僕の彼女はヴァルキュリア   作:わるきゅーれ

1 / 1
最終話 「僕は彼女の淫らな奴隷」

『魔法使い』

 

その名の通り、魔法を使う空想上の存在。誰だって小さいころに一度ぐらい夢に見たことがあるはず。でも大人になるにつれてそんなものはないのだと誰もが悟っていく幻想。三十過ぎても童貞の男を畏怖を込めてその名で呼ぶことはあっても本物は実在しない。

 

だが、この世界に魔法使いは確かに存在する。

 

彼女たちは『魔女』と呼ばれている。ある研究所によって非人道的な実験を繰り返され、人体の改造を経て様々な特殊能力を持つことに成功した少女たち。「それ魔法じゃねえよ!?」と誰かの突っ込みが聞こえてきそうだが、魔法だって言ってるんだからしょうがない。

 

彼女達……というか俺も含めて魔法使いには二つ、大きな特徴がある。

 

一つはハーネストと呼ばれる筒状の機械が脊髄に埋め込まれていること。俺たちにとっては第二の脳みたいなもんで中には大切なものが詰まっているらしい。見たことはないけど。というか見たくない。絶対碌でもないものが入ってるのは分かる。そしてハーネストにはボタンが三つある。押すと死んだり、賢者になったり、覚醒したりしなかったりする。以上。基本見た目は同じだけど稀にめっちゃ豪華なハーネストがある。真子ちゃんが付けてるのとかがそう。厨二心をくすぐるイカすデザイン。俺もあんなのがよかった。携帯みたいに着せ替えできたらいいのに。

 

もう一つが鎮死剤という薬を飲まないと体中から血が噴き出して最後は溶けて死ぬ。なんだこれ、言ってて自分でも意味が分からない。魔法よりもこっちのほうが何倍も魔法だわ。原理は細かくなるので省力。魔法使いが逃げ出さないようにするためのリミッターのようなものらしい。これを考えた人はきっと性癖歪んでるに違いない。ある種尊敬すら感じる。おかげでガリガリ寿命が減らされているのを除けば。

 

あとはそう……魔法使いにはランクがある。AAA、AA、A、B、Cといった順。能力の数や質によってランクが変わる。基本B以下は落ちこぼれ。Cになると処分される。なのでBには残ろうとみんな必死に頑張っている。かくいう俺もBランク。隠された力が覚醒する気配も今のところなし。AAA以上になるとコードネームをもらえるらしい。ぜひ俺も欲しいが大人になったら黒歴史になりそうだ。

 

そしてAAAを超えるSランクというものが存在する。もしかしたらその内+とかEXとか出てくるかもしれない。それはともかくこのSランクの魔女はヴァルキュリアと呼ばれ、恐れらている。最強の魔女であり魔法を複数使うことできる。曰く、世界を滅ぼすことができるらしい。まさにヴァルキュリアの名に相応しい怪物。その怪物は今

 

 

せんべいをかじりながら、ソファに横になって昼ドラを観ているところだった。

 

 

「…………」

 

 

いつものように気だるげに藤崎真子こと真子ちゃんは昼食後のリラックスタイム中。どっからどう見てもニートなのだが言うと爆発四散されそうなので止めておく。死にはしないけど後の掃除が面倒臭い。

 

 

「……何見てんの、キモイんだけど」

 

 

こっちの視線に気が付いたのか、見下すような侮蔑の視線を見せながら真子ちゃんは俺を罵倒してくる。な、なんて失礼なことを……ありがとうございます! と心の中で感激しているが表には出せない。まだだ……まだ耐えなくては。耐えてこそその先にはさらなる甘美が……はひとまず置いておくとして。ソファでごろごろしている真子ちゃんは無防備この上ない。ポリポリお尻をかいているところなんて女の子としてどうなのかと思うも自分が男として見られていないだけなのだろう。むしろ人として見てくれているのかどうかも怪しい。

 

『藤崎 真子』

 

Sランクの魔女でありヴァルキュリアと呼ばれる最強の魔法使い。10個の魔法を使うことができる怪物。そういえば最近11個に増えたらしい。何なの、そんなに魔法ってポンポン増えるもんなのと聞いたが気合いで何とかなったらしい。あやふやすぎるぞ魔法。

 

容姿は美少女。あとおっぱいが大きい。オレの好みどストレート。白くて長い髪と同じように白いワンピースを着ていることが多い。そのせいで生足が凄まじいことになっている。その脚線美が俺を誘惑してくる。特に今みたいにごろごろしているとその破壊力は桁違い。加えて見えそうで見えないチラリズム。狙ってやっているのだとしたら魔性の女ならぬ魔女に違いない。ぜひ童貞を捨てさせてほしいのだがその前に命を捨てることになりそうなので止めておこう。少ない余命でも無駄にすることはないだろう、うん。

 

なんやかんやあって研究所を抜け出して真子ちゃんとオレは一緒に暮らしている。というか暮らさせてもらっている。拒否権は存在しない。自分は下僕であり奴隷なのだから。むしろオレにとってはご褒美だわ。魔法使いになる前に童貞を卒業することが一番の目的……正直魔法使いになるまで生きてるかどうかの方が怪しいので一刻も早く相手を見つけなければ。一応脱走してしまったので刺客に狙われて殺される可能性もある。

 

もっとも真子ちゃんは別だ。脱走してから少し経った頃に刺客がやってきたことがある。AAAやAAを含めた複数の集団。ヴァルキュリアを捕らえるための最高戦力……だったのだろうが彼女たちは一瞬で爆発四散してしまった。瞬殺だった。出落ちでももうちょっと出番はあるだろうにと申し訳なくなるくらいには。彼女たちも無理やり刺客をさせられていたので同情の余地はあるのに真子ちゃんには微塵の容赦も慈悲もなかった。真子ちゃんマジヴァルキュリア。痺れもしないし憧れもしないけど逆らっちゃいけないことだけは分かった。

 

 

「ちょっと、飲み物なくなったんだけど」

 

 

昼食の洗い物をしているとリビングからそんな声が聞こえてくる。足をばたつかせている姿は小さな子供のよう。世界を滅ぼせる魔女が今や一日中ごろごろしているニートになっているなど誰も想像できないだろう。色々面倒臭くてそうしているだけなのかもしれないが。

 

 

「分かった。何がいい? お茶と紅茶と……あとコーヒーなら」

「コーラ」

「え? コーラは昨日真子ちゃんが全部」

「コーラ。さっさと買ってきなさいよ、落とすわよ」

「はい、行ってまいります!」

 

 

軍隊もかくやという敬礼をしながら可及的速やかに外出する。今ない飲み物をピンポイントにご所望とは真子ちゃんマジヴァルキュリア。落とされるのは手だろうか首だろうか。ポロリは嬉しいがボトリは勘弁してほしい。とにもかくに今はアパートの近くのコンビニ全速力で向かうのみだった。

 

 

「ふう……ちょっとドーパミン出しすぎたかな。でもないとまともに動けないし……ま、何とかなるか」

 

 

戦利品であるコーラ2リットルを片手に家路につく。今日はバイトもないのでゆっくりできるかと思ったがそうは問屋が卸さなかったらしい。そんな中ふと、山の中にある天文台が目につく。

 

 

(そういえば……最近会ってないけど、あいつら元気にしてるのかな)

 

 

最近会っていない、友達……といえるかは微妙だが同じ研究施設から逃げ出している魔女たちのことを考える。

 

『脇フェチ』『正義の味方ネコサンダー』『ダッチワイフマスコット』『処女ビッチ』『天然ホルスタイン』

 

これ以上にない濃い属性を持つご同輩達。なんだろうか、魔法使いや魔女は何か特殊性癖をもっていないといけない決まりでもあるのだろうか。自分はドMで真子ちゃんはドS。これだけで世界が狙えそうだ。それぞれ自己主張が強すぎてカオスになってしまっている。真子ちゃんによれば最近期待のニューフェイスが臨時加入したらしい。

 

 

(村上の奴、苦労してるだろうな……久しぶりに夜まで語り明かしたいけど、会いに行くの真子ちゃんに禁止されてるしなー)

 

 

心配なのは天文台で魔女たちの面倒を見ている村上良太のこと。ただの人間だが恐ろしく頭がよく、一度見たものは決して忘れないとかいう魔法みたいなチートを持っている男子高校生。自分にとっては唯一の男友達でありベストフレンド。脇フェチということを学校で晒す勇者。確かに脇もいいが、個人的には鎖骨も捨てがたい。

 

それはともかく、村上は逃げ出した魔女たちの面倒を見ている。天文台は魔女の駆け込み寺の様相を見せており、個人的にはそちらにお邪魔してみたいのだが真子ちゃんがいる手前それも難しい。そして村上はどうやらネコサンダーに惚れているらしい。あのおっぱいにやられたのだろう。村上のおっぱいに関するこだわりは半端ではない。本人は否定しているがおっぱいソムリエに相応しい貫禄がある。何よりネコサンダーは真子ちゃんと瓜二つ、2Pカラー。同じ容姿の女の子が好みである自分と村上が出会うのは必然だったのだろう。もっとも容姿が同じだけで中身は全く似ても似つかないのでそこは分かり合えないが。

 

 

「ただいまー」

「遅いわよ、クズ。さっさとそれよこしなさい」

 

 

ドアを開けた瞬間、ナチュラルにクズ呼ばわり。最高すぎる。ん、と差し出してくる手にコーラを渡すとそのままラッパ飲みを始めてしまう。もちろん腰に手を当てるのは忘れていない。どれだけの逸材だというのか。コーラ2リットルをがぶ飲みしている真子ちゃんにもはや女としての尊厳も何もあったものではない。だがそれがいい。そんなことを考えていると

 

 

「……ん」

 

 

もう飲み終わったのか、真子ちゃんは口をぬぐいながら指でこちらにこいとジェスチャーをしてくる。もうここ数か月で日常となっている合図。パブロフの犬のように条件反射でそのまま真子ちゃんに近づいていく。それすらも遅いと言わんばかりに真子ちゃんはそのまま自分の唇に吸い付いてきた。

 

 

「ん……ふぅ……はぁ……」

 

 

挨拶などではない、互いに舌をむさぼるような濃厚なディープキス。唾液の交換をしているかのような激しさ。慣れていることとはいえ、やはり色んな意味で堪える。自分が生物学的にオスなのだと体で思い知らされてしまう。対して真子ちゃんは目を閉じたまま。キスをするときはいつもそう。口の中はコーラの味で一杯になってしまう。あれだけコーラを一気飲みしたらゲップが出てしまうのではどうでもいい心配をしながらもようやく気付く。真子ちゃんの体内のプロアテーゼの分泌量が少ないことに。よく考えればもう鎮死剤は手に入ったのだからキスする必要もなかった。きっと真子ちゃんも忘れていたのだろう。天然なところもあるから仕方ない。

 

いつまでそうしていたのか。どちらともなく口を離す。その際に唾液が唇の間で糸を引くが真子ちゃんは気にした風もない。本当ならここらで臭いセリフでも言えればいいのだが

 

 

「…………くっさ。ほんといつも何食べてるの。もう息しないで、臭いから」

 

 

そんなドMの自分ですら心が砕けそうな言葉の暴力が襲い掛かってくる。心底最悪だと言わんばかりの表情。同じ物食べてるのにこの扱い。当たり前のように死ねと告げてくる真子ちゃんマジヴァルキュリア。そんなこっちの心境など知ったことではないとばかりに真子ちゃんは横を通り過ぎながら玄関へと向かっていく。もしかして吐くほど臭かったのだろうか。

 

 

「ちょっと出かけてくる。夜には戻るからあんたは絶対に外には出ないこと。もし破ったら飛ばすわよ」

 

 

そう言い残したまま真子ちゃんは出かけてしまう。瞬間移動があるんだから一々玄関から出かけなくてもいいのではと思うが口には出せない。飛ばされてしまうかもしれない。頭が。流石にそうなったら再生できないかもしれない。試す気にはなれないが。

 

それにしても最近真子ちゃんが出かけることが増えた気がする。瞬間移動でいろんなところを回っているらしい。一緒に行きたいと言ったら断られた。なんでも臭いかららしい。どれだけオレは臭いのだろうか。

 

 

「とりあえず……掃除するか」

 

 

外に出たら飛ばされてしまうので家の掃除でもすることにしよう。放置プレイも悪くない。奴隷らしく女王様の帰りを待つことにしましょうか――――

 

 

 

「遅いな真子ちゃん……どこまで行ったんだろ」

 

 

ソファでケーキを食べながらご主人様の帰りを待つ忠犬オレ。もう時刻は夜の八時を回っている。何かあったのだろうか。ちなみにこのケーキは奈波からもらったもの。午後に家に遊びに来た時のおみやげだ。オレは外には出ていないので全く問題ないはず。奈波も魔女でなんやかんやあって同じアパートの隣に住んでいるのだが美少女だ。童貞を捨てさせてほしいと頼んだこともあるが断られてしまった。なんでも死ぬのは嫌らしい。あれか、死ぬほど嫌ってことなのか、すると物理的に死んでしまうのか。どちらにせよ目的を達成するのは困難らしい。

 

 

『見えますでしょうか!? これが現場の状況です! 山が抉れてなくなってしまっています! それだけでなく、周辺にあったと思われる施設には自衛隊や在日米軍が襲撃を行ったという情報が入っています。指揮官は既に拘束されていますが全く記憶にないなど意味不明な供述をしており――――』

 

 

ふと騒音をまき散らしてるテレビに目を向ける。夕方からこのニュースばっかりで飽き飽きする。よく見ればここからそう遠くないところの事故らしい。事故と言ってもいいのかどうかは分からないが。なんでも山が削れるような災害があったり、自衛隊や米軍が無断で武力行使を行ったらしい。言われたように外に出なくて正解だったかもしれない。それにしてもこのケーキはおいしい。今度、奈波にどこで買ったか教えてもらおう。今食べてるのは真子ちゃんが帰ってくるのが待ちきれないからではない。帰ってきてからでは一つも食べさせてもらえないからだ。断じて主人を裏切っているわけではない。

 

 

『ここで臨時ニュースをお伝えします。先ほど、ドイツで非常事態が起きたとのことです。情報が錯綜しておりますが、核兵器によるテロ行為ではないかと見られています。現在、ドイツ国内とは全く連絡が取れずEUを中心とした欧州各国は非常事態宣言を』

 

 

緊急速報のテロップとともにそんな物騒なニュースが流れてくる。こっちに比べたらよほど大事だろう。なんだろうか、もしかして世界大戦の前触れだろうか。とりあえず世界中がしばらくパニックになるのは間違いない。かといって自分がすることは何も変わらないのだが。

 

 

「へえ……私を差し置いてケーキを食べてるなんて、いい身分ね……ユキト」

 

 

完全に油断してしまっていた。ケーキとニュースに気を取られ過ぎていたのか。まさかこんなタイミングで帰ってくるとは。自分にとっては世界大戦よりも目の前の少女のほうがよっぽど恐ろしい。

 

 

「お、おかえり……今日は遅かった……え? どうしたんだ、その服? ボロボロになってるけど……」

「……何でもない。それよりも今日は疲れたからもう寝る。ケーキは取っといて。勝手に食べたらイジェクトするから」

 

 

取り繕うことない死刑宣告に震え上がりながらもそのままベッドに横になってしまった真子ちゃんに毛布をかける。よほど疲れていたのかそのまますぐ寝付いてしまう。服がボロボロの理由を聞くも猫と喧嘩したとしか教えてくれなかった。ヴァルキュリアをボロボロにできる猫とは何なのか。地上最強の生物も真っ青の突然変異なのか。色々と気になることはあるがまあいいだろう。また明日聞けばいいのだから。変わらない、オレと彼女の日常。

 

 

それじゃあ、お休みなさい。また明日――――

 

 

 

 




打ち切りにムシャクシャしてやった。後悔はしていない。もしかしたら続くかも。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。