそう。

 虹色の鱗に覆われた円錐形の軟体動物みたいで植物的な身体はあったが、あれはアインズ・ウール・ゴウンに所属していた短い期間でしか使っていなかった。

 だってあの姿だとしょっちゅうプレイヤーにPKされるんだもの。

 無論、PKしてきた愚か者共には数十倍にして返したけど。リスキルと経済攻撃も辞さない。

 

 戦わずに済むのなら、私は争いを避けたい人間だ。いや人外だけど。

 勝てる戦いなら仕方がないので徹底的に殺る。勝てるかどうかわからない戦いは極力逃げる。

 他者が他所で勝手に争うのは大歓迎だ。戦争は物がよく売れる。

 

 で。

 私は生産者なので人手が多ければ多いほど有利であった。

 複数の身体を使用するのは課金と才能と適正と努力と運命力でどうにかなった。普通の人間がやると頭が沸騰しそうな経験を生かしたのだ。

 数を増やせば増やすほど一個体が弱体化されるので効率的かと問われればまた結構微妙なものだったのだが。最上位種族の割に戦闘に向いてないし。てか私以外にここまで分身体を運用するイースを極めた人はユグドラシルにはいなかったと思う。

 

 と。まぁ。

 珍しいという意味でレアな私ですがね。

 この砦にはいくつかの自分がいる。

 

 まずはこのメインの身体。人間種の少女。生産職メインの錬金術師。習得した魔法は最高で第8位階までで魔法の総数は百強。これを使う時は常に複数体操作しておりステータスが軒並み中堅者レベルにまで下がってしまうのであまり(STR)を必要としないガンナーとして運用していた。ある程度防御力のある相手には銃撃が効かなければ無力。逃げ足は装備で補強しているのでかなり速いけど、近付かれたら詰む。あと遠距離から圧倒的なまでの範囲魔法火力で押されても死ぬ。まぁ本当にガチプレイヤーと戦闘する気がない身体だ。低レベル相手の狩りならそこそこ使え、採集や偵察にはまぁ普通に使える程度。

 

 そしてサブの身体で主に動かしていたのは5体だけ。ちなみに全て機爆人(ボンバーマン)である。

 

 シリウス。

 全ての島を回る警備隊長である。白と黄色を基調とした騎士の姿をしている。ジェットエンジンを搭載しており変形して高速で飛び回りながら遠距離から一方的に攻撃できる凄い奴。

 侵入者に助言をしたり手助けをしたりして信用を得て、最後の最後に「騙して悪いが……死んでもらう」とすることを目的として作った……のだが敵であるプレイヤーの目の前に現れた瞬間に不意打ちと間違われて攻撃されるから成功したことは一度もない。

 

 アルタイル。

 黒尽くめの格好をしているので暗い場所では保護色になる……が、機爆人の目に当たるツインモノアイが光っているので意味はない。ベガというサポートメカを従えている。ブラックシティの監修を務めているという設定。いやだって操作するのは全部自分だし。

 

 カペラ。

 機爆人5体の紅一点。とにかく格好が赤い。中距離から炎弾を撃ちまくる火力魔法職。ブルーリゾートの管理を任している。

 

 ハウト。

 割と緑色。半球状のショックバリアを張る前衛。ショックバリアに殺傷力はほとんどないので足止めやサポートが主な役割。レッドマウンテンの管理者。

 

 レグルス。

 青と水色。中距離から爆弾を投げ、隙を見て急速接近して強烈な乱舞を繰り出す。速度はあるが軌道が一直線なため相手が普通のプレイヤーだと動きを読まれて負ける。大体いつもホワイトアイスの高いところにいる。

 

 機爆人達は基本的に戦闘用の身体だが害鳥や害虫駆除程度ならどうにかできる最低限のスキルを有している。元ネタ的にも爆弾をばら撒いて楽しむキャラクター達ではあるのだが、所詮は生産ギルドの調整役なのだ。発破や焼畑など必要ない。

 

 そして元メイン、本体の異業種であるイースの身体。魔法職。精神系の魔法を多く取得していたけどユグドラシルのレベルカンストプレイヤーには基本的にそういった魔法は効かないので格下狩りにしか使わなかった。切り札もあるにはあったが使いどころが難しくて遊び以外では使わずに終わってしまう。アインズ・ウール・ゴウンが創設された頃はこの身体を使ってそっちに遊びに行ってたけど今のギルドに入ってからはほとんど休眠状態だった。

 

 残りの身体はここで単純作業の生産や整備をしたり支部や工場に派遣していたりと目立った活躍はしていないので割合。ここで問題なのは最後の最後に買い物に出掛けさせていた身体や地上の支部に置いていた身体は繋がりが感じられないことか。

 私はユグドラシル一よく働くプレイヤーだと自負していた。一人で複数人分の仕事とか平気でやっていたし。

 つまり、活躍するそのどれもが自分で、結局全部頑張ったのは自分ということなのだ。

 いやまぁ他のギルメンもいたからこそ、ユグドラシル最大手ギルドになれたのだけどね。ランキング1位に輝いたのはほんの一瞬ですぐに戦争吹っ掛けられてそれどころじゃなくなったけど。そこは忘れていない。ちゃんと覚えている。

 引退した仲間達のことを思い出して少しばかりアンニュイな気分。

 

 っていうか。

 この独り言紛いの独白的回想も並列思考でやってるんだよね。

 

 いつの間にか集めた守護者や責任者たちとの話が終わってるし。

 いや、ちゃんと把握してるけど。

 そっちの思考とこっちの思考はまた別物で。

 でもやっぱりそれら全ては自分であって。

 混乱するのは自分でそれを治めるのも自分で。更にそれを観察するのも自分で。

 だけどわかんないのも自分で自分は自分が自分自分自分……――

 

 んあぁぁぁわけわかんねぇよぉぉぉ!?

 

 こっちの身体は人間種(ヒューマンさん)だから精神の安定はないんだよぉおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

 しばしの間。

 ゴロゴロと、誰もいなくなった部屋で転がりまわった……。

 




ぶっちゃけ書いてる私にもわからん。
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