とある科学の幻想生成《ジェネレータ》   作:レイヴン

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「っていうか、タクシーのお釣りをいっぱいもらってませんでしたっけ?」

       ─────『風紀委員(ジャッジメント)』の少女───初春(ういはる)飾利(かざり)

「ハッ!!言われてみれば、ってミサカはミサカはポケットに突っ込んだサツを握りしめて手近な喫茶店にダッシュしてみたり!!」

       ─────『妹達(シスターズ)』の司令塔にして、20001号───打ち止め(ラストオーダー)


第五話 風紀委員

 『アイテム』の三人は驚きながらも、目で追った垣根の近くに転がっている女に気付く。

 

「麦野!」

 

 倒れていた女を見つけつつも、迂闊には近づけない三人。幻想生成(ジェネレータ)は三人に目を配りつつ、

 

「チビガキ共。逃げたいならソイツ連れてさっさと失せろ。邪魔だ」

 

「あなた、超何様なんですか!」

 

超能力者(レベル5)様だよ。これで満足か」

 

 幻想生成(ジェネレータ)は適当に答えたが、三人は驚きを隠せないようだった。

 

超能力者(レベル5)だと……?」

 

 立ち上がった垣根がゆっくりと声を出す。

 

「粋がってんじゃねぇぞ、三下がぁぁッ!!」

 

 ボォゥ! と白い六枚の翼を展開させながら、狭い部屋の中を垣根が駆けた。

 

「チッ!」

 

 チョーカーの電源を起動し臨戦態勢。ゆっくりと動きを読み、右腕──正確には手に被せているグローブ周辺に大量の電気を生成する。起動した人工の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を利用し、腕を振り払ってからもう一度殴りつける。

 

「何やってる、さっさと失せろ!」

 

 幻想生成(ジェネレータ)が声を張り上げ、ハッと絹旗が動いた。

 

 彼女は麦野の前で屈みつつ、

 

「なにやってるんですか超浜面!さっさと手伝ってください!」

 

 彼女は滝壺に目配せして先に退室させつつ言った。

 

 垣根が起き上る前に、『アイテム』は部屋を出た。

 

「ク、面白ぇな。面白ぇよテメェ!!」

 

 再び純白の翼が噴出した。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は無視して外側の壁を殴りつけ、戸惑わずに飛び降りる。

 

「なんだよ逃げんのか!?」

 

「その通りだよ。クソッたれ」

 

 適当に答えてから、彼は鳥に似た翼を構成して滑空する。

 

 行先は、長点上機学園の学生寮だ。

 

 

 

 

 『グループ』の暗躍によって別の暗部組織『ブロック』が壊滅したころ。

 

 ある程度の情報を掴んでいた鈴科(すずしな)百合子(ゆりこ)は、寮のパソコンを眺めていた。

 

 ダラダラと何をするか考えていたころ、唐突に携帯電話が鳴った。

 

「あン……?」

 

 非通知を示す携帯電話を見て怪訝な表情を浮かべつつ、通話ボタンを押して携帯を耳にあてた。

 

 流れたのは、聞き覚えのある、いけすかない声だった。

 

「オマエか。何の用だ?暗部への勧誘は丁重にお断りさせて貰ったはずだが。……あたしのクローンまで作りやがって」

 

 『電話の男』はゆっくりと、表情の読めない声で、

 

『あなたが首を縦に振らないからですよ。……今回はその件ではありません』

 

「『今回は』、ってことは、これからも続ける気か。あたしは関わる気はねェぞ」

 

 『電話の男』はため息をつきながら、

 

『今回は、あなたにとって有益な情報を、と思いましてね。クローンの方の「一方通行(アクセラレータ)」に教えても、大したことにはならないので』

 

「有益な情報?」

 

『ええ。検体番号(シリアルナンバー)20001号、通称「最終信号(ラストオーダー)」の命の危機に関する情報です』

 

 鈴科百合子は一瞬停止し、間を空けてから答える。

 

「……詳しく話せ」

 

 

 

 

 初春飾利と打ち止め(ラストオーダー)はオープンカフェにいた。

 

 迷子を捜す、と息巻いている打ち止め(ラストオーダー)だったが、どうも長時間歩いている内に足が痛くなってしまったらしく、今はテーブルに突っ伏してグターッとしている。初春は初春で、店の名門である大型甘味パフェに挑戦中だ。

 

「ところで、迷子はどうなったんですか。アホ毛のビビッと反応はもうなくなっちゃったんですか?」

 

「……ミサカはアホ毛じゃないもん、ってミサカはミサカは(しお)れながら答えてみたり」

 

 しかしそうは言っても、十歳前後の少女の頭頂部から一部だけ飛び出した髪の毛が、秋の風を受けてそよそよと揺れている。どこに出しても恥ずかしくない天下無敵のアホ毛だ。

 

「うーん……さっきまでそれっぽい反応がこのあたりをウロウロしていると感じたんだけど、何だかいつの間にかどっかに言っちゃったみたい、ってミサカはミサカはあまりの徒労っぷりにげんなりしてみる」

 

 と、グニャグニャしていた打ち止め(ラストオーダー)がいきなり顔を上げた。

 

 迷子が見つかったのかな、と初春は思ったのだが、どうも違うらしい。

 

 打ち止め(ラストオーダー)は通りすがりの少女たちが持っていた、チェーン系の喫茶店についてくるキーホルダーを凝視している。

 

「み、ミサカもあれが欲しい、ってミサカはミサカはお財布を持っていないので初春のお姉ちゃんの方にキラキラした瞳を向けてみたり!!」

 

「あーもう、迷子を捜すんじゃなかったんですか」

 

「むむっ! あっちの喫茶店から迷子の反応をミサカは感じ────ッ!!」

 

「真顔で嘘をついちゃダメですよ。大体、私の大型甘味パフェはまだ序章の生クリームゾーンを終えたばかりであって、ここで席を立つことなんてありえないんです」

 

「なんでそんなのんびりしてるのーっ!ってミサカはミサカはテーブルをバンバン叩いて駄々をこねてみたり!!」

 

「っていうか、タクシーのお釣りをいっぱいもらってませんでしたっけ?」

 

「ハッ!!言われてみれば、ってミサカはミサカはポケットに突っ込んだサツを握りしめて手近な喫茶店にダッシュしてみたり!!」

 

 言い終える前に走りだす打ち止め(ラストオーダー)。初春はハンカチを振りながら『ちゃんと戻ってくるんですよー』ととりあえず忠告だけはしておく。

 

 そんなこんなで大型甘味パフェのアイスクリームゾーンへ突入した初春だったが、

 

「失礼、お嬢さん」

 

 不意に横からそんなことを言われた。

 

 パフェ用のスプーンの動きを止めてそちらを見ると、ガラの悪そうな少年が立っていた。長身の茶髪。その男の右手には、機械でできた妙な爪のような装飾が付いている。

 

 少年はその風貌に似合わぬ柔和な笑みを浮かべていた。

 

「はぁ。どちら様ですか」

 

「垣根帝督。人を探してるんだけど」

 

 言いながら、垣根と名乗った少年は一枚の写真を取り出して初春に見せた。

 

「こういう子がどこへ行ったか、知らないかな。最終信号(ラストオーダー)って呼ばれてるんだけど」

 

「……、」

 

 初春は数秒間、写真の中の少女を凝視していた。

 

 そして垣根と写真を交互に見ながら、首を横に振る。

 

「いいえ。残念ですけど、見ていないですね」

 

「そうか」

 

「どうしても見つけられないなら、『警備員(アンチスキル)』の詰め所に届け出を出した方がいいと思いますけど」

 

「そうだね。その前にもう少し自分で探してみるよ。ありがとう」

 

 にっこりと垣根は言ってから、立ち去った。

 

 初春は向き直ってスプーンをパフェに突き刺すが、

 

「ああ、お嬢さん。言い忘れてたんだけど」

 

「はい?」

 

 初春が顔を上げる前に、次の言葉が来た。

 

 

「テメェが最終信号(ラストオーダー)と一緒にいた事はわかってんだよ、クソボケ」

 

 ゴン!! という衝撃が、初春のこめかみのあたりに走り抜けた。

 

 殴られた、と理解する前に既に椅子から転げ落ちていた。乱暴に振り回された初春の足がテーブルを蹴り、まだ少ししか手をつけていない大型甘味パフェが、潰した果物のように路面に散らばった。

 

「え、ぐ……」

 

 周囲から、通行人の悲鳴が響く。

 

 何が起きたのかも分からないまま、初春は立ち上がろうとする。

 

 しかし仰向けに倒れた初春の右肩へ、垣根は靴底を思い切り踏みつけ、地面へ縫いとめた。

 

「だから俺はこう尋ねたんだぜ。『こういう子を知りませんか』じゃなくて、『こういう子が()()()()()()()知らないか』、ってな」

 

 垣根は足に体重をかける。

 

 ゴグギッ、と鈍い感触と共に、骨と骨をこすり合わせるような激痛が走った。関節を外されたのだ。あまりの痛みにのたうちまわりたくなる初春だが、垣根の足は鉄柱みたいに動かない。

 

 悲鳴というよりは絶叫が響いたが、垣根の表情は少しも変わらなかった。

 

「テメェが俺の動きに気付いて最終信号(ラストオーダー)を『逃がした』って訳じゃねぇのは予想できる。俺は外道のクソ野郎だが、それでも極力一般人を巻き込むつもりはねぇんだ。だから協力さえしてくれりゃ、暴力を振るおうとは思わない」

 

 オープンカフェは大きな通りに面していて、今は休日の午後だ。周囲にはたくさんの人々が往来していたが、彼らは一斉に現場から距離を取っただけで、初春のところへかけつけてくれる人は一人もいなかった。

 

 無理もない。

 

 初春の腕には風紀委員(ジャッジメント)の腕章がつけられている。実際には風紀委員(ジャッジメント)は構内の揉め事に対処するための組織だし、その風紀委員(ジャッジメント)の中でも落ちこぼれというものが存在するのだが、詳しい事情を知らない普通の学生からすれば、『腕章をつけている人は治安維持組織の人間だ』ぐらいにしか思えない。警察や自衛隊にも等しい人間が、いとも簡単にねじ増えられている状況を見て、それを助けるために飛び出そうとは考えられないだろう。

 

「ただな、俺は自分の敵には容赦をしない。何も知らずに最終信号(ラストオーダー)に付き合わされてたのならともかく、テメェの意志で最終信号(ラストオーダー)を庇うってなら、話は別だ。頼むぜーお嬢さん。この俺にお前を殺させるんじゃねぇ」

 

 外れた骨が無理に動かされ、更に強烈な痛みが連続した。

 

 こらえようと思った時には、既に初春の目には涙がたまっていた。

 

「……最終信号(ラストオーダー)はどこだ」

 

 激痛に明滅する意識の中、垣根提督の声だけが響く。

 

「それだけを教えればいい。それでテメェを解放してやる」

 

 どこを見回しても出口のない迷路に、たった一点だけ設けられたゴール。暴力という暗闇に押し込まれた初春は、その存在を意識せずにはいられなかった。 が、

 

 初春は決意し、口を動かした。

 

 

 

「……な、に……?」

 

 垣根の目が、理解できない、という風に細められる。

 

「聞こえ、なかったんですか?」

 

 ありったけの力を込めつつ。

 

「あの子は、あなたが絶対に見つけられない場所に居る、って言ったんですよ。嘘を言った覚えは……ありません」

 

 できるだけ人を馬鹿にしたように、彼女は舌まで出してみせた。

 

 垣根帝督はしばし時間をあけて、

 

「……いいだろう」

 

 言って、確かに彼は初春の肩から足をどけた。

 

 ただしその足は地面には下ろさず、今度は初春の頭を狙ってピタリと止まる。

 

「俺は一般人にゃ手を出さないが、自分の敵には容赦をしないって言ったはずだぜ。それを理解したうえで、まだ協力を拒むって判断したのなら、それはもう仕方がねぇ」

 

 彼は振り上げた足に力を込めた

 

 

 

「だからここでお別れだ」

 

 

 

 

 ブォ! という風圧に彼女は思わず涙をためた目をギュッと閉じた。しかし、垣根の足が初春の頭を踏みつぶすことはなかった。

 

 新たな轟音が、ガゴォン!!と学園都市中に響き渡る。

 

 吹き荒れたのは膨大な烈風だった。それは衝撃波にも近しい。初春が目を開けると、ATMを無人設置所の壁やガラスごと粉々に砕き、その破片の渦がものすごい速度で垣根提督に激突するところだった。

 

 その一撃を受けることでバランスを崩す垣根。初春の頭を狙った足はわずかに矛先を変えて下ろされた。

 

 徹底的に破壊されたATMから、無数の紙幣が舞う。

 

 そんな中で、彼女は外から届いた別の声を聞いた。

 

「……ったく、シケた遊びでハシャいでンじゃねェよ、三下」

 

 

 

「もっと面白い事して盛り上がろォぜ。悪党の立ち振る舞いってのを教えてやるからよォ」

 

 それは。

 

 学園都市最強の()の声だった。




というわけで5話です。なぜか4話が驚きの(実際には大量のルビや傍点で稼がれている訳ですが、それを差し引いても)9000文字超えという長さから、今回は5000文字という約半分の量に。しかし次回はまた長くなるんだろうなぁ……。

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