死の超越者と大いなる種族   作:河灯 泉

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道化師は嗤わない

 結局。

 人間種である私が夜更かしをして全箇所を見回るというのには無理があったわけだ。

 いや薄々わかってはいたのだけれど。

 黒街(ブラックシティ)はアルタイルに、緑庭(グリーンガーデン)はシリウスに、青邸(ブルーリゾート)はカペラに、赤山(レッドマウンテン)はハウトに、白氷(ホワイトアイス)はレグルスに巡回してもらうことにした。

 こういう時に複数の身体をそれぞれ自由に動かせるイースって便利だなぁとしみじみ思った。本体じゃない私が言うのもなんだけど。

 

 当の私は虹城(レインボーパレス)でサルマタケの収穫に忙しい。サルマタなんて置いてないのにサルマタケは繁殖する不思議。あれか。それっぽく押入れの中にパンツとか詰め込んでいたのが現実になってこんな惨状を生み出してしまったのか。

 サルマタケが食べられる物であることは知ってるけど……え、これ自分で食べる必要ないよね?

 元ネタを知っているだけに形状的にも繁殖条件的にもこの私が口にするのはちょっと……ねぇ?

 調理してプリニーたちにあげよう。そうしよう。きっと喜んでくれるはずだ。てか喜べ。

 

 どうやらこの未知なる世界でもユグドラシルの法則が働いているようで、武具を扱うにも料理をするにもそれに対応する職業やスキルがないとダメらしい。

 私はオールマイティになんでもできるように様々な職を取っているから大抵の物は最低限扱えるからいいけど、検証作業の分担が更に面倒になってくる。うちのNPCたちは不器用というほどのものではないがいかんせん確認するべき項目に対して作業員の数が足りていないのだ。ボスや幹部連中は戦闘用の武闘派ばっかだし。

 こうなると一番忙しいのって私なんだよねぇ……なんて考えてみたり。

 

「――少々お時間よろしいでしょうか」

「にゃっ!?」

 

 考え事をしていたためかいつの間にか背後に現れていた影絵のピエロこと”マスター”に声をかけられるまで気付かなかった。

 (マスター)はここ虹城(レインボーパレス)の階層守護者で中ボス的な存在である。レベルはかなり高く設定されており95である。100じゃないのはそれ以外のNPCにリソースを割り振るための犠牲となったからである。それでもこの人間種の私よりずっと強いことには変わらないが。

 圧倒的強者を背後に控えて、少し緊張する。

 魔法詠唱者である彼が本気で敵対すれば生産職の私など一撃で殺されてしまうだろう。

 理由も無くそんなことはしないだろうが、これでも私は小心者なのだ。

 上司として、支配者としてそれに相応しい振る舞いをしないといけない気持ちに駆られる。

 

「探索隊の編成に関してお話が」

「あぁ」

 

 タュピラでの仕事は大体目処がついた。終わるのがいつになるのかはわからないが、ある程度の作業内容が決定した。

 それによってできた余裕を有効的に使うために地上を探索する。どうせいつかは降りなければいけないのだ。引き篭もっていたってなにも始まらないのだ。

 もしかしたら、私たちと同じように誰かいるかもしれないしね。

 

 まずは使い捨ててもさして問題が無いであろう戦力を出す。

 プリニー隊長をトップに、生前重罪を犯した囚人系のローグプリニーを組ませる。プリニー隊長はレベル30前後、ローグプリニーは5~10程度だったはずだ。

 本隊はエトナとフロンにプリニーを任せて……あとは戦闘があった時のために”しきかんどの”とマシュマロちゃんも行ってもらおう。これで全滅するような敵戦力といえばワールドエネミーかカンストプレイヤー集団くらいだ。

 

「何故、私めを供としてお選びにならないのでしょうか」

「マスター。君は確かに強い。だが飛行ができない者に許可は出せない。地上の危険性はまだ未知数なんだからね」

「それは……承知しておりますが」

 

 普段は半弧を描くようにして笑っている口が逆向きになって悲しそうに見え、顔の目に当たるパーツも泣きマークになって涙のような模様を浮かべている。

 忠誠心はあるのだろうが、マスターは少しばかり前線任務を求めすぎていると思う。隠された裏中ボスで到達者が圧倒的に少ないという設定の所為でもあるのだろうが。道化師は暇だと死んでしまうのです。

 

「君はタュピラの総括だ。守護者(ボス)として戦うことが存在意義だと、そう創られていることもわかっている。君を連れて行った方がずっと調査も捗るだろう。だが、地上ではなにがあるかまだわからないんだ。転移魔法も絶対じゃない。ワールドエネミーのような奴が転移妨害をして現れたらどうする? だから、もしもの時に逃げる手段の少ない君を連れることはできない」

 

 短距離影移動ができるマスターだが、それも転移妨害系の高位魔法を使われると無力化されてしまう。無力化を無効化するアイテムもあるにはあるのだが超位魔法や世界級(ワールド)関係の効果が相手だった場合は意味を成さない。

 とあるワールドエネミーが有していた『大魔王からは逃げられない!』みたいなスキルがあったら転移魔法をメインに退避する者たちは見捨てることになってしまう。私が飛行に拘る理由はこれが大きい。

 飛行ネックレスを装備するという手段もあるにはあるのだが……あれも墜落させられる手段が割と豊富にあるので使いづらいのだ。戦闘になる可能性を考慮すると重要な装備枠を埋めるのはどうかと思う。しかもあれ決して安くは無いからね。

 浮遊はできるがそれはしょせんレンジコントロールのための移動手段でしかない。交戦距離が限定的な空間で運用されることを前提に創られたから肉薄されても距離を離されすぎても攻撃が弱まってしまう。

 対空手段の多い敵だったらどうするのかって?

 ……どうしよう。

 ワールドエネミーと特殊スキル、超位魔法以外にそんな面倒なものはないと思いたいけど。

 そこまでいくと考えたってどうしようもないレベルだと思う。思考停止上等。無理ゲーだもの。

 

「ワールドエネミーのような強大な敵が現れた場合、貴女様はどうなされるのですか」

「いや私は待機組だが?」

「え?」

「え?」

 

 ……。

 ………………。

 ………………………………………………。

 

 沈黙。

 マスターはハニワのようにまん丸な目と口の形を晒してから微動だにしない。

 

「地上の偵察はシリウスに行かせるぞ?」

「……」

「いやこう言っておきながら<転移/テレポーテーション>も<飛行/フライ>も使えない私が出るわけないだろう。アイテムはできるだけ節約したいし」

「……」

「ま、マスター?」

「……」

 

 顔のパーツが全て無くなり完全な無表情となったマスターは無言のまま姿を消してしまった。

 いやだって私が行っても足手まといにしかならないだろうし。

 できることなら外に出て自然と触れ合い世界を直接感じたいのだが、まず地上の安全が確保されないことには危険すぎる。イースの分体である私は一度死んだらペナルティによって復活できないのだ。

 普通のプレイヤーキャラクターと同じ成長具合なのに一度も死ねないとかマジ鬼畜仕様。本体以外の育成で心が折れるからイースは超絶不人気種族だったのだ。しかも当然本体だけだと戦闘に特化させても格下にすら嬲り殺されるという貧弱っぷり。分体の育成には時間も金も運も、とにかく手間がかかるものなのだ。

 

 彼が誤解していたことに対して、私は何も感じないし思わないのだが。きっとマスターは自分を許せないのだろう。頭が良い設定だったからね。それと同じくらいどこか抜けているって設定でもあったけど。

 彼の製作者もあんな感じだった。やっぱり子は親に似るんだね。

 あぁ、またアンニュイな気分。

 

「……寝よ」

 

 マスターが戻ってきたらちゃんと話をしよう。気にしてないから気にしないでって。

 だがしかし。まずは仮眠を取らないと。人間種は無理をするとすぐ死んでしまう。

 部屋の隅に畳んでおいたオフトゥンを敷いて、薄い掛け布団との間に潜って眠りにつく。

 

(これから私たちはどうなるんだろう……)

 

 なるようになるさ。

 したいようにすればいい。

 

 そう、誰かが囁いてくれたような気がした。

 

 でも、お仕事があるんでしょう?

 どうせ誰も手伝ってくれないんでしょう?

 

(……)

 

 おい。

 ……。

 もうやだ寝る!

 




・対空システム・


Q:そういうもんなの?

A:そういうもんなんです。つい先程まで飛行ネックレスのこと忘れてましたし。
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