とある科学の幻想生成《ジェネレータ》   作:レイヴン

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「『未元物質(ダークマター)』……!!」

       ─────『学園都市』の『闇』に住む青年───幻想生成(ジェネレータ)

「名前で呼んでほしいもんだな。俺には垣根(かきね)帝督(ていとく)って名前があるんだからよ」

       ─────暗部組織『スクール』のリーダー───垣根(かきね)帝督(ていとく)


第四話 未元物質《ダークマター》

「死ねよ、()()()()

 

 直後、ドゴォ!と轟音が響いた。

 

 一方通行(アクセラレータ)の攻撃ではない。

 

 女の一方通行(アクセラレータ)の手が、幻想生成(ジェネレータ)を掴み飛び上がった音だ。

 

 彼女はそのまま高速で街を駆け抜ける。

 

 

 

 しばらくの間飛び続け、どこの学区かもわからない場所にようやく下ろす。

 

 彼女は電極を切り替えつつ、

 

「ったくよォ、いい加減説明しやがれ」

 

「俺は幻想生成(ジェネレータ)。お前は?」

 

 素っ気ない自己紹介をしつつ、彼もチョーカーの最大使用モードを解除する。

 

「言うまでもねェだろ」

 

一方通行(アクセラレータ)じゃ紛らわしい。本名を言え」

 

「……鈴科だ。鈴科百合子」

 

 彼女は名乗った。幻想生成(ジェネレータ)は素直に吐いた彼女に若干驚く。

 

「鈴科、ね。……まずはアイツを潰す所から始めるか」

 

「待てよ。クローンだって、」

 

()()()()()()()()()()

 

「……、」

 

アイツ(一方通行)妹達(シスターズ)とは違う。オマエにとって守るべき責務も無けりゃ、理由もねぇ。違うか? ……奴はお前を殺そうとしている。俺も個人的に奴をどうにかしないと気に喰わねぇ。ここは共同戦線だ」

 

 早口に言ってから、彼は歩き出した。

 

「……おい、どこに行くンだ」

 

「サロンだよ。泊まり掛けで作戦会議だ」

 

 振り返りながら至極当然、という風に答える幻想生成(ジェネレータ)

 

「泊まッ……」

 

 彼女は一瞬だけ顔を赤くした。

 

「安心しろ。金はある」

 

「そこじゃねェよ。大体、あたしは学校があンだが?」

 

 百合子は歩きながら半分無駄と思いつつも聞いてみる。

 

「どうせ遅刻だろ。一丁前にガッコーなんて行きやがって。自分の立場わかってんのか」

 

「あたしはもォ、殺し合いには関わンねェって決めたンだよ。……妹達(シスターズ)の為にも、あのガキの為にも。だから暗部入りも断った。借金は、どォにかするしかねェけど……」

 

「借金?」

 

 幻想生成(ジェネレータ)は思わず振り返る。学園都市第一位が、はたして金に困ることがあるのだろうか。

 

「あたしについて調べた癖に、そこンとこは知らねェのか。『0930事件』の被害総額、八兆円だとよ」

 

 歩を止めて、ダルそうに百合子は言う。

 

「……俺が知ってんのはお前が、……いや、クローンの一方通行(アクセラレータ)が暗部組織『グループ』に居るって情報ぐらいだ」

 

「で?お前は何のためにアイツを狙ってンだ? まさか仕事が取られたとか言うわけじゃァねェだろォな?」

 

「……、」

 

 一瞬だけ幻想生成(ジェネレータ)の目の色が変わったが、すぐに戻る。

 

「残念だが、そんなとこだ」

 

「はン。だからあたしも協力しろって?馬鹿なこと言うンじゃねェよ」

 

「言っておくが、俺はその気になればお前を殺せる」

 

「殺せンのか?オマエに?粋がってンじゃねェぞ三下」

 

 とても女の子とは思えない言葉だが、彼は返した。

 

「それはテメェの方だよ第一位。誰に狙われてるとも知らねぇ癖に、」

 

 そこまで言って、彼はハッとする。

 

「あン?」

 

「……」

 

「まさかよォ、第一位がオンナノコだったからって、脅威の手から守ってやろォなんて思ってンじゃねェだろォな?」

 

「……」

 

「ハハハッ!とンだお笑いもンじゃねェか!お揃いのチョーカー付けて親近感でも湧いちまったかァ?」

 

 彼は無言で百合子の右腕を掴み、隣のビルに向かって()()()

 

「ッッ!」

 

 そこそこに鍛え上げられた彼の腕によって、極端に軽い彼女が飛ぶ。

 

 一瞬で彼女の背中がビルの扉にたたきつけられ、ガラスにヒビが入った。

 

「……勝手にしやがれ」

 

 幻想生成(ジェネレータ)はそちらに目も向けずに吐き捨てて、個室サロンのある第三学区へと歩を進める。

 

「……何なンだよ、アイツ……」

 

 

 

 

 

 第三学区の個室サロンの一室。幻想生成(ジェネレータ)はノートパソコンの前である情報を凝視していた。

 

 妹達(シスターズ)と、絶対能力進化(レベル6シフト)実験に関するデータである。

 

 一方通行(鈴科百合子)に二万人、二万通りの戦術で妹達(シスターズ)と戦闘・勝利させることで、絶対能力者(レベル6)に進化する、という内容であった。

 

「二万……」

 

 男の一方通行(アクセラレータ)の言葉が正しいのであれば、一万人、半分の妹達(シスターズ)()()しているということになる。

 

(更生して、真っ当な方法で償ってんのか……?)

 

 時計に目をやる。既に夜中の二時を回っていた。

 

(……、寝るか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十月九日。学園都市の創立記念日である今日は、その内部に限り祝日となる。

 

 

「ここか。海原のバカが消えたって場所は」

 

 第七学区のとあるマンションの一室で、『グループ』の土御門(つちみかど)元春(もとはる)はつぶやいた。

 

「……」

 

 浮かない顔をする一方通行(アクセラレータ)は、ただ床を眺めていた。

 

「どうしたの?朝からその調子だけれど」

 

 それを見かねた結標(むすじめ)淡希(あわき)はその顔色を窺う。

 

「それに、どうしたんだ、その顔」

 

 若干腫れた頬を見ながら、土御門が追加して問う。

 

「……なンでもねェよ」

 

「……。『人材派遣(マネジメント)』は生け捕りにして、下部組織の連中に車で運ばせてるが、ヤツからだけの情報では信頼性が低い。『情報は俺の頭の中だけだ』なんて駄々をこねられても困るしな。裏付けのためのデータが欲しくて、海原をここへ回したんだが」

 

 土御門はダルそうに、

 

「その途中で、第三者から襲撃されたみたいだ。この状況じゃ、『海原個人が狙われた』のか『人材派遣(マネジメント)の情報が狙われた』のかはまだ分からないが、見た目の印象じゃ後者か。海原からの事前の報告じゃ、パソコンやHDレコーダなんかがあったって話だが、ものの見事に消えてるようだしな。AI搭載の家電製品も片っ端から奪われてる」

 

「一応、家電製品の中でも、奪われてないヤツもあるみたいだけど」

 

 結標が眺めながら言ったのは、真っ黒に焦げた電子レンジだ。

 

「AIを搭載してない製品だったんでしょうね。情報を追加入力できないタイプのものは、そのまま捨て置いてるあるのよ」

 

 部屋を調べてみると、ほかにも画面の砕けたテレビなどもあった、しかし、やはりめぼしいものは片っ端から持っていかれたようだった。

 

 一方通行(アクセラレータ)は綿の飛び出たベッドに腰掛けながら、

 

「チッ、面倒臭ェな。『人材派遣(マネジメント)』のクソ野郎の情報は分かンねェ、海原がどォなったのかも掴めねェ。ったく、テメェの仕事ぐらいテメェで処分してほしいモンだけどな」

 

 近くに転がっていた、壊れた電子レンジを軽く蹴飛ばした。

 

 すると、レンジのドアが開き、何かが出てきた。

 

「あン?」

 

 黒い(すす)で若干汚れた、五枚の紙幣だった。

 

「報告では、海原が気にしていたという話だけれど」

 

 腰を屈めて紙幣を拾い上げた結標が、小さく笑いながら言った。 

 

「紙幣の中には、偽造防止用のICチップがあったはずだわ。何か書いてあるかもしれないわね。電子レンジの中に入れておけば、電波なんかをシャットアウトできる。仮にに襲撃者側がそういうセンサーを持っていても、これならごまかせたかもしれないわ」

 

「……あのクソ野郎が隠しておいたってのか?」

 

 一方通行(アクセラレータ)が訪ねた時、離れたところにいる土御門が『ん?』と声を漏らした。

 

 見ると、土御門の開けたクローゼットの中に、男の死体が詰められていた。改めて確認してみると、男の右足のふくらはぎのあたりの皮膚がごっそり剥ぎ取られている。

 

 納得したように土御門は呟いた。

 

「海原の仕業だな」

 

「足のそれは? 野郎の趣味か」

 

 その言葉に、結標は嫌そうな顔をした。彼女はかつて授業中の事故で足を負傷したことがあるのだ。その時のトラウマは今も消えていない。おかげで、能力を使う際は、ストレスを軽減させるため、低周波振動治療器を利用しなければならないほどだ。

 

 土御門は首を横に振った。

 

「アイツは人間の皮膚を使って、一種の札を作る。お前たちは魔術を知らないから理屈の説明は省くが……ようは、他人とすり替わることができるスキルを持ってんだ」

 

 死体の足の傷を見ながら土御門は言った。

 

「海原のヤツは、こいつとそっくり入れ替わってる。今はここを襲撃したヤツらの中に混じって、機を窺ってるんだろう」

 

 つまり、と土御門は一拍置いて、

 

「あの変装野郎はまだ生きている。どこで笑っているかは知らないがな」

 

 

 

 

 

 居場所の掴めない海原について、残る三人の結論はひとまず『保留』だった。『グループ』は馴れ合いの組織じゃない。互いの利害の一致によって成立している、薄情な組織だ。仮にヒントがあったとして、助けにいくとは限らないだろう。

 

「下部組織からの連絡だ。人材派遣(マネジメント)を載せた輸送車が襲撃されたらしい」

 

「皆殺しか?」

 

「いや。ご丁寧に、ターゲットの人材派遣(マネジメント)以外は気絶で済ませてやがる。どっちにしても、あいつから直接話を聞く線は無くなっちまったな」

 

「誰がやったか、ヒントぐらい残されていないのかしら」

 

「だから、そいつがこの紙幣だろうな」

 

 マンションから離れた3人は、ひとまず隠れ家の一つに戻って紙幣のICチップに内蔵されている情報を調べることにした。

 

「にしても、隠れ家っつーのが鹿がいの開き店舗だとはなァ。希望を持った脱サラ組が覗きに来たらどうすンだよ」

 

「その時は出ていくさ。隠れ家などそこらじゅうにあるし、本来は彼らの為の施設だからな」

 

 土御門は適当に言って、紙幣を読み取るための機材を床に置いた。

 

 ノートパソコンにケーブルで繋がれていたのは、

 

「……何よそれ?」

 

 結標が呆れたように言うと、土御門は小さく笑う。

 

 そこにあるのは、コンビニのレジの横にあるおサイフケータイ用のセンサーだった。

 

「だー……。面倒だから業者に頼んで読み取り機をそのまま持ってきた」

 

「別に何でも構わねェ」

 

 一方通行(アクセラレータ)はパイプ椅子に座り、拳銃を手入れしながら言った。

 

「さっさと始めろ」

 

「了解っと」

 

 土御門は答えると、五枚の紙幣から一枚を選んで装置に通した。

 

 表示されたのはどこの国の言葉でもない。斬雑に並べられた数字だ。土御門がさらに画面を操作すると、ようやく意味のありそうな文章に変換されていく。

 

「いきなりヒットしたな」

 

 画面の表示された文字列を、土御門は目で追いかける。

 

「……どうやら、『人材派遣(マネジメント)』の商品リストみたいだ。取引されたのはプロのスナイパーが一人」

 

 二枚目の紙幣を機材に通しながら、

 

「名前は砂皿(すなざら)緻密(ちみつ)。偽名かどうかは分からんな。腕の方も、データはあるがどこまで信頼できるか。……ただ、紹介両だけで70万ってことは、かなりの『目玉商品』だったんだろう」

 

 続いて三枚目を通す。

 

「こっちは武器みたいだな。用意したのは……MSR-001。磁力狙撃砲か」

 

 土御門は苦い口調で言った。

 

「磁力?」

 

 結標が単語を拾い上げ、

 

「その名の通り、電磁石を使ってスチール製の弾丸を飛ばすスナイパーライフルだ。当然ながら学園都市製で、レールガンよりも仕組みは簡単だな。弾丸の初速は秒速290メートル。音速にやや届かない程度か」

 

「それって、意味あるのかしら。普通の狙撃銃のほうが、性能も良さそうに聞こえるけれど」

 

 土御門は首を横に振って笑いつつ、

 

「単純な威力ならばな。コイツの利点は、火薬を使わないから反動がない。狙撃銃にありがちな『ブレ』がないし、超精密で繊細な照準装置を取り付けることもできる。火薬を使う物の場合、発射時の反動に耐えられるよう、ある程度の強度が必要だからな」

 

 それに、と土御門は付け加えて、

 

「火薬を使わないから音がない。こっそりやるには最適って訳だ」

 

 四枚目も通してみるが、熱の衝撃にやられていたようだ。

 

 続く五枚目は計画書。場所は土御門たちが居る隠れ家の真上のコンサートホール前広場だった。

 

 

 

 

 

 

 

 コンサートホールの騒動が終わってから少し。

 

 土御門が狙撃手が居たホテルに入ると、すでにそこには誰もいなかった。

 

 ただ、窓の一角が不自然に四角く切り取られていただけだった。

 

「チッ」

 

 舌打ちしながら携帯電話を取り出し、一方通行(アクセラレータ)に連絡する。

 

「回収には失敗した。ただ、砂皿がここで逃げたってことは、続けて狙撃が行われる可能性は低いな。一応親船の講演は中止にさせて、警備体制を組みなおした上で移送させてくれ」

 

『こっちは結標から伝言だ』

 

 電話の向こうで、一方通行(アクセラレータ)は言った。

 

『読み取れなかった四枚目の紙幣のICチップが読めたみてェだ。中身は砂皿緻密を雇った連中の名簿だった』

 

「誰だソイツは?」

 

 一息置いてから、彼は鬱陶しそうな声で答える

 

『────「スクール」』

 

「何?」

 

『俺達「グループ」と同じ……学園都市の裏に潜ンでる組織だとよ』

 

 

 

 

 

 さらに時間がたったころ。

 

 『アイテム』の三人と雑用の一人は、第三学区のVIP用サロンに居た。

 

 素粒子工学研究所にて強奪された機材回収のための会議である。

 

「遅いよー浜面」

 

 『アイテム』のリーダー、麦野(むぎの)沈利(しずり)がのんびりとした口調で言った。

 

 「浜面」と呼ばれた雑用のチンピラは周りを見回してから、

 

「フレンダはどうしたんだ?」

 

 居るはずの一人が居ないのに気づいて聞いてみた。しかし帰ってきたのは、

 

「消えた」

 

「は?」

 

「死んだか捕まったか。ま、補充してる時間は無いし、しばらく『アイテム』は三人でやってくしかないわね。ま、さっき『スクール』も一人潰したから、フェアってもんでしょ。こっちには滝壺も居るし、巻き返しは難しくない」

 

 三人と言ったことに浜面はわずかに眉をひそめたが、言及しても仕方がない。

 

「これからどうすんだ、『スクール』の連中には『ピンセット』を奪われちまったんだろ」

 

 『アイテム』が素粒子工学研究所で『スクール』を迎撃していたのは、『ピンセット』の防衛のためであった。

 

 しかし『スクール』はまんまとそれを盗み、逃げ去ったのだ。

 

「そだね」

 

 麦野はあっさりと肯定し、

 

「だから、今度はこっちが反撃する番よ。滝壺の『能力追跡(AIMストーカー)』は、一度記憶したAIM拡散力場を元に、特定の能力者の位置情報を『検索』できる。素粒子工学研究所で、アイツらとは一戦やってるしね」

 

「検索対象は『未元物質(ダークマター)』でいい?」

 

 手足をダラりとさせ、生きてるのか疑わしかった少女が言った。

 

「誰だそりゃ」

 

「第二位の超能力者(レベル5)。『スクール』を指揮してるクソ野郎だよ」

 

 麦野が答える間に、滝壺はポケットからシャーペンの芯ケースのような、白い粉末の入ったケースを取り出した。

 

「滝壺さんも超難儀していますよね。『体晶(たいしょう)』がないと、満足に能力も発動できないなんて」

 

 そう言ったのは外見12歳ほどの小柄な少女、絹旗(きぬはた)最愛(さいあい)大能力者(レベル4)の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』を有している。

 

「別に。私にとっては、こっちのほうが普通だったから」

 

 滝壺は言いながら、白い粉末を少しだけ舐めた。

 

 彼女の目に光が戻る。

 

 まるでそちらが正常であるかのように、背筋を伸ばして滝壺(たきつぼ)理后(りこう)は佇んでいる。

 

「AIM拡散力場による検索を開始。近似・類似するAIM拡散力場のピックアップは停止。該当する単一のAIM拡散力場のみを結果報告するものとする。検索終了まで残り五秒」

 

 機械によって出力されるように放たれる声。

 

 そして、答えが出た。

 

「結論。『未元物質(ダークマター)』は、この建物の中にいる」

 

 なに!? とその場の全員が愕然とする前に、次の動きがあった。

 

 個室サロンの壁が、向こうから思い切り蹴り破られたのだ。

 

 その奥から、一人の男が歩いてくる。

 

 その男を看て、麦野沈利が忌々しそうな声を出した。

 

「『未元物質(ダークマター)』……ッ!!」

 

「名前で呼んでほしいもんだな。俺には垣根(かきね)帝督(ていとく)って名前があるんだからよ」

 

 男の手には、機械でできた奇妙な『爪』があった。

 

「『ピンセット』か……」

 

 垣根はニヤリと笑いながら、

 

「カッコイーだろ。勝利宣言をしに来たぜ」

 

「ハッ、アレイスターに選ばれなかった『第二候補(スペアプラン)』にはしゃがれてもさ。ついさっきまでさんざん逃げ回ってたくせに、態度がガラリと変わってくれたね」

 

「いやいや。素粒子工学研究所では世話になったし。おかげで四人しかいない『スクール』の正規要員を一人失っちまった」

 

「忘れてない?数日前にはスナイパーも殺してるはずだけど。交換したんだ?」

 

 超能力者(レベル5)同士の会話は突然途切れた。

 

 原因は絹旗最愛。彼女はソファから立ち上がりもせず、近くにあったテーブルを片手で持ちあげた。ゴテゴテと装飾だらけで、数重キロはありそうな重さのテーブルを、十二歳ぐらいにしか見えない少女は、ものすごい勢いで垣根帝督へ投げつける。

 

 バガ! という音が響いた。

 

 テーブルは粉々に砕け散った。当てられたはずの垣根帝督の表情はひとつも変わっていない。

 

「痛ってぇな」

 

 本当にそうなのかも分からないほど自然に、彼は言う。

 

「そしてムカついた。まずはテメェから粉々にしてやる」

 

 絹旗はやはり応じなかった。

 

 彼女は滝壺の手を掴み、壁側まで行くと、その小さな拳で隣の壁を容赦なく崩した。麦野に軽く目配せしてから、浜面の手も掴んで中に入る。

 

 その先に居たのは───。

 

 

 

 

 

 先ほどから、隣の部屋がやけに騒がしかった。

 

「うるせぇな……」

 

 隣から響く声や音に起きた幻想生成(ジェネレータ)は、頭を掻きながら起き上る。

 

「チッ」

 

 いまだに響く隣からのガヤガヤという声。黙らせてやろうかと立ち上がった時、突然壁が崩れた。

 

「ッ!」

 

 ドゴ、と粉塵を裂きながら、小柄な少女が男と女を連れて侵入してきた。中央の小さな女が二人の手を離し、こちらに殴りかかる。

 

「っぶねぇな!」

 

 彼は、少女の拳といえども、『窒素装甲(オフェンスアーマー)』によって上乗せされたそれを片手でつかんだ。

 

 驚愕したのは目の前の少女だ。

 

 圧縮した窒素は軽々と車を持ちあげらるほどの力を有している。攻撃に転用されたその力の一撃を片手で受け止めたというのは、理解しがたかった。

 

 彼女は気付いていない。

 

 彼女の持つ窒素装甲(オフェンスアーマー)とは、自分の体表面から2センチ程の距離に圧縮した窒素を展開することで、怪力のように見える力を発揮する。つまり、その拳は厳密には相手に触れない。触れるのはあくまで窒素の塊。

 

 つまり、

 

 幻想生成(ジェネレータ)も、窒素装甲(オフェンスアーマー)による防御を行っていたということに。

 

 彼は掴んでいた腕を投げた。あわてて男が受け止める。

 

「何の用だテメェら。俺は今最高にムカついてんだが」

 

 隣の騒ぎはまだ続いていた。

 

「くっ……」

 

 チンピラ風の男が怯える。

 

 小柄な少女は男の手から離れて、

 

「滝壺さん、浜面。超逃げてください」

 

「この『スクール』は、私が超相手をしますので」

 

「あ?」

 

 『スクール』という単語に幻想生成(ジェネレータ)は目を細めるが、

 

「超早く!」

 

 女が叫び、二人は慌てて出て行こうとするが、

 

 ドゴォォ!!と、小柄な少女の背後の壁が全壊した。

 

 衝撃で吹き飛んだ彼女を、幻想生成(ジェネレータ)は受け止めつつ、舞った粉塵の先に見覚えのある男を見つけ、声をひねり出した。

 

「『未元物質(ダークマター)』……!!」

 

「麦野と言い、名前で呼んでくれよな。っていうかお前居たのか。ちょうどいい、『アイテム』と一緒に潰してやるよ」

 

「滝壺さんたちには超手は出させませんよ!」

 

「下がってろチビガキ」

 

 幻想生成(ジェネレータ)が言った。

 

「チビガキじゃありません!私には絹旗最愛(きぬはたさいあい)という超可愛い名前があるんです!」

 

 ぎゃあぎゃあうるさい女を無視して、

 

「もう一発ぶちこまねぇとわかんねぇようだな第二位」

 

「吠えてろ三下が。ここじゃキャパシティダウンも作れねえぜ?」

 

「ハン、吠えんのはテメェの方だ!」

 

 言ってから、サロンの床を蹴った。

 

 窒素装甲(オフェンスアーマー)の応用によって、通常の脚力よりも速く垣根に迫る。彼は右手にグローブを作り、

 

 余裕な表情を見せる垣根の顔に振り抜いた。




というわけで四話目です。

中盤に、物語に必要最低限な原作15巻の一部を編集しつつ乗せさせていただきました。
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